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油汚染事故による被害に対する補償

ドキュメント内 油汚染鳥救護のガイドライン (ページ 97-150)

 

 油汚染事故によって様々な被害、あるいは損害がもたらされた場合、それらに対する補 償を行う必要が生じてくる。そのための制度について、ここでは簡単に触れておきたい。 

 なお、これらの補償について過去の状況を見渡してみると、海鳥等を始めとして野生生 物に関する影響・被害に対するものは、ほとんど認められてこなかったので、そのあたり の課題についても(2)で言及する。 

 

(1)油濁損害補償の方法   

 油汚染事故等により発生する被害あるいは損害に関して、その補償の対象となる費用に は、いったいどのようなものが含まれているのかというと、およそ以下のような事項をあ げることができる。 

 

 ■油の防除・清掃費用 

  ○油回収のために運航された船舶の運航費    ○油防除のためのオイルフェンスの展張費用 

  ○流出油の処理を目的として散布した油処理剤(分散剤)の費用    ○漂着油の清掃作業に参加した人の人件費 

 ○油の清掃作業を実施するための機材の購入(賃借)費用   ○回収した油の処理にかかる費用 

 ○その他、油防除あるいは清掃、処理に係る必要経費 等   ■油流出事故に係る調査・研究費用 

○油流出の損害の程度を調べるための費用 

○油流出の対応策を検討するための調査・研究費用   ■漁業被害に関する補償 

○過去数年間の収入実績と照らした減少分の補償 

○収入減を防止するため(風評被害の防止等)の費用 

■観光業の被害に関する補償 

 ○ホテル、レストラン等観光施設における過去の収入実績と照らした減少分の補償 

○ 収入減を防止するため(風評被害の防止等)の費用 

■各種産業への被害に関する補償   ○実質的な被害に対する補償 

 ■補償費用の請求等に係る顧問料(弁護士費用)等   

 こうした油汚染事故による被害、またはその対応にかかる経費等を補償する制度として、

まず基本的な位置付けにあるものが「船主責任保険」の締結義務である。これは、タンカ ーを対象にする場合と、それ以外の船舶を対象にする場合とで分けられる。 

 タンカーを対象にするものについては、1969年に制定された「油による汚染損害に ついての民事責任に関する国際条約」(油濁民事責任条約)に基づき、国際的ルールとして

確立されてきており、その要点は以下の通りである。 

 

① 船舶所有者は、タンカーの事故により排出した油によって生じた全ての汚染損害つ   いて無過失責任を負うとともに、その責任を一定の額に制限できる。 

 ② 2,000 トン以上の油を輸送するタンカーの所有者は、上記の責任を担保するために、 

  責任保険契約の締結を義務づけられる。 

 

 本条約は、1992年に改められ、わが国は1994年に新たに加入を果たしている。 

 これらの条約を受ける形で、わが国においては「船舶油濁損害賠償保障法」が制定(1975 年制定、1994 年改正)されており、規定のタンカーについては、それぞれ船主責任保険に 加入し、事故等により被害あるいは損害を与えてしまった際に、無過失の場合には限度額 の範囲内で、故意または過失がある場合には基本的に全額、これを補償することとなって いる。また、外国船籍の船舶についても、それぞれの船主責任保険の契約に基づき補償が なされることになる。 

 タンカー以外の船舶を対象とするものについては、1976年に締結(1988年発効)

された「海事債権についての責任の制限に関する条約」(海事債権責任制限条約)に基づき、

それぞれの船舶の所有者が、船舶の運航に伴い第三者に与えた損害に対して、一定の場合 を除き、一定の限度額の範囲内で補償を行うこととなっている。また、本条約を受ける形 で、わが国においては「船舶の所有者等の責任の制限に関する法律」が1975年に制定 されており、同様に、船主に過失のない場合には、限度額の範囲内で事故発生に伴う被害 あるいは損害の補償がなされる規定となっている。もちろん、船主に明らかな過失が認め られる場合においては、この限りではない。 

 こうして、船主責任保険による必要経費の支払いが、タンカー以外の船舶が原因となっ た場合も含めて、油流出事故発生に伴う被害あるいは損害に対する基本的な補償形態とな るのであるが、いつでも事がそれで済むわけではない。船舶によっては、必要とされる保 険契約を締結していなかったこと等により、補償金の支払い能力を有していない場合や、 

実際に査定された船舶所有者に掛かる賠償額が、責任限度額を超えてしまった場合など、

そのままでは、被害者の救済がなされなくなってしまうケースも少なからず発生している。 

 そこで、タンカーによる油汚染被害をより広範に補償することを目的として、国際的な 枠組の中で構築されてきた制度が「国際油濁補償基金」と呼ばれるものである。これは、

もともと1971年に締結された「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関 する国際条約」(国際基金条約)に基づき、1978年に設立された国際機関である。この 国際基金は1992年の新たな条約の締結とともに生まれ変わり、さらに「1992 年の油に よる汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約の 2003 年の議定書」の採択 により、現在ではそれに基づいた新基金(追加基金)が補償の原資となっている。 

 この国際油濁補償基金による賠償の限度額(船主責任保険等の補償限度額を超えた分の 最終的な補償限度額)については、1971年の当初の基金から、新条約あるいは新議定 書が採択されるごとに順次引き上げられてきており、最新のものでは日本円に換算して約 1,200 億円に達している。 

 なお国際油濁補償基金は、条約加盟国において実際に油の国際取引(海上輸送に伴う貿

易)に携わっている企業や事業体が、それぞれの受取り高に応じて支払っている拠出金を 基にして成立している。わが国の関係者は例年、全体の 20%程度の資金を拠出しており、

その額は世界のトップとなっている。 

 以上のように、油汚染事故等によって発生する様々な被害あるいは損害については、そ の対応にあたった関係者のうち代表者による申請に基づき、基本的に船主責任保険および 国際油濁補償基金によってその補償が行われることになるが、その査定については、サー ベイヤーと呼ばれる専門の保険査定人があたることとなっており、かなり厳密な審査がそ れぞれの細目に渡って実施される。従って、補償の申請者は、各申請事項の細目ごとに、

必要な証明書や領収書等を用意することが求められるため、事故対応後の補償を前提とし て考えるならば、それに携わるすべての関係者は、費用の支払いに係る領収書あるいは証 明書等を逐一揃えておくことを心がけることが必要である。また、申請方法の詳細につい ても、事故発生後にあわてて調べるのではなく、事前に必要とされる文書や申請の手順、

あるいは法的な仕組み等について、専門家や関係者に問い合わせるなどして一通り確認し ておくことが不可欠である。 

 ちなみに、わが国における国際油濁補償基金の窓口は、国土交通省海事局総務課が担当 している。 

 

(2)環境復元や野生生物の保全に関する補償 〜今後の課題〜 

   

 船主責任保険や国際油濁補償基金によって補償される費用項目の中に、「環境復元費用」

というものが一応加えられてはいるものの、過去の世界各地の事例を見渡してみると、残 念ながらほとんど認められてこなかったというのが実態である。その大きな理由としては、

野生生物そのものの価値や環境復元に係る事業の成果に関する評価を、経済価値、すなわ ち一定の金額に換算することが非常に困難であることをあげることができる。同時にそれ らが、人間にとってどういった価値を有するのかという査定基準を設ける際においても、

大きな障害となっているようである。残念ながら、人間にとって資源となる、あるいは何 らかの利用に供するような場合を除くと、自然環境や野生生物そのものの価値については、

現代の世界にあってもなかなか認められていないというのが、現実の姿なのであろう。 

 しかし、油汚染事故等によって被害に遭った海鳥や様々な野生生物の救護活動、あるい は、海岸地域で汚染された植生や海浜生物等を復元していくような地道な活動に対して、

必要かつ正当な補償が全く認められないというのは、この上なく大きな問題であると言わ ざるをえない。特に、地球温暖化をはじめ、昨今の地球規模での環境問題への取組みの潮 流が沸き起こる中で、その大きな部分を占める海洋の生態系に係る問題が、それ程軽んじ られていいわけがあるまい。 

 これに関して、アメリカ合衆国においては、全く事情を事にしている。米国は、実は先 程から触れてきた国際油濁補償基金には加盟しておらず、独自の油濁法(OPA90:Oil  Pollution Act of 1990)に基づく「油流出補償信託基金」によって莫大な額の補償を可能 にしている。しかも、国際油濁補償基金と異なり、野生生物や自然環境に対する損害に対 しても、5億ドルにも及ぶ補償を充てることができることになっているのである。さらに、

各州においてはこれを上回る補償基準を設定する権利が認められており、カリフォルニア

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