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2-1液晶とその種類 [1, 2]
2-1-1 液晶とは
液晶とは、1-1-1項でも少し述べたが、固体、液体、気体の物質の三態とは別 の新たな物質の第四の状態のことを指す。また、液晶状態は、ある特定の条件下 で熱力学的に安定な相として液晶相とよばれる。一般的に液晶は次の 2 つに大 別される。
1)サーモトロピック液晶(thermotropic liquid crystal) 2)リオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal)
サーモトロピック液晶は、熱相転移中に出現する液晶であり、リオトロピック液 晶は、溶媒中で溶媒も取り込んで液晶を形成する濃度相転移型の液晶である。こ の項ではサーモトロピック液晶に集中して説明する。サーモトロピック液晶に おける相転移挙動は温度と圧力の関数に依存するが、圧力一定の元、結晶相から 温度を上げると、融点T1において液晶相に相転移する。さらに温度を上げると、
透明点 T2で等方相(等方性液体)に転移する。この過程は昇温、降温ともに一 般的に可逆的である。液晶は、結晶の物理的性質の一つである異方性と、液体の 流動性の両方の性質を有する。結晶の異方性は分子形状異方性からもたらされ、
その構成分子は位置と配向に関する秩序をもつ。すなわち結晶は重心位置秩序 と分子配向秩序をもつ。一方で、等方性液体は結晶位置的秩序と配向秩序が完全 に崩壊した状態のことを指す。サーモトロピック液晶の液晶状態においては、分 子の配向秩序は保持されたまま、分子のダイナミクスに由来して位置的秩序は 崩壊している(Fig. 2-1)。Fig. 2-1に示したメソフェーズ(mesophase、mesoはギ リシャ語でbetweenの意)という用語は結晶相と等方相の間に発現する相として の中間相のことを指し、液晶だけでなく柔軟性結晶も含む。柔軟性結晶は、フラ
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ーレンの様な球体分子が示す状態で、液晶とは逆の秩序を有する。すなわち、位 置的秩序が保持されたまま分子配向秩序が崩壊した状態にある。2-2-1「X 線回 折」の項にも再度登場するので頭の片隅に置いておいて頂きたい。
サーモトロピック液晶における液晶相は、系内の秩序の相違により、様々な形 態を示す。最も秩序が低い液晶相はネマチック(nematic)相とよばれ、次に秩序 が低いも液晶はスメクチック(smectic)相とよばれる(Fig. 2-1、中央図)。最も 秩序が低いネマチック N 相においては、分子の主軸は平均的な分子の向きを表 すベクトル(ダイレクターn)方向に沿って互いにほぼ平行に配列している。こ こではダイレクターn周りに完全回転対称の長距離配向秩序が存在し、分子中心 の離散的並進対称性は全方向に崩壊している。スメクチック相内では、分子の重 心位置は一次元的な周期構造をもっており、系はミルフィーユ様の層状になっ ている。層内の分子の重心位置に関しては、短距離秩序は存在するが長距離秩序 は存在せず、各分子は層内方向に流動性を示す。
このような液晶状態を発現する液晶分子は、棒状分子の他にも円板状分子が あり、各々が示す液晶をカラミチック(calamitic)液晶、ディスコチック(discotic) 液晶とよぶ。一般的にそれらの分子は、分子中心に π 電子共役系をもつリジッ ドなコア(物理学における変形しない剛体球、rigid sphereと混同するため、剛直 と和訳しないことがある。しかも実際、π電子共役系部位は歪曲し得る。著者は
「リジット」を用いる。)とその周辺部位に飽和炭化水素鎖などの柔軟な置換基 から構成される(Fig. 2-2)。本論文では前者のカラミチック液晶を取り扱う。デ ィスコチック液晶に関しては別の書籍をあたられたい。[3, 4]
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Fig. 2-1 Molecular orientational order and dynamics in crystalline solid, liquid crystalline and isotropic liquid state. The elongated ellipsoids represent liquid crystalline molecule showing liquid crystalline state.
Fig. 2-2 Schematic illustration of rod- and disk-like mesogens: (a) calamitics and (b) discotics.
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Fig. 2-2aに示した化合構造は、MBBA(methoxybenzolidene-p-n-butylaniline)と いう化合物で、1969年にKelkerとScheurleによって報告された最初の室温ネマ チック液晶分子である。[5] このような棒状分子は、細長い一軸性の楕円あるい は円筒上のモデルで表記される。棒状分子の異方的な形状は、長軸を主軸として 異方性の性質をもたらす。液晶状態にある分子の自己組織化駆動力は、分子間相 互作用、特に高い形状異方性分子間のファンデルワールス力(van der Waals force の異方性にある。MaierとSaupeは棒状液晶の分子間相互作用として、角度依存 性をもった分散力を重視し、分子場近似を考慮してネマチック相と等方性液体 相(等方相)の相転移を次の式で表されるオーダーパラメータS(Order parameter) を導入して説明した。[6, 7]
𝑆 =1
2< 3𝑐𝑜𝑠2𝜃 − 1 > (2.1) ここで、θは各液晶分子の長軸方向とダイレクターのなす角度であり、かっこは 全空間での平均である。このオーダーパラメータは液晶の基礎的物性を考慮す る上で非常に重要な因子である。
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2-1-2 ネマチック相 [8, 9]
上述した通り、サーモトロピック液晶の挙動は、分子レベルにおける局所的な秩 序(位置的秩序、配向秩序)に由来する。すなわち、等方性液体のように分子の 軸は各々ランダムに向いておらず、互いに分子間の束縛力に支配され、ダイレク ターに沿ってある程度並行に配列している。配向秩序はあるが、並進秩序をもた ない(離散的並進対称性がない)最も秩序の低い液晶相は、ネマチック(N)相 である。また、一般的なネマチック相は局所的に一軸性を有しており、これは液 晶分子のC∞軸方向(光軸方向)とダイレクター方向が一致している。[9] また、
ダイレクターは概して単位ベクトルn として定義され、nと−n は等価であるた め、ネマチック相はD∞h対称性をもつ。[9] ネマチック相の形成は、分子間相互 作用の異方性、すなわち分子構造の異方性が駆動力となっている。よって、異方 的な分子のみからなる系がネマチック相を形成するのである。通常、アルキル鎖 とリジットなコアからなる液晶分子はネマチック相を発現するが、分子構造の 異方性がネマチック相発現の駆動源であることを利用して、リジッドコアのみ で構成された異方的な分子からネマチック相を発現させる報告例もある。[10]
さて、ネマチック相を連続体として取り扱う場合、配向ベクトル n を用いて 分子配向状態を記述することができる。いま、局所的に配向ベクトルの歪みが生 じたとしよう。その場所は配向ベクトルが空間的に一様なところと比べると、配 向ベクトルが歪んでいるために相対的に自由エネルギーが高い。しかしながら、
配向ベクトルはこの配向歪を解消するように復元力が作用する。すなわち、局所 的な歪が生じた場合、弾性的な自由エネルギーが蓄えられ、生じた歪を解消する ように復元力が作用する。この弾性的自由エネルギーは、液晶の自由エネルギー の基底状態からの変化量ΔFを自由エネルギー密度 fの体積積分(体積素片𝑑𝒓)
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𝛥𝐹 = ∫ 𝑓[𝒏(𝒓)]𝑑𝒓 (2.2)
において、fを勾配ベクトル𝛻nのべきに展開(gradient展開)し、第二項まで取 り扱うことで表現することができる。この時、n周りの回転に対して不変であり、
+n と−nを置換した場合も不変であることが条件である。この式は C. W. Oseen [11]、H. Zocher [12] により論ぜられ、F. C. Frank(1958年)[13] およびJ. L. Ericksen
(1991年)[14]により最終的に整理された。今日ではこの定式化された弾性的な 自由エネルギーをFrank(–Oseen)の弾性エネルギーとよび、次のように表される。
𝐹 =1
2𝐾11(div𝒏)2+1
2𝐾22[𝒏 ∙ rot𝒏 + 𝑞0]2+1
2𝐾33(𝒏 × rot𝒏)2
−1
2(𝐾22+ 𝐾24) ∙ 𝛻 ∙ (𝒏 ∙ div𝒏 + 𝒏 × rot𝒏) + 𝐾13∙ 𝛻 ∙ (𝒏 ∙ rot𝒏)
(2.3)
ここで、div𝒏 = 𝛻 ∙ 𝒏、rot𝒏 = 𝛻 × 𝒏であり、K は弾性定数(正の定数)である。
各Kの関係は𝐾11≥ 0, 𝐾22 ≥ 0, 𝐾33≥ 0, 𝐾22≥ |𝐾24|, 𝐾11 ≥𝐾22+𝐾24
2 ≥ 0である。第4 項および5項は表面項である。式内に現れるdiv𝒏、𝒏 × rot𝒏、𝒏 ∙ rot𝒏はそれぞれ 配向ベクトルの3つの独立な歪モードを表しており、各々広がり(splay)、曲が り(bend)、ねじれ(twist)モードとよばれる(Fig. 2-3)。弾性定数𝐾11、𝐾22、𝐾33 はそれぞれ、splay、twist、bendのFrank弾性定数とよばれ、𝐾24、𝐾13はsaddlesplay、
splaybendのFrank弾性定数とよぶ。ネマチック相においてはねじれの状態をと
らないので𝑞0 = 0である。
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Fig. 2-3 Schematic illustration of basic three deformation modes in N phase: (a) splay, (b) twist and (c) bend.
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2-1-3 キラルネマチック相 [15–18]
ネマチック相を構成する分子がアキラルではなくキラルである場合、あるいは キラル分子(キラル剤)を溶質としてこの系に添加した場合、分子間相互作用は 異方的に働くだけでなくキラルにも働き、「キラリティー」が相全体に伝播する。
このキラルなネマチック相はコレステリック相あるいはキラルネマチック(N*) 相とよばれ、配向ベクトルに垂直な軸周りで構造が自発的にねじれている(Fig.
2-4)。対称性はネマチック相のD∞hから鏡対称性の破れたD∞へと変化する。[9]
キラルネマチック相において、Frankの自由エネルギーを最も低くする配向ベク トルのらせん的変調構造は
𝑛(𝒓) = (cos(𝑞0𝑧) , sin(𝑞0𝑧), 0) (2.4) である。模式図(Fig.2-4)では層構造を形成しているように見えるが、あくまで ダイレクターが連続的にねじれているので、そこには層構造があるわけではな いことに留意されたい。ねじれ構造をとるために要するエネルギーは、分子を平 行に配列させるために要する全エネルギーに比べて約10-5倍であるため[18]、キ ラルな添加剤をネマチック母液晶に少量添加するだけで、その混合物はらせん 構造をとる。また、キラルネマチック相の配向ベクトルのらせんピッチ(p)[19]
𝑝 = 2𝜋
𝑞0 (2.5)
は、通常、光の波長オーダー程度の長さであり、可視光の選択的な Bragg 反射
(または単に選択反射)を示す。因習的に、pはプラスとマイナスの符号を伴い、
プラスは右巻きらせん、マイナスは左巻きらせんの構造体をとることを意味す る。らせんの掌性は、分子の絶対配置(S体あるいはR体)により決定される。
したがって、逆の掌性を示す化合物とはエナンチオマーの関係にある。エナンチ
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オマー対は互いにキラルな効果を相殺するので、ピッチ長 p はラセミ混合体で は無限大になる(𝑞0 = 0, 𝑝 ⟶ ∞)。よって、キラルネマチック相のらせん構造 は、巨視的な分子キラリティーとみなせる(換言すれば、らせんピッチはキラリ ティーの尺度とみなせる)。実際には、以下に説明されるように、らせん構造の 組織化はキラリティー因子だけでなく弾性因子も関与する。Frank弾性エネルギ ーにおいて、らせん構造に直接関与しないスプレイ、ベンドの項を無視し、らせ
んの波数q0 = 2π/pを用いることで、変形自由エネルギー密度を次のように表す
ことができる。[17]
𝐹𝑒𝑙= 𝑘2𝑞0+ 𝐾22𝑞02 (2.6)
ここで、新たに出現した定数 k2はキラル強度とよばれる。第一項はツイスト 変形を抑える方向に生じるトルクを定量化するものであり、分子間相互作用の 異方性に関係する。第二項は、分子間相互作用のキラリティーにより決定される。
ネマチック相内では、キラル強度は分子の動きにより平均化され、アキラルな分 子あるいはキラルなラセミ分子からなる系内ではキラリティー相互作用が消滅 する。外的な制約条件がない場合、ある自由モデルの平衡状態は自由エネルギー の最小値と等しい。この条件下では、らせんの波数は
𝑞 = −𝑘2⁄𝐾22 (2.7)
と表されるので、らせんピッチの大きさは、ツイスト変形を促進するキラル強度 と弾性復元トルクとの競合により決定される。キラル強度に関連する代替パラ メータとして、キラル剤に固有の液晶分子配列に対するねじれの誘起力 HTP
(helical twisting power)が一般的に用いられる。HTPは、らせん構造内のピッチ
長pとキラル剤の添加濃度cの積の逆数で表現される。[17, 18]