• 検索結果がありません。

第7章 栄養方法の選択について

Ⅲ 栄養方法の選択

栄養方法の選択にあたっては、栄養方法別の感染率の違いやそれぞれの栄養方法の特 徴を踏まえた支援が必要である。

A 栄養方法によるHTLV-1母子感染率の違い

栄養方法によるHTLV-1母子感染率の違いについては、統計学的にも証明されてい

る(資料 6「短期母乳栄養による授乳期間の設定について」参照)。現時点では母子

感染予防効果が最も優れているのは完全人工栄養であり、授乳期間に制限をつけな い長期間の母乳栄養における垂直感染率は15~20%、完全人工栄養の約6倍である と言われており、母子感染の可能性が増加することを確認している。

完全人工栄養については、HTLV-1の母子感染により生じる疾病に伴う不利益が人 工栄養により生じる不利益よりも大きいという観点から推奨されている。一方、完 全人工栄養を行っても約3%に感染が起こるとされ、3か月以内の短期母乳栄養と完 全人工栄養の予防効果の差については、母集団が少ないため統計学的な証明には至 っていない。仮に短期母乳栄養が人工栄養と同程度の感染予防効果を持つとすれば、

免疫学的、栄養学的、情緒的な面での母乳の恩恵を受けつつ感染予防できることか ら、今後のデータ蓄積が期待される。

B 栄養方法の選択に関する留意点

母乳栄養では、ビタミンK、ビタミンDや鉄は不足しがちで補充が必要な反面、

人工栄養では母乳栄養のもつ①授乳による母子相互作用の促進、②分泌型IgA、ラク トフェリン、リゾチームなどの受動免疫作用、③低アレルゲン性、④易吸収性、⑤ 腸内細菌叢の安定化、⑥低溶質負荷による腎臓の負担減少、⑦出産後の母体回復の 促進、⑧経済性、便宜性などの利点が損なわれることになる。

母乳栄養と人工栄養の選択にあたっては、個々の状況に応じて母乳と人工乳のど ちらのほうが子どもにメリットが大きくなるのかを考える必要がある。人工栄養の 選択にあたっては、HTLV-1 母子感染に限らずとも、母乳を与えてはいけない状況や 疾患は少なくないことから、「母乳で育てるのが当たり前」、「母乳でなければならな い」など医療従事者の考え方に基づくのではなく、母親の状況に合わせて十分な情 報を提供し、必要な時に意思決定への支援を行うことにより、母親が自ら選択でき ることが重要である。

授乳の支援にあたっては、栄養方法の種類にかかわらず、母子の健康維持ととも に、健やかな母子・親子関係の形成を促し、育児に自信を持たせることが基本(資

料 7「授乳・離乳の支援ガイド」参照)である。母親が、HTLV-1 母子感染を予防す

るため、完全人工栄養、短期母乳栄養や凍結母乳栄養を選ぶ場合も、仮に、子ども

へのHTLV-1母子感染リスクを知った上で、長期母乳栄養を選ぶ場合も、産科・小児

- 29 -

科医師を中心とした保健医療従事者のきめ細かな指導と援助により支えていくこと が重要である。

C 各栄養方法の特徴と留意点について

現時点で、最も母乳感染の可能性を低減できるとされる方法について、以下に特 徴と留意点を述べる(表4)。

1 完全人工栄養について

(1)完全人工栄養の特徴

HTLV-1 に感染することは、産まれてくる子どもにとって重要な問題であり、

母親の意思によってその感染を防ぐ可能性を高めることができる。完全人工栄 養は、現在のところ、最も母子感染予防効果の高い方法のひとつであることは 間違いない。母乳の重要性を認めた上で、親の意思で人工乳を選択し、HTLV-1 の世代間感染を遮断することも尊重されるべき栄養法である。

(2)完全人工栄養の留意点

人工栄養を選んだ場合、直接乳首からおっぱいを与えることができないため、

おっぱいを飲ませる充実感が得られないことから、母子関係の形成に影響する 可能性が指摘されることがある。

しかし、母乳を与えられなくても、抱っこ、アイコンタクトや話しかけなど 子どもと母親が子どもにしっかりと触れ合う時間などを通して、普通に関わる ことで母と子の絆は強く結ばれていく。

また、感染症やアレルギー、乳児突然死症候群(SIDS)のリスクになり得る 可能性も指摘されるが、それぞれ、人混みをさける、離乳を急がない、うつ伏 せ寝や喫煙を避けるなどの一般的な注意点を守ることにより、リスクを大きく 減らすことができる。

2 短期母乳栄養について

(1)短期母乳栄養の特徴

短期母乳栄養の母子感染予防の考え方には3通りの考え方があり、満3か月 までを目安に人工栄養に切り替えていく(資料6「短期母乳栄養による授乳期 間の設定について」参照)。従って、2か月くらいから授乳中止方法について 情報提供するなどの支援が必要であり、必要に応じて薬物療法で母乳の分泌を 止めることもできる(資料8「短期母乳栄養の具体的方法」参照)。

(2)短期母乳栄養の留意点

十分に母乳の出ている状態で授乳を中止し、人工栄養に切り替えた場合の母 親の心理的な問題、人工栄養への切り替えの失敗による子どもへの感染の可能

- 30 - 性が考えられる。

3 凍結母乳栄養について

(1)冷凍母乳栄養の特徴

母乳中のリンパ球は HTLV-1 感染リンパ球も含めて不活化されるが、それ以 外の母乳成分は児に移行する。搾乳した母乳を冷凍し、必要に応じて解凍して 哺乳びんで子どもに与えるため、搾乳手技や凍結方法について、理解しておく 必要がある(資料 9「搾乳の留意点」、資料 10「凍結母乳栄養の具体的方法」

参照)。

(2)凍結母乳栄養の留意点

① リンパ球が不活化されるので、リンパ球を介した母子間の免疫の賦与はでき ない。

② 直接授乳できない点は人工栄養と同様で、母と子の絆形成を促す工夫が必要 である。

③ 母親が頻繁に搾乳して冷凍後、授乳時に解凍するというかなりの労力を要し、

搾乳時の衛生管理に留意する必要もある。

④ 搾乳パックなどの費用がかかる。

⑤ 冷凍母乳栄養による母子感染予防効果は、大規模の調査に基づくものではな く、また冷凍方法に違いによっても異なる可能性があるため、確実なものとは いえない。

- 31 - 表4 HTLV-1母子感染を予防するための栄養方法

栄養方法 完全人工栄養 短期母乳栄養 凍結母乳栄養

HTLV-1感 染、栄養方 法等の説明

時期

定義

一切、母乳は与えず、人工 乳のみで哺育する栄養方 法。

満3か月(生後90日)を越 えない期間、母乳を授乳 し、その後、人工乳により 哺育する栄養方法。なお、

母乳が不足した場合は人工 乳で補っても構わない。

一旦、搾乳した母乳を凍結し て、その後、解凍して哺育す る栄養方法。なお、母乳が不 足した場合は人工乳で補って も構わない。

長所

・感染した母乳が児の体内 に入らないため、母乳を介 した感染を予防するには最 も確実な方法。

・母乳栄養の利点を活かす ことができる。

・母乳栄養の利点を概ね活か すことができる。

短所

・母乳栄養の利点を活かす ことができない。

・母体からの中和抗体の量 や母乳中のウイルス量には 個人差があり、理論的に確 実な予防方法ではない。

・3か月の時点で、すぐに 断乳して、人工乳に切り替 えることが困難な場合があ る。

・満3か月までは完全人工 栄養とあまり変わらないと いうデータは、小規模の研 究に基づくものである。

・直接授乳することができな い点は完全人工栄養と同じ。

・リンパ球が不活化されるた めに、リンパ球を介した受動 免疫を付与できない。

・搾乳、凍結、解凍の作業が 必要である。

・理論的かつ実験的には完全 人工栄養に次ぐ予防効果が期 待されるが、大規模な研究で 有効性が確認された訳ではな い。

・薬物などで断乳すること ができる。

・初乳も与えてはならな い。

・母体から児に移行した中 和抗体が残存すると考えら れる期間だけ母乳栄養を行 い、その後、人工栄養を選 択する方法。

・より大規模な研究では、

6か月未満の母乳栄養は、

6か月以上の母乳栄養と比 べて、児の感染率が統計学 的に有意に低かった。

・搾乳した母乳をいったん冷 凍(-20℃、12時間)した後 に解凍して与える方法。家庭 用の冷蔵冷凍庫のように冷凍 する力が弱い冷凍庫でも実施 できるが、その場合は、24時 間以上冷凍させることが望ま しい。ただし、急速冷凍は避 ける。

・感染したTリンパ球が不活 化されるために予防できる。

・初乳を与える場合は凍結さ せる。

HTLV-1母子感染を予防するための栄養方法

出産までに、十分に状況を理解し、栄養方法を決定できる時期までに説明すること。で きれば、妊娠35週頃までにHTLV-1に感染していること、それぞれの栄養方法の長所・短 所等を説明する。ただし、妊娠初期は、妊婦の精神状態が安定していないことがあり注 意が必要。

備考

・いずれの栄養方法を選んだ場合でも、約3%は感染する。(子宮内感染、産道感染の 頻度)

・個別の事情に応じて、栄養方法の変更や栄養方法の手順の変更(例えば短期母乳栄養 に続いて凍結母乳栄養を行うなど)等があり得る。

関連したドキュメント