第 5 章 最近の金融動向と今後の展望
2. 最近のリテール決済の動向
(1) リテール・バンキングへのシフト
昨今、ベトナムの銀行は、企業向け融資からリテール・バンキングへシフトし ている。ベトナムにおけるリテール・バンキングは、同国における人口増加と若 年層比率の高さから、今後の成長が期待される分野である。但し、現状では銀行 口座の普及がようやく始まった段階であり、課題も多い。
ベトナムでは、銀行口座を保有する個人は人口の3割前後と低水準に留まって いるが、これは国有銀行が国有企業向けの機関という構図の中で個人向けの銀行 サービス提供について積極的でなかったことに加え、消費者の側での銀行に対す る認知が低かった背景がある。
79 NNA News,「銀行再編に外資の参画呼び掛け=フン中銀総裁」(2016年5月13日)
80 NNA News,「「弱小銀行の破産容認」、銀行再編で副首相」(2016年10月25日)
https://www.nna.jp/news/show/1524384
81 Vietnam 「Vietnam-Japan financial leasing joint venture makes debut」
https://en.vietnamplus.vn/vietnamjapan-financial-leasing-joint-venture-makes-debut/117615.vnp
DIGIMA NEWS 「三井住友信託銀行とベトナムの銀行による合弁企業がハノイにオープン」
https://www.digima-news.com/20170911_24167
図表18: 銀行口座保有率の推移
(出所)世界銀行” Global Findex Database”より作成(閲覧日:2018年10月25日)
しかし今後は、経済の高成長、公務員給与の銀行振込みを推進する政策、ATM 等のトランザクションチャネルや電子的な支払手段を推進する政策・業界の取組 みによって、タンス預金として家計に留まっている資金が銀行預金の市場に急速 に流入するものと期待される。
大半の個人預金は1年以内、しかも3ヵ月や6ヵ月が多くを占めている模様で ある。預金者は、あまり長期間資金を預金に回す余裕がなく、急成長しているベ トナムでは様々な投資・消費機会に備えて流動性を確保しておく必要もある。イ ンフレ率の高さから名目金利が高いこともあり、預金者の金利選好は極めて強く、
銀行は預金者維持のために、常に競合先の動向に目を光らせ、より魅力的な金利 を提供しなければならない。
しかしその一方で、金の販売が預金と並んで銀行の有力な貯蓄商品としてライ ンナップされている。2008 年前半の急激なインフレとブラックマーケットでの ドン相場の急落といった現象もあり、余裕資金を金や米ドルで保持したいという ニーズも依然として強い。国内の大手上場銀行であるアジア商業銀行(Asia Commercial Bank)は独自に金の取引市場を運営しているほか、2008年夏には、
自行の刻印を施した延べ棒を発売した。
融資については、銀行・ノンバンクとは別に規制されている小規模金融機関が 取り扱う小規模融資(地方における貧困層向けの少額無担保融資)を除けば、無 担保融資は、信用力が極めて優れた融資先に限られている。このため、個人向け の融資に関しても、住宅ローンや自動車ローンといった担保付き融資以外の無担 保融資は、比較的少額のものに限らざるを得ない。その一方で融資金利の上限規 制、つまり、融資金利は政策金利であるベースレートの 1.5倍が上限とされてい るので、比較的高金利の小口無担保ローンを提供しようとしても、採算の合う金 利設定が困難であるのが現状である。
(2) キャッシュレス決済分野における政府の取り組み
キャッシュレス決済とは、クレジットカード決済やモバイル決済など、現金を 使わない方法での決済方法を指す。
0%
5%
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15%
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35%
2011 2014 2017 (年)
2016年12月にベトナムのフック首相は、2016~2020年における電子商取引 開発計画を承認した82。この計画では、2020年までに全流動性に占める現金の割
合を10%以下にすることや、国内全てのスーパーやショッピングセンターでキャ
ッシュレス決済が可能とすることなどが掲げられている。また、金融包摂を実現 するために、15歳以上人口のうち7割が銀行の口座を取得することも目標として いる。
ベトナム国家銀行は首相に対し、この計画の進捗状況の報告や、問題点への対 処法の提案などを行う方針である。
一方で、電子商取引の法整備が進んでいないことに加えて、この計画を実現す るだけのインフラが整っていないことなどを理由に、この計画の進捗には懐疑的 な意見も出ている83。
図表19: 2016~2020年おける電子商取引開発計画における目標
・全流動性に占める現金の割合を10%以下にする
・ベトナム国内全てのスーパーやショッピングセンターを含む、計30万箇所で販売 時点情報管理(POS)システムを導入し、キャッシュレス決済を利用可能とする
・電気・水道・通信業者の70%で電子決済を受け入れる体制を整える
・都市部の50%の個人が電子決済を利用する
・15歳以上の人口のうち 70%が銀行口座を保有する
(出所)ベトナム国家銀行” Government continues boosting non-cash payment”より作成
(閲覧日:2018年10月30日)
(3) キャッシュレス化の状況
ベトナム国家銀行(SBV)のデータによれば、銀行のキャッシュカード発行枚 数は2018年6月末で1億4,159万枚に達した84。
また、世界銀行が発表するGlobal Findex Databaseによると、デビットカード の保有率は26%前後でここ数年は横ばいで推移している。一方、クレジットカー ドの普及率は未だ4.1%と低水準ながらも、徐々に拡大している。
特に最近では、レジに備え付けられた読み取り機にカードをかざすだけで決済 が可能な非接触(Contactless)決済機能を具えたクレジットカードやデビットカ
82 ベトナム国家銀行ウェブサイト
https://www.sbv.gov.vn/webcenter/portal/en/home/sbv/news/news_chitiet?leftWidth=20%25&showFooter=false&sh owHeader=false&dDocName=SBV284366&rightWidth=0%25¢erWidth=80%25&_afrLoop=4138239565015312#
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83 SankeiBiz「ベトナム、ネット通販は年2.0%成長へ 電子商取引5年計画承認」
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/160909/mcb1609090500006-n1.htm(2018年10月30日閲覧)
84 ベトナム国家銀行 「Number of Bank Cards」
https://www.sbv.gov.vn/webcenter/portal/en/home/sbv/statistic/settleactiv/nobc
ードの普及が進んでいる。
米クレジットカード大手のVisaが行った調査によれば、2017年7月から2018 年5月までの期間において、同社の非接触決済サービスを利用した支払い件数は 月平均で44%増加した85。また、Visaの非接触決済カードの利用額は月平均43%
の増加となった。この機能を通じて、ファッション関連や美容品などが最も多く 購入されている。
図表20: クレジット・デビットカードの保有率(%)
(出所)世界銀行” Global Findex Database”より作成(閲覧日:2018年10月25日)
ただし、クレジットカードの普及には課題も残されている。クレジットカード の加盟店は、ハノイやホーチミンといった都市部では、百貨店や量販店、外国人 向けの商店を中心に一定程度の普及がみられるが、それ以外は限定的である。カ ード発行会社側の問題として、個人顧客のデータベースの正確性に欠け個人を特 定できない場合があることや、与信リスク管理技術が十分でないため貸倒れを制 御できない懸念もある。利用者側も、クレジットカードは一部の富裕層や海外旅 行を多くする人々のものだという感覚が根強く、高額な耐久消費財を含めて現金 で支払うのが通常である。この点については発行会社のマーケティングの強化が 課題となる。
カード発行業務は、銀行の他、ノンバンク、協同組織金融機関、非金融企業の うち銀行業務を行うことが認可されている企業が行うことができる。但し、それ
85 ベトナム総合情報サイトVIETJO
https://www.viet-jo.com/news/economy/180801154823.html(2018年10月26日閲覧)
14.6%
26.5% 26.7%
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20%
40%
2011 2014 2017
デビットカード保有率 クレジットカード保有率
(%)
(年)
らの企業は銀行と同様の健全性比率(自己資本比率や流動性比率)をクリアする 必要があることに加え、ベトナム国家銀行の各種規制や検査が適用されるため、
非金融企業の参入は、ノンバンクの事業免許を得ないと事実上困難とみられ、現 状ではカード発行会社は銀行のみである。
(4) モバイル決済の動向
モバイル決済とは、スマートフォンなどの携帯電話を用いて、財・サービスの 購入、送金、請求支払いなどの決済を行う手段で、キャッシュレス決済の一つと して位置づけられる。
先述したGlobal Findex Databaseによれば、ベトナムのモバイルマネーの利用 登録率は、3.5%と決して高いとはいえないまでも、クレジットカードの保有率と 並ぶ水準まで拡大している。
図表21: モバイルマネーの利用登録率(%)
(出所)世界銀行” Global Findex Database”より作成(閲覧日:2018年10月25日)
モバイル決済の利用者が増加している背景として、QR コードをスマートフォ ンなどの携帯端末で読み取ることで、決済を行う方法(QR コード決済)が徐々 に普及していることがある。Visa が行った調査(Consumer Payment Attitudes
Survey)では、65%の人が QR コード決済の存在を認識していると答えており、
東南アジアの中ではタイに次ぐ2位となっている。
0.5%
3.5%
0.0%
2.5%
5.0%
2014 2017
(%)
(年)
図表22: 東南アジアでのQRコード決済の認知度(%)
(出所)Visa” Consumer Payment Attitudes Survey”より作成(閲覧日:2018年10月25日)
QR コード決済の具体例として、街中の一部の自動販売機での支払いにも QR コード決済の利用が可能となっているほか、2017 年11月には首都ハノイに一般 的なレジがなく支払いをQRコード決済で行うコンビニが出店している86。
また、ベトジェットエア、ベトナム航空、ジェットスターパシフィックの 3 つ の航空会社では、チケットの購入サイトでQRコードを読み取ることで、航空券 の支払い決済を行うことができるようになっている87。
現在ベトナムで利用されているQRコード決済サービスとしては、ベトナム地 場のMサービス社が提供する「モモ(MoMo)」、MOCAテクノロジー&サービ スの「Moca」などが挙げられる。
地場企業が外資系企業と提携する事例も徐々に出ている。2017年11月には中 国で電子決済サービスを提供する支付宝(アリペイ)とベトナム国家決済社
(NAPAS)が提携したほか88、同じく中国で決済サービスを手がける微信支付(ウ ィーチャットペイ)についてもベトナム通信大手モビフォン傘下の「Vimo」と組 み、ベトナムにおいて中国人旅行客が、アリペイやウェーチャットペイなどの決 済サービスが利用できるようになった89。
また、2018年 6 月には、ベトナムの電子決済の大手ベトナム・ペイソリュー ションズが、中国銀聯(チャイナユニオンペイ)傘下の銀聯国際(ユニオンペイ・
インターナショナル)と、QRコード決済分野での提携契約を交わした90。同年10 月末までに、国内の3万店でユニオンペイのQRコードサービスが利用可能とな る。
86 NNA 「初のレジ無しコンビニ、HCM市に登場」(閲覧日:2018年10月31日)
87 ベトナム総合情報サイトVIETJO https://www.viet-jo.com/news/economy/181009214500.html
(閲覧日:2018年10月26日)
88 ベトナム情報総合サイトVIETJO https://www.viet-jo.com/news/economy/171116125904.html
(閲覧日:2018年10月29日)
89 NNA https://www.nna.jp/news/result/1685355(閲覧日:2018年10月29日)
90 ユニオンペイ・インターナショナルウェブサイト(閲覧日:2018年10月26日)
https://www.unionpayintl.com/en/mediaCenter/newsCenter/companyNews/3968.shtml
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タイ ベ トナ ム
イン ドネ シア
マレ ーシ ア
シン ガポ ール
フィ リピ ン
ミャ ンマ ー
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東南アジア平均