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津田 勝男・坂巻 祥孝

ドキュメント内 農薬に関する情報発信 (ページ 30-35)

鹿児島大学農学部 研究報告

表−1 喜界島におけるゴマダラカミキリ 買取数の年次推移

年度(年) 買取数(頭)

2007 2,040

2008 1,953

2009

2010

2011 1,730

2012 1,358

2013 1,686

2014 3,173

2015 3,601

2016 1,427

データは喜界町役場産業振興課提供.

2009年と10年は買取りを行っていない.

2015年からバイオリサ全島施用を開始.

喜界島におけるゴマダラカミキリ類の昆虫病原糸状菌製剤“バイオリサ・カミキリ”による防除 591

I 天敵糸状菌を利用したゴマダラカミキリの防除

『バイオリサ・カミキリ スリム(出光興産株式会社; 以 下 バ イ オ リ サ)』は 昆 虫 病 原 糸 状 菌 の 一 種 で あ る Beauveria brongniartiiを紙パルプを主成分とした不織布 に固定させた生物的防除資材である。B.brongniaritiiは 主にコウチュウ目昆虫から発見されることが多い菌で,

バイオリサにはゴマダラカミキリ類とキボシカミキリに 対して病原性が強い菌株が使用されている。不織布はス リットの入った板状に成形し,培養液を含ませてあり,

接種した菌は増殖し表面に分生子を形成する。使用時に は,スリットに沿って切り離しベルト状(幅2.5 cm,長

さ50 cm)となった不織布をカンキツ樹の幹部に巻き付

け固定する(後出の図―2)。カミキリムシはこのベルト の上を歩行する際に分生子が体に付着して感染する。分 生子懸濁液を散布するといった従来の発想を転換させた 画期的な防除資材と言える。

バイオリサの設置位置,設置時期,設置密度等の設置 方法については九州地域の果樹害虫担当者を中心とした 研究により明らかにされている(橋元ら,1992;九州農 業試験研究推進会議,1994)。

昆虫病原糸状菌は昆虫の体表に付着した胞子が発芽 し,皮膚を通して体内に侵入する。体内に入った菌が体 内で増殖して充満した結果,その昆虫は死亡する。この ため感染してから死亡するまでには1〜2週間程度の時 間を要する。また,菌に感染した個体はいずれ死亡する にしても死亡する2日前までは健康な個体と同様に行動 する(柏尾・氏家,1988;津田・山中,1995)。産卵す るためにミカンの木に飛来した雌成虫がそこに設置して あったバイオリサに接触して菌に感染したとしても,そ の後の約10日間は卵を産み続けると考えられる。ゴマ ダラカミキリ類は約100日間に渡って100個以上の卵を 産むので,菌に感染したとしても感染後11日目から 100日後までに産むはずだった卵の産卵を防ぐことはで きるが,最初の10日間の産卵は防ぐことができない。

一方,カミキリムシによっては成虫として羽化した時点 では卵巣がいまだ成熟していないために産卵できない性 質を有する場合がある。この期間を産卵前期間と呼ぶ が,ゴマダラカミキリは幸いにもこの性質を有してお り,卵巣が成熟するまでの産卵前期間が約10日間であ る。したがって,羽化直後の個体が菌に感染すれば産卵 を始めるころに死亡することになる。この場合は100%

の産卵を防止することが期待できる。この効果を狙っ て,バイオリサを設置する際には主要な羽化脱出部位で

ある地上30〜50 cm付近に菌を設置する。また,設置

時期については,ゴマダラカミキリの成虫が羽化を始め る時期に合わせる。喜界島では5月1日ころがゴマダラ カミキリの羽化開始時期であることから,この時期にバ イオリサを設置する。

また,成熟個体が周囲圃場から侵入することを防止す るためには,バイオリサを広域に施用する必要がある。

バイオリサは菌を不織布で培養することによって,効 果の持続が期待される。例えば菌を直接散布した場合に は,そこに居た虫に感染させることは可能であるが,虫 の体に付着しなかった菌は降雨で流されてしまう。この 場合は新たに発生あるいは飛来した成虫に対する効果は ない。毎日あるいは数日おきに散布しなければならなく なるので相当な労力が必要になる。一方,菌を培養した ベルトはいったん設置するとそこに残って胞子を維持す る。降雨で表面の胞子が流された場合でも胞子は再生産 される。これまでの実証実験で,バイオリサをミカンの 木に設置した場合には1か月間は活性が保たれることが 確認されている。また,降雨の影響がまったくないハウ スでは2か月間も効果が保たれた例も報告されている

(九州農業試験研究推進会議,1994)。

II 喜界島におけるバイオリサの広域施用

バイオリサは,効果が約1か月は持続することから管 理不足あるいは放置園が多い地域での利用にも向いてい る。ただし,奄美諸島での使用例が非常に少なかったた め九州本土で開発された技術が喜界島の防除にそのまま 適用できるか不明であった。また,喜界島と同様にオオ シマゴマダラとホンドゴマダラおよび両種の交雑個体が 発生する沖縄本島では成虫の発生期間が3月下旬から7 月末まで長期に及ぶこと,カンキツ園の周辺にゴマダラ カミキリ類の寄主植物となるセンダン,イタジイ,イス ノキ,クスノハカエデ等が多く自生していること,カン キツ園と周辺環境の間での移出入が頻繁におこっている こと等の理由からバイオリサによる被害防止効果は低い と判断されている(九州農業試験研究推進会議,1994)。

このため九州本土と沖縄本島の中間に位置する喜界島 でバイオリサによる効果が十分発揮できるか懸念されて いた。しかし幸いなことに2012年から同島の大朝戸・

西目地区(図―1)においてバイオリサを広域施用する実 験を行ったところ,2014年までの3年間で顕著な効果 が得られた。

バイオリサの広域施用を実施した大朝戸・西目地区の 被害状況を表―2に示した。処理前年の2011年11月で は調査樹の約7割で幼虫の食入がみられ,1樹当たり食 入数も1.26頭/本と最も高かった。九州本土の試験では

十分な効果を得るためには複数年の処理が必要とされて いるが,バイオリサの設置を開始して半年後の2012年 の秋に行った幼虫食入調査でも,食入樹の割合は約4割 まで低下し,1樹当たりの食入孔数も0.75頭/樹に減少 するなど効果が認められた。さらに,バイオリサ施用2 年目となる2013年の秋の調査では食入樹の割合が約1 割まで低下し,1樹当たりの食入孔数も2012年の約10 分の1に減少した。

喜界島におけるバイオリサの広域施用により顕著な防 除効果がえられた要因として,まず,成虫の発生時期が 比較的短期間に集中したことが挙げられる。それ以前の 研究蓄積および観察例から,奄美諸島におけるゴマダラ カミキリ類成虫の羽化は4月下旬から始まり5月中に発

生のピークを迎えると考えられていたが,羽化がいつご ろまで継続するか明らかでなかった。喜界島では,2012 年はバイオリサの施用のため訪れた5月1日に羽化が始 まった。その後,2週間おきに羽化脱出の消長を調査し た結果,5月末までに羽化した個体は全体の70%を超え,

その後の羽化は激減することが確認された。2015年お よび2016年の調査でも,5月末までに羽化した個体の 割合は,2015年が83%,2016年が78%と2012年と同 様に高かった。このことから喜界島におけるゴマダラカ ミキリ類の羽化は5月上中旬に集中し,その後も6月中 まで継続するもののその数は非常に少なく,7月以降は ほとんど羽化しないことが確認された。奄美諸島におけ るゴマダラカミキリ類の成虫は8〜9月まで,年によっ ては10月に観察される場合もあるが,これらの個体は 5〜6月に羽化した成虫が生き残っていると考えられる。

ふたつ目の要因として,25 haというこれまでにない 広域施用を行ったことがあげられる。ゴマダラカミキリ 類は飛翔能力が高いため,隣接するカンキツ園同士ある いは周辺環境との間を頻繁かつ広域に移動していると考 えられている。このため,小面積での施用効果は期待で きず,可能な限り広域で施用することが推奨されてい る。ゴマダラカミキリの飛翔能力については,大分県で

5日間で2.4 km移動した例が確認されている(九州農

業試験研究推進会議,1994)。ただし,大部分の個体は

園地間の400 m程度の移動にとどまっていると考えら

れている。大朝戸・西目地区でのバイオリサの広域施用 100 m

図−1 喜界島の大朝戸・西目地区におけるカンキツ類の植栽培状況

注)網掛け部はカンキツの経済栽培園または庭先にカンキツ類を植栽している住宅.

表−2 喜界町大朝戸地区におけるゴマダラカミキリ幼虫の 食入数の推移

年度

(年)

調査本数

(本)

被害本数

(本)

被害樹率

(%)

幼虫 食入数

(頭)

1樹当 食入数

(頭/本)

2011 34 23 67.6 40 1.26

2012 108 47 43.5 81 0.75

2013 108 12 11.1 12 0.11

2014 548 45 8.2 55 0.10

2015 166 15 9.0 25 0.15

2016 146 8 5.5 9 0.06

調査は毎年11月に実施.

2011年度は予備調査.

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