第 9 章 方程式
10.2 有限体の原始根
以上は複素数の話であったが,今度は,有限体の原始根を定義する.pを 素数とし,有限体Fp={0,1,2,· · · , p−1}から0を除いた集合F∗pとかく:
F∗p={1,2,3,· · ·, p−1}.
フェルマの小定理より,任意のa∈F∗pはap−1= 1よりp−1乗根である:
つまりFpにおいて,aは多項式xp−1= 1の根である.
36 第10章 原始根 定義10.1
a∈F∗pに対して,an = 1となる最小のn(1≤n≤p−1)をaの位数と いう.
p= 3,5,7,の場合について,以下,各元のべき乗を少し調べてみよう.F∗3= {1,2}で,12= 1,22= 1である.
F∗5:
a a2 a3 a4
1 1 1 1
2 4 3 1
3 4 2 1
4 1 4 1
F∗7:
a a2 a3 a4 a5 a6
1 1 1 1 1 1
2 4 1 2 4 1
3 2 6 4 5 1
4 2 1 4 2 1
5 4 6 2 3 1
6 1 6 1 6 1
以上の表から観察できること:
• 一番右側の列はすべて1である.(これは「フェルマーの小定理」ap−1= 1 である.)
• どの元a∈F∗pに対してもap−1= 1となるが,1≤n < p−1となるnで an= 1となるものもある.(F∗5では,1,4がそうで,F∗7では,1,2,4,6 がそうである.)しかし,1 ≤n < p−1となるどのnでもan ̸= 1で,
n=p−1で初めてan = 1となるものもある.(F∗5では,2,3がそうで,
F∗7では,3,5がそうである.)
• an= 1となる最小のn(1≤n≤p−1)はp−1の約数になっている.
命題10.2
どんなa∈F∗pに対しても,aの位数はp−1の約数である.
証明: a∈F∗p, a̸= 1に対してaの位数をkとする.すなわち,am̸= 1 (1≤ m ≤k−1), ak = 1とする.k ≤p−1だから,p−1をkで割ってその余 りがrとすると,p−1 = kq+r(0 ≤r < k)と表せる(qは商).このと き,r= (p−1)−kqなので,ar=a(p−1)−kq=ap−1(ak)−q = 1だから,も
しr̸= 0ならば,0< r < kよりaの位数がkであることに反する.ゆえに,
r= 0,すなわちkはp−1の約数である.
定義10.3
a∈F∗pに対して,aの位数がp−1であるものをFpの原始根という.
合同式を用いると次のようになる:
定義10.3’
pと互いに素な整数aが法pでの原始根であるとは,aがp−1乗して初 めて1と合同になるものをいう.
定理10.4
任意の素数pに対して,Fpの原始根は存在する.(唯一つではない,φ(n) 個ある.)
この定理の証明は長いので,別ノートにする.
命題10.5
Fpの原始根gに対して,gp−12 =−1(=p−1)である.
証明: x=gp−12 とおくと,フェルマの小定理より,x2=gp−1= 1である.ゆえ に,x=±1.しかし,gは原始根であるから,x̸= 1.ゆえに,x=gp−12 =−1.
原始根か否かのチェック方法
任意の素数pに対して,a∈F∗pの原始根か否かのチェックするには,1 とp−1以外のp−1の約数mで,amが1にならないことをチェックす ればよい.
例 26 • 3∈F13が原始根か否かを調べる.3の位数は,p−1 = 13−1 = 12 の約数なので,2,3,4,6乗を調べればよい.32= 9̸= 1,34= 3̸= 1,36=
27 = 1となる.したがって,3の位数は6であり,原始根ではない.
• 4∈F13が原始根か否かを調べる.4の位数は,p−1 = 13−1 = 12の 約数なので,2,3,4,6乗を調べればよい.42= 3̸= 1,44= 9̸= 1,46=
27 = 1となる.したがって,4の位数は6であり,原始根ではない.
5も原始根でないことがすぐ分かる.
• 6∈F13が原始根か否かを調べる.6の位数は,p−1 = 13−1 = 12の 約数なので,2,3,4,6乗を調べればよい.62= 10̸= 1,64= 9̸= 1,66= 12 =−1̸= 1となる.したがって,6の位数は12であり,原始根である.
38 第10章 原始根 演習問題10
1. (1)F11において2は原始根であることを証明せよ.
(2)F13において2は原始根であることを証明せよ.
(3)F17において2は原始根でないことと,3は原始根であることを証 明せよ.
2. (1) 1 + 2 + 22+ 23+· · ·+ 2100を11で割ったあまりを求めよ.
(2) 1 + 2 + 22+ 23+· · ·+ 2100を13で割ったあまりを求めよ.
(3) 1 + 3 + 32+ 33+· · ·+ 3100を17で割ったあまりを求めよ.
3. 問2(1)より定理を1つ作ってみよ.またそれを証明せよ.
4. 有理数 1
17の小数展開を筆算で計算して,小数第何位で循環し始めるか 観察せよ.一方,F17において10は原始根であることを証明せよ.
5. 問4より定理を1つ作ってみよ.証明はしなくて良い.
解法のヒント:例えば,1 (1)では,F11においては,位数はp−1 = 11−1 = 10の約数なので,1,2,5を調べればよい.22̸= 1,25̸= 1ならば,自動的に2 はF11の原始根となる.
例 27 上の乗積表より,F5の原始根は2,3の2つで,F∗5={2,22,23,24}= {3,32,33,34}であり,F7の原始根は3,5の2つで,F∗7={3,32,33,34,35,36}= {5,52,53,54,55,56}であることがわかる.
注意 18 F∗pは自然に群の構造を持つが,上に見たように原始根のべき乗です べての元が表される.そのような群を1つの元で生成された群だから「巡回 群」(cyclic group)といい,今の場合原始根rで生成されるからF∗p =< r >
と書く.F∗p =<2>またF∗5 =<3>でもあり,F∗7 =<3>でF∗7=<5 >
でもある.
第 11 章 指数
(前回の復習)pを素数とし,有限体Fp={0,1,2,· · ·, p−1}から0を除 いた集合F∗pに原始根とよばれる元が存在する(唯一つではなく,複数個).
a∈F∗p に対して,最初にan= 1となるn >0をaの位数といい,ord(a) で表す.
命題11.1
Fpの一つの原始根をrとすると,F∗pのすべての元はri(0≤i≤p−2) という形に書ける:F∗p ={r0, r, r2, r3,· · · , rp−2}.ただし,r0= 1と約
束する.
証明: 原始根とは位数p−1の元である: ord(r) =p−1.今,1≤i, j < p−1 でri=rjとなったとすると(j≤i),ri−j= 1だから,i−jはp−1の倍数 である.1≤i, j < p−1よりi=jである.
よって,{r0, r, r2, r3,· · ·, rp−2}は個数がp−1の集合だから,F∗p={r0, r, r2, r3,· · · , rp−2} となる.
定義11.2
a∈F∗pに対して,a=rkとなるk(0≤k≤p−1)が唯一つ定まる.こ れを
indr(a)
と表しa∈F∗pの原始根rに関する指数という.
注意: どんな原始根に関しても1の指数は0である:indr(1) = 0.
F5の原始根は2,3の2つだから,それぞれの原始根に関する1,2,3,4の指 数を求めてみよう.
表
a 2 3
a2 4 4 a3 3 2 a4 1 1
から,以下のようになる:
40 第11章 指数
a 1 2 3 4
ord(a) 1 4 4 2 ind2(a) 0 1 3 2 ind3(a) 0 3 1 2
例 28 F7の原始根は3,5の2つだから,それぞれの原始根に関する1,2,3,4,5,6 の指数を求めてみよう.
a 3 5
a2 2 4 a3 6 6 a4 4 2 a5 5 3 a6 1 1
から,以下のようになる:
a 1 2 3 4 5 6
ord(a) 1 3 6 3 6 2 ind3(a) 0 2 1 4 5 3 ind5(a) 0 4 5 2 1 3
補題
Fpの任意の原始根rに対して,rn= 1ならばnはp−1の倍数である.
合同式の言葉では,rn≡1(modp)ならば,nはp−1の倍数である.
証明: n = q(p−1) +k (0 ≤ k < p−1)とする.1 = rn = rq(p−1)rk = (rp−1)qrk =rkで,0≤k < p−1なので,k= 0でなければならない.
指数indr(a)はその定義の仕方から対数logに似ているが,それを以下の 命題で示す:
命題11.3
Fpの一つの原始根をrを一つ固定する.このとき
• indr(ab)≡indr(a) + indr(b) (modp−1)
• indr(an)≡n×indr(a) (modp−1) が成り立つ.
証明:indr(a) =m,indr(b) =n,indr(ab) =kとおくと,rm=a, rn=b, rk = abである.rk =ab=rmrn=rn+mであるから,rk−(n+m)= 1である.「補 題」より,k−(n+m)はp−1の倍数,すなわち,k≡n+m (modp−1) である.これは,indr(ab)≡indr(a) + indr(b) (modp−1)に他ならない.
注意 19 対数法則log(ab) = log(a) + log(b)の証明も同じである.
定理11.4
Fpにおける原始根rを一つ決めておく.このとき,F∗pの元の位数は p−1
(p−1,indr(a)) で与えられる.
証明: (p−1,indr(a)) =s, p−1 =sk, m= indr(a) =sℓとおく.(k, ℓ) = 1 である.定義から,a=rm=rsℓである.ord(a) =tとおくと,at=rmt= rstℓ = 1でtはそのような最小の正の整数である.mt=sℓtはp−1の倍数 であることと合わせて,t=kである.ゆえに,ord(a) =t =k = p−1
s =
p−1 (p−1,indr(a)).
定理11.5
Fp-係数の方程式xn−1 = 0がFpのなかに1以外の根を持つための必 要十分条件は(n, p−1)>1が成り立つことである.特に,n|p−1のと き,根はn個あり,1つ原始根rを決めておけば,p−1 =nsとしたと き,根は1, rs, r2s,· · ·, r(n−1)sで与えられる.
証明: r∈Fpを原始根とする.xn−1 = 0がFpのなかに1以外の根を持つな らば(n, p−1)>1であることを,対偶の形で示す.そのため,(n, p−1) = 1 と仮定し,∀α ∈ Fp(αn = 1) =⇒ α = 1を示す.(n, p−1) = 1ならば,
nk+ (p−1)ℓ= 1となる, k, ℓ∈Zが存在する.よって,α=αnk+(p−1)ℓ= (αn)k(αp−1)ℓ= 1である.
逆に,(n, p−1) =d >1ならば,xn−1 = 0がFpのなかに1以外の根を持 つことを示す.n=dn′, p−1 =dmとおく.このとき,d >1よりm < p−1 なので,rm̸= 1で,(rm)n=rnm=rn′(p−1)= (rp−1)n′ = 1n′ = 1だから,
rmはxn−1 = 0の解である.
特に,n|p−1ならば,p−1 = nsとするとき,j = 1,2,· · ·, n−1 に 対して,rjsはF∗pの相異なる元で,(xjs)n = xjns = nj(p−1) = 1である.
方程式xn−1 = 0のFp-解は高々n個なので(第7回講義ノート命題3),
1, rs, r2s,· · ·, r(n−1)sが解のすべてである.
例 29 F7-係数の方程式x3−1 = 0の解は上の命題より存在し,p−1 = 3×2 なので,rをF7の任意の原始根とするとき,1, r2, r4が解である,r= 3な らば,1,32 = 2,34 = 4,r= 5ならば,1,52 = 4,54= 2であるから,解は 1,2,4である.
42 第11章 指数 演習問題11
1. F∗pはFpから0を除いたものである.
(1)F11において2は原始根である(演習問題8の1(1)).各x∈F∗11 の2に関する指数ind2(x)と位数ord(x)を求めよ.
(2)F13において2は原始根である(演習問題8の1(2)).各x∈F∗13 の2に関する指数ind2(x)と位数ord(x)を求めよ.
2. (1)F11においてx5−1 = 0を解け.
(2)F13においてx4−1 = 0を解け.
(3)F17においてx8−1 = 0を解け.
3. 1から12までの整数のうち,100乗して13で割ると余りが1になるも のをすべて求めよ.
第 12 章 2 項方程式
(今回の目的)Fp-係数の2項方程式xn=aの解がいつ存在し,解がある ときの解の記述が原始根と指数を使って解明できることを示す.
Fp-係数の2項方程式xn−a= 0を「2項方程式」という.前回,a= 1の 場合の解の存在条件と解の記述について調べた.今回は,a∈Fp, a̸= 0とし て方程式を考える.p= 2のときは,a∈F2, a̸= 0 =⇒a= 1なので,方程式 はxn= 1で解はもちろん存在しx= 1である.したがって,以下ではp >2 を奇素数としよう.
まず,F∗p の原始根の一つをrとして固定する.いま,xn = aをみたす x∈Fp, x̸= 0が存在するとしよう.k= indk(x),x=rkとする.このとき,
indr(xn)≡n·indr(x) =n·k·indr(r) =nk≡indr(a) (modp−1).
したがってxn = aをみたすx ∈ Fp, x = rk が存在すれば,1 次合同式 nX ≡indr(a) (modp−1)に解X =kが存在する.
逆に,もし1次合同式nX ≡indr(a) (modp−1)に解X =kが存在すれ ば,x=rkとおくと,xn=aとなる.実際,nk−indr(a) =m(p−1)とす ると,xn = (rk)n =rnk =rindr(a)+m(p−1)=rindr(a)rm(p−1) =a·1 =aと なるから.
そして,1次合同式nX ≡indr(a) (modp−1)に解が存在するための必要 十分条件は(n, p−1)がindr(a)を割り切ることである.そのとき,1次合同式 nX ≡indr(a) (modp−1)の解は(n, p−1) =d個あり,X =k1, k2,· · · , kd
とすると,rk1, rk2,· · ·, rkdがxn =aのFp-解のすべてである.
44 第12章 2項方程式 Fp-係数の2項方程式xn =aの解法
F∗pの原始根rを一つとっておく.
• d= (n, p−1)を求める.
• indr(a)を求める.
• d|indr(a)ならば解はあり,そうでないなら解はない.
• d|indr(a)ならば,1次合同式nX ≡indr(a) (modp−1)の解をd 個求め,それらをX =k1, k2,· · ·, kdとすると,rk1, rk2,· · ·, rkd がxn=aのFp-解のすべてである.
例 30 F7における2項方程式x4= 2の解を求める.まず,F7の原始根3を とっておこう.このとき,2 = ind3(2)であり,(4,7−1) = 2なので,解は存 在する.次に,1次合同式4x≡2 (mod 6)を解く(解は2個ある).x= 2,5 とすぐにわかり,x4= 2のF7における解は,32= 2,35 = 5の2つである.
(原始根として5をとってももちろん解は同じ.)
特にn= 2のときは,より簡単に以下のようになる.
Fp-係数の2次の2項方程式x2=aの解法
F∗pの原始根rを一つとっておく.
• (2, p−1) = 2である.(p >2は奇数だから.)
• indr(a)を求める.
• indr(a)が偶数ならば解はあり,奇数なら解はない.
• indr(a)が偶数のとき,1次合同式2x≡indr(a) (modp−1)の解 の1つは,x= indr(a)
2 で, したがって±rindr(a)2 がx2=aのFp -解である.
例 31 F7における2項方程式x2= 2の解を求める.ここでは,F7の原始 根5をとっておこう.このとき,4 = ind5(2)は偶数だから解は存在する.次 に,1次合同式2x≡4 (mod 6)を解く(解は2個ある).x= 2,5とすぐに わかり,x2= 2のF7における解は,52 = 4,55= 3の2つである.(原始根 として3をとってももちろん解は同じ.)
最後にa=−1の場合を調べよう.Fpにおいてp−1を−1と表す.