第
4
章では、「欧州での採用事例」「開発効率化のためのさまざまな取り組み」などを紹介します。1
.欧州での採用事例2006
年 、世界で初めてBMW
社がSUV
車「X5
モデル」にFlexRay
を採用して以来、複数の自動車 メーカーが採用しています。ここでは、BMW
社における過去の採用事例をいくつか紹介します。BMW
社X5
−アダプティブドライブ2006
年に発表されたBMW X5
では、アダプティブドライブ(Adaptive Drive
)と呼ばれる電子ダ ンパー制御システムにFlexRay
を採用しました。このアダプティブドライブシステムでは、走行速度やステアリング角度、前後方向の加速度、ホイールの 加速度、車高などの各種データを基に、スタビライザーバーの旋回モータとショックアブソーバーの電磁 バルブを制御します。これにより、走行状況に応じたボディロールとダンピングを制御することができ、
優れた乗り心地と安全性、操作性といった通常、相反するニーズを両立させています。
図38 BMW社「X5モデル」アダプティブドライブ
※Vector FlexRay Symposium 2007、Goals and Architecture of FlexRay at BMWより
図
39
は 、このアダプティブドライブシステムのFlexRay
トポロジーです。中央の制御モジュールECU
とそれらに接続されるダンパーモジュール( サテライトECU
)の計5
ノードから構成されてい ます。個々の車輪の励起を各ダンパーモジュールが制御し 、ピッチとロールが発生した場合は高レベ ルのアルゴリズムを搭載した中央の制御モジュールがシャーシ全体の制御システムと連携して車両自 体をコントロールします。このような統合的な協調制御ではデータ通信量が増加し 、高い応答性が求 められるため 、従来のCAN
では対応が難しく、FlexRay
が必要となりました。図39 アダプティブドライブ FlexRayトポロジー
※Vector FlexRay Symposium 2007、Goals and Architecture of FlexRay at BMWより
参考 BMW 7シリーズモデル(2008年)
※BMW Japan社 Webサイトより
BMW
社7
シリーズ−バックボーンネットワーク2008
年に発表された「BMW 7
シリーズ 」モデルでは 、FlexRay
の採用規模がさらに拡大してい ます。ドライバーアシスタンス、シャーシ、パワートレインなどのECU
と接続し、ノード数は13
です。ト ポロジーはスター型とバス型が混在したハイブリッド型で、CAN
やMOST
( モスト)といった他の通 信規格ネットワークとのゲートウェイも含まれています。通信速度は10Mbit/s
、シングルチャンネル(A
チャンネルのみ)です。
また、
FlexRay
を車両の バックボーン(Backbone
)ネットワーク として活用しています。これは 、 車両上の幹線道路のようなもので、バックボーンネットワークを通してシャーシやパワートレインなど複 数のドメイン間にまたがるデータ処理を行うため 、通信データ量は膨大となり、FlexRay
による高速通 信が必要となりました。これによって、より効率的で洗練された協調制御を実現しています。なお、
2009
年に発表されたAudi
社の「A8
」モデルでも、同様にFlexRay
をバックボーンネットワー クとして採用しています。BMW
社5
シリーズ − インテグラルアクティブステアリング2010
年に発 表され た「BMW 5
シリーズ 」モデルでは 、インテグラルアクティブ ステアリング(
Integral Active Steering
:前 後 輪 統 合 制御ステアリング )と呼ばれるシステムの協調 制御にFlexRay
が使われています。このインテグラルアクティブステアリングは 、フロントホイールの切れ角を車速度に応じて変えるシス テムにリアホイールのステアリング機能を組み合わせたもので、いわゆる
4
輪操舵システムです。時速60km/h
未満では 、リアホイールがフロントホイールと反対方向に操舵されるため 、低速走行におけ る取り回しや俊敏性がよくなります。一方、60km/h
以上では 、リアホイールがフロントホイールと同じ 方向に素早く操舵されることにより、走行安定性が向上し、より快適な運転を実現します。参考 BMW 5シリーズモデル(2010年)
※BMW Japan社 Webサイトより
図41 「BMW 5シリーズ」モデルインテグラルアクティブステアリングの概観 ※BMW Japan社 Webサイトより
図42 インテグラルアクティブステアリング FlexRayネットワーク
※ICM(Integrated Chassis Management:インテグレーテッドシャーシマネジメント)
このシステムの実現には、ヨーレートセンサー、横加速度センサー、ステアリング切れ角センサーといっ た各センサーや操舵アクチュエータが高速かつ安定して協調動作する必要があります。そのため、
BMW
5
シリーズモデルでは、それらを制御するECU
がFlexRay
で接続され、互いに通信を行っています。図43 欧州メーカーパラメータセットの一部 ※カッコ内はFlexRayパラメータ名称
このように、ある特定のパラメータセットを毎回使用することで開発の効率性を高めることはできま すが、その反面、開発の柔軟性は失われ、車種ごとに最適化設計を行うことも難しくなります。開発の 柔軟性と効率性のトレードオフの中で、さまざまな要因を考慮しながら パラメータセット をどの程度 用意するべきなのかを見極める必要があります。例えば 、日本における標準化団体「
JasPar
(Japan Automotive Software Platform and Architecture
:ジャスパー)」においても同様に、パラメー2
.さまざまな取り組みこれまで紹介してきたように、
FlexRay
は高い信頼性と統合的な協調制御に適応する優れた機能を 装備しています。一方、定義すべき通信パラメータの数が60
以上にもなり、かつそれらを厳密に関連 付ける必要があるなど、その仕様は複雑です。よって、通信ネットワークをどのように効率的に設計す べきか が大きな課題となっています。以下、この課題に対する欧州での取り組みを幾つか紹介します。
パラメータセット
FlexRay
通信パラメータの考えられる組み合わせは膨大な数となり、通信ネットワークを開発するたびに、それらを評価し、決めていくことは非常に手間の掛かることです。よって、あるパラメータの組 み合わせ パラメータセット を事前に評価 、定義し、開発ごとにそれらをテンプレートとして適用するこ とで開発の効率化を図る取り組みが行われています。
次の図
43
は、ある欧州自動車メーカーにおけるパラメータセットの一部です。同社ではパラメータセッ トを1
種類定め 、複数車種に搭載する全てのFlexRay
クラスタにこれをベースとしたパラメータを適用することで開発の効率化を実現しています。
データベースフォーマット「
FIBEX
」車両開発の際、複雑な
FlexRay
の通信仕様やその膨大な通信パラメータをどのように複数の部門間、企業間で伝達 、運用していくかが大きな課題となります。例えば 、紙の仕様書によって展開する場合、そ こには仕様に関する誤解釈や設定ミスが生まれる潜在的な要因が大きくあり、また各開発者にとっても 手間の掛かるものとなります。
この課題を解決する効果的な方法が標準的なデータベースフォーマットの活用です。ファイルフォーマッ トによって通信仕様を定義し、共有することで、開発中における伝達ミス、設定ミスが生じる可能性を大 幅に減らすことができます。また、標準的なフォーマットであることから、多くの汎用的な開発ツールがこ のデータベースファイルに対応しており、後工程でファイルをそのまま使うことができるため、工数の削減 にもつながります。これは
FlexRay
だけではなく、CAN/LIN
など他の車載ネットワークに関連した開発 でも同様に有効ですが、複雑なFlexRay
ではより効果的です。FlexRay
では、「FIBEX
(Field Bus Exchange Format
:ファイベックス)」と呼ばれるフォーマッ トが 標 準的なデータベースフォーマットの 一つとして活用されています。FIBEX
は、欧 州標 準化団体「
ASAM
(Association for Standardisation of Automation and Measuring Systems
)」にて策定された、
XML
スキーマベースのフォーマットです。FlexRay
専用フォーマットではなく、CAN
、LIN
、MOST
といった他の通信プロトコルにも対応しています。既に多くのFlexRay
関連製品がFIBEX
に対応しているため、
FlexRay
のデータマネジメントシステムやツールチェーンを比較的簡単に、低コスト で構築することができます。図44 データベースの活用
開発ツールの活用
通信仕様の複雑さや求められる信頼性が高いことから、
FlexRay
ネットワークの開発では、十分な機 能を持った開発ツールを使って工数の削減 、品質の向上を図ることが、これまで以上に重要となります。ここでは、欧州の自動車メーカー
4
社(Daimler
社、BMW
社、Audi
社、Volvo
社)にて行われている試 みを紹介します。開発期間の短縮 、開発工数の削減などのため、実際のネットワークやノードが完成する前にシミュレー ション環境を構築して、ネットワークやノード仕様の妥当性を確認することがよく行われています。このと き、シミュレーション用の開発ツールにネットワークやノードの仕様を組み込む必要があり、その工程にお ける作業工数や品質管理などは無視できない課題です。
一方、自動車メーカーでは、例えば以下のような詳細事項をそれぞれ独自の共通仕様として定め、車両 に搭載する全てのノードに適用しています。
•
いつ、どのような条件でノードがパワーオフになるか?送信を開始 、停止するか?•
特定のフレームやシグナルはどのような方法で、どの程度の頻度で送信されるか?•
送受信の際に分割・統合される長いフレームはどのように処理されるか?このような共通仕様を、毎回、シミュレーション用の開発ツールに手動で組み込むことは、無駄な作業 といえるかもしれません。
これに対し、上記の自動車メーカーでは独自の共通仕様に適応した開発ツールの自動モデリングパッ ケージを用意し、関連サプライヤーに展開、そして