4 臨床試験データ・プロセッシングに対する改善策
4.4 LPO から DBL までのプロセスにおける改善
4.4.2 改善策の提示
4.4.2.1 CRFの速やかな回収
LPO付近の症例は、来院日のずれ、有害事象の追跡調査、CRF作成やSDVスケジュー ルのどれをとってもDBLの遅延に大きく影響する。これらの中には、治験依頼者側ではコ ントロールできないイベントも含まれているが、これに対しては医療機関側の協力により早 めることができる余地もある。例えば、症例のスケジュール管理として治験依頼者が求める 作業、業務を相手の予定に組み込んでおいてもらうこと、医療機関で試験が立ち上がった際、
各CRF作成後にSDV、CRFチェックやクエリが発生すること、その作業に見込まれる期
間、LPO 付近の症例のスケジュールが DBL 時期を左右すること等を伝えて、試験の早期 からの計画的なCRF作成やSDVへの協力などを要請する。また、LPO付近の症例に該当 する場合は密なコミュニケーションや訪問における協力を依頼し、試験終盤にスケジュール の妨げとなるような、医療機関や治験スタッフの予定や都合を確認し、予め調整しておくと 良い。こうしておくことで、試験計画で許容された範囲の来院日のずれ、有害事象の追跡調 査の発生、最終症例の中止などによる最終症例の入れ替わりがあった場合も、それらのスケ ジュールに合わせた回収予定を医療機関と再調整することで、DBL時期への影響を低減す ることが可能である。
一方、治験依頼者側でも、試験の早期からモニタリング部門と DM部門が連携し、CRF 回収スケジュールにあわせた社内処理スケジュールを調整し、医療機関の協力を得ながら、
逐次CRF回収、データクリーニングをする必要がある。また、CRF回収後に発生が予想さ れる問題を回避するための方策を準備する必要もある。具体的には、回収したCRFからク エリの発生しやすい箇所、内容を特定し、速やかに医療機関に伝達することでクエリの発生 数を抑えることが可能である。これを繰り返し実施することで、クエリ発生による試験終盤 への影響を軽減することができる。しかし、これらの方策も試験期間の後半に症例登録が集 中している場合は万全ではない。試験期間を通して毎月一定の症例が登録されるように制御 し、試験期間の最後に症例登録を集中させないことが重要である。
これらの改善策は EDCを利用する試験においても有効である。EDCでは、症例データ の入力状況がリアルタイムに把握できるため、速やかなCRF作成を依頼しやすく、この点 から考えるとDBL期間の短縮効果をより高めることが期待される。
4.4.2.2 症例検討会
タスクフォース内の調査では、症例検討会を開催しているという会社は非常に多かったが、
我々は試験終了後にまとめて行うような症例検討会の開催を廃止し、治験実施中に症例の採 否基準を決めるプロセスを改善策として提案したい。
症例検討会を開催している会社の中には、すべてのCRF回収後に症例検討会を開催して いる会社、検討会にて 1 例ずつすべての症例の取扱いを確認している会社、すべての症例 を対象として、すべての安全性データの確認や安全性評価の妥当性について検討をしている
会社もあった。また、それらの会社の業務フローからは、症例検討会の開催や準備には少な からぬリソースの消費、時間がかかっていることが分かった。
CSPで規定されている有効性・安全性の評価や取扱いの確認は、すべてのCRF回収を待 たずとも実施可能であり、CSP で規定されていない逸脱が発生した場合に新たに取扱いを 定め、以降同様の逸脱に対して同様に取扱う手順とすれば、すべてのCRF回収後に改めて 検討する必要はなくなる。医療機関側への確認が必要な事項については、適宜確認作業を進 めることで、LPOからDBLまでの期間をムダに費やすことがなくなる。
試験実施中にこのような症例検討・データモニタリングを実施することについては新たな 意義も見出すことができる。例えば、その時点で起きているCSPで規定されていない逸脱 の取扱いを決定するだけでなく、CSP 逸脱を予防する対策を立てるなど、試験の質を高め るための活動を誘発する効果が期待できる。
症例検討会は、治験の成績報告会ではない。症例検討会で決定すべき事項を明確に絞り込 み、最低限の参加者をもって開催することにより、これまで作成していた被験者背景、有効 性データ、安全性データの一覧表等、症例検討会の目的からはさほど重要でない資料を作成 するためのリソースの消費、多くの出席者の日時調整やその待ち時間を減らすことができる。
また、ICH-E9「臨床試験のための統計的原則」に関する質疑応答Q9では、これまで散 見されてきた症例検討時における取扱い基準の緩和について疑義を呈している。
Q9. 被験者の解析上の取扱いはどの時点までに決定しておくべきか。
(答)
被験者の解析上の取扱いは、原則として事前に治験実施計画書に記載しておくべきで ある。しかし、計画書の作成段階では取扱いを定めることができない事項、又は実施 中の情報により取扱いを見直さなければならない事項は、盲検下で検討を行い、その 取扱いを定めることになる。
なお、従来症例検討の際に慣例的に行われてきたように、試験計画書に記載された取扱いの 基準を盲検下レヴューの際に緩和することは望ましくない。試験開始後に、変更又は新たに定 める取扱い事項が多いことは試験の妥当性を大きく損なうことに注意すべきである。
(以下略)
治験に対する最終的な責任は治験依頼者側にある。医学専門家の助言や確認は適宜行うこ とが可能なはずであり、すべてのCRF回収後に、お墨付き的な意味合いで症例検討会を開 催する意義も乏しい。販売戦略上、疾患領域のKOL(キーオピニオンリーダー)とのネッ トワーク強化が必要な場合もあるが、症例検討会とは別に成績報告会を行うことでDBLま でのプロセスへの影響を避けられる。
なお、EDCを利用する試験においては、試験中に検討を行うという改善策はより有効で あり、データを随時確認することができるEDCのメリットを最大限生かすことが期待され
る。
データをレビューする
早期の取扱い基準決定のためには、試験中“定期的にデータをレビューする”ことが必 要である。データをレビューするとは、どのようなことを実施すればよいのだろうか。
我々は、事前にタイミング・頻度とチェック項目等を決めておき、試験中のデータのレ ビューを計画的に推進することを推奨する。たとえば50%あるいは75%の症例が集積し た時点で個々の症例の取扱いを確認する、安全性担当者が有害事象のコーディング結果を 確認する等である。計画は必要に応じて柔軟に変更できるいわゆるLiving Documentの形 式で運用すると簡便であろう。
安全性シグナルを検出するという観点からも、定期的データレビューの実践は重要と思 われる。必要に応じて、試験中に同様の安全性の問題が起きないようCSPを変更する、あ るいはモニタリング計画を変更するなど、途中で改善の余地がある場合もある(CSP上独 立データモニタリング委員会を設置して対応する場合も含まれる)。
また、データのレビューを通じて、CSP変更決定までの期間短縮も期待される。
4.4.2.3 品質管理
治験依頼者が行っているCRFに対する品質管理は過剰になっていないだろうか。
担当者の負荷が大きいマニュアルチェックは、モニターと DM 間でもっと効率的に行え る余地がある。例えば、チェック項目を「モニターがSDV前後でチェックする項目」、「DM がCRF回収後にチェックする項目」に分け、重複チェックをなくす。そしてチェックに対 する役割と責任を明確にして、それぞれが責任をもってチェックすることで効率化につなげ ることができる。また、マニュアルチェックはモニターおよび DM とも負荷が大きく、項 目によってはDM による論理チェックの活用や、入力データから帳票やグラフを出力して マニュアルチェックに利用することで、負荷を軽減することができる。各項目のチェックレ ベルについても、発生が予想されるエラーが品質に与える影響度を考慮した検討が必要であ る。例えば、併用薬の投与量については、解析で利用する場合以外はチェック項目とする必 要はないとすることも可能であろう。また、コメントに記載された誤字を修正するためにク エリを発行する必要もないだろう。
品質管理は、要求されるレベルの品質を保証するための活動であり、100%エラーのない レベルを目指すものではない。治験の有効性および安全性評価として要求すべきレベルにつ いて関係者間でまず共有し、項目ごとのチェックレベルを事前に決定、合意することが重要 である。
なお、EDCを利用する試験においては、エディットチェック機能(入力者がデータを保 存した際に自動的に行われるチェック)を活用することで、eCRF回収前に入力者のケアレ スミスがなくなるため、チェック作業全体として大幅な業務量削減が可能となる。