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6.考察
冒頭で挙げた三つの課題について、実験結果をまとめ、若干の解釈を述べる。
6‑1Phonationtype l)Breathy(低音起声)
起声部で声門上部の収縮活動が生起し、それとともに喉頭が下降する。この収縮活 動は、視覚的には披裂部と喉頭蓋の接近(「前後径」の短縮)によって確認される。以 前、北京語の3声を観察した際も、低音部で同様の喉頭運動が観察された。このよう な喉頭調節には、おそらく外喉頭筋の活性化が関与しており、Releaseに先立って開 始されるSHの強い活動はその一つの現れである。SH等の外喉頭筋は、「喉頭のモー ドを変え、その結果、喉頭が下降し、声帯は短く、厚く、また弛緩した状態になる。
外喉頭筋は(車の)クラッチのようなもので、喉頭を高音域/低音域の発声に適したモー ドに変換する役割をするのである」(岩田1997,p.21)。喉頭の下降は口腔内圧(Po)の低 下をもたらし、laxの状態にある声帯は振動しやすくなる。その後、外喉頭筋の活動 が弱まれば、それによって(+おそらく声門下圧の低下)一定のピッチ上昇が可能とな る(上文4‑1,3)で紹介した非言語的動作に関する特徴を参照)。その段階で喉頭は非低 音域発声モードに移行するので、抑制されてきたCTが活性化し、急速なピッチの上 昇が実現される。CTの活動(抑制と活性化)は、おそらくbreathyphonationに関与的
な特徴ではない。
2)Clear(高音起声)
母音起声の場合、声門上部の収縮活動が生起することがあるが、この収縮活動は、
視覚的には両仮声帯の接近(内転)によって確認される。Breathyの場合が前後方向の 収縮であるのに対して、clearのそれは左右方向である。VOCの活性化は明らかにこ の活動に関与している。VOCが強く活動すれば声帯振動は停止する(所謂seglottal stop")。その意味でVOCは車のフットブレーキのようなものだが、これは単純なブレ
ー キ で は な い 。 高 調 終 止 の 音 節 末 で は 、 C T の 減 衰 を 補 う よ う に に 活 性 化 し て い る 。 V O C が 声 門 下 圧 の 低 下 な ど 他 の 条 件 と 連 動 し て 強 く 作 用 す れ ば 、 声 帯 振 動 は 停 止 さ れるのであるが、それ以前の段階ではCTと補完的に高調の生成又は維持に一定の役 割 を 果 た し て い る と み ら れ る 。 こ の こ と か ら 、 母 音 起 声 の 音 節 で は 、 V O C が 起 声 部 に お け る 高 音 域 モ ー ド の 形 成 に 貢 献 し て い る と 推 定 さ れ る 。 子 音 起 声 の 場 合 、 V O C は活性化しない。しかし今度はCTがその役割を代行していると考えられる。Release に 先 立 っ て 開 始 さ れ る C T の 強 く 、 長 い 活 動 に よ っ て 、 声 帯 は 長 く 、 薄 く 、 ま た 緊 張 した状態になっているのだろう。閉鎖部では口腔内圧(Po)が相対的に高いので、声帯 振 動 は 生 起 し に く い が 、 母 音 部 で は た だ ち に 高 音 が 実 現 さ れ る 。
6 ‑ 2 単 音 節 声 調 の 生 成 と 二 音 節 語 声 調
Clear/Breathyの対立は、音声的には音節前半に実現される。
げ と 下 げ は 、 ま ず S H と C T の 抑 制 に よ っ て 開 始 さ れ 、 の 活 性 化 に よ っ て 高 調 が 実 現 さ れ る 。
−59‐
そ の 後 の ピ ッ チ の 上
" 上 げ の 場 合 は 、 C T
1)単音節声調
Clear
Tonel(高平調):CTの活動が維持されることによって高音が音節末まで続く。
Tone3(単純下降調):CTの抑制(+後半ではおそらく声門下圧の下降)によって下降調 が 実 現 さ れ る 。 S H は 活 性 化 し な い 。
Tone5(下降・上昇調):まずCTの抑制(+おそらく声門下圧の下降)によって下降調が 実 現 さ れ 、 次 に S H の 抑 制 と そ れ に 続 く C T の 活 性 化 に よ っ て 上 昇 調 が 実 現 さ れ る 。 Tone7(短高調):Tonelと同じだが、VOCによる音節終止のタイミングが早い。
Breathy
Tone2(単純上昇調):SHの抑制とそれに続くCTの活性化によって上昇調が実現さ れる。
Tone6(上昇・下降調):SHの抑制とそれに続くCTの活性化によって上昇調が実現さ れ、次にCTの抑制(+おそらく声門下圧の下降)によって下降調が実現される。
Tone8(短上昇調):Tone2と同じだが、VOCによる音節終止のタイミングが早い。
2)二音節語声調
入声のTone7,Tone8の場合を除き、第一音節の声調によって二音節全体の調形が ほ ぼ 定 ま る 。 E M G の 活 動 も 単 音 節 と の 対 応 関 係 が 認 め ら れ る 。 但 し 相 違 点 も あ る 。 以 下 、 第 二 音 節 の 声 立 て に 対 応 す る S H や 語 終 止 に 対 応 す る V O C の 活 動 は 除 外 し て 考える。
Clear
1+X(高調十短低調):単音節のTonelに対応するが、CTが活性化しないまま高調が 実現される。
3+X(下降調十短低調):単音節のTone3と同じ。
5+X(下降調十上昇調):単音節のTone5と同様に、まずCTの抑制(+おそらく声門下 圧の下降)によって下降調が実現され、SHの抑制とそれに続くCTの活性化によって 上 昇 調 が 実 現 さ れ る 。 但 し 第 二 音 節 起 声 時 に S H が 強 い 活 動 を 示 す 点 が 、 単 音 節 と は 異なる。
Breathy
2+X(低調十高調):単音節のTone2と同じ。
6+X(上昇調十短低調):上昇調は基本的にはSHの抑制によって実現されるとみられ、
CTの活動は弱い。
全般的にみて、蘇州語二音節語声調の生成メカニズムは基本的に単音節声調と同じ であるといってよい。その際、第二音節の発話タイプの違い(clear/breathy)は無効化さ れ て い る と み ら れ る 。 単 音 節 声 調 と の 相 違 点 に つ い て は 、 今 後 の 検 討 課 題 で あ る が 、 仮に次の解釈を示しておく。
1)1+X(高調十短低調)でCTが活性化しないのは、おそらく埋め込み文を使用しなかっ た こ と が 影 響 し て い る 。 発 話 の 開 始 で 声 門 下 圧 が 十 分 に 維 持 さ れ て お り 、 S H が 抑 制 されておれば、CTの活動を欠いても相対的に高いピッチが生成されるのであろう。
2)5+X(下降調十上昇調)の第二音節起声時にSHが強い活動を示すのは、その−部は お そ ら く 声 立 て に 対 応 す る 。 ま た こ の 特 徴 は 発 話 速 度 を 早 く す れ ば 弱 ま る 可 能 性