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1 PET用放射性薬剤の特性

市販の放射性医薬品については、放射性医薬品メーカーがその“くすり”としての有用 性(有効性、安全性)に責任を持って各医療機関に供給されている。一方、多くのPET 用 放射性薬剤は、ポジトロン放出核種の半減期が極めて短いので、核種の製造から、標識合 成、製剤化、品質管理に至る一連の作業を各施設で行う必要がある。当然のことながら各 施設で製造する放射性薬剤の有用性の確保については、各施設が責任を持ってあたること になる。従って、施設毎に院内放射性薬剤の製造及び製剤の品質についての管理体制を整 備し、責任の所在を明確にすることが基本的に重要である。図1に日本アイソトープ協会・

医学・薬学部会・サイクロトロン利用専門委員会(以下、協会委員会と称す)が作成した ガイドラインに収載してある組織責任体制の一例を示す。

図Ⅱ.6.1組織責任体制の一例

また、放射性薬剤の品質管理に際して半減期が短いために、一部の品質管理試験項目につ いては被験者に投与する前にその試験結果を出せないことがある。その場合、事後検定を 行うことになるが、その取り扱いについては後述する第 3 者の専門家を交えた「薬剤安全 委員会」で評価することが望ましい。品質管理におけるすべての項目について事前検定が 困難な場合は、事後検定の項目に関してはむしろ製造工程管理の意味合いが強くなる。

人体に投与する“くすり”の有用性を確保することは医療機関にとって最低限の義務で あり、PET 用放射性薬剤の製造に関しては、常に一定規格以上の製剤が行われるような再 現性のある製法の確立が第一義的に重要になってくる。また、確立された製法に従って下 記に示すような項目について文書化し、その内容についても前述の「薬剤安全委員会」で 審査、評価を受けることが望ましい。

製造管理者(氏名:○○○○)

製造管理責任者

(氏名:○○○○)

品質管理責任者

(氏名:○○○○)

※なお、製造管理者は薬剤師で あることが望ましい。また製造 管理責任者と品質管理責任者は 異なる者が担当することを原則 とする。

(1) 製造管理組織図 (2) 製品標準書 (3) 製造管理基準書 (4) 製造衛生管理基準書 (5) 品質管理基準書 (6) 入退出手順書

(7) クリーンベンチ操作手順書 (8) 浮遊微粒子試験作業書 (9) 原料及び資材の品質管理記録 (10) 製造指図書兼製造記録 (11) 品質試験記録

(12) 浮遊微粒子測定記録 (13) 落下菌試験記録

PET 用放射性薬剤の 3 番目の特性として、作業者の放射線被曝の防護が挙げられる。タ ーゲット中で製造される放射性核種の放射能は極めて大量であり、ホットセル内に自動合 成装置を設置、遠隔操作することにより作業者の被曝軽減が計られている。ただし、製剤 の取り出しや分注操作等、今後被曝軽減化のために取り組むべき課題は多い。その他自動 合成装置のライン上にリークがあると、排気中のRI濃度が基準を越えたり、あるいは揮発 性の放射性物質によってホットセル壁面や床、及び作業者自身が汚染することもあり得る。

放射線防護の観点からは一般的な知識に加えて取り扱う標識化合物や副生成物の性質、自 動合成装置の構造と配管等にも熟知しておく必要がある。

2 日本アイソトープ協会のガイドラインについて

1970年代後半、放射線医学総合研究所(放医研)において、13N-アンモニアの臨床応用が 開始されたのが我が国におけるPET研究の始まりである。当時放医研では放射性医薬品メ ーカーの専門家を含む「短寿命核種の医学利用委員会」を組織し、院内放射性薬剤の安全 性の確保をどのように行うかについて審議し、放医研における放射性薬剤の製法及び規格 を定めた。1980 年代に入り、日本アイソトープ協会・医学・薬学部会にサイクロトロン利 用専門委員会が設置され、臨床的に有用性が認められた放射性薬剤を成熟薬剤として認定 し、その製法、規格を全国的に統一する方向でガイドラインを作成することとなった。最 初のガイドラインは、放医研の基準を参考として放射性医薬品基準(市販の放射性医薬品 の製法、品質等に関する基準を定めたもの)に沿った形で作成されたものである。その後、

何回かの改訂を経て 2001 年に「放射性薬剤の基準」の改訂が行われた(2001 年改訂、

Radioisotopes 50, 190-204, 2001)。この2001年改訂版には、院内サイクロトロン製造放射性 薬剤に関する、製法、品質、製造作業環境等に関する基準(ガイドライン)が収載されて おり、その解説及び参考資料も同時に作成された。この改訂では無菌試験法に従来の「バ クテック試験法」に加えて「血液培養システムを用いた試験法」も採用された他、「PET診 断用放射性薬剤製造施設における作業環境及び作業に関するガイドライン」が新たに付け 加えられた。各施設における製造管理、製造管理責任者、品質管理責任者はこの「放射性

薬剤の基準(2001年改訂版)」とその解説、参考資料を参考として施設毎の基準の作成にあ たってもらいたい。

3 2-デオキシ-2-フルオロ-D-グルコース(18F)注射液(FDG)の製造と品質管理について 現在、我が国では住友重機械工業とJFEの2社から医療機器としてのFDG合成装置が市 販されている。図2にそれぞれのメーカーのFDG合成装置の外観図を示す。両機種共に基 本的な標識合成反応は図 3 に示すように同一の反応を用いているが、加水分解の試薬、条 件が異なるために、合成に要する時間に多少の違いが生じる。また、JFE社製の合成装置は 試験等がキット方式となっており取り扱いが簡便になっている。

図Ⅱ.6.2 FDG合成装置の外観図(左:JFE、右:住友重機械工業)

図Ⅱ.6.3 FDG合成フローチャート(左:JFE、右:住友重機械工業)

18F-の回収、活性化 照射

反応

精製 加水分解 分離精製

調剤 品質検査

18F-の回収 照射

溶媒留去 反応

精製 加水分解

精製 滅菌濾過

製品

FDGの製造に際しては、各社の自動合成装置取り扱い説明書に記載されている操作法、

その他に従って操作を行えば特に問題は生じないと考えられる。ただし、各製造担当者に 対する関連知識、及び作業内容等の教育訓練は充分に実施することが重要である。

FDG は大量に標識合成が可能で、施設によっては製造後数時間経過した後にヒトに投与 する事態が想定される。このような場合には、予めFDGの安定性に関するデータを収集し、

各施設におけるFDG の有効期限を設定しておくことが必要である。表 1にFDGの品質管 理基準の一例を示す。

表Ⅱ.6.1 18FDG注射液の品質管理基準

◎ 外観・性状 : 無色または微黄色澄明

◎ pH : 5.0-8.0

◎ 放射能 : 90-110 %

◎ 放射化学的純度 : 95 %以上

※ 放射核化学的純度 : 511 keVまたは1022 keV以外にピーク を認めない。

(半減期) (105-115分)

※ 比放射能 : 200 Mbq/mg

◎ Kryptofix2.2.2(K.222) : 40 ppm以下

◎ アルミニウムイオン : 10 ppm以下

※ エタノール : 2000 ppm以下

※ メタノール : 1200 ppm以下

※ アセトニトリル : 164 ppm以下

※ クロロデオキシグルコース : 40 ppm以下

◎ 無菌試験 : 試験に適合する

◎ 発熱性物質 : 試験に適合する

◎ 製造毎に試験を実施する。

※ 年1回以上、試験を実施する。

(大阪大学医学部付属病院の基準を例示)

4 メチオニン(11C)注射液の製法と品質管理

11C-メチオニン注射液は11C-ヨウ化メチルを標識前駆体として製造される。図4に11C-メ チオニン注射液製造装置の外観図を、また図5に製造装置のシステムの概略を示している。

本装置は 11C-ヨウ化メチルを標識前駆体として用いる多数の 11C-標識放射性薬剤の製造に

用いることができる。しかし、本装置は医療機器としての承認は受けておらず化合物とし ての11C-ヨウ化メチルの製造装置として位置付けられる。従って、11C-メチオニン注射液を

始めとする個別の放射性薬剤毎に試薬、器具の規格、製法、品質管理基準等を各施設で独 自に設定する必要がある。この例のように医療機器として認可されていない自動合成装置 を取り扱う際には、標識合成反応、合成システムの構成とそれぞれの要素についての専門 的知識を熟知すると共に、器材の滅菌法や保守管理等についても基準を作成しておくこと が重要である。

図Ⅱ.6.4 11C-メチオニン注射液製造装置の外観図(放医研提供)

図Ⅱ.6.5 11C-メチオニン注射液製造装置のシステムの概略(放医研提供)

また11C-ヨウ化メチルは汎用性があるために、逆に標識原料や分離・精製用の溶媒を間違

える可能性も大きい。従って、各放射性薬剤毎に試薬や器材を別個に保管することが望ま しい。

表2に11C-メチオニン注射液の品質管理基準の例を示す。また図6には11C-メチオニン注射 液の標識後の安定性のデータを例示するが、比放射能を高くすると放射線分解による放射 性異物の混入量が時間と共に著しく増えることがわかる。特にレセプターマッピング用の

11C-標識薬剤の中には高比放射能が要求されるものがあるが、このような場合、標識後の安

定性に関するデータを収集しておく必要がある。図7には例として11C-Ro15-4513の比放射 能の違いによる安定性を示す。一般に放射線分解による放射性薬剤の安定性は、pHや含有 される微量成分によっても異なるので、各施設毎に標識後の安定性に関するデータをそろ えておくことが必要である。

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