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1. 政策提言を行う上で留意したこと

「在宅には主体性がある」と言われるように、在宅ケアを提供する者として、在宅生活を選択した医 療依存度の高い療養者の QOL を災害時でも可能な限り持続させることができるように行動レベルで備え を行う必要がある。その端緒として、災害時の「リスク」と「リスクマネジメント」を健康が揺らぎや すいハイリスク療養者の備えから検討を行ってきた。災害時に起こりがちな「想定外」の状況に、ただ 立ち尽くすというのではなく、また、過度に自己防衛的な行動を取るのでもなく、在宅ケアのエキスパ ートとして役割を果たすことができる仕組みづくりが重要だと考えている。そのためには、直面した様々 な危機的場面とその経験を生かしたマネジメントサイクルの確立に向け、短期的に可能なことから、中 長期的の制度改革に至る幅広い視点で考えることが必要である。未だ十分なものとは言えないが、以下 に備えを充実・強化するための方向性と若干の提案を行う。

2. 備えを充実・強化するための方向性

1) 災害看護についての適切で効果的な学習・研修機会の提供

“正しく知って、正しく備える” “正しく知って、正しく恐れ、正しく備える”等と言われる。

備えの行動の中で、災害看護についての学習・研修機会の整備は、備えを動機付け、実質化させる 重要な役割を果たすものである。調査結果から明らかになったように、今後取り組みたい備えの内 容の中で、災害看護の学習・教育機会の提供に関心が低いことは課題である。正しい知識が行動の 質を高めることにつながることから、備えの入り口として、訪問看護ステーションと在宅療養支援 診療所等で在宅ケアに携わる看護師を対象に、備えの動機付け、充実の駆動力となる災害看護の学 習機会の整備を図ることが喫緊の課題と考える。そのため、都道府県等の自治体、都道府県看護協 会やその下に設置されている訪問看護連絡協会が在宅災害についての学習・研修機会の提供に主体 的な役割を果たすべきである。

2) 災害時の療養者のためのリスクマネジメント体制の構築

① 災害時のリスクマネジメントを構築するための経験の蓄積

災害からの時間的経過を踏まえ、災害に伴い生じる課題の全体像を俯瞰し、災害を具体的にイメ ージしながら的確なケアの提供ができるようにすることが必要である。調査結果から備えを行って いる災害サイクルにおける「超急性期」と「急性期」を中心とする短期間に焦点が当てられている ことが分かった。災害という非日常から日常生活への復旧には亜急性期・慢性期に対する配慮も必 要である。全体像の俯瞰ができるように経験から学び備えを充実させるためには、長期にわたる粘 り強い実践活動の聞き取りや実践者自身の振り返りを通して豊かな経験の蓄積を図る必要があり、

成果を学習・研修機会にフィードバックすることが重要である。いつ大規模な災害が起こってもお かしくないと言われる中で、研究者・実践者とともに経験を収集するプロジェクトの企画・実施が 急がれる。

② 災害時の在宅ケアにおけるマネジメントサイクルの適切な運営方法の検討

在宅療養者・家族を中心に災害に伴い生じる課題の全体像を俯瞰するために必要なマネジメント サイクルについては、調査結果から、マネジメントのサイクル全体に関する備えについて回答者が 関心を持っていることが明らかになった。そのためには、調査結果によって明らかになった関心の 高い具体的な項目の詳細(選択肢)から考えていくことが好ましい。即ち、徐々に備えのプロセス を回し、備えを質的に充実させていくことが重要である。その参考として、リスクマネジメントの プロセスの検討に適した優れた備えの事例を収集、共有することが重要である。災害時の看護実践 の収集に併せて、災害経験を生かした備えの取組を創出していくためにも、大規模な被害が想定さ れている地域でモデル的な施設を選び備えの取組の社会実験を行い、必要な業務量やコストを導出 することが必要である。

③ 当面の備えを進めるための仕組み・拠点づくり

災害からの復興過程では、様々な社会実験の取組みがなされている。訪問看護ステーションにおい ても、備えに資する新たな挑戦を行うべきであると考える。災害時に適切なケアを提供するための プランづくりや、必要な業務量・コストの導出、役割を担うために必要な基本的な機能と医療シス テム等の社会資源との関係性及び、他の訪問看護ステーションや在宅療養支援診療所との連携のあ り方を模索するためのモデル拠点「災害時在宅ケア支援拠点」(仮称)を復旧復興過程の被災地(例:

熊本地震)に速やかに設置し、地域の在宅医療の専門家や行政、NPO などの地域包括ケアを支えて いる多彩なステークホルダーに助言を求めながらあるべき姿と現行制度の課題等の社会実験と検 証を行うことが大切である。その中では、災害拠点病院や避難所との役割分担、府県を超えた支援 ネットワークのあり方と実現可能性についても重要な視点となる。

④ 当分の間の災害時の応援態勢の確立

在宅療養者への支援は、「住宅を持つ被災者」として支援の必要度合いが低く思われがちで、超急 性期だけでなく急性期・亜急性期以降も含め、被災地での医療・生活環境が回復するまでの間は、

揺らぎやすい健康状態にあることを理解した取組が必要である。既に日本医師会が日本医師会災害 医療チーム(JMAT)を展開する等、長期にわたる支援体制を構築している。しかしながら、規模の 小さな訪問看護ステーションでのケアの提供や、訪問看護師に変わる応援の仕組みは十分に確立さ れていない。被災地の在宅ケア機能が持続し、今後長期間のケアの提供を可能にするためには、一 次的に他府県からの支援者を受入れる仕組みの構築が必要となると考える。その際の課題は、送り 出す方も受け取る方も小規模で経営基盤が脆弱なことである。今後、制度改革の検討が必要となる が、例えば一定の条件のもとに、被災地での活動を支援者の所属での介護保険の点数として収入に 計上することができるなど、派遣先と派遣元がともに潤う仕組みづくりが必要となると考える。

3) 中長期的な視点から図るべき備えの充実・強化

① リスクマネジメント加算等災害時の在宅ケア提供者側の備えの充実・強化

個別の療養者・家族の状況に応じた備えを構築するためには、在宅ケア提供側の努力だけでは十分

でなく、療養者・家族によるセルフケア、セルフケアサポートが不可欠であり、療養者のセルフケ ア能力を高める専門的な教育プログラムの開発と活用が不可欠となる。また、療養者と家族が行政 だけでなく、非営利活動団体等も巻き込めるよう自らの状況に関して自己開示が進むようにするこ とも重要である。このように、療養者・家族が自らの状況や生じやすいリスクを学習したり、その 揺らぎをセルフモニタリングしたり、緊急時には必要な行為が取れるように訓練を行うことが出来 るまでに指導するための「リスクマネジメト加算」(仮称)等の仕組みをつくることが大切だと考 える。その際、コストやケア提供者の負担も考慮し、対象者の限定を行うことが重要である。

② 平時からの災害時の応援態勢の確立

災害の備えだけに多大なコストと手間をかけるのではなく、「非日常」の災害を「日常」の在宅ケ アと上手く結びつけることが重要である。上述の「リスクマネジメント加算」(仮称)等の仕組み づくりの提案が日常の在宅ケアの中で定着し、病院等の施設からもシームレスにつながる仕組みと して構築されていくことが望まれる。地域包括ケアシステムの構築が進められている中で、災害と いう非日常も取り込み、療養者の

QOL

を持続させる仕組みをつくることは不可欠であり、今後長 期にわたり実現がめざされる保健医療のパラダイムシフトの中で、非日常と日常を適切にマネジメ ントすることができるような仕組みに発展させていくことが、ステークホルダー誰もの役割になる ものと考える。

③ 実践者と研究者を結び「経験と知の循環」を図るネットワークの構築

インタビュー等を通して、在宅ケアに係る訪問看護師等は非常に多忙であるとお聞きした。高齢者 数が増加するとともに、在宅療養を選択する療養者の増加が在宅ケア環境に影響を与えている。そ うした中で、e-ラーニング等が用いられているが、十分な時間を割いて更なる教育訓練機会に参加 することは難しい。そのため、被災地での活動に加えて、上述の様々な取組の中で、実践者と研究 者の経験と知の蓄積を共有し、循環を図る機会を創る必要がある。時間をかけてそうしたネットワ ークの構築の支援とそこで生まれた成果を共有する仕組みをつくることが重要となろう。

Ⅴ おわりに

相次ぐ巨⼤地震が発⽣する中、今後発⽣が想定される巨⼤災害である南海トラフ巨⼤地震・⾸都直下 型地震等の⼤規模災害に備え、地域で暮らす病気や障害を持つ療養者・家族のセルフケア能⼒を⾼める ための訪問看護ステーション及び在宅療養⽀援診療所における取組み状況を明らかにすることを⽬的に 本研究に着⼿した。調査を通して多くの関係者の皆様にご協⼒を頂き、療養者・家族を中⼼としたこれ からの備えを考えるための貴重な資料を得ることができた。質問紙調査も含め頂いたデータは、貴重な 資料として可能な限り⽣かして分析を⾏い、その⼀部を本報告書に記載した。分析は未だ初期的な段階 であり、今後、研究を深め、実践場⾯での活⽤につながるように努めたい。

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