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「様々な時間の流れと刻み方―比較生物学的視点から」

ドキュメント内 .h.L g12 (ページ 36-39)

10月24日

第1部 「様々な時間の流れと刻み方―比較生物学的視点から」

(ライフホール) 

   

       オーガナイザー:志賀向子(大阪市立大学) 

       本田陽子(東京都健康長寿医療センター研究所) 

 

趣旨:生物にとって時間とは何でしょうか。地球が自転する時間と公転する時間の関係で私たちは絶 対時間を決めて時の流れを共有しています。しかし、時の流れは絶対時間のみで刻まれているのでは ありません。ほぼ全ての生物は体内に時計をもち、個体ごとの時間を刻んでいます。その時計のしく みはどうなっていて、何に使われているのでしょうか。また、生物には寿命時間があります。寿命を 全うすべく時間が流れますが、それを絶対時間で比較すると速いもの、遅いもの様々です。種によっ て寿命の時間が異なるということは、何を意味しているのでしょうか。一生の中で一旦耐性を獲得し た状態になると有限の寿命が無限に思えるほど延長されるような動物もいます。こういった時間の進 み方は何が決め、どう調節されているのでしょうか。このシンポジウムでは比較生物学的に様々な動 物を例にとり、それらの示す時間の流れとその刻み方をひもときながら動物の不思議について考えて みたいと思います。 

   

CBS-01 体内時計を用いて季節を知る 

       志賀向子(大阪市立大学大学院理学研究科) 

 

 地球上のほとんどの地域において、太陽からの放射は一日周期及び一年周期で変化する。その結果、

温度や湿度など生物の活動を左右する物理的環境が一日の時間によって、あるいは季節によって変わ る。生物はこのように周期的に起こる環境変化に対応するため、体内の時計を利用すると考えられる。

多くの昆虫は光周期によって季節を予測し、過酷な季節がやってくる前に休眠に入り、厳しい季節を やり過ごす。光周性のしくみには、昼あるいは夜の長さを測るための測時機構が必要であり、これま でに、測時機構への概日時計の関与が示唆されてきたが、その実体は明らかになっていない。最近、

キイロショウジョウバエの概日時計機構の知見を参考に、様々な昆虫で光周性機構に概日時計遺伝子 や概日時計ニューロンが関与する可能性が示されている。これまでの測時機構の理論的考え方と、昆 虫における最近の生理学的、分子生物学的光周性機構の研究を紹介し、概日時計と光周性機構の関連 について議論するとともに、季節適応という観点から体内時計の意味について考えたい。 

 

CBS-02 ショウジョウバエの睡眠覚醒リズムと寿命         粂 和彦 (熊本大学発生医学研究所) 

 

 ショウジョウバエの概日周期が、一遺伝子変異で失われるという1970年代初頭の発見は、遺伝子が 行動を制御することを初めて示した点で画期的だった。昆虫と哺乳類の間で時計遺伝子が核酸レベル で保存されていることが示されたのは、さらに驚きだった。一方、睡眠は、そもそも昆虫に存在する かどうかも10年前まで知られていなかった。しかし、私たちは睡眠が減少するfumin 変異株を発見し、

その原因がドパミントランスポータ遺伝子欠失であることを示し、哺乳類と同じモノアミン系が昆虫 の覚醒を制御することを示した。また、睡眠は哺乳類と昆虫の双方で記憶・学習に重要であることも 示され、原初的な睡眠の生理的意義が神経回路の可塑性維持にあり、それが進化を超えて保存されて いることが示唆された。 

最近、私たちは、哺乳類同様に昆虫でも高栄養負荷が睡眠と寿命に影響を与えることを見出した。ま た睡眠時間と覚醒時間の時系列解析を行うことで、哺乳類と昆虫の差異も示され、昆虫には従来知ら れていない睡眠制御機構が存在する可能性も認めた。 

今回の発表では、これらの研究を概観し、1日より長い寿命と短い睡眠という二つの尺度から比較し た考察をしたい。 

 

CBS-03 センチュウの寿命リズムの刻み方 

       本田陽子 (東京都健康長寿医療センター研究所・老化制御研究チーム) 

 

 線虫C.elegansは体長約1mmで通常は雌雄同体、土壌中にて非寄生で生活している。1998年に多細 胞生物としては初めて全ゲノム配列が明らかにされた。総遺伝子数は約19,000あり、ヒトの23,000遺 伝子に匹敵する多さである。相同遺伝子も数多く報告されている。遺伝子操作が比較的容易で、

forwardおよびreverse  geneticsによる変異体解析から遺伝子の役割を研究するモデル動物として利用 されている。老化研究の分野においても野生体に比べて寿命が長く、老化速度が遅い長寿命変異体が 単離され、その責任遺伝子についての解析がなされてきた。それらは環境状況の感知やインスリン様 シグナル等の情報伝達、ストレス防御、生殖、エネルギー産生、咽頭筋のポンピング運動やサインカ ーブを描く動きのリズム制御など多岐の生命活動に関係している。これらによってどのように寿命が 決められているのか、インスリン様シグナル低下による寿命制御機構を中心に考察する。 

CBS-04  ユスリカのとんでもなく長い命のしくみ 

       奥田 隆 ((独)農業生物資源研究所・乾燥耐性研究ユニット) 

 

 ネムリユスリカはアフリカ半乾燥地帯の大きな花崗岩の岩盤にできた小さな水たまりに生息します。

4ヶ月の雨季の間、ネムリユスリカ幼虫は約24時間の日周リズムを刻みながら発育します。しかし、

8ヶ月におよぶ長い乾季が来ると、水たまりは干上がり幼虫もカラカラに干涸びますが、クリプトビ オシスという無代謝の休眠に入って次の雨季を待ちます。乾季には岩盤の表面温度は60℃にも達しま す。気温が10℃上昇すると通常我々の代謝は2倍になります。ネムリユスリカは代謝をゼロに押さえ、

時間の流れを完全に止めて過酷な乾季をしのぐ以外に方法はなかったのかもしれません。実際17年間 眠り続けた乾燥幼虫を水に戻したら蘇生したという記録が残っています。ネムリユスリカ幼虫が無代 謝で、好適な環境の到来を待つしくみに関わる重要な分子のひとつがトレハロースです。時計を司る 脳を含むすべての組織は、乾燥に伴って爆発的に合成されるトレハロースによって水と置き換わる形 で包埋され、さらに脱水が進むとそれらはガラスのように固まって生命活動を中断します。ネムリユ スリカの「ミイラのようになっても水に戻すと蘇生できるしくみ」について紹介します。 

 

CBS-05 時間て何だろう?―ゾウの時間・ネズミの時間から考えたこと         本川達雄 (東京工業大学生命理工学研究科) 

 

 「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのと同じに、人間には時間を感じとるた めに心がある」(エンデ「モモ」)。−確かに、時間の感覚器ってないなあ。感覚器がないのに、

感覚されるべき相手の実体は、本当にあるのかしら? もちろんわれわれは日々の変化を感じる。季 節の変化も感じとれる。でもそれらを「時間」という同じ範疇にくくれるものかしら? もしかした ら時間とは概念でしかなく、すべての変化を統一的に理解するために、脳が生み出した妄想かもしれ ない。−とこんな風に、時間生物学の門外漢が、「素直に」疑問に思ったところから生じた妄想を お話させていただく。 

 こういう疑問を抱いたのは、趣味で、動物のサイズについて勉強していた時。心拍の拍動周期が、

体の大きいものほど長く、周期は体重の1/4乗に比例するのだそうである。この1/4乗則は心臓以外に もさまざまな動物の時間に関わる現象で成り立ち、寿命も例外ではない。また、体重当たりのエネル ギー消費率は体重の1/4に反比例する。ということは時間の進む「速さ」がエネルギー消費率に比例 するという関係になる。なぜこんな関係になるのかを妄想し、生物の時間の特徴を考えてみたい。 

 

大会準備委員会企画シンポジウム 

「比較生物学がひもとく動物の不思議」 

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