民主主義とは,市民の意見や要求を集約し,それにこたえ,市民を満足 させる制度を整備する政治システムである。参加民主主義は,政策に対し て市民が,選挙という特定の機会にかかわらずいつでも意見を表明するこ とができる参加領域をもつのであるから,政府は市民の意見や要求をより 多く受け入れ,対応することが可能になるはずである。
抗議デモを,解決が見出せない要求への不満や社会的圧力を極端なかた ちで示す政治手段と定義すれば,参加民主主義ましてや大衆民主主義制度 のもとでは,不満を訴える手段が数多く存在し,いつでも参加可能である
抗議デモ参加
(過去12カ月)
地域住民委員会参加(%)
月に1回以上 年に1,2回 1度もない 計
参加する 40 13 47 100
参加しない 18 10 72 100
計 19 10 71 100
表2―5 地域住民委員会参加と抗議デモ参加
(出所) 表2―3と同じ。
ことから,社会的・政治的な抗議デモは減少すると考えられる。しかし現 実は,この仮説と矛盾する結果を示している。1999年から2013年の間に,抗 議デモは年間855件から4410件へと516%増加している(巻末資料13を参照)。 とくに市民の政治参加をほぼ完全に地域住民委員会(CC)のみに制限する 法律が承認された2009年以降,抗議デモが大幅に増加していることがみて とれる。すなわち予想に反して,参加民主主義や大衆民主主義の進展は,
社会の意見や要求を満足させていないのである。それどころか,これらの プロジェクトが進むにつれて国内の対立が増大し,満たされない要求が蓄 積され続けている。
地域住民委員会(CC)への参加と抗議デモへの参加をみると,予想に反 して,地域住民委員会の参加者の抗議デモへの参加割合が高い(表2―5)。こ のことから,抗議デモ参加者は,地域住民委員会への参加を通しても問題 を解決することができず,結局は最終手段として抗議デモで圧力をかける しかなかったのであろうということがうかがえる。抗議デモは,制度的対 応能力が低い国家に対して,国民が意見表明する政治社会的ツールのひと つとなっている。地域住民委員会参加者の多くが抗議デモに参加している ということは,チャベス政権の対応能力が低い,あるいは参加民主主義か ら大衆民主主義へと変質したチャベス政権の民主主義モデルそのものが,
国民の要求を受けとめ,問題を解決するという機能を果たせていないこと を示唆しているのではないか。
むすび
ベネズエラでは,1970年代ごろからさまざま政治アクターが政治参加の 議論と実践を少しずつ重ねてきていた。チャベス大統領はそれらのアイデ アや経験を自分の政治議論に取り込み,「国民が主人公の参加民主主義」を 標榜して1999年に政権に就いた。そのため,今日参加民主主義をキリスト 教社会党(COPEI),社会主義運動党(MAS),急進正義党(LCR)などと結 びつけて認識する国民は少なく,それはチャベス政権の革新的成果として 認識されている。しかしチャベス政権は,長年ベネズエラの政治社会で醸 成されてきた参加民主主義の理念を,実際には大衆民主主義へと変質させ ていったのである。
チャベス政権は,市民の政治参加を実現する組織として,従来から存在 していた自発的に組織されたNGOや近隣組合などの市民社会組織を排除し,
地域住民委員会(CC)とコミューンのみに参加のチャンネルを開いている。
これらは政府によってコントロールされ,国家による社会統制の手段とし ての役割,あるいは行政組織の下請け作業を担わされており,自立的な市 民社会組織とは言えない状況にある。一方で,政権に与しない自立的な市 民社会組織は,政府によって存在が認められていない。おそらく何よりも 深刻なのは,地域住民委員会やコミューン以外の市民社会活動を政府が参 加組織として認めなくなったため,市民社会組織や社会ネットワークが弱 体化し,社会の組織力,関係構築力が低下していることである。チャベス 政権期(とくに後半以降)において政府の権威主義的性格が強まったが,そ の背景には,地域住民委員会やコミューンなどの参加組織を通じて国家が 社会領域にも入り込み肥大していることと,国民のあらゆる社会生活をそ れらの組織に凝縮しようとする,政府の脅迫的ともいえる強い意志がある と考えられる。
〔注〕
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1 地域住民委員会登録のための所定の手続きの書式を,以下のコミューン・社会運 動大衆権力省のウェブサイト(http://www.mpcomunas.gob.ve/formatos/)からダウ ンロードできる。
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2 チャベス,テレビ番組「Aló Presidente(もしもし大統領)」2010年2月7日第351 回放映。
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3 http://www.mps.gob.ve/safonacc/index.php?option=com_content&task=view&id=
20&Itemid=28
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4 国家選挙管理委員会(CNE)ウェブサイトの資料より筆者計算。
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5 筆者は,PG―26―8160―2011/1「ベネズエラにおける民主主義の質と参加,地域住民 委員会の場合」と称するプロジェクトを通してデータ提供を受けた。CD-CH/UCV
(ベネズエラ中央大学科学人間開発研究所)に感謝を表明する。
〔参考文献〕
<外国語文献>
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EnVenezuela: ¿más democracia o más populismo?, compirado por Dante Avaro y Daniel Vázquez. Buenos Aires: Editorial Teseo,13―94.
Chávez Frías, Hugo2013.El Libro azul, Caracas: Ediciones Correo del Orinico.
López Maya, Margarita2009.Venezuela: el gobierno de Hugo Chávez y sus fuerzas bolivarianas.
México: Instituto Federal Electoral.
――― 2011. Democracia participativa en Venezuela (1999―2010). Caracas: Fundación Centro Gumilla, Publicaciones UCAB.
Maingon, Thais y Arturo Sosa 2007. “Los Consejos Comunales: ¿Espacios para la construcción de ciudadanía y el ejercicio del poder popular?” Proyecto de investigaciónRedefinición de la democracia y la ciudadanía en Venezuela: nuevas relaciones entre el estado y la sociedad civil. Área de desarrollo sociopolítico, Caracas:
CENDES−UCV.
<法律>
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―――2002. Ley de Consejos Locales de Planificación Pública[公共政策企画市評議会法], Gaceta Oficial Número37.463.
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(Extraordinaria)Número5.806.
――― 2009. Ley Orgánica de Consejos Comunales[地域住民委員会組織法], Gaceta Oficial Número39.335.