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新たに育成された品種を選択する消費者の購買意思決定プロセス

第1節 目的と課題

消費者による商品の選択行動である購買意思決定プロセスは,情報処理問題として 捉えられる。イチゴの品種は,購買時点で店頭に表示されているため,消費者は品種 名を手がかりの一つとして購買意思決定を行っている。また,イチゴは都道府県が主 体となって活発な品種開発競争が行われており,同時に,都道府県のブランド化事業 等によって新品種を有利販売に結び付けようとする取り組みが各地で進んでいるため,

近年,店頭に並べられるイチゴの品種が増えてきている。しかし,そうした新たに育 成された品種を選択する消費者の購買意思決定プロセスについてはほとんど研究され てこなかったため,産地戦略の構築や具体的なマーケティング活動は手探りの状態で 行われている。

こうしたイチゴの購買時点における品種情報や産地が地元産であることの訴求が 消費者に高い効用をもたらすこと,また,地元育成品種であることが消費者に肯定的 に評価されること,さらに,品種名がもたらすイメージや育成地のような属性を伝達 できることについてはこれまで述べてきた。ここでは,模擬的にイチゴ品種を選択す ることによって,消費者が購買意思決定プロセスにおいて品種の情報をどのように処 理しているのか,そのメカニズムを明らかにすることが目的である。

品種の情報が購買意思決定プロセスについてどのように処理されるのかについて は,提示された選択肢から最終的な選好に至るまでの絞込みの過程を取り扱うことと し,新たに育成された品種がどのようなプロセスを経て選好に至るのかについて論じ る。また,品種の情報と価格設定の関係については不明な点も多く,価格差がどのよ うに品種の選択行動に影響するのかも本章の重要な論点となる。

本章では,消費者の個人特性の定量化を行い,イチゴの品種に関する模擬的な購 買行動を通じて,購買意思決定プロセスにおける選好のメカニズムを分析する。課題 の第1として,消費者の意識をモデル化し,選択行動に影響を与えると考えられる因 子を抽出する。第 2に,購買意思決定プロセスにおける知名および考慮,選好の各段 階を明らかにする。第3に,知名集合および考慮集合のサイズと,その決定因につい て消費者意識の因子も導入して解析を行う。第 4に,知名および考慮,選好の各段階 から消費者を類型化し,新たに育成された品種を選好する消費者類型を探索する。第 5に,新たに育成された品種を選好する消費者類型の選好理由を明らかにする。

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第2節 消費者の購買意思決定プロセスと考慮集合

1.農産物における購買意思決定プロセスに関係する先行研究

農産物の購買行動のなかでも購買意思決定プロセスにおける研究蓄積は必ずしも多 くない。近年の研究成果として,梅本[1]は消費者情報処理理論を適用し,実店舗に おいて眼球運動分析とプロトコル法などを併用して購買意思決定プロセスを分析して いる。この研究は観察不可能である購買意思決定の内的プロセスを動態的に捉えよう としている点に特色がある。また,新山ら[2]は情報処理プロセスの概念モデルを提 示し,実店舗における発話思考プロトコル分析によって検証した情報処理プロセスに おける決定方略について論じている。これらの農産物における購買意思決定プロセス に関する先行研究は,いずれも消費者に対する表示や情報提示を検討することを背景 としており,実店舗における多様な品目,価格,量目,情報を対象とした実践的な内 容である。しかし,発話思考プロトコルや眼球運動分析等のデータ収集手法は,個人 単位で得られるデータは豊富であるものの,梅本[1]によればデータの分析手法が方 法論として確立されていないという問題点があり,また,こうした手法ではサンプル サイズを大きくとることが困難であるため,新山ら[2]では,統計量を得るにいたっ ていない。店舗内での行動研究は,現実の購買行動を対象にできるメリットはあるが,

行動の結果として現れる外的要因のデータを分析するため,消費者行動のブラックボ ックスである内的要因へのフィードバックには限界があると考えられる。

本研究では,ブラックボックスである購買行動の内的要因にアプローチするため,

質問紙法による調査を行う。質問紙調査による選択は模擬的なものであり,実店舗に おける購買行動とは異なることも考えられるが,選択肢集合を構成する項目や水準を 統制しやすいため,目的に応じたデータ収集が正確に行えるということと,大標本を 用いた統計処理による分析が可能であるというメリットがある。また,本研究ではイ チゴの品種選択を対象として分析を行うが,イチゴは品種以外にもさまざまな要素を 持ち,作期にも幅があるため,実店舗による実験では品種による差異をとらえること は困難である。

イチゴは果実的野菜であるため,食品のなかでは嗜好品に近い位置づけがされ,新 品種の育成と品種のブランド競争が活発である。こうしたことから,イチゴの品種選 択はブランド選択として捉え得る。ブランド選択の対象としてイチゴを取り扱うにあ

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たり,消費者にとっての選択肢集合は,外観に加えて,価格や産地,品種の情報をも つ商品アイテム群ということになる。

消費者の購買意思決定を示したモデル の代表的 なも のの一 つ に,Blackwell et

al.[3]による BME モデルがある(図

6-1)。BME モデルにおいては,購買意思 決定は「必要性の認識」→「情報探索」

→「代替案評価」→「購買」→「消費」

というプロセスを経る。イチゴを購入す る消費者は,この購買意思決定プロセス における「情報探索」および「代替案評

価」において選択肢の評価と絞り込みを行っていると考えられる。この消費者による 多様な選択肢からの絞り込みの過程を説明する概念のひとつが考慮集合である。

2.考慮集合に関係する先行研究

考慮集合は Howard が想起集合として導入した概念とされるが,意思決定プロセス のなかで選択肢が絞り込まれていく過程として概念化した代表的な例としては,図 6-2に示した Brisoux と Larocheの概念図(Brisoux and Cheron[4])が挙げられよう。

Brisoux と Laroche の概念図は,知名S処理S考慮S選好と段階的に絞り込みが行わ

れていく過程を概念化しているために,考慮集合に入るブランドは常に知名集合に含 まれ てい る。 一方 ,図 6-3 に示 した Peter と Olson によ る考 慮集 合 形成 プロ セス

(Peter and Olson[5])は,想起集合と考慮集合を峻別し,非知名ブランドも意図的 あるいは偶発的な発見によって考慮集合に含まれ得るとしている。考慮集合について

Hauser and Wernerfelt[6]は,集合のサイズは2から8程度であり,入手可能なものと

比較すると少ないこと,また,Roberts and Lattin[7]は対象とする財によって考慮集 合の形成と維持が異なることを示している。また,消費者の意思決定が非代償型によ る ス ク リ ー ニ ン グ 段 階 と 代 償 型 に よ る 熟 考 段 階 の 異 な っ た 方 法 で 成 さ れ る こ と が Gensch[8]によって実証された。恩蔵[9]は考慮集合とほぼ同様の概念と捉えられてい る想起集合に影響する消費者の要因について,関与水準が高いとサイズが小さくなり,

バラエティ・シーキング型の購買行動はサイズが大きくなる傾向であるとしている。

清水[10]は,住宅メーカーを対象として,意思決定が Brisoux と Laroche の概念図に 図6−1 BMEモデルにおける

購買意思決定プロセス(抜粋)

注:Blackwell et al. [3] に基づく。

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従って行われるが,大手企業では考慮集合形成の段階で復活が見られることを実証し ている。

図6−2 BrisouxとLarocheの概念図 注:Brisoux and Cheron[4] に基づく。

図6−3 PeterとOlsonによる考慮集合形成プロセス

注:Peter and Olson[5]に基づく。

- 153 - 3.分析視点

イチゴの品種を対象として,消費者行動の内的要因である購買意思決定プロセス における知名,考慮,選好の段階に焦点を当て,特に考慮集合の形成について消費者 の購買に関する意識との関連から論じる。考慮集合の形成に着目するのは,ある品種 が選好されるためには,購買意思決定プロセスにおいて当該品種が考慮集合に含まれ なければならないためである。本研究の目的は,新たに育成された品種のブランド化 であり,一般に知られていないブランドを如何にして既存のブランドから構成される 考慮集合に入れるかという点についての知見を得る。そのため,Peter と Olson によ る考慮集合形成プロセスにおいて非知名ブランドが偶発的な発見から導入されること を寧ろ積極的に評価し,偶発的に発見されたブランドが最終的な選好に至る「偶発的 選好」について検討する。

第3節 データと方法

1.データ

(1)購買意思決定プロセスを分析する対象

イチゴを対象として購買意思決定プロセスを分析するにあたり,東日本で圧倒的な シェアをもつ標準的な品種として

「と ちお と め」, 小売 段 階で プレ ミアム品種として位置づけられて いる 「あ ま おう」,比 較 品種 とし て,全国的に流通している品種で ある「紅ほっぺ」「さちのか」「さ がほ のか」, 地域 性の 高 い品 種で ある「ふくはる香」「もういっこ」

「ふくあや香」の 6品種を供する。

これら 8品種を入手可能集合とし て回答者に提示するが,品種名に 加え て, 実 勢価 格を 踏 まえ,「と ち お と め 」 を 398 円 お よ び 「 あ

表6−1 入手可能集合

品種名 価格設定 (参考)実勢価 (A) (B) 格

とちおとめ 398 398 298, 398, 498, 598

あまおう 780 780 598, 780, 980 紅ほっぺ 498 398 350, 498, 680 さちのか 498 398 398, 598 ふくはる香 498 398

-さがほのか 498 398 -もういっこ 498 398 -ふくあや香 498 398

-注:1) 価格設定は「とちおとめ」を基準とした仮想的 なものであり,単位はパック当たり円である。

2) 参考として示した実勢価格は,調査期間と同時 期の同日における福島県内の大型スーパー,食 品スーパー,青果店,生協店舗における販売価 格である。