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)逮捕と勾留の概念の違い

日本では、逮捕といえば、被疑者の身柄を拘束して警察署等へ引致し、そのまま短期間の身柄拘束をする手続であり、勾 留とは別個の手続である。これに対し、ベトナムにおける通常逮捕は、勾留のためになされるものである。つまり、被疑者 を逮捕して、その身柄を拘束して警察署の留置施設へ連行し、その後の身柄拘束は勾留として取り扱われることになる(刑 事訴訟法

80

1

項) 。ベトナムでは、裁判所に加えて検察院及び捜査機関(但し、捜査機関の場合は検察院の承認が必要)

も逮捕・勾留権限を有し(刑事訴訟法

80

1

項、

88

3

項) 、裁判官による令状は必ずしも必要とされていない。

(5)捜査期間と捜査終了

犯罪の軽重に応じて、捜査機関による捜査のための期間が決められており、捜査期間は、事件の立件の時点から起算され る(ベトナム刑事訴訟法

119

条) 。捜査期間が満了すると捜査終了となり、捜査機関は捜査結論書を作成し、事件は捜査機 関から検察院に送付される(ベトナム刑事訴訟法

162

条) 。捜査期間については後述する。

2 その他の事件の場合

(1)突発性のある事件の捜査手続の流れ

現行犯逮捕や緊急逮捕など、突発性のある事件の捜査手続の流れは以下のとおりである。

捜査段階 公訴提起決定 公判準備段階

(検察官)

(捜査機関) (裁判官)

事件の発覚 被疑者の立件

事件の立件 捜査終了 公訴提起

被暫定留置人 被疑者 被告人

暫定留置 勾留

勾留 勾留

現逮・緊逮等

(2)暫定留置

現行犯人逮捕、緊急逮捕、氏名手配による逮捕の場合、事件の立件や被疑者の立件を行う前に、捜査対象者の身柄拘束を 行うことになる。この場合、まだ被疑者の立件が行われていないので、捜査対象者はベトナム刑事訴訟法上の「被疑者」で はないから、そのまま勾留の手続に移ることはできない。勾留は、被疑者又は被告人に対して行われる手続だからである

(刑事訴訟法

89

1

項) 。

そこで、この場合は、事件立件や被疑者立件を行うか否かを検討するため、捜査対象者を身柄拘束することが認められて いる。このような身柄拘束の手続のことを、 「暫定留置」といい、暫定留置された者を被暫定留置人という(刑事訴訟法

86

条、

87

条) 。暫定留置期間は、原則として

3

日(

2

回延長できるので、最大

9

日)である(刑事訴訟法

87

1

項、

2

項) 。

(3)その後の手続

捜査機関は、暫定留置期間中に行った捜査の結果、暫定留置人を被疑者として立件することを決定した場合には、被暫 定留置人は被疑者となり、身柄拘束は暫定留置から勾留に切り替わる。被疑者立件しない場合は、被暫定留置人をただち に釈放しなければならない(刑事訴訟法

87

3

項) 。暫定留置期間は、勾留期間から差し引かれる(刑事訴訟法

87

4

項) 。

3 公訴提起段階

日本では、警察が捜査を開始してから、検察官が終局処分を行うまでの間を全部含めて捜査段階というが、ベトナムでは、

事件が捜査機関から事件が検察院に送られた後から、公訴提起されるまでの間(起訴決定の期限については、ベトナム刑事訴 訟法

166

条を参照)を捜査段階ととらえており、捜査段階とは、実際に捜査が行われていた全期間とは異なる(ベトナム刑事 訴訟法

15

章参照) 。なお、ベトナムでは、日本法で言うところの起訴(公訴提起)は、 「

truy tố

(ツイ・トー) 」と呼ばれてい る。これは、漢字に当てはめると追(

truy

)訴(

tố

)となる。ベトナムの検察官は、独人制の官庁ではないので、公訴提起を行 うのは、検察官ではなく検察院である。

検察院は、事件記録及び捜査結論書を受け取った後、原則として

20

日以内に起訴を行うか否かを決定しなければならない

(刑事訴訟法

166

条) 。ベトナムでは、起訴便宜主義ではなく、起訴法定主義を採用しているので、犯罪事実が認められる場 合には必ず公訴提起されることになる。検察院は、①公訴提起、②補充捜査のための記録の差し戻し(刑事訴訟法

168

条) 、

③事件の中止又は停止のいずれかの決定を行う(刑事訴訟法

166

条、

169

条) 。

捜査機関における被疑者の勾留は、公訴提起がされる否かの判断がなされている間にも継続される(刑事訴訟法

166

2

項) 。裁判所が事件記録を検察院から受領した後は、裁判所の長官又は副長官が、勾留の適用、変更又は取消しを決定する

(刑事訴訟法

177

条) 。

4 各期間の長さ

捜査機関、捜査段階の勾留、起訴期限及び公判準備の期間は、犯罪の重大性にしたがって、以下のとおり個別に定められて いる。

重大でない犯罪

(懲役3年まで)

重大な犯罪

(懲役7年まで)

極めて 重大な犯罪

(懲役15年まで)

特に極めて 重大な犯罪

(懲役15年以上)

原則 2か月 3か月 4か月 4か月

延長回数 1回 2回 2回 3回

延長期間 2か月 1回目 3か月

2回目 2か月

それぞれ 4か月

それぞれ 4か月

原則 2か月 3か月 4か月 4か月

延長回数 1回 2回 2回 3回

延長期間 1か月 1回目 2か月

2回目 1か月

1回目 3か月 2回目 2か月

それぞれ 4か月

原則 20日 20日 30日 30日

延長 10日 10日 15日 30日

原則 30日 45日 2か月 3か月

延長 15日 15日 30日 30日

捜 査 期 間

捜 査 段 階 の 勾 留

起 訴 期 限 公 判 準 備

ⅢⅣ 弁護人の権利について 1 弁護人となるための資格

刑事訴訟法上、刑事手続において弁護人となるには弁護士である必要はなく、被暫定留置人、被疑者及び被告人の合法的 代理人、人民弁護員も、弁護人となることができる(刑事訴訟法

56

条1項) 。合法的代理人については、法令上明確に定義 がなされていない。人民弁護員については、ベトナム祖国戦線中央委員会

3

及び構成機関が、被暫定留置人、被疑者又は被告 人となった構成員を弁護するために人民弁護員を指名する権限を有すること(刑事訴訟法

57

3

項)以外、法律上規定が ない。この点に関して、ベトナム人弁護士に対するヒアリングでは、実務上、合法的代理人や人民弁護員が弁護人となるこ とは少ないといわれている。

当該事件で訴訟を行った者、当該事件で訴訟を行った者又は手続を行っている者の親族、証人、鑑定人又は通訳人として 当該事件に参加する者は、弁護人になれない(刑事訴訟法

57

2

項) 。

3 ベトナム祖国戦線とは、1997 年に北ベトナムの祖国戦線、南ベトナムの南ベトナム解放民族戦線、ベトナム民族民主平和勢力連盟が統合さ れてできた組織で、ベトナム共産党が党員以外の大衆を政治運動に動員するための団体である。祖国戦線は、共産党員以外に労働総連合、農民 連合、婦人連合、ホーチミン青年連合といった大衆組織も構成員になっている。憲法上、ベトナム祖国戦線とその構成団体は、人民国家の政治 的基盤であり、民族団結の伝統を高め、人民国家の建設に参加するものとされている(憲法 9 条)。中央レベルの祖国戦線は、国会への法案提 出権、国会議員選挙の際の立候補者名簿作成権限といった重要な権限を有している。なお、ベトナム弁護士連合会(VBF)も祖国戦線の構成員 である(VBF定款 43 条)。

2 弁護人を選任できる者

憲法上、被告人の弁護人依頼権は保障されており(憲法

132

条) 、

2012

年の憲法改正草案では、被疑者の弁護人依頼権も 保障されることになっている(憲法改正草案

108

7

項) 。

刑事訴訟法上、被暫定留置人、被疑者、被告人又はその合法的代理人は、弁護人を選任することができる(刑事訴訟法

57

1

項) 。また、上記のとおり、被暫定留置人、被疑者、被告人がベトナム祖国戦線中央委員会又はその構成機関の構成員 である場合、その所属機関は、人民弁護員を指名することができる(刑事訴訟法

57

1

項) 。

被疑者が祖国戦線又はその加盟団体のメンバーであり、所属組織に弁護人の選任を要求した場合、又は被疑者が自分の合 法的代理人か弁護士に弁護人としての活動を依頼した場合、捜査官はその依頼文書の作成を指導し、選任や依頼の相手方も しくは被疑者の所属組織に対し、24 時間以内に配達証明又は速達でその依頼文書を送らなければならない( 「刑事事件の捜 査段階における弁護人の権利保障に関連する刑事訴訟法施行細則」公安省第

70

/2011/TT-BCA

(以下「公安省通達第

70

号」 )

4

条) 。

3 弁護人を選任することができる時期

弁護人の選任時期については明文規定はない

4

が、弁護人は、被疑者の立件時又は被暫定留置人に対して暫定留置の決定が

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