キ) 名称
第2節 消防機関における AED 不具合への対応
(1)消防機関におけるAED検討の経緯
従来、消防機関におけるAEDの不具合が疑われる事案に関する検証は、各都道 府県や地域のメディカルコントロール協議会、消防本部内で行われてきた。平成 21 年、地域メディカルコントロール協議会や消防本部からAEDに関する不具合を疑 う事例が消防庁に報告された。
AEDの不具合が疑われる事案については、各消防本部が頻繁に経験するもので ないこと、また医学的質を保持する観点から、全国的に情報を収集し、これまで発 生している状況を把握して検討することが重要である。そこで、全国メディカルコ ントロール協議会連絡会幹事会を通じて、AEDの不具合事例の収集のため、各都 道府県メディカルコントロール協議会へ調査を依頼した。
本調査により、全国でAEDの不具合が疑われた事例が報告された。この調査結 果をもとに、平成 21 年度厚生労働科学研究費補助金事業「循環器疾患等の救命率向 上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究:代表研究者 丸川征四郎 医誠会病院 院長補佐」(以下「丸川班」という。)において、医学的見地から専門的 に分析を行い、平成 22 年 3 月、消防庁及び厚生労働省より「消防機関においてAE Dの不具合が疑われた事例についての中間報告」(以下「中間報告」という。)を発 表し、消防本部におけるAEDの取扱いについての技術的助言を行った。
さらに、平成 22 年 4 月より消防機関におけるAEDの不具合が疑われる事例の再 調査を行い、同年 12 月以降、丸川班において分析を続けている。
本ワーキンググループでは、消防機関におけるAEDの不具合が疑われる事例に 対する取組について検討した。
(2)消防機関におけるAEDの現状
① 消防機関のAEDの配備
現在、消防機関に配置されているAEDは、AEDに心電図モニター画面が表示 され、表示された心電図波形を救急救命士が確認し、必要に応じて解析を行うタイ プ※1と、心電図モニター画面がなく、除細動パッドを貼付し、一定時間を経過する と強制的に解析を行うタイプ※2に分類される2。後者のタイプは、公共施設や駅・空 港などに広く設置されているものである。
② 消防機関における AED の保有状況
平成 22 年に消防庁が行った調査によると、救急隊用AED※1の設置状況は、救急
自動車に 93.5%、非常用救急自動車に 86.1%設置されており、全国の消防機関が保 有する救急隊用AED※1の 75.5%が救急自動車に配置されている。
また、一般市民用AED※2は、消防自動車等に 48.9%、消防本部の施設に 45.9%
設置され、一般市民用AED※2の 5.1%が救急自動車に配置されている。(図 7-4〜
図 7-6 参照)
表 7-6 AEDの保有状況
図 7-4 消防本部における配置場所別 AED の仕様
35.5 % 34.9 %
86.1 % 93.5 %
45.9 % 48.9 %
3.7 % 2.0 %
18.6 % 16.2 %
10.1 % 4.6%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
救急自動車 非常用救急自動車 消防自動車等 その他
不明 一般市民用
(自動体外式除細動器)
救急隊用
(半自動体外式除細動器)
※AED の種類を不明とした回答があるため、設置割合は 100%にならない
救急自動車 非常用救急自動車 消防自動車等 その他 計
救急隊用 5,070 台 622 台 866 台 978 台 7,536 台 一般市民用 106 台 27 台 1,211 台 1,263 台 2,607 台 不 明 247 台 73 台 401 台 512 台 1,233 台 合 計 5,423 台 722 台 2,478 台 2,753 台 11,376 台
図 7-5 救急隊用AEDの各自動車に 図 7-6 一般市民用AEDの各自動車に 占める割合(n=7,536) 占める割合(n=2,607)
救急自動車 67.3%
非常用救急 自動車8.3%
消防自動車等 11.5%
その他 13.0%
その他
(消防本部の 施設で管理して
いるもの) 48.4% 消防自動車等 46.5%
非常用救急 自動車 1.0%
救急自動車 4.1%
③ 救急隊用AEDと一般市民用AEDとの比較
救急隊用AEDと一般市民用AEDを比較すると、救急隊用AEDでは感度(除 細動が適応である不整脈を検出する能力)が相対的に高く、特異度(除細動が必要 でない場合に適応でないと判断する能力)が相対的に低く設定されている。このた め、脈の触れる心室頻拍や幅広のQRS波形3の頻拍に対しても、除細動が必要と解 析する場合がある。一方、一般市民用AEDは、相対的に感度が低く、特異度が高 く設定されている。これらも含めて両者のAEDの主な特徴を整理した。(表 7-7)
表 7-7 救急隊用AEDと一般市民用AEDの特徴
救急隊用 一般市民用 除細動器の種類 半自動体外式除細動器 自動体外式除細動器 使用者 救急隊 一般市民 安全性の確保 専門的判断を持つ者 誰でも使用できる により安全性を確保 安全性を確保 感度 相対的に高い 相対的に低い 特異度 相対的に低い 相対的に高い 解析方法 手動 自動 救急自動車への設置割合 93.0% 2.0%
消防自動車への設置割合 34.9% 48.9%
※AEDの種類を不明とした回答があるため、設置割合は 100%にならない
④ AEDの名称
「AED」という名称は、自動体外式除細動器が一般市民でも取り扱えることか ら広く普及した言葉である。しかし、単にAEDと言っても一般市民でも使用可能 なもの、主に医師や救急救命士などが使用するものと混在している。一方、今回の 検討において救急隊用AEDと呼称している心電図モニター付除細動器については、
主に消防機関や医療機関に配置されており、一般市民が容易に使用できる場所には 設置されておらず、一般市民が使用することは考えにくい。
消防機関におけるAEDの不具合が疑われる事例に関する検証結果などを公表す る際、厳密な名称でなくとも、これら公表内容について、市民がAEDの使用をた めらうことがないよう配慮するとともに今後、名称についても検討していく必要が ある。
(3)救急隊用AEDの不具合が疑われた事例の収集
① 事例収集項目
不具合が疑われた事例の収集にあたっては、以下の項目ごとに分類した。
ア)除細動の適用がない(疑いを含む)傷病者に対し、AEDが除細動適用あ りと判断した。
イ)除細動の適用がある(疑いを含む)傷病者に対し、AEDが除細動適用な しと判断した。
ウ)上記以外のAEDの不具合があった。
② 検証体制
検証体制としては、図 7-7 に示すように、不具合が発生した段階で消防本部、都 道府県メディカルコントロール協議会において事後検証を実施した。検証の結果、
不具合と判明した場合には、速やかに消防庁、AED製造販売業者、厚生労働省に 情報提供するとともに、消費者庁へも報告する体制とした。
また、厚生労働省においては、現在丸川班において検証を行う体制となっており、
これらの検証結果を踏まえて、AEDに関する必要な情報のとりまとめを行い、消 防本部への技術的指導や助言、情報提供、さらにAED製造販売業者への要望等を 行っている。
図 7-7 AEDに関する不具合が疑われた事例に関する検証体制
③ AEDの不具合が疑われた事例
表 7-8 に示すとおり、中間報告で示された不具合事例は 14 パターンあり、大きく 低感度事例、低特異度事例、その他に分類することができる。今後、性能限界とし て許容できない範囲については、将来的な改善を目指して検討していくことが望ま れる。
表 7-8 不具合事例パターン
低感度事例
① 周波成分が含まれる VF の低感度事例
②アーチファクトによる解析キャンセル
③高周波ノイズによる低感度事例
④幅が振り切れるノイズによる低感度事例
⑤VT 波形が解析せず 低特異度事例
⑥洞調律に除細動
⑦PEA に除細動
⑧アーチファクトを VF とした事例
その他
⑨パッドはずれ、接触不良
⑩メモリーに記録されない
⑪心電図波形がモニターされない
⑫電源が入らない
⑬充電中フリーズ
⑭高圧充電できない
④ 不具合が疑われた事例に対する対応
不具合が疑われた事例の検証結果に基づき、以下の4点について消防本部へ周知 した。
ア)保守点検や日常点検に関する方法 イ)AED使用時のノイズを減らす方法 ウ)アーチファクトの発生原因と対処 エ)除細動パッドの装着及び取扱い
⑤ 不具合が疑われた事例に対する対応実績
機器の性能改善を目指していく方法として、AED製造販売業者に対しては、A EDの不具合が疑われた事例を提示し、改善することを要望した。これを受けて、
AED製造販売業者は、除細動適応となる感度をより高くする解析プログラムの変 更や、AEDパッドの取扱い説明の表記改正など、迅速に対応してきた。AED製 造販売業者のこれらの対応は、評価できる。
⑥ 先進地域における保守管理
不具合が疑われた事例の一部には、AEDの点検が不十分であったという指摘も ある。AEDを適切に取り扱うためには、使用者である救急隊員を始め、消防職員 がAEDの能力を正しく把握することが必要である。そのため、正確に機能するよ う日常から保守管理を徹底することが求められる。
また保守管理の方法として、先進的な消防機関では、AEDの「取扱要領」や「点 検要領」を作成し、保守整備体制を実施している。また、「不具合への対応要領」や
「整備記録」を策定することで、不具合時の対応を明確にしている。今後、ほかの 消防機関においても要領を作成し、日常点検に活かすことが求められる。
(4)今後の課題と対応
① AED性能向上
消防機関が、AEDを適切に取り扱うためには、使用者である救急隊員をはじめ とする消防職員が、AEDの性能を正しく理解し、適切に取り扱うことが最も大切 である。そのためには、今後も引き続きAEDに関する情報収集を行い、データの 解析結果等を各消防本部へフィードバックすることが重要である。
また、いかなる救急事故事案においても、機器本来の性能を十分発揮できるよう にするため、適正な維持管理体制の保持が必須と考えられる。
一方、これらの解析結果は、AEDの性能向上に資する重要な検証材料でもある。
AEDの主管省庁である厚生労働省と連携し、引き続き対応することが求められる。
今後の情報収集の方策としては、①デジタルデータを効率的に収集するために、イ