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水環境・水資源

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3 日本における気候変動による影響及び評価結果

3.2 水環境・水資源

水環境・水資源分野における気候変動による影響の概略は、図 3-3 に示すとおりである。

【水環境分野】

気候変動による気温の上昇は、湖沼やダム貯水池、河川、沿岸域や閉鎖性海域の水温を上昇さ せ、水質にも影響を及ぼす恐れがある。また、気候変動による降水パターンの変化は、ダム貯水 池や河川への土砂流入量を増加させ、沿岸域や閉鎖性海域では、河川からの濁質の流入増加も懸 念される。

【水資源分野】

気候変動による降水パターンの変化は、無降水日数の増加等や積雪量の減少、蒸発散量の増加 による河川流量の減少や地下水位の低下を引き起こす。気温の上昇により、農業用水・都市用水 等の水需要量や、人々の水使用量は増加することが想定されるが、冬季の降雨事象の増加ととも に積雪量が減少することや融雪時期の早期化などにより、需要期に水を供給することができない 可能性も懸念される。また、海面水位の上昇は、河川河口部や地下水において塩水遡上範囲を拡 大させ、塩水化を引き起こす。

これらの影響は、農業生産基盤や自然生態系、国民生活等の他分野にも影響を及ぼす。

農業・林業・水産業分野 自然災害・沿岸域分野

国民生活・都市生活分野 自然生態系分野

水温上昇 気温上昇

降水量・降水パターンの変化

積雪量の 減少 融雪

の早期化 極端な

気象現象 (少雨)の発生

渇水の 深刻化 ダム貯水量・

河川流量の 減少、地下 水位の低下

ダム貯水池 等における 鉛直循環 の抑制

栄養塩類 の溶出 極端な気象現象

(短時間集中強雨) の発生頻度の増加

土砂流出 増加

河川の濁度 上昇等の 水質悪化

塩水の 地下水位

上昇 海面水位の上昇

地下水の 塩水化 蒸発散量

の増加

農業用水・

都市用水等 の需要増加

植物 プランクトン・

藻類等の増殖

土壌有機物 の生分解

の向上 日射量 の変化

淡水生態系 冷水魚類の生息適域、

水生植物の初期成長への悪影響等 沿岸生態系

高温性の種への移行等 河川大雨事象の増加や洪水ピーク流量の

増加等 山地

土砂災害の増加(頻度、規模)、地 域や形態の変化等

都市インフラ、ライフライン等 濁水や高潮の影響による取水制限・

断水の発生、河川の微細浮遊土砂 の増加による飲料水供給への影響等

水需要時期変化・

需給バランスの変化

農業-農業生産基盤 農業用水の不足、

農業水利施設の稼働への影響等 維持流量

の不足・

瀬枯れ

塩水の

河川遡上 水中の有機物

濃度の増加 合流式

下水道 越流水の 頻度の増加

湖沼・

ダム貯水池等 の水質悪化 河川、沿岸域・閉鎖性海域

の水質の変化

図 3-3 気候変動により想定される影響の概略図(水環境・水資源分野)35

35 本図は、本報告書において引用された科学的知見の中から、国内において想定される水環境・水資源分野の代表的な影響を 選定し、想定される気候・自然的要素(外力)との関係や他分野への影響を概略的に図化したものである。したがって、各分 野の影響や項目間の関係性を完全に網羅しているわけではないことに留意が必要である。図の「気候・自然的要素」(上段)

は、気候変動の直接的な影響(濃い灰色部分)と、そのほか水環境・水資源分野に直接的な影響を及ぼす外力(薄い灰色部 分)の2段に分けている。図が複雑になりすぎるのを避けるため、気候変動の直接的な影響(濃い灰色部分)のボックス間の 因果関係は表示していない。

文献数・構成等の変化

今回の影響評価において、水環境・水資源分野全体では、複数分野で引用している文献を除い て合計 88 件の文献(現状影響 39 件、将来影響 48 件、両方 1 件)を引用しており、このうち、前 回の影響評価から新たに追加された文献は 73 件である。小項目別に見ると、「水環境(湖沼・ダ ム湖)」、「水環境(河川)」や「水資源(地表水)」、「水資源(水供給(地下水))」において文献数 が特に増加している。なお、前回の影響評価からの構成上の変更はない。

気候変動による影響の概要 現在の状況

水環境分野では、全国の湖沼の

265

観測点のうち、夏季は

76%

、冬季は

94%

で水温の上昇傾向 にある等、既に全国の公共用水域(湖沼・河川・海域)における水温の上昇、それに伴う水質の変 化、一部の湧水起源の池の湧水水温の上昇等の影響が生じていることが新たに明らかとなった。

水資源分野では、無降雨・少雨等に伴う渇水による給水制限の実施、冬季の融雪の増加による春 先の灌漑用水の不足、農業用水・都市用水の需要の増加等の影響が発生したことが報告されてい る。新たに報告されている影響として、臨海部における帯水層への海水の侵入や小規模な島の淡 水レンズの縮小などが挙げられる。

将来予測される影響

水環境分野では、富栄養湖に分類されるダムの増加等の影響が予測されている。水資源分野で は、無降水日数の増加等による渇水の深刻化、冬季の降雪が降雨に変わることによる河川流量の 増加、春季の融雪量の減少による河川流量の減少、融雪時期の早期化による需要期の河川流量の 減少、地下水の低下等による農業用水の需要と供給のミスマッチ、海面水位の上昇に伴う塩水遡 上距離の増大や、それに起因する河川水の利用への影響渇水リスク・洪水リスクの二極化の進行、

大雨や融雪による地下水供給の増加による地すべり等の斜面災害の発生等が予測されている。

重大性・緊急性・確信度評価の概要

水環境・水資源分野では、影響の程度や範囲が限定的と判断されることから、影響の重大性は

「影響が認められる」と評価される傾向にある。

しかしながら、今回収集された文献に基づき、「水環境(河川)」については、現在既に生じて いる影響が確認されたこと等から、緊急性評価が上方修正となった。また、「水環境(沿岸域及び 閉鎖性海域)」、「水資源(水供給(地下水))」の 2 つの小項目については、限定的であるものの気 候予測モデルを用いた定量的な予測が行われていたため、確信度が上方修正された。

【水環境】

(1) 湖沼・ダム湖

(気候変動による影響の要因)

ここでは、主に気候変動に伴う湖沼・ダム貯水池の水温の変化及び、水温上昇や降水条件の変 化に伴う水質の変化を扱う。また、水質の変化に伴う人の健康被害は健康分野の「水系・食品媒 介性感染症」で、自然生態系への影響は自然生態系分野で取り扱う。

気候変動による気温の上昇は、湖沼等の水温を上昇させる。

ダム貯水池等の水温の上昇は、植物プランクトンの発生確率の増大、土壌有機物の生分解の 向上による水中の有機物濃度の増加などを通じて、カビ臭原因物質や消毒副生成物前駆物質 の増加など水質を悪化させる可能性がある。また、冬季の水温上昇に伴い、冬季循環が抑制 されて下層の DO36(溶存酸素)低下を招き、底泥からの栄養塩類の溶出を引き起こす可能性 がある。

気候変動による大雨事象の頻度の増加により、ダム貯水池への土砂流入量の増加に伴う SS(浮 遊物質)濃度の上昇が想定される。

(現在の状況)

〔概 要〕

全国の湖沼における 1981~2007 年度の水温変化を調べたところ、265 観測点のうち、夏季 は 76%、冬季は 94%で水温の上昇傾向が確認されている。

また、水温の上昇に伴う水質の変化が指摘されているが、水温の変化は、現時点において 必ずしも気候変動の影響と断定できるわけではないとの研究報告もある。

一方で、年平均気温が 10℃を超えるとアオコの発生確率が高くなる傾向を示す報告もあ り、長期的な解析が今後必要である。

全国の湖沼における 1981~2007 年度の水温変化を調べたところ、265 観測点のうち、夏季は 76%、

冬季は 94%で水温の上昇傾向が確認されている。211025)

その一方で、全国の 20 ダム貯水池においては、気温、水温(表層水温、底層水温)、富栄養化 関連項目(Chl-a 濃度、総リン濃度、総窒素濃度)について、個々では上昇や低下の傾向はみられ るものの、共通して水温の上昇や富栄養化が進んでいるというような一定の長期的変動の傾向は みられなかったことも報告されている211002)

また、ダム貯水池の表層と底層で水温を比較している研究もある。1993~2006 年の水温につい て、全国 9 つのダム貯水池(桂沢、釜房、五十里、岩屋、一庫、土師、早明浦、松原、安波)を調 べたところ、最表層水温には気温上昇が要因と思われる水温上昇が全てのダム貯水池で認められ た。最下層水温に関しては、堆砂による湖底上昇、冬季鉛直循環の弱まり、水温躍層37の強まりな どの影響により、上昇傾向を示すダム貯水池と下降傾向のダム貯水池の両方が存在していた。211003) 池田湖(鹿児島県)では、1976~2005 年の 30 年間で気温が約 1.5℃上昇したことにより、湖の 各層ごとの水温もわずかずつではあるが上昇傾向にあり、特に水深 15m 付近での水温の上昇が他 の層よりも顕著であることが示されている。また、気温の上昇に伴って、鉛直混合の規模が縮小 することも指摘されている。211004)

36 水中に溶けている酸素の量。

37 表面付近の暖められた水と、その下層の冷たい水の間に形成される水温が急激に変化する層のこと。水温躍層 が形成されると、鉛直混合が妨げられ貯水池全体の循環が抑制され、富栄養化を促進させる要因の一つとなる。

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