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第四章 車椅子の衝突・転倒時における傷害評価
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4-1 車椅子の傷害推定プロトコルの作成
2,3 章のでは車椅子衝突・転倒時における身体への傷害のみの評価を行った.し かし,あくまで身体の個別の部位の傷害を測定下に過ぎず,最終的に車椅子の衝 突・転倒時における総合的な傷害の度合いを決める必要がある.最終的な生存率
をTRISSや ASCOTを用い評価を行い,車椅子使用時における傷害評価プロトコ
ルの作成を行った.
事故が起きた場合,Fig.4-1の手順で傷害の判定を行う.
Fig.4-1 Injury judgment protocol at accident occurrence
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具体的には傷害の種類と重症度を数値的に表現するために傷害スケールの概 念が用いられる.傷害のスケールは[解剖学的],[生理学的],[機能障害・能力 傷害・社会的損失]の3グループに分けられる.しかし,ダミーモデルでは生理学 的重症度(RTS)を判定できない.本実験では,ダミーモデルを使用する観点から
[生理学的]及び[機能障害・能力傷害・社会的損失]スケールについては考 慮しない.したがって解剖学的評価のみで評価を行う.評価は Fig.4-2 の手順で行 う.
Fig.4-2 Injury risk assessment protocol
また,各部位ごとのAISを算出後,全身の傷害を評価する指標としてISS(Injury Severity Score)[1]を使用する.ISSは1974年に考案された多発外傷患者のための 重症度評価法であり, AISをもとに算出される.損傷部位を6つ((1)頭頸部,(2)顔 面,(3)胸部, (4)腹部及び骨盤,内臓器,(5)四肢及び骨盤,(6)体表)に分けて各部位の 最高値をAIS重症度スコアの中から,上位3つを抽出しそれぞれを二乗して合計 した値で評価する.最大値は 75 点.通常頭部と頚部は一緒の部位として AISを算 出するが今回は頭部と頚部を分け,頭部,頚部,胸部の三箇所の最大AISからISSを
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算出する.
また,AISが一箇所でも6になる場合は他の部位の値にかかわらず ISS=75(最 高点)として計算する.
以下の式で求めることが出来る.
ISS=(a2𝑚𝑎𝑥1) + (𝑏𝑚𝑎𝑥2 2) + (𝑐𝑚𝑎𝑥2 3) 4-(1)
a= First highest AIS score b= Second highest AIS score.
c= Third highest AIS score
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4-2 TRISS法およびASCOT法による評価
算出された ISS の結果から近年では生存率を予測する中で最も標準的な方法 の1つであるTRISS(Trauma and Injury Severity Score)[2]を使用し,傷害発生時に おける生存予測率を算出する.TRISSは RTS(Revised Trauma Score:意識レベル
(glasgow coma scale:GCS),収縮期血圧(systolic blood pressure:SBP),呼吸数
(respiratory rate:RR)の3つのスコアの合計値),ISS, 年齢の指標,傷害の種類
(Blunt or Sharp)の4つのパラメータを総合して予測生存率を算出する. TRISS は以下の式で求めることが出来る.Table.4-1 に(8)式の各係数,Table.4-2 に RTS scoreを示す.
Ps(TRISS)=1+e1−𝑏 4-(2)
b=𝑏0+ 𝑏1(𝑅𝑇𝑆) + 𝑏2(𝐼𝑆𝑆) + 𝑏3(𝐴𝐺𝐸) 4-(3)
AGEは, 54歳以下と55歳以上 で分け,計算する.
0 − 54years old=0 55years old or more=1
RTS スコアについては式(9)で求めることができるが今回,ダミーモデルを使用 することから生理学的重症度が測定できないためRTSMAX=7.8408で固定して計 算する.ただし,ISS(1箇所でも AIS6(Fatal)である場合)が 75の場合は即死に近 い状態が考えられるためRTSは0として計算する.
RTS=0.9368(GCS)+0.7326(SBP)+0.2908(RR) 4-(4)
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Table.4-1 The value of each constant of TRISS
b0 b1 b2 b3
Blunt -0.4499 0.8085 -0.0835 -1.7430 Sharp -2.5355 0.9934 -0.0651 -1.1360
※ Evaluation is only blunt trauma evaluation Table.4-2 RTS score
GCS(points) SBP(mmHg) RR(/min) Score
13-15 ≧90 10-29 4
9-12 76-89 30≧ 3
6-8 50-75 6-9 2
4-5 1-49 1-5 1
3 0 0 0
今回は平らな地面への衝突を想定した実験を行ったため,計算はBluntのみを行 う.
また,TRISSの欠点として年齢のパラメータが 55歳以上 と54歳以下の二種し かないことや同一部位に複数箇所の傷害があった場合でも傷害が一箇所の場合 と同じ評価を行っていること,生存率の計算を頭部と体表などを全て同じ重みの 評価として計算を行っているなどの問題が挙げられる.その為今回はTRISSの弱 点である年齢区分及び複数箇所の傷害,怪我した部位ごとの重みをおいた評価を 行えるASCOT (A Severity Characterization of Trauma)を使用し,TRISSとの比較を 行った.ASCOTモデルで生存率を求める式を以下に示す[3][4].
Ps(ASCOT)=1+e1−k 4-(5) K=k1+k2G+k3S+k4R+k5A+k6B+k7C+k8Age※ 4- (6)
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Table 4-3 ASCOT model coefficients
k1 k2 k3 k4 k5 k6 k7 k8
Blunt —1.1570 0.7705 0.6583 0.2810 —0.3002 —0.1961 —0.2086 —0.6355 Sharp —1.1350 1.0626 0.3638 0.3332 —0.3702 ~0.2053 —0.3188 —0.8365 G= glasgow coma scale:GCS S= systolic blood pressure:SBP
R= respiratory rate:RR
A,B,C=√𝑁𝐴𝐼𝑆3 ∗ 32+ 𝑁𝐴𝐼𝑆4 ∗ 42+ 𝑁𝐴𝐼𝑆5 ∗ 52 A=Head,Brain,Spinal cored B=Thoracic,Front of neck C=All others
※ NAIS is the number of AIS of each part
GとSとRの評価についてはTRISSと同様にTabel.4-2を使用する.
Table.4-4 ASCOT patient age characterization Age※ Ages(years)
0 0-54
1 55-64
2 65-74
3 75-84
4 ≧85
また,ASCOTを計算するにあたり,例外の計算がある.Table.7に例外の場合の生存 率を示す.
Table.4-5 Exception in ASCOT
Set-aside Blunt Penetrating
Survivors(%) Survivors(%)
AIS 6 RTS=0 0 0
MAX AIS<6 RTS=0 1.4 2.6
AIS 6 RTS>0 22.9 22.2
MAX AIS=1or2 RTS>0 99.8 99.9
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4-3 考察
結果から算出したISS及びTRISS・ASCOTの計算結果をTable4-6,7に示す.
TRISSとASCOTの結果を比較するとTRISSの56歳以上の結果とASCOTの85
歳以上の結果がほぼ一致した.ASCOTの55から84歳までの3つの区分について
は56歳以上のTRISSの結果と比較すると最大で約23%の差があることがわかっ
た.また今回はダミーモデルで実験を行ったため,同一部位における複数箇所の 評価を行うことができなかった.例えば今回は(a)forwordのヘルメットなしの場 合では頭部のAISが5であるが頭部にAIS5が二箇所ある場合ではASCOTの生
存率は73%となりAIS5が一箇所の場合よりも生存率が10%も低下する.つまり
実際の事故では今回求めた値よりも生存率が低下することが予測される.
Table.4-6 Maximum AIS and ISS results for each site Types of falls helmet Head
AIS
Neck AIS
Chest
AIS ISS
(a)forword ☓ 5 2 1 30
○ 2 - 1 ≧5
(b)side ☓ 6 ≦2 2 75*(≦44)
○ 3 ≦2 2 ≦17
(c)back ☓ 0 ≦2 0 ≦4
○ 0 ≦2 0 ≦4
(d) Collide on the wall
(6km/h)
☓ 0 ≦2 0 ≦4
○ - - - -
(d )Collide on the wall
(15km/h)
☓ 3 2 1 14
○ 1 2 0 5
(e)culb block→wall
(15km/h)
☓ 5 3 2 38
○ 2 2 1 9
(f) collide on the ground
(10km/h)
☓ 4 4 2 36
○ 2 2 1 9
* ISS becomes 75 when AIS is 6
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Table.4-7 TRISS and ASCOT calculation result
Types of falls helmet
TRISS(%) ASCOT(%)
(55≧) 55-64 65-74 75-84 ≧85
(a)forword
☓ 83.77 97.20 94.83 90.68 83.74
○ ≧97.65 99.80 99.80 99.80 99.80
(b)side
☓ 0.02 0.00 0.00 0.00 0.00
○ 93.86 98.44 97.10 94.66 90.37
(c)back
☓ ≧97.46 99.80 99.80 99.80 99.80
○ ≧97.46 99.80 99.80 99.80 99.80 (d) Collide on
the wall
(6km/h)
☓ ≧97.46 99.80 99.80 99.80 99.80
○ - - - - -
(d )Collide on the wall
(15km/h)
☓ 95.15 98.44 97.10 94.66 90.37
○ 97.65 99.80 99.80 99.80 99.80
(e)culb block→wall
(15km/h)
☓ 72.58 95.06 91.07 84.38 74.09
○ 96.75 99.80 99.80 99.80 99.80
(f) collide on the ground
(10km/h)
☓ 75.78 97.58 95.53 91.88 85.70
○ 96.75 99.80 99.80 99.80 99.80
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4-4 生理学的重症度(RTS)の評価について
本実験ではダミーモデルを使用したため, RTSを最大値として生存率の評価 を行った.しかし実際の転倒・衝突事故ではAISが高くなればなるほどRTSは相 対的に低くなることや損傷部位によってRTSの値が変動するなどの問題がある.
現に例えばRTSの各値がGCS=1,SBP=1,RR=1,身体の各部位の AISが3(ISSが 27)対象が85歳以上の場合はTRISS 5.40%,ASCOT 1.62%となり,RTSが最大値
(GCS=4,SBP=4,RR=4)で同じく各部位のAISが3(ISSが27)ではTRISS 86.90%,ASCOT 73.60%となり生存率に大きな差が出る.その為実際の事故では今 回の求められた生存率よりも値が低くなることが予測される.
Fig4-3 TRISS RTSが最大値でのISSごとの救命率
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Fig.4-3にRTSが最大値であるときのISSごとの救命率を示す.55歳以下であれ
ばISSが75にならなければAIS5が2つ,4が一つの場合でも救命率が60%を超 えることがわかる.
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Fig.4-4 各RTSとISSの関係(ASCOTおよびTRISS)
Fig.4-4に各RTSとISSの関係(ASCOTおよびTRISS)を示す.ASCOTは統計 データからAISが2以下で且つRTSが0>の場合はほぼ100%生存することがわ かっているがTRISSではRTSが(1,1,1)でありISS12の場合は55歳以下の場
合55%生存する.RTSが0の場合は20%の確立で生存する計算になっている.こ
れはASCOTの実際の統計データから明らかに間違っていることがわかる.また
ASCOTもRTSが(4,4,4)から(3,3,3)の場合などは各生存率が20%の低下で
あるが,(3,3,3)(2,2,2)は40%ほど低下しており,(1,1,1)では10%以下になるなど RTSの影響が非常に大きいことがわかる.今後はより正確に計算するため各部位 のAIS結果から実際のRTSのデータを収集する必要がある.
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4-5 ダミーモデルの欠点について
今回ダミーモデルを用いて実験を行ったが,今回使用したモデルはフルフラッ トの実験を想定したモデルであり,本来は側方転倒や後方転倒などを想定してい ない.そのため,Fig.4-5 に示したような側方衝突用ダミーモデルを使用するのが 適切であるが側方衝突用ダミーはあまり普及しておらず(自動車の側面からの 衝突用のため)今回実験を行えなかった.また更に言えば,今回使用したダミーは 身長体重は高齢者に近いが女性モデルであり,さらに元になったモデルとしたの は若年層~中年層の屍体データである.そのため今後は高齢者用の人体ダミーや 補正の計算式を作る必要がある.
Fig.4-5 SID-IIs Side Impact Dummy側面衝突試験用人体ダミーSID-IIs ダミー[5]
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4-6 新しいTRISS法の提案
RISS法は計算方法は単純であるが55歳以上の年齢を全て同じ生存率として 評価しているという欠点がある.ASCOT法はTRISS法の年齢区分を更に細かく わけており,85歳までの高齢者まで対応しているが,計算方法が複雑という欠点 がある.
山田博は「人体の強度と老化―生物強弱学による測定結果」の中で,人間は年齢 とともに身体強度が低下する.と記しており 20 歳の肉体強度を 100%とした場
合,25歳で 97.5%と35 歳で92.5%と10歳区切りで5%ずつ肉体強度が低下する
と述べている.
したがって,10歳ごとに係数をかければTRISS法の欠点である年齢区分を加えた 新しい方法を提案できる.
Ps(TRISS)=1+e1−𝑏 4-(7)
b=𝑏0+ 𝑏1(𝑅𝑇𝑆) + 𝑏2(𝐼𝑆𝑆) + 𝑏3(𝐴𝐺𝐸) 4-(8)
上記はTRISS法の式であるが,このb3を(7)の係数としてかける.
Ps(TRISS)=1+e1−𝑏𝑏(𝐴𝑔𝑒) 4-(9) b=𝑏0+ 𝑏1(𝑅𝑇𝑆) + 𝑏2(𝐼𝑆𝑆) 4-(10)
とし,Psは生存確率だから,身体的強度と比例すると仮定すると,TRISS法の55歳 の身体強度を100%とする .
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として計算する.またASCOTと同様にMAX AIS=1or2 RTS>0の場合は生存率を 99.8として計算する.Table4-8にRTSが(4,4,4,)の場合の提案した新しいTRISS 法の生存率を示す.Table.4-9にASCOTとの生存率の差を示す.
Table.4-8 提案した新しいTRISS法と従来のASCOT
Table.4-9 ASCOTと新しいTRISSとの差
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Table4-9を見ると,ASCOTと比較してISSが48で55歳の場合とISS48で85歳 以上の場合以外はほぼ位置していることがわかる.ISSが75の場合は救命不可の ため,比較は無意味である.
以上の結果から従来のTRISS法を改良してASCOTと合わせることで計算がし やすくまたASCOTの長所を取り入れた新しい生存率の手法を提案した.
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第四章 参考文献
[1]BAKER SUSAN P. M.P.H.; O'NEILL, BRIAN B.Sc; HADDON, WILLIAM JR.
M.D.; LONG, WILLIAM B. M.D.
The Journal of Trauma: Injury, Infection, and Critical Care: March 1974 - Volume 14 - Issue 3 - ppg 187-196
[2] Boyd CR , Evaluating trauma care: the TRISS method. Trauma Score and the Injury Severity Score. The Journal of Trauma [01 Apr 1987, 27(4):370-378]
[3] Howard R: A New Charactrrization of Injury Severity, Journal of Trauma-Injury Infection & Critical Care,30(5),pp539-45,1990.
[4] Howard R: Improved Predictions from a Severity Characterization of Trauma (ASCOT) over Trauma and Injury Severity Score (TRISS): Results of an Independent Evaluation, J Trauma, pp48-9,1996.
[5]SID-IIs Side Impact Dummy側面衝突試験用人体ダミーSID-IIs ダミー