6.1 新たな入力関数決定法を用いた脳血流定量法の開発 6.1.1 経緯
123I-IMP,99mTc-HMPAOおよび99mTc-ECDは,SPECTによる局所脳血流量 (rCBF) の定 量的測定に用いられている[9-14].虚血性脳血管疾患患者の脳血流状態を客観的に評価す るためには,局所脳血流量の定量的測定が重要である[9-14].
脳組織への123I-IMPの初回循環は高く,注射後の初期段階では脳組織からの逆拡散は 無視できる程度である[10,16].123I-IMPのこれらの特徴は,脳組織へのその蓄積とrCBF との間の良好な線形相関をもたらす.123I-IMPを用いたMSモデルに基づく標準的な脳血流 定量法における入力関数は,連続的な動脈採血とそのオクタノール抽出の測定によって得 られる[16,18,55].しかしながらこの方法は,侵襲性が高く,臨床における日常的な検 査で使用するにはその操作が複雑である.
飯田らが開発した2-conpertment modelに基づく123I-IMP ARG法は,一点の動脈採血の みが必要である.このため,MS法の代わりに臨床現場で簡便な方法として広く使用され ている[17,56].しかしながら,これらの方法では,何らかの形の動脈採血を必要とし,
通常の臨床検査にそれらを適用することを困難にしている.臨床適用のためには,非侵襲 的または低侵襲的な手法を用いたSPECT検査が望ましい.非採血による定量的測定は,単 純で苦痛のない手順であるため,臨床検査に有用である[31].
動脈採血を伴わない123I-IMP SPECTを用いたいくつかの非侵襲的定量法が提案されて いる[22-26,56].これらの方法は,複雑な手法を用いた入力関数の決定が重大な問題を 引き起こすため,動脈採血を含む従来の方法よりも低い精度を示すことが示されている [22-26,56].したがって,再現性が保証された採血を必要としない簡便な入力関数決定 プロトコルに基づく新たな非侵襲的定量法が,臨床検査に必要とされている.
近年,99mTc-ECD SPECTを用いた新たな非侵襲的定量法であるIBUR法が報告されて
いる[31].この方法では,正確な入力関数を得るために,血流動態に基づいて,ROIの位
123I-IMPは,静脈内に注射された後に肺に蓄積し,肺から徐々に全身に放出される.
その肺における蓄積は,脳における蓄積に比例する[22,23,57].動脈血中の123I-IMP濃 度は,動脈血流動態に基づく123I-IMP胸部RI-angiographyにおける肺のカウントおよび肺か らのwashoutを分析することによって推定される.これらの画像解析は,IBUR法の領域設 定手順を適用することによって行うことができる.新しい非侵襲的な123I-IMP入力関数決 定プロトコルを構築することができれば,rCBF値はMS model解析により容易に計算する ことができる.
本研究の目的は,MS法に基づく簡便な入力関数決定プロトコルを用いて簡便な非侵 襲的123I-IMP定量法 (Simple none-invasive microsphere method: SIMS法) を開発し,この方 法の臨床的有用性を確認することである.
6.1.2 原理
MS法では,rCBF値は以下のように表される.
𝑟𝐶𝐵𝐹 = 𝐶W(𝑡) / ) 𝐶j(𝜏) 𝑑𝑡 (6.1)
Cb(t) が123I-IMP注射後の時間tにおける脳内の放射能濃度で,Ca(τ) が入力関数で ある.
胸部のRI-angiography上で,肺動脈 (PA) および肺の時間放射能曲線 (TAC) を分析 することにより肺への流入量およびwashout ratio (WR) をそれぞれ求めた.123I-IMPは中 性の脂溶性物質であり,静注後,初回循環時に極めて高率に肺野に取り込まれ,その後 徐々に動脈血中へ放出され,血液脳関門を通過し脳内のアミン結合部位へ集積する.した がって123I-IMP投与直後からの胸部RI-angiographyによるTACを解析することによっ て,WRが算出可能になる.
PAのTACを図5.1aに示す.肺への流入量は,PAのTAC下の面積 (AUCPA) をその 指標とした.
図6.1a 肺動脈からの典型的な時間放射能曲線
図5.1bは肺のTACとWRの関係である.肺のピーク放射能 (Lpeak),肺の最大計数時 間 (T),および時間tにおける肺の放射能 (L(t) ) から,捕獲率 (TR) は以下のように定義 した.
AUCPA Time-activity curve of PA
0 t (min)
counts
PA ROI setting ROI
Fig.1a
Lpeak
Washout ratio
Trapping ratio
0 T t (min) L(t) Lung time-activity curve
Lung ROI setting
ROI𝑇𝑅 = ) 𝐿(𝑡)
,
Z 𝑑𝑡 𝐿² hijB∗ (𝑡 − 𝑇) (6.2)
WRは,肺の捕獲率の余事象として以下のように定義した:
𝑊𝑅 = 1 − 𝑇𝑅 (6.3)
入力関数が123I-IMPの肺への流入と肺からの洗い出しを反映すると仮定すると,入力 関数は次の方程式から線形回帰により推定できる.
) 𝐶j(𝜏) 𝑑𝑡 = 𝑎 × 𝐴𝑈𝐶³´× 𝑊𝑅 + 𝑏 (6.4)
定数a,bは線形回帰分析によって求めることが可能である.動脈採血値が胸部の
RI-angiographyから推定できるならば,入力関数∫ 𝐶j(𝜏) 𝑑𝑡は推定した入力関数と入れ替
えることが可能である.したがって,rCBF値は,MS modelを用いることにより以下のよ うに非侵襲的に算出できる.
𝑟𝐶𝐵𝐹 = 𝐶W(𝑡) /(𝑎 × 𝐴𝑈𝐶³´ × 𝑊𝑅 + 𝑏) (6.5)
6.1.3 対象および撮像条件 Subjects
川崎医科大学病院で123I-IMP胸部RI-angiographyとSPECT検査の両方を受けた27人 の連続した患者 (年齢45〜78歳,平均年齢61.2歳) をSIMS法の理論構築に使用した.
患者集団は,構音障害1例,高次脳機能障害7例,認知症3例,内頸動脈狭窄4例,中大 脳動脈狭窄2例,モヤモヤ病1例,うつ病3例,脳梗塞4例,てんかん2例を対象とした
(表6.1) .SIMS法のデータを持続動脈採血データと比較して分析し,入力関数推定のた
めの回帰式を得た.
表6.1 Clinical diagnoses of subjects (Kawasaki Medical School Hospital)
さらに,川崎医科大病院で123I-IMP検査を受けた41人の連続した患者 (男性27人,
女性14人,年齢18〜82歳,平均年齢62.5歳) および熊本大学病院で123I-IMP検査を受 けた9人の連続した患者 (男性5人女性4名,年齢40歳〜75歳,平均年齢64歳) を SIMS法の精度の検証に用いた.川崎医科大学病院の患者数は,高次脳機能障害患者7 名,認知症患者6名,ICA狭窄患者9名,MCA狭窄患者1名,モヤモヤ病患者5名,う
Dysarthria
1
Higher-order brain dysfunction
7
Dementia
3
ICA stenosis1)
4
MCA stenosis2)
2
Moyamoya disease
1
Melancholy
3
Cerebral infarction
4
Epilepsy
2
Total
27
1) Internal carotid artery: ICA 2) Middle cerebral artery: MCA
表6.2 Clinical diagnoses of subjects (Kawasaki Medical School Hospital)
熊本大学病院の患者は,認知症2例,ICA狭窄3例,MCA狭窄2例,脳梗塞の患者 2名を対象とした (表6.3).41人および9人の患者は,MS法およびSIMS法を用いrCBF 値を算出し,平均CBFを比較した.本研究において,肺疾患を有する患者はいなかっ た.研究は各参加機関の機関倫理委員会の承認を得て行われ,すべての患者または法的保 護者から文書による同意が得られた.
表6.3 Clinical diagnoses of subjects (Kumamoto University Hospital)
Higher-order brain dysfunction 7
Dementia 6
ICA stenosis1) 9
MCA stenosis2) 1
Moyamoya disease 2
Melancholy 5
Cerebral infarction 8
Transient ischemic attack 2
Spinocerebellar degeneration 1
Total 41
1) Internal carotid artery: ICA 2) Middle cerebral artery: MCA
Dementia 2
ICA stenosis1) 3
MCA stenosis2) 2
Cerebral infarction 2
Total 9
1) Internal carotid artery: ICA 2) Middle cerebral artery: MCA
Input function and rCBF
SIMS法では,PAのTACは,すべてのdynamic画像の中でPA上に直径2ピクセル の円形ROIを置くことによって得られた.最初のピークのAUCは,ガンマ関数を当ては めることによって得られた.WRの肺のTACは,鎖骨下静脈,腕頭静脈,上大静脈
(SVC) の重ならない場所に肺ROIを設定することで得られた (図6.1b).両肺の平均値を
WRとした.2分後のTACは,指数関数を適合させることによって推定した.式(5.4) を 用いて0〜5分のWRを用いてAUC×WR (SIMS index) の値を求めた.
MS法では,123I-IMP注入後5分間,上腕動脈から一定速度で連続的に動脈採血を行
った.血液サンプルの全放射能をウェルカウンターで測定した.採取した血液0.5 mLと オクタノール2 mLとの混合物を,3000 rpmで20分間遠心分離した.動脈血1.0mLあた りのオクタノール抽出カウントをウェル型NaIシンチレーションカウンターで測定した.
入力関数の指標とオクタノール抽出カウントとの間の相関は,線形回帰分析によって 決定され,SIMS法の入力関数は,回帰式を使用して計算された.SIMS法で測定した rCBF値をreferenceであるMS法のrCBFと比較した.MSおよびSIMS法によるrCBF値 は,式(5.1) および式(5.5) を用いてそれぞれ得られた.
123I-IMP画像は,2検出器SPECTスキャナ (E-cam,Siemens,Germany:Kawasaki Medical School Hospital (system1) ) およびMillennium VG,GE,USA:熊本大学病院 (System 2 ) ) により得た.123I-IMPの222 MBqのボーラス注入後に,低エネルギー汎用
(LEGP) コリメータを備えた検出器を用いて,胸部の123I-IMP dynamicプラナー画像を2
分間 (1秒/ frames,128×128マトリクス) 撮影した.System1および2の異なる2つのシ ステムにおけるピクセルサイズは,それぞれ2.21および4.00 mmであった.TEW散乱補 正のためにmain window157 keVを中心とし幅が20% (32 keV) ,上下の2つの追加 windowの幅が7% (11 keV) が投影データ用に選択された.
SPECTは,LEGPコリメータを備えたスキャナを使用して,25分間の中央走査時間
で行った.投影データは,検出器を360°(60ステップ/ 360°/ 20秒,128×128マトリック ス) で連続的に回転させることによって20秒ごとに取得された.SPECT画像は,OSEM 法 (subsets 4,iterations 40) を用いて得られた.頭部表面から輪郭をSPECT画像の閾値 で抽出して,Chang法を用いて減弱補正を行った.減弱係数0.12 /cmおよびButterworth
ROI for the rCBF analysis
すべてのSPECT画像は,rCBFの客観的評価のために,3DSRTを用いて解剖学的に
標準化された [50].3DSRTは,脳梁辺縁,中心前,中心,頭頂,角回,側頭,後大脳,
脳梁周囲,レンズ核,視床,海馬,小脳半球の24の部位,636個のROIからなる.SIMS 法の再現性を改善するために,3DSRTアルゴリズムを使用して解剖学的に標準化された rCBFを取得し,C ++を使用した半自動解析ソフトウェアを開発した.rCBF値は,この研 究における各セグメントの平均値として定義した.平均CBF (mCBF)値は,24個のセグメ ントのrCBF値の平均として得られた(図6.3)
図6.3 SIMS法で得られたrCBF画像と3DSRT ROI設定
(Takeuchi R,Yonekura Y,Matsuda H,et al.: Eur J Nucl Med,29 (3),331-341,2002.)
6.2新たな入力関数決定法のARG法への適応 6.2.1経緯
我々は,胸部RI-angiographyおよびSPECT画像を解析することにより,MS modelに 基づき,two-dimensional ordered subset expectation maximization (2D-OSEM),Changの減衰
補正,散乱補正 (triple energy windows法:TEW) を用いた,単純な非侵襲的な123I-IMP定 量法を開発した (SIMS法) [62,63].SIMS法のrCBF値は,MS法での持続動脈採血とオ クタノール抽出から得られた値とほぼ等しかった[16,62].
その簡便な手法から,現在,日本ではMS法ではなく,2-compartment model を用い
た123I-IMP ARG法が,臨床で広く使用されている[17,22,61,63-65].FBP 法を用いた
MS法によって得られた rCBF値は,FBP法を用いたARG法によって得られたrCBF値よ
り約20%高い[55].ARG法を使用している施設が,SIMS法に切り替得る時,異なるコン
パートメント解析に起因するARG法とSIMS法の間のrCBF値の相違は,診断に問題を もたらす可能性がある[16,59].したがって,ARG法とSIMS法で得られたrCBF値の相 関を明らかにする必要がある.
ARG法の入力関数は,一点動脈採血と標準入力関数によって推定される[17,59].
SIMS法の入力関数は,胸部RI-angiographyを解析して得られた肺動脈の時間-放射能曲線 の曲線下面積 (AUC) と肺のWRを用いて決定した[62].理論的には,ARG法の採血カウ ントは,AUCと1点でのWRを用いたSIARG法の積に比例するはずなので,SIMS法は 単純な非侵襲的ARG (SIARG) 法に容易に変更できる.MS法の持続動脈採血に対し,
ARG法は1点動脈採血であるため,SIMS法の積分値から求めたWRを本法では1点で のWRで算出した.SIARG法とARG法のrCBF値の間に良い相関が見られれば,ARG 法を使用している施設は,SIARG法に切り替えることが容易である.さらに,rCBF値 は,完全自動プログラムを使用して,SIARG法からSIMS法に変換することが可能であ る.
本研究の目的は,SIMS法を改良して非侵襲的脳血流定量法(Simple none-invasive
autoradiography method: SIARG法)を開発し,臨床適応の可能性を確認することである.
6.2.2原理
ARG法のrCBF値は以下のように表される.
𝐶W(𝑡) = 𝜌 ∗ 𝑓 ∗ 𝐶j (𝑡) ⊗ 𝑒A(¶∗
R
J·)∗, (6.6)