(田辺 晋)
6. 1 研究史及び概要
野田図幅地域における沖積層は,中川流系の中川低地 と利根川流系の低地,下総台地と大宮台地,猿島台地を 開析する小規模な谷底低地に分布しており,中川低地の 沖積層については,その分布や層序に関する研究が 1960年代から行われている(第6. 1 表).
このうち,森川(1962)は,既存のボーリング柱状図 資料を用いて,埼玉県春日部市から三郷市まで分布する 沖積層の層厚分布を初めて明らかにし,沖積層の層厚が 最大 40 mの開析谷が春日部市から三郷市にかけて幅 2
~7 kmで分布していることを明らかにした.ここで,
沖積層は下位より,下部砂層と下部粘土層,上部砂層,
上部粘土層に区分された.その後,Matsuda (1974)は,
既存のボーリング柱状図資料の解析から,春日部市から 三郷市まで分布する沖積層の分布と層序を明らかにし た.Matsuda (1974) の 沖 積 層 の 基 盤 地 形 図 は, 森 川
(1962)による春日部市から三郷市にかけた開析谷に加 えて,綾瀬川流系の開析谷や江戸川沿いの小規模な開析 谷を示したことを特徴とする.Matsuda (1974)による 中川低地の沖積層の層序は下位より,基底礫層(T4G)
と 下 部 砂 泥 層(LS, LC), 中 間 砂 層(MS), 上 部 泥 層
(UC),上部砂層(US),最上部陸成層(UA)に区分さ れ,MSの基底の浸食面は新ドリアス期の海水準低下,
MSはその直後の海水準上昇に伴って形成されたとされ
る.これに対して,遠藤ほか(1988)は中川低地に利根 川流系の低地を加えた野田図幅の全地域における沖積層 の層厚分布を明らかにした.既存のボーリング柱状図資 料の解析による,その開析谷形状は,森川(1962)や
Matsuda (1974)のものと比べ,春日部市から三郷市に
かけた標高-40 mの開析谷の幅が約 4 kmと一定で広い ことを特徴とする.遠藤ほか(1983)は中川低地におけ る沖積層を八潮層とそれに新ドリアス期に形成された完 新世基底礫層(HBG)を介して不整合に累重する谷塚 層に区分した.八潮層と谷塚層は,それぞれ東京低地に おける七号地層と有楽町層に対比される.
以上のように,中川低地における沖積層の分布と層序 は,長らく,既存のボーリング柱状図資料の解析による ものが多かったが,近年,中西ほか(2011a, b)と田辺 ほか(2010)は層序ボーリングコアの堆積相解析と多数 の放射性炭素年代値に基づいて,中川低地における沖積 層を下位より,網状河川と蛇行河川,エスチュアリー,
デルタの各システムに区分している.ここで,それぞれ の堆積システムは,不整合関係ではなく,後氷期の海水 準の上昇と安定に伴う一連のシーケンスを形成してい る.更に,中西ほか(2007)や田辺ほか(2008)は,層 序ボーリングコアと既存のボーリング柱状図資料を対比 し,中川低地における沖積層の詳細な基盤地形を明らか にしている.ここで沖積層の基底は,開析谷軸部におい ては,既存のボーリング柱状図資料が礫層を貫入してい
森川(1962) Matsuda(1974) 遠藤ほか(1983) 中西ほか(2011a, b) 本図幅
下部砂層 下部粘土層
上部砂層 上部粘土層
基底礫層 下部砂泥層
中間砂層 上部泥層 上部砂層 最上部陸成層
八潮層
(七号地層)
谷塚層
(有楽町層)
(HBG)
(BG) 網状河川
システム 蛇行河川システム エスチュアリー
システム システムデルタ
A ユニット B ユニット C ユニット D ユニット下部 D ユニット上部 田辺ほか(2010)
波線は不整合
るものが少ないことから,網状河川システムの礫層の上 面深度を採用している.本図幅における沖積層の層序区 分は,石原ほか(2004)と中西ほか(2011a, b),田辺ほ か(2010)の層序ボーリングコアを参考に岩相と堆積環 境を重視した.沖積層は下位より,砂礫層から構成され 網状河川システムに対応するAユニット,河成の砂泥 互層から構成され蛇行河川システムに対応するBユニ ット,主に海成の泥層から構成されエスチュアリーシス テムとデルタシステムのプロデルタ~デルタフロント堆 積物に対応するCユニット,河成の砂層と地表面の主 に泥層から構成されデルタシステムのデルタプレーン堆 積物に対応するDユニットに区分される(第6. 1 表). なお,Dユニットは現世の河川チャネル堆積物に対応す る下部と地表面の堆積物に対応する上部に細分される.
また,沖積層の基底深度分布は中西ほか(2007)と田辺 ほか(2008)に基づき,開析谷の軸部においては網状河 川システムの上面深度を採用した.本章では,中川低地 におけるA~Dの各ユニットについて記載したあと に,利根川流系の低地と谷底低地における沖積層につい て記載する.なお,本図幅で用いた層序ボーリングコア の位置情報は第6. 2 表,堆積柱状図は第6. 1 図,放射性 炭素年代値は第6. 3 表に記す.中川低地のN値断面図
は第6. 2 図に示す.
6. 2 中川低地の沖積層
6. 2. 1 A ユニット(A)
層相 本ユニットは礫または基質支持の礫層もしくは礫 質砂層から構成され,その泥分含有率はほぼ0 %である.
N 値 本ユニットのN値は50以上である.
産出化石 本ユニットから貝殻や植物片は産出しない.
堆積年代 GS-SK-1 において本ユニットの下位の下総 層群から 48,400 BPよりも古い年代値,GS-MHI-1 にお いて本ユニットの上位のBユニットから 12,600 cal BP よりも新しい年代値が得られていることから,MIS 3 か ら最終氷期最盛期にかけて堆積したと考えられる.
本図幅地域における層序関係 本ユニットは沖積層の基 盤 で あ る 下 総 層 群 に 不 整 合 に 累 重 す る( 遠 藤 ほ か,
1983;石原ほか,2004).
層序ボーリング地点における分布
GS-SMB-1:標高-36.2 ~-36.9 m(深度 39.3 ~ 40.0 m)
GS-SK-1:標高-45.2 ~-48.1 m(深度 48.9~51.8 m)
GS-MHI-1:標高-46.6~-49.9 m(深度50.0~53.3 m)
GS-KBH-1:標高-36.9~-42.9 m(深度 42.3 ~ 48.3 m)
分布 本ユニットは中川流系では標高-37~-55 mにお いて開析谷の軸部に厚く,広く分布する.また,綾瀬川 流系では標高-36~-37 mにおいて開析谷の軸部に薄 く,局所的に分布する.
対 比 本 ユ ニ ッ ト は, 森 川(1962) の 下 部 砂 層 と
Matsuda (1974)と遠藤ほか(1983)の基底礫層に対比
できる.
堆積環境 本ユニットは,礫または基質支持の礫層や礫 質砂層から構成されることから,掃流の影響によって形 成されたと考えられ,均質な層相が開析谷底に広く分布 することから,主に網状河川システムにおいて堆積した と考えられる.
6. 2. 2 B ユニット(B)
層相 本ユニットは層厚が 3 m以下の上方細粒化する 砂層と層厚が 4 m以下の泥層の互層から構成され,そ の泥分含有率は砂層において0~50 %,泥層において 60~ 100 %である.砂層は泥層から逆級化することがあ り,砂層中にはカレントリップル層理が見られる.泥層 中には植物片や植物根が多く見られる.
N 値 本ユニットの砂層はN値 10~50,泥層はN値5
~ 10を有する.
産出化石 植物片や植物根が多く見られる.
堆積年代 GS-MHI-1 における本ユニットの基底部から 12,600 cal BP,GS-KBH-1 におけるCユニットの基底部
から9,300 cal BPの放射性炭素年代値が得られているこ
とから,9,300~ 12,600 cal BPにかけて堆積したと考え られる.
本図幅地域における層序関係 本ユニットはAユニッ トに明瞭な境界面を介して接する.
層序ボーリング地点における分布
GS-SK-1:標高-31.6~-45.2 m(深度 35.3 ~ 48.9 m)
GS-MHI-1:標高-36.4 ~-46.6 m(深度 39.8 ~50.0 m)
GS-KS-1:標高-29.5~-47.8 m(深度 34.8 ~53.1 m)
ボーリングコア 緯度 (N) 経度 (E) 標高 (m) 掘削長 (m) 引用
GS-SMB-1 35˚50΄45.6˝ 139˚47΄16.8˝ 3.08 41.00 本図幅
GS-SK-1 35˚51΄32.7˝ 139˚50΄06.9˝ 3.73 60.00 石原ほか(2004)
GS-MHI-1 35˚51΄42.6˝ 139˚51΄05.6˝ 3.41 55.00 中西ほか(2011a)
GS-MUS-1 35˚51΄51.3˝ 139˚51΄49.8˝ 2.42 42.00 田辺ほか(2010)
GS-KS-1 35˚55΄55.8˝ 139˚48΄20.1˝ 5.34 57.00 中西ほか(2005)
GS-KBH-1 35˚57΄05.7˝ 139˚46΄25.6˝ 5.36 50.00 中西ほか(2011b)
第6. 2 表 野田図幅地域における沖積層層序ボーリングの地点情報
― 46 ― GS-KBH-1:標高-28.5~-36.9 m(深度 33.9~ 42.3 m)
分布 本ユニットは中川流系では開析谷軸部の標高-29
~-48 mに広く分布する.既存のボーリング柱状図資料
を用いた地質断面図では,泥層の分布が卓越することか ら,砂層は泥層中にレンズ状に分布すると考えられる
(田辺ほか,2010).
対 比 本 ユ ニ ッ ト は, 森 川(1962) の 下 部 砂 層,
Matsuda (1974)の下部砂泥層,遠藤ほか(1983)の八
潮層に対比できる.
堆積環境 本ユニットからは貝殻や生痕化石が産出せ ず,植物片や植物根が卓越することから,陸成の環境で 堆積したと考えられる.また,逆級化構造は自然堤防帯 の氾濫原洪水堆積物の示相堆積構造とされる(増田・伊 勢屋,1985).また,上方細粒化するチャネル砂層が氾
濫原泥層中にレンズ状に分布すると考えられることか ら,本ユニットは主に蛇行河川システムにおいて形成さ れたと考えられる.
6. 2. 3 C ユニット(C)
層相 本ユニットは主に泥分含有率が50 %以上の泥層 から構成され,局所的に泥分含有率50 %以下の砂層や マガキの密集層が挟在する.泥層中にはリズミカルな葉 理やカレントリップル層理,砂層中には2方向流を示す カレントリップル層理が見られる.本ユニットからは多 くの貝殻や生痕化石が産出する.
N 値 本ユニットの泥層はN値0~5,砂層はN値5~ 20を有する.
産出化石 本ユニットからは多くの貝殻や生痕化石が産
生痕
カレントリップル葉理・層理 平行葉理・層理 レンズ状葉理・層理 斜交葉理・層理
植物根 植物片・木片 泥炭質層
貝・貝殻 逆級化 IG
中礫 細礫 マッドクラスト コンボリューション 盛土
リズミカルな葉理 RL
生物擾乱 部層境界 不整合
堆積年代 (cal. ka BP) 12.4
2方向流を示すカレントリップル葉理・層理
凡例
7.2
8.4
GS-SMB-1 標高 : 3.08 m
中礫細礫極粗粒砂粗粒砂中粒砂細粒砂極細粒砂シルト粘土
0
5
10
15
20
25
30
35
40 41
IG RL RL RL RL RL
10.3 9.1 8.8 8.5 8.2 7.9 7.5 6.9 5.8 5.6 5.2 1.1
0 20 40 60 80 100
泥分含有率 (%)
堆積柱状図 層序区分
Aユニット
Cユニット
Dユニット 下部
下総層群
カキ密集層 Dユニット
上部
第6. 1 図 野田図幅地域における沖積層層序ボーリングの堆積柱状図(その 1)