4-1 提言
日本の対スリランカ援助は,開発の視点からは,政策の妥当性は「高い」,結果 の有効性は「大きな効果があった」,プロセスの適切性は「適切に実施された」との 評価となり,総合的には「満足な結果」であった。本節では,この評価結果に基づき,
今後の日本の対スリランカ援助について,以下に
3
つの提言を記す。4-1-1 提言 1: 政策の妥当性に係る提言
116(1) ジェンダー配慮の対スリランカ国別援助方針への反映(3-1)
スリランカでは,ミレニアム開発目標(MDGs)のジェンダー平等に関しては高い指 標を達成している一方,女性の労働力率や政治参画率が依然低く,現地聞き取り調 査においてもコミュニティレベルではジェンダーに関する問題が指摘された。これに 対し,スリランカの案件実施レベルではジェンダー配慮の好事例が多く確認された。
また,外務省地球規模課題総括課が提示した「ODA 評価におけるジェンダー配慮 について」によると,日本は国別援助方針,重点課題別・分野別援助方針などにジ ェンダー平等の視点を反映することを方針としている。しかしながら,対スリランカ国 別援助方針ではジェンダー配慮について明示されていない。上位政策で推進され,
実施レベルでも有効的に取り組まれていることから,次回同方針を改訂する際には,
ジェンダー配慮を対スリランカ国別援助方針に反映した上で事業形成・実施を図る ことが望まれる。
4-1-2 提言 2: 結果の有効性に係る提言
(1) 質を重視した援助の実施(3-2,3-3)
スリランカにおける日本の援助の比較優位は,ソフトとハードを組み合わせた質 の高い支援である。中所得国入りを果たしたスリランカでは,スキームの比重として 無償資金協力が大幅に減少し,インフラ整備を中心にした有償資金協力が大半を 占める。一方で,ハード面だけでなく,能力向上と技術移転も重視し,ソフト面での技 術協力を組み合わせたスキーム間連携を活用することが,質を確保する上で有益 である。
スキーム間連携に関しては,青年海外協力隊(JOCV)と他スキーム及び専門家 との連携強化も求められる。JOCVは現場レベルの援助として,インパクトは小規模
116 各提言に準じた小項目の右横にある括弧内の数字は,提言に関する主な分析がなされた小項目を意味す る。
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ながらも,日本の援助の存在感を高めることに貢献してきた。外交的波及効果も高 いことから,人数は限定的ながらも,今後も援助の継続が求められる。一方,
JOCV
が孤立することは,効果の低下につながるほか,JOCV
にとって位置付けが不明瞭 になるとのコメントが寄せられた。若い人材を最大限にいかすべく,他スキームとの 連携以外に,シニア海外ボランティア(SV
)や専門家との交流を促進することで,更 なる相乗効果が望まれる。インフラ整備などハード面の支援についても,日本の質の高さを保持する工夫が 必要である。実施機関への聞き取りでは,「日本製は質が高くて良いが,価格が高 いので採用できないのは仕様がない」という意見と「価格が高くても日本製が良い」
という両方の意見が確認された。後者が求められる分野(例えば本調査で確認され た道路分野)では,タイド支援の本邦技術活用条件(
STEP
)を活用し,有償資金協 力「大コロンボ圏都市交通整備計画」のように日本企業との連携を通じた「オールジ ャパン」の仕組み作りが望まれる。一方,関係省庁は日本のタイド支援を希望しても,援助窓口であるスリランカ財務・計画省対外援助局(
ERD
)が援助機関・国の選定 及び調達方法についての決定権を有するため,関係省庁のニーズとギャップが生じ るケースも明らかとなった。国際協力機構(JICA
)スリランカ事務所によると,こうし た政府内の現状に対応し,世界銀行,アジア開発銀行(ADB
),日本らがERD
と定 期的に協議を行う仕組み作りを現在進めているという。このような機会を通じて,関 係省庁の考える分野或いは事業に適したスキームを採用するよう,日本はERD
に 働きかけていくことが望まれる。また,タイド支援ではない援助に関しても,指示書の 作成に当たり,業者に求める技術を高度に設定するなどし,質の高い技術に対象を 限定する工夫も提案される。(2)
日本の技術と知見をいかした開発分野への支援の拡大(3-2
)課題別に見た日本の比較優位性では,省エネルギー,再生可能エネルギー,防 災などが挙げられたことから,これらの分野への更なる「選択と集中」が望まれる。
日本はこれまで電力供給問題に対する一定の貢献をしてきたが,中国やインドが大 規模な火力発電所建設に取り組む現在は,電源多様化と省エネルギー分野での支 援が期待されている。防災に関しては,他ドナーよりも高い経験値を持つ日本が,シ ステム整備,能力向上,意識向上など多岐にわたる角度から支援を提供すべきで ある。両分野とも,同様の支援を行う世界銀行,
ADB
,国連機関との連携によって 相乗効果を図る必要がある。そのほか,今後拡大すべき支援分野としては,産業育成に向けた高等教育と現 地中小企業の育成が挙げられる。高等教育システムと労働市場ニーズのミスマッチ 及び脆弱な現地中小企業は,スリランカの持続可能な発展の阻害的要因となって いる。そのため,日本で経営学を学び,現在はスリランカの政界や学界で活躍する
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人材を通じて,日本の知見を高等教育改革にいかすことを検討し,協働支援を行う ことの意義は高い。また,民間セクター開発の観点から,インフラ事業,
BOP
ビジネ ス,研修事業などを通じた中小企業の発掘や人材育成を実施することは,スリラン カと日本の両経済にとって利点と考えられる。加えて,民営化の進まないスリランカ で,経済をより活性すべくBOP
ビジネスを含む官民連携や官民パートナーシップ(
PPP
)を推進するため,日本は政府の民営化に関する意識改革も含め,更なる対 話を行う必要がある。(3)
南南協力の推進(3-2
)開発指標の達成度が高いスリランカにおいて,他のアジア諸国やアフリカとの南南 協力の促進が望まれる。日本の支援では,特に保健医療分野における非感染症対 策や復興支援でのコミュニティ・エンパワメントが,対象地域を限定しながらも効果 的なモデルとして実証され,スリランカ政府や他ドナーによって広域展開されている。
これらの好事例を整理し,類似する課題を抱える国に共有することは,日本の支援 に波及効果をもたらすだけでなく,スリランカの対外関係における位置付けを高める と考えられる。
4-1-3
提言3
: プロセスの適切性に係る提言(1)
政策・予算の意思決定及び案件形成プロセスの強化(3-3
)策定プロセスが現地化される中,国別援助方針の実施に伴う予算決定権は依然 外務本省にあることから,現地で速やかに予算計画が行われないことが課題として,
一部の大使館関係者から指摘された。世界全体を見渡しながら予算配分を決定す る必要があるという点で,外務本省で予算が決定されることは必要であるが,規模 の大きな有償資金協力を実施するスリランカでは,本省所管部署の職員が現地の 年次協議や政策協議に積極的に参加することで,個別の案件の優先順位づけに当 たり,現地の意向を十分踏まえた政策・予算のプロセス強化を図る必要がある。
日本の援助実施プロセスに関しては,入念な事前調査によって円滑な実施が実 現されたという評価が得られた一方,他ドナーと比較して時間がかかるという意見が 実施機関から複数寄せられた。本評価の調査範囲では,他ドナーの実施プロセスと 具体的に比較し,重複される作業,事業への影響,適正な処理時間などの判断を 行うことは困難であった。関係省庁・実施機関によって,必要とされる調査・協議・業 務の定義が異なる可能性もあることから,日本の援助の比較優位を維持する上でも,
今後現地において精査し,必要があれば改善することが望まれる。また,日本はど ういったプロセスを踏み,どの位時間がかかり,それが何故重要であるかについて 実施機関の認識が低いことも考えられるため,案件形成に当たって,事前に十分な 理解を得た方が円滑な実施のために有益である。
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(2)
既存のドナー連携体制をいかした援助調整役の発揮(3-2
,3-3
)スリランカのドナー・コミュニティにおいては,中立的立場の日本の存在感の高さ と,主導的な援助調整役への期待が確認された。ただし,政府のオーナーシップの 高いスリランカでは,アフリカや他の南アジア諸国(例えばバングラデシュ)に見られ るドナー主導の調整メカニズムは存在しないため,通常の調整役とは異なるもので ある。つまり,既存の限定的な調整枠組み(開発パートナー委員会及び開発パート ナー・フォーラム)の中で,ドナーがスリランカ政府と意見が一致しない場合の仲裁 役117や,スリランカ政府の行うドナー調整業務の補佐的役割118が挙げられる。これ まで構築してきたスリランカ政府との緻密な二国間対話が継続されることで,上記の 達成が可能となる。
(3)
対スリランカ援助の積極的な情報発信(3-3
)日本の支援活動に関する広報は,大使館及び
JICA
スリランカ事務所が各種メデ ィア媒体を活用していることが確認され,親日派の多いスリランカで日本の存在感を 更に醸成するツールとなっている。今後必要な取組としては,積極的な情報発信と いう観点から,スリランカと日本で誰を対象に情報を発信するか見極め,効果的に 行うことである。専門家や一般市民を対象とする以外に,小中学校の生徒を対象に した国際開発教育の教材作成もあり得る。このように,外交面,援助面,歴史・文化 面など多岐にわたる目的に合わせて発信方法を考案することで,日本の援助の好 事例を広く国民に伝えることが実現されると考えられる。また,本評価団による文献調査に当たり,
JICA
によって実施された事業評価の 結果がインターネットにタイムリーに掲載されていない一例が確認された。上述した スリランカにおける好事例を積極的に情報発信するためにも,全ての評価結果にお いて時宜を得た公表が望まれる。
117 既述した例として,国連による内戦紛争地域におけるニーズアセスメントの必要性が挙げられる。
118 既述した例として,高速道路建設の各フェーズに異なるドナーを選定した場合,一貫したプロセスとルールの 下で建設するよう提案する。