1 決算審査意見書とは
本章では、全国の都道府県監査委員が公表している決算審査意見書1)を素材に監査委員 の監査または決算審査の内容とそのあるべき姿を考察することを目的としている。考察対 象として平成21年度決算に関して各都道府県の監査委員が公表している決算審査意見書を 収集・調査し、分析を行う。加えて、民間企業の監査意見報告書との相違点を明らかにし、
監査論の視点から検討することによって監査委員がどのような監査または審査を意図し、
実施しているかを考察する。
(1)地方自治法の規定
地方自治法(以下、「自治法」とする。)では、「会計管理者は、毎会計年度、政令の 定めるところにより、決算を調製し、出納の閉鎖後3箇月以内に証書類その他政令で定め る書類とあわせて、普通地方公共団体の長に提出しなければならない」(自治法233条1項)
とし、同条5項は「決算を議会の認定に付するに当たっては、当該決算に係る会計年度に おける主要な施策の成果を説明する書類その他政令で定める書類を併せて提出しなければ ならない」としている。これを受けて同法施行令では、「決算は、歳入歳出予算について これを調製しなければならない」(同法施行令166条1項)とし、「政令で定める書類」と して、「歳入歳出決算事項別明細書、実質収支に関する調書及び財産に関する調書」を掲 げている(同条2項)。また、「決算の調製の様式及び前項に規定する書類の様式は、総 務省令で定める様式を基準としなければならない」(同条3項)としている。
これらの書類を作成した後に、首長は、決算および自治法233条1項の定める書類を監査 委員の審査に付さなければならない(同条2項)。監査委員の審査結果は、「決算審査意 見書」という文書としてとりまとめられ、次の通常予算を議する会議までに議会の認定を 受ける(同条3項)。また、決算審査意見の決定は、監査委員の合議で決するとされてい る(同条4項)。
監査委員が決算書を審査し、決算審査意見書を議会に提出するという制度は、憲法83条 の定める財政民主主義の趣旨を地方公共団体の財政に及ぼしたものである2)。監査委員の 意見を踏まえて決算の認定を行うことで、行政の説明責任(アカウンタビリティ)に資する。
すなわち、歳入については予算のとおりに財源が確保されているか、歳出については関連 法規や議会の議決を遵守しているかなどの点について慎重に審議し、決算認定を行うこと
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がこの制度の趣旨であるとされている3)。このように決算審査に関する自治法の規定は簡 潔な規定しかないことから、その実施方法は監査委員の裁量に委ねられている。ただ、地 方公共団体への発生主義会計導入に関する議論では、決算審査に関する監査委員の審査の あり方や監査結果の法的効果については論点が多いという指摘がある4)。
さらに決算の内容および手続に関してどこまで政令または条例にゆだねることができる かという地方自治法の解釈上の論点もある。地方公共団体の財政は国家財政と地方交付税 や諸税法と緊密な連携を持っていること、住民から見た他の地方公共団体との比較可能性 を担保する必要があるとの見地から、決算の内容および手続は、原則として法律事項であ るとする見解が有力である5)。
(2)決算審査実務の現状
地方公共団体の会計年度は例年3月31日までとされ、その後の2か月間を最終的な会計 事務処理期間としていわゆる出納整理期間の運用がなされている。そのため監査委員事務 局では、例年6月頃から決算審査の業務が始まり、7月から8月にかけて出納部門、財政 部門および財産管理部門6)から各種資料を収集し担当者への質問などを実施し、決算審査 を進め、9月中旬をめどに監査委員の数次の協議を経て審査意見がとりまとめられる7)。 通常は、監査委員事務局の職員が、定期監査(自治法199条1項、4項)と並行して決算審 査の情報収集および分析を行っている8)。ほとんどの地方公共団体において財務会計デー タの処理は、財務会計システムなどと呼ばれる情報システムを通じてなされ、決算書の作 成も同システムを活用してほとんどの処理が自動化されている9)。そのために決算書の作 成自体は以前ほど職員の手間や時間を必要としないようになっている。しかし、決算審査 は、地方公共団体が総務省に対して提出する決算統計と呼ばれている約60頁に及ぶ「地方 財政統計調査」を基礎資料とされることが多い。その作業には、おおむね1箇月の期間が かかる10)。
地方公共団体の監査委員事務局における実務では、決算書の完成後に監査委員事務局の 職員が、決算統計などの関連資料を収集し、それらの資料間の比較などの分析的手続によ り短期間で審査を実施しているのが現状となっている。最近では、これらの決算審査業務 に加えて、監査委員の業務には財政健全化比率の審査も加わっており、例年8月になると、
地方公共団体の財政および監査の担当者は短期間に集中して業務をこなす必要がある11)。 こうした決算審査を踏まえて、議会では、11月中旬に決算特別委員会にて審議がなされ、
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その後、12月に開催される各地方公共団体の議会における本会議において決算認定議案の 採決がなされる。
2 地方公共団体における決算審査意見書の比較
(1)形式面からの分析
① 全般的状況
都道府県の監査委員が公表している決算審査を分析するために、各都道府県監査委員が、
それぞれの監査委員事務局のホームページで公表している平成21年度決算に係る決算審査 意見書を収集し分析を行った。全国の監査委員事務局が公表する資料は、全体で2,745頁に 及ぶ大量なものとなった。全国の都道府県の決算審査意見書の記載内容について審査内容 の概要、収入支出の表示、特別会計および財産の表示ならびに決算分析という4つの視点 から比較を行った。
まず決算審査意見書のページ数、表数などの形式面を概観する。都道府県の決算審査意 見書のページ数などの形式は、図表 4-1のとおりである。多くの決算審査意見書はA4 縦の形式で作成され、平均すると58.4頁、掲載された表の数は平均して82.96となっていた。
ただ、石川県の12頁から東京都の148頁までかなりの相違が確認された。
図表 4-1 形式における各都道府県の決算審査意見書の比較
都道府県名 向き ページ数※1
表数 グラフ数 表示金額 の単位
決算書外の 情報量※2 偏差値 順位
北海道 縦 76 56.7 6 77 0 円単位 ★
青森県 縦 51 47.2 32 77 0 円単位 ★★
岩手県 縦 28 38.4 42 22 0 円単位 ★
宮城県 横 42 43.7 35 24 0 円単位 ★★
秋田県 縦 68 53.7 12 117 7 円単位 ★★
山形県 縦 52 47.5 30 71 0 千円単位 ★★
福島県 横 60 50.6 21 73 0 円単位 ★★
茨城県 縦 61 51.0 20 97 5 千円単位 ★★
栃木県 縦 56 49.1 25 95 0 円単位 ★★
群馬県 縦 53 47.9 28 133 0 円単位 ★★
埼玉県 縦 22 36.1 46 16 4 円単位 ★★★
千葉県 縦 42 43.7 35 109 0 円単位 ★★
東京都 縦 148 84.3 1 265 0 千円単位 ★★
神奈川県 縦 67 53.3 13 79 5 円単位 ★★★
新潟県 縦 27 38.0 43 30 0 円単位 ★★
富山県 縦 55 48.7 26 71 0 円単位 ★
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都道府県名 向き ページ数※1
表数 グラフ数 表示金額 の単位
決算書外の 情報量※2 偏差値 順位
石川県 縦 13 32.6 47 2 0 円単位 ★
福井県 縦 71 54.8 9 88 7 円単位 ★★
山梨県 縦 69 54.1 10 84 16 円単位 ★★
長野県 縦 101 66.3 4 185 6 円単位 ★★★
岐阜県 横 92 62.9 5 131 10 円単位 ★
静岡県 縦 65 52.5 16 96 13 円単位 ★★★
愛知県 縦 112 70.5 3 163 0 円単位 ★
三重県 縦 124 75.1 2 228 6 円単位 ★★★
滋賀県 縦 53 47.9 28 61 9 円単位 ★★
京都府 縦 49 46.4 33 67 0 円単位 ★★
大阪府 縦 67 53.3 13 52 4 百万円 ★★★
兵庫県 縦 75 56.4 7 89 16 円単位 ★★
奈良県 縦 43 44.1 34 68 11 円単位 ★★
和歌山県 縦 62 51.4 19 119 6 円単位 ★★
鳥取県 縦 32 39.9 32 17 1 円単位 ★
島根県 縦 31 39.5 41 12 12 円単位 ★
岡山県 縦 63 51.8 18 80 9 円単位 ★★
広島県 縦 36 41.4 38 33 12 円単位 ★★★
山口県 縦 32 39.9 39 36 7 円単位 ★★
徳島県 縦 69 54.1 10 149 0 円単位 ★
香川県 縦 73 55.6 8 106 19 円単位 ★★★
愛媛県 横 59 50.2 23 68 0 円単位 ★
高知県 縦 26 37.6 44 15 6 円単位 ★★
福岡県 横 55 48.7 26 36 0 円単位 ★★
佐賀県 縦 60 50.6 21 96 10 円単位 ★★★
長崎県 縦 24 36.8 45 18 8 円単位 ★★
熊本県 縦 39 42.6 37 73 0 円単位 ★
大分県 縦 67 53.3 13 115 37 円単位 ★★★
宮崎県 縦 52 47.5 30 72 0 円単位 ★
鹿児島県 縦 58 49.8 24 81 0 円単位 ★★
沖縄県 縦 65 52.5 16 103 0 円単位 ★★
合計 2745 3899 246
平均 58.40 82.96 5.23
出所)筆者作成。
※1 ページ数は、別表、参考資料、白紙の頁を除外している。
※2 決算書外の情報量は、平均的な分量を★★として、多いものを★★★、少ないものを★とした。
ページ数別の全国の分布状況は、図表 4-2のとおりとなっており、地方公共団体によ って決算審査意見書の分量にばらつきがみられた。
また、図表4-3のとおり、グラフや図表を多用した表現をしている都道府県も多い。
監査委員が決算審査意見書の読者として住民を意識していることが推測でき、各地方公共 団体の決算や財務内容に関する詳細な情報を住民に伝達しようとする意図を読み取ること
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ができる12)。
出所)筆者作成。
図表 4-2 決算審査意見書のページ数別分布
1
5 5
4
12 11
4
0 1
4
0 5 10 15
0~20 21~30 31~40 41~50 51~60 61~70 71~80 81~90 91~100 101~ 都
道 府 県 数
ページ数
図表 4-3 図表を多用した決算審査意見書の例(奈良県)
出所)奈良県歳入歳出決算審査意見書(平成21年度)