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4. 補修後の維持管理…

4.2 補修の施工後の点検

点検の実施に先立ち,対象コンクリート構造物の種類や施工された補修工法,補修材料の種類に応じて,

点検計画を作成することとする。

【解説】

補修後のコンクリート構造物の点検を適切に行うためには,事前に点検計画を作成する必要がある。点 検計画では,①既往資料の調査,②点検項目と方法,③点検体制,④現地踏査,⑤管理者協議,⑥安全対 策,⑦緊急連絡体制,⑧緊急対応の必要性が生じた際の連絡体制,⑨工程などについて計画することが望 ましい。①既往資料の調査では,構造物の諸元や立地条件などについて橋梁台帳などを参考に調査すると ともに,補修工事の工事報告書や各種検査結果について調査することが必要である。また,既往資料の調 査結果により,②点検項目と方法を定めると良い。点検項目と方法の設定については,4.2.3 点検の項目 と方法に記す。

4.2.2 点検の頻度

補修の施工後に実施する定期点検は,初回点検を補修の施工から1年程度で実施し,その後は適切な頻 度で実施することとする。

【解説】

施工条件が不適切な場合,補修後1年以内の早期に補修箇所の再劣化が生じるおそれがある。例として,

解説 図-4.2.1 に施工条件の相違が表面被覆材に発生する変状に及ぼす影響について検討した結果を示 す。本実験は,基材に W/C=75%のモルタルを用い,基材の表面水分率と施工環境を変化させて表面被覆 材を施工し,屋外暴露試験により表面被覆材の変状の有無を確認したものである。この結果から,20℃

60%RHの雰囲気で乾燥面(8%以下の表面水分率)に施工した表面被覆材は,暴露日数約 600日でも変状

が発生しなかったものの,5℃90%RHの雰囲気で湿潤面(8%を上回る表面水分率)に施工した表面被覆材 は暴露日数約250日で変状が発生し,暴露日数の増加とともに変状割合は増加傾向を示した。このように,

補修後早期に不具合が生じた場合は,補修工事の際に何らかの不具合があったか,補修効果が不足して,

コンクリート構造物の劣化を抑制できなかった可能性が考えられる。このため,補修の施工から1年間は,

日常点検の際に注意して観察するとともに,季節が一巡した1年程度で初回の定期点検を実施することが 必要である。一方,寒冷地では冬季を過ぎた春頃に変状が出ることが多い傾向にあるため,注意が必要で ある。また,初回の定期点検以降に実施する定期点検の頻度は,コンクリート構造物の種類や機能,重要 度を考慮して,適宜設定する。例えば,橋梁の場合,5 年に 1 回の頻度が基本とされている 1)。日常点検 や定期点検の結果,変状が確認され,詳細な点検が必要と判断された場合は詳細点検を実施する必要があ る。

0 20 40 60 80 100

0 0.5 1 1.5

変状発生割合[%]

20℃60%RH乾燥面 5℃90%RH湿潤面

4.2.3 点検の項目と方法

補修の施工後に実施する点検の項目と方法は,コンクリート構造物の種類や補修工法,補修材料の種類 により,適切に設定することとする。

【解説】

コンクリート構造物の種類は,橋梁,ダム,護岸,水路,擁壁など,多岐に渡るため,補修後のコンク リート構造物の点検の方法は,コンクリート構造物の種類により適切な方法を採用する。構造物の種類ご とに定められた点検方法があれば,それに従うと良い。

補修が施工されたコンクリート構造物に生じる変状は,適用した補修工法や補修材料により異なる。例 えば,ひび割れ修復工法では,ひび割れ注入による補修を行うことにより,ひび割れ近傍の応力伝達が回 復して,ひび割れ修復部の近傍で新たにひび割れが生じることがある。断面修復工法では,断面修復箇所 の近傍における鉄筋のマクロセル腐食,断面修復部と母材コンクリートの境界部における浮きやひび割れ などがある。表面被覆工法では,表面被覆材が下地コンクリートとの一体性を失って,膨れや剥がれを生 じることがある。これらの変状は,補修の施工時の作業環境や施工後の供用環境に起因する変状や,構造 物の劣化が進行して生じる変状など様々である。したがって,適用した補修工法や補修材料に応じた点検 項目と点検方法を設定する必要がある。この例を解説 表-4.2.1 に示す。なお,点検に際して着目する 点は,表に示した点検項目を参考にすると良い。

点検の方法は,近接して目視により行うことが好ましいが,変状の種類によっては目視だけでは検出で きない可能性もある。そのような場合,解説 図-4.2.2に示した器具を用いた触診や打音による調査を含 めた非破壊試験が有効であることも多く,必要に応じて,これら目視以外の方法も併用すると良い。ただ し,過度の打撃による打音調査は補修材料を損傷させるおそれがあるため,注意が必要である。一方,調 査器具や調査機器を用いた調査触診や打音による検査,赤外線調査などの非破壊検査では,機器の性能や 調査者の技量など様々な条件が調査精度に影響を及ぼすため,事前に適用範囲や調査方法の詳細について 検討しておくことが必要である。

なお,解説 表-4.2.1に示した点検方法により変状が確認され,詳細な点検が必要と判断された場合は 詳細点検を実施する必要がある。詳細点検では,日常点検や定期点検で実施した項目について,より詳細 に点検を行うとともに,場合によってはコンクリートコアの採取や既設鉄筋のはつり出しなどの破壊試験 について実施の検討をする必要がある。ただし,できる限り小規模な範囲で実施することが望ましい。こ れらの詳細は,参考文献1),2),3),4)などを参考にすると良い。

解説 表-4.2.1 補修工法に応じた点検項目と方法の例

補修工法

点検項目

(点検の際に着目すべき点) 点検方法

対応する不具合事例

(事例No.

表面被覆工法

浮き,膨れ 目視,触診 2,3,10,11

剥がれ 目視 4567

ひび割れ 目視,クラックスケール 1,16,21 漏水,遊離石灰,錆汁などの滲出 目視 89151718 変退色,白亜化,

光沢の低下などの美観の低下

目視,触診,光沢度計など

発泡,ピンホール 目視

縮み 目視

表面含浸工法 変色(白化) 目視

断面修復工法

断面修復後の浮き,剥がれ,剥落 目視,触診

打音検査,赤外線調査 12141620 断面修復材表面のひび割れ 目視,クラックスケール 13

ひび割れからの漏水,遊離石灰,錆汁

などの滲出 目視

摩耗や凍害によるスケーリング 目視

ひび割れ修復工法

ひび割れ 目視,クラックスケール

漏水,遊離石灰,錆汁などの滲出 目視 22,23,24

補修材料の押し出し 目視

解説 図-4.2.2 触診や打音による調査に用いる器具の例 打音検査に用いる調査器具の例

(補修材料への打撃は過度に行わない)

触診に用いる検査器具の例

4.2.4 点検結果の記録

点検の結果は適切な方法で記録し,構造物を供用する期間はこれを保存する。

【解説】

点検結果の記録は,維持管理を行ううえで非常に重要であるため,コンクリート構造物の種類や機能に 応じて,適切な方法で記録し,構造物を供用する期間は保存する必要がある。構造物の種類に応じて既に 定められた方法や書式があれば,それらを参考にすると良い。例えば,橋梁であれば,「橋梁定期点検要 領 付録-3 定期点検結果の記入要領や橋梁の維持管理の体系と橋梁管理カルテ作成要領(案)」1)が参考 になる。

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