第 1 章 序論
第 6 節 敵対的買収と株式保有構造の関係モデル
この章では株式保有構造が敵対的買収の発生及び成功にどのような影響を及ぼした かを考察した。1節では株主保有をオーナー系、事業会社・金融機関系と独立系の3分 野に分け、敵対的買収は独立系で最も発生率が多いことを確認した。その理由を探る に当たり、第 2 節と第 3 節では株式保有形態が対照的と思われる米国と日本を更に比 較し、日本の「持合制度」によって、安定保有比率が日本の方が
発
それぞれの銀行の監視機能を検証し、この違いがいかに敵対的買収の発生・成功 に影響を及ぼしているかを明らかにした。つまり、銀行との持合関係がない米国では
銀行の監視が小さいと想定され、敵対的買収も起きやすい反面、日本のメインバンク は企業に対して株式持合や融資などを通じて監視機能を働かせているため、敵対的買 収は起こりにくいと判断できる。第 5 節では外国人投資家の増加に伴い、キャピタ ル・ゲインを重視し株価などのパフォーマンスで判断するような傾向が日本市場に対 して影響を及ぼし、これが敵対的買収の発生と成功へとつながるものと推測した。同 時に
この図において、日本でも今後は株式持合が解消されるにつれ、敵対的買収の発 本では持合制度が弱 化するにつれ、事業会社・金融機関による持株が放出される傾向が強まり、株式保 有
保 有 率 が 高 い 銀 行 と の 保 有 関 係 が
株式保有の目的も、外国人投資家が増えるにつれ日本での従来の取引関係維持か ら株式の投資利回りへと重点が移っていく事が予想されることから、敵対的買収の発 生は外国人投資家を通じても増加するものと考えられる。
本章の第 1 節〜第 5 節から得た理解を背景に、株式保有構造と敵対的買収の発生 の関係をモデル化してみると図表 6-15のようになる。まず、敵対的買収の発生率を X 軸に、銀行の監視力を Y軸に置き、各 3 つの株式保有形態がどのように関係している かを調べた。その結果、日本やドイツは株主のように保有が事業会社・金融機関に集 中している企業形態は敵対的買収の発生率が低いのに対し、米国や英国など銀行との 持合関係がなく株式保有が分散されている独立型では銀行の監視力が弱まり敵対的買 収の発生率が高くなる。また、オーナー系の企業では一般的に株式が集中保有されて いる上、銀行の監視力が弱いことから敵対的買収は銀行との関係が強い企業よりは発 生率はやや高まるものと推測できる。
( オ ー ナ ー 系 )
一 族 に よ る 分 散 保 有 が 中 心 で な い ・ 少 な い
図 表 6 - 1 5 株 式 保 有 比 率 と 敵 対 的 買 収 の 発 生 の 関 係
( 独 立 系 )
銀
弱
( 香 港 ・ シ ン ガ ポ ー ル )
( 事 業 会 社 ・ 金 融 機 関 系 ) 保 有 が 集 中 さ れ て お り
銀 行 と の 関 係 が 強 い ( 日 本 ・ ド イ ツ ・ 韓 国 )
( 米 国 ・ 英 国 )
の 視 力
敵 対 的 買 収 の 発 生 率
弱 強
今 後 、 持 合 解 消 が 増 加 す る に つ れ 、 日 本 に お け る 敵 対 的 買 収 の 保 有 形 態 の 推 移 フ ラ ン ス
行 監
強
生が増加すると考えられる部分をハイライトしている。まず、日 体
が以前に比較すると分散されてくると考えられる。この傾向は米国や英国の独立型 に近づいてきているとも示唆でき、今後は日本の企業の中でも株式保有形態が分散化 されてきている企業は敵対的買収にさらされる可能性が高いと言える。また、オーナ ー系企業に関しては、もともと敵対的買収は起こりにくいと推測できるが、オーナー の持株比率が低い企業、もしくはオーナーの株式が放出され株主も分散されてくると、
敵対的買収の可能性は高まってくると思われる。株式保有構造が分散されている日本
企業は、米国や英国の経験にちなんで、現在でも敵対的買収を受ける可能性は高いと 考えられる。
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第7章 敵対的買収と発生要因: 3 層構造の第 3 層
〜企業レベルの特徴〜
的 式保 収の発生率に対し、どのように影響を及ぼし の発
に 企業レベルの特徴
いと考えられ
レベルの特徴を理解するのが 的買収、及び、
別 のの、
産の
効 されていない企業などを対象に株主価値拡
営
敵 る
うな特徴を保有している企業が日本において敵対的買収の対 い のか。この問いに答えるにあたり、過去から現在までに各国で敵対的買収を仕 掛けられた企業の特徴を分析し、これまで日本で敵対的買収を仕掛けられた企 業の特徴と比較することにする。この工程で、外国での過去と現在の敵対的買 収の特徴を分析し、その結果を日本にあてはめるだけでは、日本での敵対的買 収の発生要因の特徴として位置づけるには未熟であるかもしれない。しかし日 本の特徴が外国の一定の時期や特徴に一致するのであれば、今後の日本企業の 発生要因を推測できると思われる。
さらに現在の日本企業の特徴を検証することには別の意味も含まれる。特徴を明 らかにすることで、今後、日本における敵対的買収が発生する可能性が推測できると 考えられる。そして、今後の課題として日本の企業経営に対して敵対的買収が起きに くい体質作りが提案できると思われる。
発生要因の研究は友好的買収・合併の分野では考察されているが、敵対的買収の 分野では検証がまだ浅く、現在の所、二つの見解に分かれている。最初は Lynne Browne&Eric Rosengren(1982)が行った企業レベルの研究で、被敵対的買収企業は同 業種で発生した被友好的買収企業とほとんど変わりなく、業界内では最下位よりはど ちらかというと「普通」の特徴を有していると主張している。しかし、この理論は
要因、即ち歴史的要因と経済的要因が敵対 第 4 章と第 5 章では、各国のマクロ
買収の発生にどのように影響しているかを考察した。第 6 章では企業における株 有形態(ownership structure)が敵対的買
ているかを考察した。確かに、これらのマクロ要因と株式保有形態が敵対的買収 生 大きく影響しているのは明らかであるが、これら要因だけでは
を十分に捉えられないことから、敵対的買収の発生を特定する事は難し る。
第7章では、「3層構造論」の第3層にあたる企業の特徴(主に財務特徴)を考察
、 企業及び被友好的買収企業と比較する事により、ミクロ し 被敵対的買収企業を買収
要因が敵対的買収の発生にどのように影響を及ぼすかを検証してみる。
なぜ、敵対的買収の発生を研究するにあたり、企業
重要なのであろうか。まず、日本では敵対的買収が増加しつつあり、その背景として 実際に 2000 年に Boehringer Ingelheim によるエスエス製薬の敵対
Cable&Wireless による IDC の敵対的買収が成功していることが挙げられる。また、
の理由として M&A コンサルティングによる昭栄の敵対的買収は失敗こそしたも コーポレート・ガバナンス(企業統治)を盾に株価が長年低迷している企業や資 有 活用を行わず株主資本が有効的に使用
大を求める傾向が強まっていることが挙げられる。これらの流れは、日本企業の経 に 対的買収を意識させているとも思われ、企業レベルの特徴が今後も重要視され 事が予想される。