5. イヌ安全性試験の経時データの解析の基礎(第 8 回 再掲)
5.3. 混合モデルによる解析
各投与群の症例数が同数で,データに欠測値がなければ,完全ランダム化されている ことを前提とした要因配置の分散分析表を組み直し,誤差分散を計算し直すして検定統 計量を計算できる.
一見簡単なように見えても,生データの13 週目の平均値の群間比較には,個体間分 散と個体内分散を合成する必要があり,この問題の解決は,SASなどの世界標準といわ れる統計ソフトにおいても長年の課題であった.SASでも誤差の分解と合成および検定 統計量の算出ができるようになったのは,リーリース6.07からであった.
JMPでは,バージョン4からのこの問題にようやく対応できるようになったばかりで
ある.SASのMIXEDプロシジャに比べれば,その機能はかなり限られているが,計算
可能となったことは喜ばしい.
JMPでの解析は,表 5.5の分散分析表と再現と式(5.1)のt検定の再現を試みる.変量
因子としてはRではなくanimal No. を用い,固定効果としてdose,week,dose×weekと する.
図 5.1 JMPによる混合効果モデル
表 5.8に示す混合モデルの分散分析表は,表 5.5で示した組変え後の分散分析表と一 部は同じであるが,異なる部分もある.
表 5.8 JMPによる分散分析表
animal No[dose]&変量効果 残差
合計 変量効果
10.336337 分散比
4317 417.65278 4734.6527 分散成分
3151.0216 標準誤差
1512.6916 95%下限
39507.525 95%上限
91.179 8.821 100.000 全体に対する百分率
-2対数尤度= 197.3727 REML分散成分の推定値
dose
animal No[dose]&変量効果 week
dose*week 要因
1 8 2 2 パラメータ数
1 6 2 2 自由度
6 12 12 12 分母の自由度
52.591 77706.000 1825.583 10893.250 平方和
0.1259 . 2.1855 13.0410 F値
0.7348 . 0.1551 0.0010 p値(Prob>F)
縮小
平 方 和 : 変 量 効 果 の 検 定 は 、 従 来 の よ う に 推 定 値 で な く 縮 小 さ れ た 予 測 変 数 が 対 象 。
効果の検定
固定効果としてのweek,dose×weekの平方和と平均平方(分散),2次誤差は一致す るが,doseと変量効果としてのanimal Noの平方は完全に異なる.これは推定方法の違 いに起因する.効果の検定の平均平方(分散)は,12951.0であり,REML分散成分の
個体間分散 s(1)2 の推定値として4316.9が示されている.
図 5.2の最小2乗平均は,表 5.7の単純平均に一致し,SEは,
(
(1)2 (2)2)
4316.9+417.6 4 34.4 s sSE n
= + = =
となり,図 5.2の標準誤差が,分散成分から計算されたことがわかる.
図 5.2 投与量×週の推定平均とSE
y最小2乗平均
600 650 700 750 800 850
0 30
0 4 13
week 最小2乗平均プロット
0,0 0,4 0,13 30,0 30,4 30,13 水準
705.00000 749.50000 769.00000 748.50000 703.50000 721.25000 最小2乗平均
34.404405 34.404405 34.404405 34.404405 34.404405 34.404405 標準誤差 最小2乗平均表
すべての投与量×週の水準平均間について総当たり式に差の推定量,差のSE,差の95%
信頼区間を求めることができる.
表 5.9 差の推定値のマトリックスの見方
0mg/kg 30mg/kg
投与前 4週 13週 投与前 4週 13週
0mg/kg 投与前 - 群内 群内 群間
4週 群内 - 群間
13週 群内 - 群間
30mg/kg 投与前 群間 - 群内 群内
4週 群間 群内 -
13週 群間 群内 -
図 5.3 差の推定とSE Alpha= 0.050 t= 2.17881
最小2乗平均[i]
0,0
0,4
0,13
30,0
30,4
30,13
0 0 0 0
-44.5 14.4508 -75.986 -13.014
-64 14.4508 -95.486 -32.514
-43.5 48.6552 -149.51 62.5105
1.5 48.6552 -104.51 107.511
-16.25 48.6552 -122.26 89.7605 44.5
14.4508 13.0144 75.9856
0 0 0 0
-19.5 14.4508 -50.986 11.9856
1 48.6552 -105.01 107.011
46 48.6552 -60.011 152.011
28.25 48.6552 -77.761 134.261 64
14.4508 32.5144 95.4856
19.5 14.4508 -11.986 50.9856
0 0 0 0
20.5 48.6552 -85.511 126.511
65.5 48.6552 -40.511 171.511
47.75 48.6552 -58.261 153.761 43.5
48.6552 -62.511 149.511
-1 48.6552 -107.01 105.011
-20.5 48.6552 -126.51 85.5105
0 0 0 0
45 14.4508 13.5144 76.4856
27.25 14.4508 -4.2356 58.7356 -1.5
48.6552 -107.51 104.511
-46 48.6552 -152.01 60.0105
-65.5 48.6552 -171.51 40.5105
-45 14.4508 -76.486 -13.514
0 0 0 0
-17.75 14.4508 -49.236 13.7356 16.25
48.6552 -89.761 122.261
-28.25 48.6552 -134.26 77.7605
-47.75 48.6552 -153.76 58.2605
-27.25 14.4508 -58.736 4.23565
17.75 14.4508 -13.736 49.2356
0 0 0 0 最小2乗平均[j]
平均[i]-平均[j]
差の標準誤差 差の信頼下限 差の信頼上限
0,0 0,4 0,13 30,0 30,4 30,13 最小2乗平均差のStudentのt検定
投与前と 4週後,および 13週後の群内比較のためのSEは,図 5.3から14.45 となっ ている.これは,
2
2 (2) 2 417.65
14.45 4
SE s
n
⋅ ×
= =
群内の差=
で計算されたものである.
図 5.3には投与前との差の群間比較は行なわれていないので,対比による設定を行う 必要がある.図 5.4に 0mg/kgおよび 30mg/kgの投与前と 13週目の差の対比について再 計算した結果を示す.図 5.3の結果と符号が異なるが同じ結果が得られている. それ らの群間比較は,それらの対比の差により推定されるはずである.図 5.4に結果を示す が,対比の係数が半分になっているので,推定値を倍にすれば 45.625×2 = 91.25 と表 5.7に一致する.式(5.1)の検定統計量 t = 4.47は,当然のことながら一致している.
図 5.4 対比による投与前との差の群間比較
0,0 0,4 0,13 30,0 30,4 30,13 推定値 標準誤差 t値
p値(Prob>|t|) 平方和
-1 0 1 0 0 0 64 14.451 4.4288 0.0008 8192
0 0 0 -1 0 1 -27.25 14.451 -1.886 0.0838 1485.1 検定の詳細
0,0 0,4 0,13 30,0 30,4 30,13 推定値 標準誤差 t値
p値(Prob>|t|) 平方和
-0.5 0 0.5 0.5 0 -0.5 45.625 10.218 4.465 0.0008 8326.6 検定の詳細
注)対比の計算を2つに分けて再実行した.