現在、超音波によるDDSでは吸収改善技術として気泡のソノポレーションが考えられて いる。気泡のソノポレーションとは高圧超音波などにより気泡を破壊したときの衝撃で発 生するマイクロジェット流で細胞表面に微小な穴を形成し、薬剤の効果を高めようという ものである。
本研究では、捕捉した多数の気泡群の破壊(気泡クラウドキャビテーション)における 気泡運動のダイナミクスの観察を行い、微小窪み形成との関わりについて検証した。
6-1.実験プロトコル
<ソノポレーション実験手順>
1. 流路内微小気泡(レボビスト)を導入する
レボビスト水溶液濃度: 0.06g/5.5ml この濃度を基準とした。
平均流速: 1.1mm/s
2. ポンピング超音波を照射し、流路壁面へ気泡をプリトラッピングする。
付着気泡を静止画撮影し、記録する。
撮影機器:Canon EOS7D
3. 流路内に脱気水を導入し、浮遊する微小気泡を除去する 4. 付着気泡をキャビテーションさせる。
高音圧超音波を照射し、キャビテーションを起こす。
同時に、この様子をカメラにより撮影し、記録する。
5. 流路面に形成された微小窪みの観察
観測ツール:共焦点レーザー顕微鏡OLYMPUS社LEXT-4000 観測領域(ROI):128m*528m
<レボビスト水溶液の作成手順>
1.容器に水5.5ml、レボビスト粉末0.06gを加える。
2.容器に蓋をし、約20秒間振る 3.1分間放置する
水溶液中のレボビストの寿命は約 1 時間であるが、超音波に対する反応の劣化および微 小気泡の体積減少を考慮し、また作成後すぐは気泡粒径が安定せず、トラッピングおよび 気泡のキャビテーションに影響を与える恐れがある。
そこで、全実験において、作成1分後に実験を行った。
<生体模擬血管ファントム使用時の留意点>
1.作成後、エポキシ系接着剤がある程度凝固するまで約30分安置する。
Fig.6-1レボビスト水溶液作成手順
1分以上待つ
6-2.超音波周波数による気泡クラウドキャビテーション
6-2-1.高周波数条件によるキャビテーション制御
本研究では、超音波周波数の条件として基準実験、高周波数実験、低周波数実験の3条 件について比較した。
その条件をTable.6-1に示す。また、各条件の振動子配置をFig.6-2に示す。
Table.6-1 周波数実験条件
Fig.6-2 振動子配置
高周波数条件におけるトラッピング実験の結果についてFig.6-3、Fig.6-4に示す。
Fig.6-3 トラッピング気泡の分布
Fig.6-4 各条件におけるトラッピング気泡の質
Fig.6-3、Fig.6-4 から、2.5MHz では気泡クラウドが大きく成長したものが多く存在し、
2μm以上の気泡が半数近く占めていることがわかる。それに対し7.5MHzでは、1~2μm の気泡が半数以上を占めており、3μm以上の気泡はほとんど付着していないことが分かる。
総気泡数に関しては7.5MHzが2.5MHzの約3倍となっているが、総気泡面積では大きな 差は見られなかった。この結果から 7.5MHz では等価半径の小さな気泡が数多く付着する ということがわかった。
また、気泡間隔については 7.5MHz のほうが狭く、気泡の分布が全体的に均一になってい る。
次に、キャビテーション実験を行った際に撮影された気泡の軌跡と、形成された微小窪 みの位置関係をFig.6-5に示す。また、その一部について切り出した画像をFig.6-6に示す。
Fig.6-7には形成された微小窪みの統計を示す。
Fig.6-5 気泡クラウドの軌跡と微小窪みの位置関係
Fig.6-6 気泡クラウドの軌跡と微小窪みの位置関係
Fig.6-7 形成された微小窪みの質
Fig.6-5、Fig.6-6から2.5MHzでは気泡の集合の軌跡が見られているが、7.5MHzでは殆
ど見られないことがわかる。これは、7.5MHzは気泡の共振周波数である2.5MHzからず れてしまっているためSecondary Bjerknes力が弱くなるためであると考えられる。
7.5MHzでは気泡直下にのみ微小穴が形成されていることが画像からわかるが、これは上記
のように気泡が移動しないためであると考えられる。Fig.6-7から7.5MHzで形成される微 小窪みの総個数や総面積が2.5MHzに比べ少なくなっているが、これも気泡集合の際に移 動しながら形成される微小窪みが存在しないためであると考えられる。
6-2-2.低周波数条件によるキャビテーション制御
Table.6-2 周波数実験条件
低周波数条件におけるキャビテーション実験の結果についてFig.6-8に示す。
トラッピング画像とバースト後画像を比較してみると、バースト後では元々存在した付 着気泡よりも小さな気泡クラウドが数多く分布していることがわかる。この画像から、
1.0MHzの超音波には気泡を分裂させる能力があるのではないかと推察した。
バースト中画像を見てみると、印をつけた位置において二重に見える気泡の軌跡が見ら れた。この軌跡の直径の大きさから、これは1.0MHzの超音波によって成長した気泡であ ると推察される。この確証を得るため、露光条件を制限した実験を行った(Fig.6-9)。光源 を4方向から照射した場合には観察されていた二重に見える気泡の軌跡が、1方向からの露 光では観察されなかった。この結果から、二重に見える軌跡はひとつの大きな単気泡であ り、4方向から露光することにより気泡の両端が光を反射するため二重に見えているのだと 推察した。
Fig.6-8 低周波数条件におけるキャビテーション実験
Fig.6-9 露光制限実験
次に、キャビテーション実験を行った際に撮影された気泡の軌跡と、形成された微小窪 みの位置関係をFig.6-10に示す。また、その一部について切り出した画像をFig.6-11に示 す。Fig.6-12には超音波照射前後の気泡の統計、Fig.6-13には形成された微小窪みの統計 を示す。
Fig.6-10、Fig6-11から、1.0MHzでは気泡の軌跡が太く濃く、気泡の移動が顕著である
ことがわかる。また、気泡分裂が起こり移動方向に細かい気泡が生成されている。Fig.6-12 を見ると、総気泡数が約2倍ほどに増加していることがわかる。気泡の等価半径に着目し てみると、等価半径が2μm以下の気泡数が約3倍に増加していることがわかる。この結 果から、1.0MHz超音波には気泡を分割する能力があることが明らかとなった。
微小窪み画像を見ると、2.5MHzでは直下に大きな窪みや、軌跡に沿って多くの窪みが形 成されているのに対し、1.0MHzではほとんど窪みが見られない。Fig.6-13を見ると、総面
積は約6分の1、総個数は3分の1程度であることがわかる。形成される微小窪みの総面積
がプリトラッピング無しの場合と同等であることから1.0MHz超音波では微小窪み形成が ほとんど成されていないことが明らかとなった。
Fig.6-10 気泡クラウドの軌跡と微小窪みの位置関係
Fig.6-11 切り出し画像
Fig.6-12 1.0MHzバースト前後の付着気泡
Fig.6-13 形成された微小窪みの質
6-3.低周波数超音波の有効活用
6-3-1.時間差照射による気泡分割利用シーケンス
低周波数実験の結果から、1.0MHzキャビテーションを行うことによって気泡の分割が起こ り細かい気泡が数多く付着することがわかった。そこで1.0MHzキャビテーションによる 気泡分割の後に2.5MHzキャビテーションによる気泡破壊を行うことで等価半径の小さな 微小窪みを多数形成することを目指す手法を考案した。
実験条件をTable.6-3に示す。
また、実験時の振動子の配置、超音波照射シーケンスをFig.6-14、Fig.6-15に示す。
Table.6-3 実験条件
Fig.6-14 振動子配置図
Fig.6-15 超音波照射シーケンス
Fig.6-16に気泡クラウドの軌跡と微小窪みの位置関係を、Fig.6-17に等価半径1.0μm以
上の微小窪みの形成された位置の図を示した。Fig.6-18には形成された微小窪みの質を示 した。
1.0MHz超音波により気泡分裂を行った場合には、一つ一つの気泡クラウドが小さくなっ
ていることがわかる。微小穴の分布に関しては、2.5MHzのみの場合と同様に気泡クラウド 直下と気泡の軌跡に沿うようにして微小窪みが形成されている。Fig.18を見ると、微小窪 みの総個数は変わらずに総面積が増えている事がわかる。等価半径の分布をみてみると、1 μm以上の大きな微小窪みの個数が増加することがわかる。
2.5MHzキャビテーションを行うことによって気泡クラウド直下に大きな窪みが形成され
る傾向があることから、トラッピング気泡を小さくすることが必ずしも微小窪みの大きさ を小さくすることに繋がるわけではないということが明らかになった。
Fig.6-16 気泡クラウドの軌跡と微小窪みの位置関係
Fig.6-17 微小窪みの分布
Fig.6-18 形成された微小窪みの質
6-3-2.同時照射による気泡の移動と破壊
低周波数実験の結果から、1.0MHzキャビテーションでは微小窪みは形成されず、気泡の移 動だけが生じているということがわかった。そこで1.0MHzキャビテーションによる気泡 の移動をさせながら2.5MHzキャビテーションによる気泡破壊を同時に行うことで、気泡 移動をしながら広範囲に等価半径の小さな微小窪みを多数形成することを目指す手法を考 案した。
実験条件をTable.6-4に示す。
また、超音波照射シーケンスをFig.6-19に示す。
Fig.6-4 実験条件