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4 分 析

4.3 プール事故発生時の救命処置

4.3.3 本件事故における当該幼稚園の救命処置

本件事故では、事故発生直後に行われるべき 119 番通報や胸骨圧迫を 始めとした救命処置が行われなかった。この背景として、当該幼稚園の 一刻を争うような緊急事態に対応するための体制が十分でなかったもの と考えられる。

(1) 事故当時の当該幼稚園の対応

3.4.3のとおり、本件事故では、A教諭は男児をプールから引き上げ た後、園児がけがをしたなどの場合は事務所へ運ぶという、当該幼稚 園の慣行に従って事務所に男児を運んだが、事務所には教職員は誰も いなかった。補助の職員に呼ばれて事務所に駆けつけた園長は、男児 の頭を下にしたり、口に手を入れて水を吐かせようとしたりするなど の処置は行ったが、当該幼稚園からの 119 番通報は行われなかった。

また、4.3.2にあるような胸骨圧迫といった必要な救命処置が行われな かったと考えられる。

35) 呼び掛けに反応がない場合は、心肺が停止しているとみなし、②で胸骨圧迫を行う。

36) 水での事故(溺水)は気道確保と人工呼吸を優先する必要があるが、それ以外の傷病者に対しては人工

呼吸は必須ではない。経験がない場合やうまく行えない場合は、胸骨圧迫のみで構わない。

37) 心肺停止している傷病者の心電図を自動的に解析し、心室細動を起こしている場合に電気ショックによ

り除細動を行う。心室細動とは、心筋細胞が不規則に細かく興奮し震えている状態で、心臓からの血液 の拍出がなく、事実上、心臓が止まっている状態のこと。電気ショックを与えることにより、心臓に強 い電流を流し、正常な状態に戻す。

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その後、男児は近隣のクリニックに運び込まれ、医師による救命処 置がなされている。クリニックの職員が 119 番通報を行い、市内の救 急病院に搬送された。119番通報を行わずにクリニックに運んだ理由に ついては、園長の口述によると、救急車の到着には時間を要すると思 った、園医であるクリニックなら園児の状況を良く知っていると思っ たとのことであった。

しかし、一般の診療所や小規模の病院は、専門性・規模・設備等の 面から、溺水等の外因性の救急患者に対して、迅速かつ十分な処置を 行うことができるとは限らない。したがって、重篤な患者を発見した 場合は、直ちに 119 番通報を行い、救急医療に対応した病院に搬送す る必要がある。

(2) 緊急事態に対応するための体制

本件事故のように、プールで意識のない幼児を発見した場合は、直 ちに 119 番通報をするとともに、呼吸の確認と脈拍の有無(脈拍の確 認が困難な場合は呼び掛けに対する反応の有無)を確認し、状況に応 じて適切な救命処置を行うことが重要である。

事故当時、当該幼稚園では、緊急時の対応として、園児がけがをし たなどの場合は事務所へ運ぶという共通認識はあったものの、文書で 取りまとめたものは確認されなかった。また、本件事故のような重大 事故が発生し園児への救命処置が必要とされるような状態になった際 の具体的な対応や処置に関する教育や訓練は行われておらず、救命処 置を行うことができる教職員はいなかった。このことの背景として、

当該幼稚園は幼児のプール活動における溺水事故の発生リスクを低く 評価していたものと考えられる。

日常的に発生するけがなどであれば、共通認識や教職員の経験に基 づいて園児を事務所に運び、近隣のクリニックに運ぶといったことで、

これまでは対応できてきたかもしれない。しかし、本件事故のような、

日常的に経験することが少ない一刻を争う緊急事態に対応する備えと しては、十分な対応ではなかったと考えられる。

幼稚園等、幼児を預かる組織においては、日常的に発生する軽微な 事故への対応だけでなく、プール活動等の最中に発生する事故のよう な重篤な事故に対しても、状況に応じて必要かつ適切な判断や処置を 採ることができるよう、リスクを十分に認識し、連絡の手順等を明確

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にしておくとともに、教職員に対して十分な知識や技能の共有を図る 必要がある。

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