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東北アジア・ミサイル管理体制

ドキュメント内 研究報告 (ページ 63-85)

黒崎 輝

「人々の脳髄は、過去の思想の貯蓄場です。社会の事業は、過去の思想の発現です。だから、

もし新しい事業を建設しようと思うなら、その思想を人々の脳髄の中に入れて、一度過去の 思想にしておかなければなりません。なぜかというと、事業はいつも現在において、結果と

いう形で姿をあらわすが、思想はいつも過去において、原因という形をとるものだからです。」

中江兆民1

1.はじめに

 冷戦終結後、東北アジアでは北朝鮮による弾道ミサイルの開発や配備が地域安全保障に 対する主要な脅威の一つとして浮上した。弾道ミサイル不拡散という観点からは、北朝鮮 が弾道ミサイルや関連技術の主要な輸出国である点が問題視されてきた。また、弾頭ミサ イルは核兵器の運搬手段として使用できるため、北朝鮮の核兵器開発問題も、同国の弾道 ミサイル能力に対する周辺諸国の懸念を強めることになった。現在、北朝鮮は多数の短距 離・中距離弾道ミサイルを日本や韓国、両国に駐留する米軍に向けて配備しており、米本 土の一部に到達する長距離弾道ミサイルの開発を進めているとの観測もある2。北朝鮮の弾 道ミサイル能力は意図的に誇張されているか、あるいは情報の欠如のために過大評価され ているかもしれないが3、結果として、その弾道ミサイル関連活動が東北アジアの安定や安 全に甚大な影響を及ぼしてきたことは紛れもない事実であり、その動向に今後も注意を払 う必要がある。

 もっとも、同地域でミサイル関連活動を行っているのは北朝鮮だけではない。他の国々 もまた、弾道ミサイル、巡航ミサイル、その他多様なミサイルを開発、保有、配備してい る。そして、より重要なことであるが、北朝鮮による弾道ミサイルの開発や配備には、米 国とその同盟国、すなわち日本と韓国によって軍事的圧力を加えられていることに対する 反応という側面があることも否めない。おそらく北朝鮮を弾道ミサイル関連活動に駆り立 てているのは、そのような外圧だけではない。経済的利益や国内政治といった諸要因も作 用していよう。しかし、そうであったとしても、北朝鮮に対する軍事的圧力の緩和は、同 国の弾道ミサイル問題をめぐる行き詰まりの打破に役立つかもしれない。

ところが、現実はむしろ逆の方向に進んでいる。たとえば日本や韓国ではさらなるミサ イル軍備増強の不吉な兆候が見られる。その背後にあるのは、北朝鮮との関与には同国の 恐喝や軍事的冒険を抑止するための確固たる軍事力が必要なのだ、という論理である。そ して、日韓米3か国の政府は、満足な成果が得られる見通しもないまま、北朝鮮の弾道ミ サイル問題への従来のアプローチを継続している。

こうした状況の下、04年夏に米国はミサイル防衛(MD)システムの初期配備を開始

した。米本土、前進展開された米軍、同盟国や友好国を弾道ミサイルの攻撃から守ること が目的である。また、MDには米国の抑止力を補完する役割も期待されてもいる。しかし、

MDが米国やその同盟国の安全保障を強化できるかは極めて疑わしい。それどころか、東 北アジアにおいて否定的な帰結をもたらす可能性がある。第一に、米国のMD配備は、そ のMDの傘に入るもの(日本と韓国)と入らないもの(中国、北朝鮮、ロシア)の間に一 線を画すことによって、関係国の間の相互不信を強めるかもしれない。第二に、米国政府 はMDを弾道ミサイルの脅威に対抗するための「防衛的」手段と主張しているが、他の国

(たとえば中国や北朝鮮)は同国のMDを攻撃的で挑発的なものと認識するかもしれない。

なぜなら、それは、弾道ミサイルによる報復のリスクを低減し、米国政府にとって軍事行 動をとりやすい状況をつくるために使用されうるからだ。最後に、中国、北朝鮮、ロシア は、米国のMDの盾を打ち破ることができるだけの抑止力を維持するため、自国のミサイ ル戦力の増強を強いられ、結果として、東北アジアで新たなミサイル軍備競争が引き起こ される可能性もある。つまるところ、米国のMD配備は、東北アジアで不必要に不確実性 を高め、地域の安定を損ない、ミサイル軍拡を助長するかもしれないのである。

こうしてみると、東北アジアにおけるミサイルやミサイル関連活動を規制する方法を考 究することは、今日、実に時宜に適っているようにみえる。主要な地域諸国は地域ミサイ ル管理への取り組みを通じて、北朝鮮の弾道ミサイル問題を解決に導くことができるかも しれない。また、地域ミサイル管理を通じて北朝鮮以外の国々によるミサイル軍備増強も 防止できるかもしれない。北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が低減または除去されたとしても、

それとは無関係に自国のミサイル能力を強化しようとする国家がいるかもしれないからだ。

そして、地域ミサイル管理の努力は、東北アジアにおけるミサイルの脅威を低減し、地域 の国際政治環境の改善に寄与するだろう。

 ところが、これらの潜在的な利点にもかかわらず、東北アジアでは政府レベルでも、市 民社会でも、地域ミサイル管理に関するイニシアティブや合意が真剣に追求されてこなか った。しかも、現在、地域ミサイル管理は望ましいものであり、実現可能である、という 了解すら同地域の関係国は共有していない。しかしながら、地域ミサイル管理は北朝鮮の 弾道ミサイル問題に対処し、東北アジアの安定と安全を維持する上で、抑止やMDに対す る実現可能なオルタナティブ(代替策)となりうるものである。以下ではまず、ミサイル 管理のための過去および既存の措置と、それらの東北アジアにおける有効性を検討し、同 地域のミサイル問題に効果的に対処するためには新たな地域ミサイル管理制度が創出され る必要があることを指摘する。そして、東北アジアにおけるミサイル管理の障害について 議論し、それらを克服する可能性について考える。最後に、東北アジアでミサイル管理を 促進するための具体的な提案として、地域ミサイル制限体制構築への行程表を提示し、そ の内容について説明を加えてみたい。

 

ミサイルとは

(1)ミサイル

 ミサイルは、標的に向かって何らかのエンジンによって推進される無人の兵器である。無誘導の ものもあるが、今日では大多数のミサイルが何らかの誘導システムを持った誘導ミサイルである。

 ミサイルには様々な種類があるが、推進方式、飛行の形態、射程距離といった特徴によって次の ように分類することができる。 

 

<推進方式> 

①ジェット推進:ジェット推進は、ファン(プロペラの集まり)によって集めた空気を燃料と燃焼 させ、いきおい良く後ろに吹き出すことによって生じる噴出力で物体を前方に動かす動力である。

ジェット・エンジンは、現在では旅客機をはじめとしたほとんどの飛行機に使われている。ジェッ ト・エンジンによって推進されるミサイルには、巡航ミサイル(CM)がある。 

②ロケット推進:現在使用されているロケット推進は、ほとんどが化学ロケット推進である。小さ な出口のある部屋(推力室)の中で燃料をと酸化剤を化学反応(燃焼)させ、高温高圧のガスを作 ってそれを出口から超音速で噴出 

させることによって推力を生み出している。空気を必要としないので大気圏外の推進に欠かせな い。 

 

<飛行の形態>  

①弾道型:揚力を生むための翼を持たず、ロケットの噴射で姿勢を制御しながら、放物線に近い軌 道を描いて飛行する。この型のミサイルは通常、弾道ミサイル(BM)と呼ばれる。 

②それ以外:弾道ミサイル以外の誘導ミサイルは、飛行している間は動力によって推進され、翼に よって揚力を得たり針路を制御しながら目標に到達する。巡航ミサイル(CM)は、この部類であ る。 

 

<射程距離> 

 通常、射程によって次のように分類される。しかし、国際的に統一された分類方式ではない。 

①長距離:射程5500km以上 

②中距離:射程1000km−5500km(INF条約で定義されている)。 

③短距離:射程1000km以下   

(2)弾道ミサイル(BM)と巡航ミサイル(CM) 

 弾道ミサイルは、ロケット・エンジンで推進され、ロケット燃料が燃え尽きたあとは、基本的に は地球の重力と空気力学 

的な抗力に支配されて慣性飛行し、遠距離にある目標を攻撃する。放物線に近い軌跡を描く。典型 的な弾道ミサイルは、飛行コースの大部分をロケット推力なしで飛行し、また、飛行コースの多く の部分が大気圏外(宇宙)にある。射程が5500km以上の長距離弾道ミサイルは、大陸間弾道 ミサイル(ICBM)と呼ばれる。その多くは核弾頭を搭載し、文字通り大陸から大陸への核攻撃 を可能にする。 

 弾道ミサイルと対比されるべきものに、巡航ミサイルがある。巡航ミサイルは、ジェット・エン ジンの推進力と翼が受ける空気力学的な浮力で重力と抗力に打ち勝ちながら飛行する。全飛行コー スが大気圏内に留まっている。

ドキュメント内 研究報告 (ページ 63-85)

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