ことが可能であった。例えば、良いものを安く大量に提供する ため、製造部門は製造原価最小(稼働率最大)、物流部門は物 流原価最小(大ロット輸送)、営業部門は売上最大(販売在庫 は増大)などの目標設定が部門ごとに考えられる。これらはサ プライチェーン上の在庫拡大の方向となるが、環境変化が緩や かで、在庫価値が急減することもなく大きな問題とならないた め、部門ごとの最適を目指すことが全体最適につながった。
【今日:経営環境の変化が激しい時代⇒部分最適を積み上げ ても全体最適とならない】
しかし、今日のように経営環境の変化が激しく、在庫がすぐ に不良在庫化する時代、仮に上記の部門ごとの目標が達成され ても、サプライチェーン上で在庫が積み上がっていると全体で 利益が出ない。本来であれば、部門を超えたオペレーションマ ネジメントを考える機能の発揮が必要だが、我が国はこのよう な機能が脆弱であり、基本的に現場(部門)が引き続き強い状
況にある。このため、引き続き部門ごとの最適化の目標の下で 組織が動き、結果として部分最適を脱しきれず。横串でのマネ ジメント力の発揮が期待される。
なお、先述のとおり、工場内の最適化のみならず、バリュー チェーン全体の最適化の必要性を論じたところであるが、それ 以前に工場内の最適化さえもなかなかできていないという声も 多い。この点、産学の有志が集まって、日本の製造業における 最適な工場設計の在り方を議論する場なども立ち上がってきて おり、設計段階での工場全体の最適化の必要性やそれを実現す る上で課題や論点提示などを行っている。日本においては、現 場レベルでの頑張りで工場の部分的な最適化を図ってきたが、
海外拠点も含めて工場での最適生産が一層求められるこの時代 においては、今までのやり方の見直しも含めた対応策を模索す る動きが期待されるところである。
やツールを研修・テストできる場所が、国内にほとんど存在せず、容易ではない。
そこで研究会では、以下のような提案活動を実施している。まず、ものづくり企業を支援する「ラインビルダー」業界の 確立・育成の必要性を打ち出している。(なお、ラインビルダーとは、生産システムのエンジニアリングを受託する専門企 業のことを指す)。
ラインビルダー業界へのニーズは、世界中のものづくり企業で重要性が増してくる。日本にはすでにこの分野で世界をリー ドする企業が、平田機工(株)を始め存在している。したがって、いずれは有力産業として世界にプレゼンスを示すことが 期待される。
このようなユニークな視点の下、研究会は今後も活動を継続する予定という。
(3)取組の面的広がり、エコシステム的な発展の必 要性
冒頭の「総論」において我が国製造業を取り巻く危機感の1 つとして記載したとおり、技術革新のスピード、課題の複雑化 などが進む中、いわゆる「自前主義」の限界が露呈しており、
すべてを「競争」領域として捉えることなく、「協調」領域の 拡大により、真の「競争」分野への投入リソースの集中を行う ことが求められてきている。Connected Industries の実現 に向けても、必要となるリソース(技術、人材、資金など)す べてを自前で獲得していくのは非効率的であり、企業同士がお 互いのリソースを活用し合い win-win の関係となるエコシス テムをいかに構築できるか、エコシステムを活用しながら自ら の強みの価値をいかに最大化できるかが鍵を握る。他者のリ ソースの活用という観点では多種多様な連携の在り方が存在す るが、特に誰にも負けない技術や尖った人材を有し、かつ俊 敏・柔軟な経営が可能であるスタートアップは、協業先として のニーズは高く、Connected Industries 実現の鍵を握る存 在ともいえる。
この点において、俊敏・柔軟な経営に強みを持つスタートアッ プなどによる、自社の強みをうまく活かした異業種などとの連 携事例も、近年では国内外で見られ始めているが、なかでも、
製造業におけるこのようなイノベーションの担い手として近年
注目を集めているのが、「ものづくりスタートアップ」である。
ものづくりスタートアップとは、他者のリソースなども積極的 に活用しながら自らの強みを核に短期間でものづくりを実現す る存在であり、ものづくりにおいて比較的新しいビジネスで急 成長し、市場開拓フェーズにある企業群である。
「ものづくりスタートアップ」は、通常既存の製造業と何ら かの関わりを持つ(受発注・連携・競合関係)ことが多いが、
Connected Industries 実現の担い手として重要なのは、製 造業の企業向けに製品やサービスを開発し提供する存在である 点が挙げられる。つまり「製造業向け BtoB スタートアップ」
であると考えられる。
そこで、以下では、スマート製造分野を例にとって、ものづ くりスタートアップによる Connected Industries 実現の道 筋について整理する。
①スマート製造分野における「ものづくりスタートアップ」の 役割
「スマート製造」とは、すなわち、情報技術などの活用によっ て製造プロセスに継続的にイノベーションが起こり、製造業 全体の生産性が劇的に高まった姿、そして、企業をまたいだ データの利活用やその他経営資源の融通によって、製造業のバ リューチェーン全体が最適化された姿だと理解できる。
資料:「次世代スマート工場の設計論」研究会作成
図 生産システムズ・エンジニアリング(ラインビルダー)関係業界と提供範囲
ものづくりスタートアップ、製造業企業、それを支援する行政が三位一体となって生み出した ソリューション・・・ (株)ロビット×(株)協豊製作所・小島プレス工業(株)×豊田市
(株)ロビット(東京都板橋区)は、「ハードとソフトで、新しい価値を生み出す」ことを掲げ、IoT 機器やロボットなど の開発を行う、2014 年創業のものづくりスタートアップである。同社は、2016 年に初めての自社製品として、スマート フォンでカーテンの開閉を制御できる後付け型の機器「めざましカーテン mornin’」の販売を開始した。この製品は、年 間数万台の販売台数を数えるヒット商品となり、同社が注目されるきっかけとなった。
同社が、次の事業として開発を進めているのが、製造プロセスのイノベーション、具体的には「製造業における外観検査 工程の自動化」である。同社は「めざましカーテン mornin’」の開発と量産に当たり、部品の発注や組立などで多くの工 場との接点を持ち、そこで外観検査工程が製造業全体の大きな課題となっていることに気付いた。製造業における外観検査 工程は製品の品質を左右する重要な工程だが、形状や色彩の多様さから自動化が難しく、熟練検査員による目視検査が中心 となっている。しかし、近年では熟練検査員の高齢化が進み、かつ、人手不足で新規雇用も困難になっているなど、課題が 深刻化している。外観検査工程にかかっているコストは国内だけで数千億円以上と言われ、この課題を解決することができ れば、製造業の生産性を飛躍的に高めることができるとともに、同社にとっても大きなビジネスチャンスとなる。
法人向けの製品・サービスを開発していくうえで重要なのは、ユーザー企業の抱える課題を正確に把握して、その課題に フィットした解決方法を実現していくことである。そして、そのためには潜在的なユーザー企業と深く連携しながら開発し ていくことが効果的である。そこで同社では、豊田市役所が実施しているスタートアップと製造業企業のマッチング事業に 参加。そこで出会った豊田市内の大手自動車部品メーカー2社、(株)協豊製作所と小島プレス工業(株)と連携しながら 開発を進め、2018 年2月には、専用のロボットと AI 技術を組み合わせた外観検査の自動化ソリューション「AIVIS(ア イビス)」を発表した。このソリューションは、既存の外観検査ソリューションと比べても少ないサンプルで高い精度を出 すことができ、検査員と同程度の不良品検出率を達成している。
この事例は、ものづくりスタートアップが潜在的なユーザー企業である大手自動車部品メーカーと連携しながらソリュー ションを開発しているという点、そして、豊田市役所という行政が間に入ることで両者のマッチングがスムーズになり、受 発注関係とは異なる対等な連携が実現しているという
点が特徴的である。大企業側は、有望なスタートアッ プの持つ技術をいち早く自社の製造プロセスに取り入 れたいというニーズがあり、行政側も産業政策として 地域企業の生産性向上を支援する動機がある。このよ うに、ものづくりスタートアップ、製造業企業、行政 の3者は全員がメリットのある関係を築くことがで き、この連携が製造プロセスのイノベーションを起こ していくうえで重要だと考えられる。
コラム
このようなイノベーションや全体最適化の推進主体として通 常考えられるのは、大手や中小の製造業企業、あるいは IT ベ ンダーなどの既存の IT 企業である。しかし、例えば大手メー カーの技術開発の結果として生まれた製造プロセスのイノベー ションは、当該企業の競争力の源泉となるため、営業秘密とし て厳重に管理され、その成果が製造業全体に伝播することはほ とんどの場合ないと考えられる。また、IT ベンダーの場合も、
受託開発という形態を取る限り、その成果を活用できるのが顧 客企業に限られるという点で同じ問題が起こる。
一方で、ものづくりスタートアップの場合、ベンチャーキャ
ピタルなどから調達した資金をもとに「スマート製造」の実現 に資するソリューションやプラットフォームを短期間で開発 し、それを自社の商品として世界中の製造業企業向けに提供し ていくことで急成長を果たしていくことも可能である。
このように、ものづくりスタートアップは、大手メーカーや IT ベンダーと異なり、「製造プロセスのイノベーションそのも の」を「自社の商品」として、「短期間で事業化」していく存 在にもなり得る。そうした意味では Connected Industries の担い手として他の主体には無い重要な役割を持っていると考 えられる。
出所:(株)ロビットより提供
図 AI 技術を活用した外観検査の自動化 ソリューション「AIVIS」(デモ版)