次に紙上建築と地上建築における正方形プランのデザイン分析を行うが正方形プランを「間取り系」と「非 間取り系」の 2 系に大別する。そして正方形の規模として床面積、プランタイプとしてリビングダイニング等 の公室と方位との関係性等を分析する。ただしここでいう面積とは床面積のことではなく中庭等も含めた正方 形外形の大きさを示すものとし、図面中に縮尺率やスケールバーが見られないなど規模が不明な正方形プラン を分析の対象外とする。また縮尺率が不明な平面図においても図面中のグリッド表示、記載されたベッド、畳、
ピアノ、便器、人物、自動車など住宅設備、什器、点景等、設計主旨等の文中に見られる寸法表記によりその 縮尺の概略を推定する。方位に関しても平面図や配置図中の方位記号表記を根拠とするが、それらの表記が無 い場合も立面図等による方位表記、平面図中に見られる「南側テラス」などの名称、設計主旨等の文中に見ら れる方位に関する言及により方位を推定する。以上によりそれぞれの提案に対し正方形プラン分析シートを作 成する(図 2)。
また本節では個々の正方形プランの面積規模を比較分析するため、規模が過大な都市提案(新建築競技 1986)、
集合住宅、複数の正方形を持つ「複数配置型」「複数選択型」をデザイン分析対象外とする。
図 2 正方形プラン分析シート
1) 紙上建築における正方形プランのデザイン分析
第三章第四節により紙上建築における平面表現の年次的減少が確認されているが、1970 年代までの平面図中 にはスケールバーによる縮尺率の記載が多く見られる。以降平面図が掲載される場合においても縮尺率が明記 されず規模が不明の提案が出現し、特に 2000〜2003 年に多数見られる。また縮尺率が数値で明記されていなが らも変倍され新建築に掲載されるケースも見られる。変倍に伴い縮尺率の表記を適正に修正する場合も見られ るが縮尺率不明も多く見られ、提案における平面表現の機能的変化と主催者側における平面図に対する意識の 変化も伺える。
次に紙上建築における正方形プランの面積規模における分析を行う(表 4)。平面規模の確認が可能な入選案 を面積で分類すると多種の類型が幅広い面積規模で提案されており、10 種の面積帯に出現が確認されるが地上 建築に比して正方形の面積が大きくなっていることがわかる(表 4〜6)。面積規模の小さな類型として「間取り 型」があげられ、全 13 案中 10 案が 100 ㎡以下の提案となっており 1980 年代までに集中的に出現している。一 方非間取り系の類型は 22 案見られ 100 ㎡超の提案が 18 案と多数を占めており、この 100 ㎡という面積が間取 り系と非間取り系の分水嶺となっている。
非間取り系の「入れ子型(中庭)」と「入れ子型(空間独立)」において面積規模の大きい提案が見られるが、
特に「入れ子型(中庭)」では 500 ㎡を超える提案が 2 案確認される。また 2009 年の「一室型」(2009-2)は戸 建住宅でありながら 1000 ㎡を超える面積規模となっている。
表 4 新建築コンペ入選案における規模等比較表
また縮尺率と同様に方位表記が確認できない提案も多く見られる。紙上建築において公室の南面配置が重要 視されず方位を重視しない提案も多数見られるが、図面表現が図式的であり室名も表記されないなど公室自体 が判然としない提案も多い。
正方形内部の床仕上げとして 1952 年と 1958 年の新建築懸賞入選案、新建築競技 1981 入選案において畳表現 が確認されるが(図 3 左)、以降床仕上げの畳表現が見られなくなる。これは新建築コンペ入選者の属性とし て海外からの応募者が多いことが要因と推察されるが、国内入選者の提案においても床仕上げとしての畳表現 が減少しており、日本国内の生活様式として畳によらない椅子座の洋式生活が定着したこと、あるいは応募者 の提案要旨、および審査員の評価点として和洋生活の別が埒外となっているとも言える。
次に住宅の外部空間におけるデザイン分析として駐車スペースを分析の対象とする(図 3 右)。駐車場には 外構の一部として駐車スペースを配置する提案と住宅の内部空間に取り込む提案との 2 種があげられるが、平 面図中に駐車場が表記される作品は 78 案中 1 案のみである。また駐車場の設置が設計条件となっているアイデ ア・コンペとして新建築競技 1968「2 世帯のための住居」と新建築競技 1978「向こう三軒両隣りの町屋」注 5)
があげられ、前者は各戸につき 1 台、後者では各戸につき2台、計 12 台の駐車スペースが求められている。他 の競技において要項中に駐車場の要求は見られないが、課題文中における問題提起として交通ネットワークの 変化やモータリゼーションに関する言及が多く見られる。一般財団法人自動車検査登録情報協会の自動車保有 台数推移表注 6)によると国内における乗用車の保有台数は 1966 年には 2,289,665 台であるが 2010 年には 57,902,835 台と約 25 倍に増加している。このような状況にありながらアイデア・コンペの提案者と評価者に とって、駐車場が住宅における建築デザインの要素として扱われなかったことが伺える。
図 3 紙上建築における畳表現および駐車場表現を有する正方形プラン
2) 地上建築における正方形プランのデザイン分析
次に地上建築として新建築と住宅特集掲載作品における正方形プランのデザイン分析を行う。
① 新建築掲載作品について
最初に地上建築として新建築に掲載される正方形プランの面積規模における分析を行う(表 5)。デザイン分 析対象の全 76 作品中 47 作品という多数が 50〜100 ㎡という面積帯に集中しており、更にこれら 47 作品中の 44 作品が「間取り型」となっている。このように新建築掲載作品における正方形プランの半数以上が 50〜100
㎡の「間取り型」となっていることが解る。また 1960 年代から 150 ㎡を超える類型が見られるようになる一方 で 2000 年代の実作において 25 ㎡に満たない狭小住宅作品も見られるようになるが、紙上建築に比して面積帯 の分散傾向が少ない。
また類型と面積規模の関連性として 200 ㎡超の面積規模において「入れ子型(中庭)」が優位であり、1976 年の新建築に掲載される住宅作品(1976SK-9-146)は正方形外形の面積として約 740 ㎡であり新建築掲載作品 中の最大値を示している。これは紙上建築と地上建築の「入れ子型(中庭)」全数における最大の正方形プラン となっている。
その他の類型として「回廊型」は 2 案確認され(1959SK-1-70,1991SK-3-320)、それぞれ 25〜50 ㎡、 50〜
100 ㎡と小規模な類型となっている。「入れ子型(空間接続)」は 2 案存在するが(2005SK-11-144,2010SK-12-141)、
両者とも 2000 年代の出現でありその面積規模は 50〜100 ㎡、150〜200 ㎡である。
表 5 新建築掲載住宅作品における規模等比較表
② 住宅特集掲載作品について
次に住宅特集掲載作品における正方形プランのデザイン分析を行うが、扱う正方形プランは同誌創刊である 1985 年以降のデータであり、前述の新建築における正方形プラン(1947〜2010)と同一期間ではない(表 6)。
最初に面積規模における分析を行うが、前述の新建築掲載作品と同様に 100 ㎡前後に集中しており、デザイ ン分析可能な全 134 作品中 50〜100 ㎡が 61 作品となっている。また新建築掲載作品に比して 25〜50 ㎡未満の 小規模な提案が 36 作品見られる。これらは住宅特集における都市型狭小住宅の掲載数の多さとの対応が考えら れる。一方で新建築掲載作品で 3 作品確認された 25 ㎡以下の極小な提案が見られず、両誌における差異が見ら れるが、この 3 作品は極小空間における実験性が志向されており住宅の特殊解が新建築に掲載された事例であ るといえる。また 100〜150 ㎡の住宅が 25 作品見られ、うち 21 作品が「間取り型」となっている。150 ㎡を超 える作品において「間取り型」が減少し、150 ㎡超の全 12 作品中 10 作品が「入れ子型(中庭)」となっており、
この 150 ㎡が分水嶺となっている。このように 150 ㎡を超える平面外形においては新建築掲載作品同様に「入 れ子型(中庭)」が優位であるが、両者において平屋建てが多くなっている。特に 1994 年の「入れ子型(中庭)」
(1994JT-12-145)は住宅特集掲載作品中において約 450 ㎡と最大値を示している。また新建築掲載作品に比し て多くの類型が見られるが、特に「入れ子型(空間接続)」は 4 作品存在し、その規模は 25〜50 ㎡(2006 年)、
50〜100 ㎡(2005,2007 年)、100〜150 ㎡(2007 年)に確認される。(表 6)
また新建築と新建築住宅特集という二誌に掲載される地上建築の多くに方位記号が確認され、公室の南面配 置が原則となっており採光に配慮した「間取り型」が多数を占めているという共通性が見られる。初期の紙上 建築、特に新建築懸賞において同様に南面採光の間取り型が多く見られるが、生活改善を目的とした LDK の一 体化と南面配置傾向が強く見られることが北川氏らの既往研究注 7)によって明らかになっている。よって地上建 築と初期の紙上建築には公室の南面配置傾向という同一性が認められる。
面積規模に関しては紙上建築において様々な規模の提案が見られるのに対し、住宅特集掲載作品では 25〜
100 ㎡において多数を占めるという不同性が認められる。
以上本節により紙上建築と地上建築における類型の出現時期と規模等における同一性が確認された。また紙 上建築において畳表現および公室の南面配置が重視されず、かつ駐車場を計画しないという意匠面における差 異が確認されるなど、紙上建築と地上建築における同一性と不同性の存在が明らかとなった。