第 5 章 対話相手との年齢差・性別差に応じたあいづち表現の使用実態
5.4. 分析と考察
5.4.3. 概念的あいづち表現の使用状況
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男性相手に54.6%の割合を示している。5.2.で立てた仮説(1)(2)(3)の通り、社会的規範から 逸脱することなく、場面(初対面)と年齢という社会的要因が聞き手言語行動に影響を及ぼ していることが確認できた。このような結果から30代男性同性同士の会話ではネガティ ブ・ポライトネスが最も表れやすいことが分かった。
図 25 30代男性の対同年・対年上男性への感声的あいづち表現の使用状況 なお、図26の30代男性異性同士の場合、年上の女性、同年の女性に対する感声的あいづ ちの使用のそれぞれについて、「あ系」の使用が44.0%、31.4%の割合で最も多かった。一 方、「はい系」「え系」の丁寧なあいづちが年上の女性相手に44.0%、同年の女性相手に54.
1%の割合を示している。30代男性異性同士の場合、仮説(1)の場面(初対面)という社会的要
因に関しては社会的規範から逸脱することなく、その影響がみられることが分かった。し かし、年上より同年に対し、丁寧なあいづちの使用が多いことから、「会話相手の年齢が発 話者よりも年上の場合丁寧なあいづちの使用が多い」という仮説(2)に合致しない結果とな り、年齢という社会的要因には必ずしも影響されないことが確認できた。全体的に「くだ けたあいづち」より「丁寧なあいづち」が多いことから、30代男性異性同士の会話でもネ ガティブ・ポライトネスが表れやすいといえよう。
図 26 30代男性の対同年・対年上女性への感声的あいづち表現の使用状況
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表 24 対人関係による概念的あいづち表現の使用傾向 あいづち
対人関係
そ う で す 系
で す ね 文 末系
そ う
系 ね 文
末系 い や
系 な る
ほど 確かに なるほ
どね 合計 20
代 女 性
① 対 同
年女性 16.3
(7) 0.0
(0) 62.8
(27) 9.3
(4) 4.7
(2) 4.7
(2) 2.3
(1) 0.0
(0) 100
(43)
② 対 年
上女性 34.3
(36) 1.9
(2) 47.6
(50) 4.8
(5) 5.6
(6) 4.7
(5) 0.9
(1) 0.0
(0) 100
(105) 20
代 男 性
① 対 同
年男性 53.7
(36) 4.5
(3) 19.4
(13) 4
(6.0) 13.2
(9) 2.9
(2) 0.0
(0) 0.0
(0) 100
(67)
② 対 年
上男性 72.5
(50) 7.2
(5) 8.7
(6) 0.0
(0) 10.1
(7) 0.0
(0) 1.4
(1) 0.0
(0) 100
(69)
30 代 男 性
① 対 同
年男性 54.7
(29) 3.8
(2) 1.9
(1) 0
(0.0) 22.6
(12) 13.2
(7) 3.8
(2) 0.0
(0) 100
(53)
② 対 年
上男性 45.2
(38) 3.6
(3) 0.0
(0) 1.2
(1) 21.4
(18) 17.9
(15) 9.5
(8) 1.2
(1) 84
(100)
① 対 同
年女性 41.7
(30) 4.2
(3) 4.2
(3) 1.4
(1) 26.4
(19) 15.3
(11) 4.2
(3) 2.8
(2) 100
(72)
② 対 年
上女性 47.5
(19) 5.0
(2) 7.5
(3) 0.0
(0) 25.0
(10) 10.0
(4) 2.5
(1) 2.5
(1) 100
(40) 全体として「そうです系」の多用が目立つが、年上相手か同年相手かという年齢が要因 となり、その使用の割合も一律ではないことが分かった。より詳細な傾向は対人関係およ び形式別に説明する必要があろう。
まず、図27の20代女性の年上女性および同年女性に対する概念的あいづちの使用状況を みたところ、「そう系、ね文末系」の「くだけたあいづち」が20代女性は年上に52.4%、同 年に72.1%の割合で最も多かった。このような結果は初対面において丁寧なあいづちを使 用する社会的規範があるとする仮説(1)とは相反するが、「会話相手の年齢が発話者と同年 の場合にくだけたあいづちの使用が多い」という仮説(3)とは合致している。感声的あいづ ちの「うん系」の使用傾向と同様に、20代女性の会話ではポジティブ・ポライトネスが表 れやすいことが再確認できた。一方、同年相手(16.3%)より年上相手(34.3%)に「丁寧なあ いづち」が多いことは、仮説(2)と合致しており、年齢という社会的要因が聞き手言語行動 に影響を及ぼしているといえよう。
図 27 20代女性の対同年・対年上女性への概念的あいづち表現の使用状況
16.3(7)
34.3(36) 1.9
(2)
62.8(27)
47.6(50)
9.3(4) 4.8 (5)
4.7 (2) 5.6 (6)
4.7 (2) 4.7 (5)
2.3 (1) 1.0 (1)
20代女性対同年女性 20代女性対年上女性
そうです系 ですね文末系 そう系 ね文末系 いや系 なるほど 確かに
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次に、図28の20代男性の使用状況であるが、「そうです系」「ですね文末系」による「丁 寧なあいづち」が年上相手の場合、同年の場合とも多かった。このような事実から、20代 男性同士の会話ではネガティブ・ポライトネスが表れやすいことが分かった。一方、丁寧 なあいづちが年上相手に79.7%、同年相手に58.2%の割合で用いられており、年齢という 社会的要因が聞き手言語行動に影響を及ぼしていることが分かった。この結果は仮説(1)(2) (5)と合致している。
図 28 20代男性の対同年・対年上男性への概念的あいづち表現の使用状況 さらに、図28の30代男性同士の場合も20代男性同士の場合と同様に仮説(4)の初対面と いう社会的規範から逸脱することなく、「丁寧なあいづち」の「そうです系」「ですね文末 系」の使用が最も多いことから、ネガティブ・ポライトネスが表れやすいといえる。ただ し、これらのあいづちは同年相手に58.5%、年上相手に48.8%の割合で用いられており、
対年上より対同年にその使用が多かったので、年齢という社会的な要因が聞き手言語行動 に影響を及ぼすとは限らないようである。これは、仮説(2)(5)に反する結果である。
図 29 30代男性の対同年・対年上男性への概念的あいづち表現の使用状況 なお、図30の30代異性同士の場合を確認すると、「そうです系」「ですね文末系」の
「丁寧なあいづち」が年上に52.5%、同年に45.9%の割合で最も多かった。この結果
から、30代異性同士の会話でもネガティブ・ポライトネスが表れやすいことが確認で
きた。一方、同年相手より年上相手に丁寧なあいづちの使用が多いことから、年齢と いう社会的な要因が聞き手言語行動に影響を及ぼしていることが分かった。この結果
53.7(36) 72.5(50)
4.5 (3)
7.2 (5) 19.4 (13)
8.7 (6)
6.0 (4)
13.4 (9)
10.1 (7)
3.0 (2) 1.4 (1)
20代男性対同年男性 20代男性対年上男性
そうです系 ですね文末系 そう系 ね文末系
いや系 なるほど 確かに
54.7(29) 45.2(38)
3.8 (2) 3.6 (3)
1.9 (1)
(1.9)
1.2 (1)
22.6(12) 21.4(18)
13.2(7) 17.9(15)
3.8 (2) 9.5 (8)
1.2(1)
30代男性対同年男性 30代男性対年上男性
そうです系 ですね文末系 そう系 ね文末系
いや系 なるほど 確かに なるほどね
93 は、仮説(1)(2)(5)と合致する。
図 30 30代男性の対同年・対年上女性への概念的あいづち表現の使用状況 一方、30代では語彙的あいづち表現である「いや系」「確かに系」「なるほど系」の使用
が多く、30代男性同性同士では年上相手に、異性同士では同年相手に多く用いられること
が確認できた。特に注目したいのは、以下の会話例38)、39)にみられるように、見下した 感じを与えるために、年上に対する使用には違和感があるとされる「なるほどね」の使用 が確認できたことである。30代男性が年上の男女両方に使用していることが確認できたが、
実際は次の例からも分かるようにBM01の同一話者によるものであり、使用傾向として一 般化することは難しいと考えられる。
会話例 38) 部下社員の配慮の仕方の話 BM01(30代男性)-OM01(40代男性)の会話
1 OM01 <笑い>ただね、ま、できるだけこう、細かいところに(うん)、こう(うん)、
それこそかゆいところに(うん)、手の届くようなね(はい)、まあ、配慮をすれ ばね、まあ、商社さんも生きる道がね
2 BM01 そうですね。
3 OM01 [息を吸う音]でてくるかな(うん)、と思うんですけどね(うん)、ええ。
→4 BM01 なるほどねー。
会話例39) 教員採用の年齢制限の話:BM01(30代男性)‐OF01(40代女性)の会話
1 BM01 えー[深い一呼吸]、だって50から先生なんて。
2 OF01 幅広い人材を登用(あー)するということで,,
3 BM01 なるほど。
4 OF01 いろんな経験を積んだ方が(あ)、先生になるのもいいんじゃないでしょうかね。
→5 BM01 なるほどね(ん)、そっか。
以下の表25は、感声的・概念的あいづちの使用状況を仮説(4)~(8)に対応させてまとめた
41.7(30) 47.5(19)
4.2 (3)
5.0 (2)
4.2 (3)
7.5 (3)
1.4(1)
26.4(19) 25.0(10)
15.3 (11)
10.0 (4)
4.2 (3) 2.5 (1)
2.8 (2) 2.5 (1)
30代男性対同年女性 30代男性対年上女性
そうです系 ですね文末系 そう系 ね文末系
いや系 なるほど 確かに なるほどね
94 ものである。
表 25 仮説に基づくあいづち表現の年齢差・性別差による使用状況
仮説 20代女性の同性相手へ 20代男性の同性相手へ 30代男性の 同性相手へ 30代男性の 異性相手へ
(1)初対面では、会話相手に関 係なく丁寧なあいづちの使
用が多い × ○ ○ ○
(2)会話相手の年齢が発話者 よりも年上の場合に丁寧な
あいづちの使用が多い ○ ○ ○ × × ○ (3)会話相手の年齢が発話者
と同年の場合にくだけたあ
いづちの使用が多い ○ × ○ ○ ○
(4)「はい系」「え系」は対年
上に、「うん系」は対同年にそ の使用が多い
え系 *1 *2
うん系 ○ *3 はい系 (5)「そうです系」は対年上に、
「そう系」は対同年にその使
用が多い ○ ○ *4
そうですね ○
上記、表では仮説通りの結果については○を、仮説に反する結果については×で示した。
また、分割されているセルの左側は感声的、右側は概念的あいづちを示す。さらに、特定 表現に付き仮説に反する場合は*1~*4のように記号を付けたうえで、特定表現を共に記 した。
上記表から読み取れることのひとつは、初対面、年齢という社会的規範を考慮し立てた 仮説(1)~(3)に反する行動が見られること、またそれらの結果からポライトネス・ストラテ ジーが機能していることである。たとえば、仮説(1)、(2)で網掛けした20代女性の同性相手
へ、30代男性の同性相手へ、30代男性の異性相手へくだけたあいづちを多用することによ
り、相手と良好な関係を保つために仲間意識を示し、相手との心的距離を縮め相手と良好 な人間関係を保とうとしていることがうかがえる。また、仮説(3)で網掛けした20代男性の 同性相手へ丁寧なあいづちの多用することにより相手と一定の距離をおき、相手との摩擦 をさけ、相手を尊重する態度で、相手と良好な人間関係構築しようとしていることがうか がえる。前者はブラウンとレビンソン(Brown & Levinson1987)のポジティブ・ポライトネ ス「4.仲間ウチであることを示す指標を用いよ(Use in-group identity markers)」に相当 し、後者は「5.敬意を示せ(Give deference)」というネガティブ・ポライトネスにそれぞれ 相当するものである。
全体的に初対面、年齢、丁寧なあいづち、くだけたあいづちだけでは単純に説明しきれ ない部分があるようである。ここでは上記表の仮説(4)(5)に反する結果が出た個別表現形 式*1~*4について触れておきたい。
95
まず、表25の*1の「え系」についても20代女性の使用率は、対同年女性(4.9%)>対年上 女性(0%)だった。次の例(40)、(41)のような具体的な使用が確認された。本章で「え系」の 下位形式として取り上げている「え、えー、ええ」などは、「注意(聞いている)」「理解」「同 意」「感情表示」など多様な機能をもつが、20代女性が同年の女性相手に使用する「え系」
は主に驚きや違和感の感情を示し、丁寧な意味合いを示すわけではない。大浜(2002)は、
「同年代に対しては違和感を表明し自らのターン取得のシグナルを送る「え系」が多く使 用される」というが、今回20代女性の対同年にだけその使用が見られた「え系」は「違和 感を表明する」という点で大浜の主張と関連があるといえる。
会話例40) 海外旅行経験の話:JBF01(20代前半女性)-JSF02(同年女性)の会話
1 JSF02 旅行は、なんか留学生が日本課程多いから、(うんうん)なんか、結構、1回目
に行ったのは韓国で、(うん)それは韓国人の友達が(うん)結婚す るからって言うんで
→2 JBF01 えー。
3 JSF02 皆で結婚式に出ようって。
4 JBF01 結婚式に?
5 JSF02 うん。
会話例41) 海外教師生活の話:JBF04(20代前半女性)-JSF02(同年女性)の会話
1 JSF02 SARSのときに、“帰ってこないの”(<笑い>)って言ったら、“帰りたくな”
とか言って,,
→2 JBF04 ええ↗、うそ、楽しそう<笑いながら>。
3 JSF02 なんか“帰れ”って言われても、“帰んないよ”とか言って。
また、表25の*2の20代男性が年上相手に、敬意の低いくだけたあいづちとされる「う ん系」を多く用いるという結果が出た。これは「はい系」「え系」は対年上に、「うん系」
は対同年にその使用が多いとする仮説(3)に部分的に反している。この使用実態からは、「う ん系」の機能のなかでも、「適切なことばを探したり、共話をもとめていたりするのが相手 にすぐさまに理解されなかったために会話がスムーズに進行せず足踏み状態になった(大 浜2006:229)」場合の、いわゆるターン取得再放棄の機能をもつものを年上相手に使用し ていることが推察される。実際の会話例をみると「うん系」の中には「うーん」「ううん」
などの形式で考え事をしたり、間を持たせたり、返答をにごしたりする時にも用いられて いる。反対表明ができず、答えづらい場合や答えたくない場合なども使用される傾向があ