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第 5 章 政策提言

5.2 行政に求められること

第 4 章で見たように、少子高齢化地域の長崎においても、高年齢者の継続雇用の義務付け により、今後、他世代の雇用にマイナスの影響が出てくる可能性は十分に考えられる。

その際に、注意が必要なのが、それは若年層に限らないという点である。特に長崎県にお いては、若者を県内に定着させようと若年層の雇用には行政が力を入れて取り組んでいる ところであり、そういったことを考えると、強いマイナスの影響を受けるのは、若年層より もむしろ行政が手薄になっている、中高年や継続雇用の対象とならない 60 代の失業者では

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それでは、いかにして、その様な中高年や 60 代の失業者を行政はフォローするべきであ ろうか。競合性を緩和する方法として考えられるのは大きく2つである。1 つ目は「雇用の 受け皿を増やすこと」、2つ目は「競合性の低い産業への就労を促すこと」である。

5.2.1 雇用の受け皿の確保について

まず、「雇用の受け皿を増やすこと」について考えて生きたい。そもそも、高年齢者と他 世代において競合性が発生するのは雇用の場が限られているからであり、雇用先を増やす ことは重要な課題であると思われる。

そして、雇用の場を増やすとなると、必要になるのが企業誘致である。長崎県は既に企業 誘致に取り組んでおり、コールセンター等を誘致するとともに、IT 関連についても誘致を 呼びかけているところである。

この企業誘致に関連して、長崎県総合就職支援センターについてヒアリングを行なった ところ、担当者が県の施策に求めることとして、「中高年の雇用に積極的な企業の誘致」が 上がっている。長崎県は上述したとおり、企業誘致に取り組んでいるが、コールセンターや IT 関連など若年層向きの業種が多く、中高年が募集をしてもなかなか採用まで至らないと のことであった。

では、中高年や 60 代の採用に積極的な企業はあるのだろうか。それを検討するにあたっ ては、中高年や 60 代の強みを考える必要がある。これについても、就労支援センターにヒ アリングを行なったところ、若年層は土日の休みや年次休暇の取りやすさなど福利厚生に ついての希望が強い一方、中高年や 60 代は比較的、「土日勤務でもかまわない」・「早朝・深 夜のシフトでもかまわない」という人が多く、それが強みであるということであった。

その強みに目を付け出しているのが、コンビニ業界等、人手の確保に苦慮している企業で ある。コンビニ等、年中無休・24 時間営業の企業は今後、人口減少を迎える中での労働力 確保が重大な課題となるだろう。実際に、とある大手コンビニは既に長崎県において中高 年・高年齢者向けの業務説明会を開催し出しており、実際にその説明会の中で採用が決まっ たケースもあるそうである。

今後、人口減少が深刻化し、若者の労働力確保が困難になるなかにあっては、その様に中 高年や高齢層の労働力に着目する企業が増えていく可能性は十分にあると思われる。そう であるからこそ、長崎県は情報収集を進め、そういった企業を他県に誘致される前に、いち 早く長崎県に誘致することで、中高年等の雇用の場所を増やすことが必要であると考える。

5.2.2 競合性の低い産業への就業促進について

次に、競合性の低い産業への就業促進について考えていきたい。まず、若者と中高年や高 年齢者はそれぞれどういった仕事を求める傾向にあるのか、就労支援センターに聞いたと ころ、若者は漠然と事務職を求める傾向があり、中高年や高年齢者等は自分がこれまで働い

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たことのある分野(事務、清掃、警備等)を選択する傾向があるそうである。中高年者等の 雇用先を見つけるにあたっては、若者と競合しない産業であることが望ましく、そうなると 事務職での就労は厳しいことになるであろう。若年層と競合することなく、かつ人手不足感 が強い産業は何であろうか。それは、介護等の「福祉産業」ではないかと考える。

その様に考える理由が3つある。まず、1つ目が、長崎県の産業の構成比である。下図 7 を見るとわかるが、長崎県は全国と比べ、製造業の比率が低く、一方で、医療福祉産業の比 率は高い。これは高齢化が進む長崎において、医療福祉産業が重要な産業の1つであること を示していると思われる。

図 7 長崎県の産業構成比

(出典)経済産業省「長崎県の地域経済分析」

理由の2つ目が、福祉産業は人手不足感が強いということである。長崎労働局はミスマッ チ具合について公表をしているが、求人は多いのに求職者が少ない産業として福祉産業が 挙げられている。25上述したとおり、競合性を緩和するには、人手不足感が強い産業への就 労促進が好ましい。そういった意味でも福祉産業は就業を促進すべき産業の1つとしてみ ることができるであろう。

最後に理由の3つ目が、中高年及び高年齢者の労働力率の低さと介護との関係である。長 崎県は、中高年および高年齢者の男性労働者の労働力率が極めて低い状況26である。求職活 動を行なっている者については、労働力としてカウントされるため、労働力率が低いと言う のは求職活動すら行なっていない人が多いことを意味する。

なぜ、長崎県において中高年・高年齢者の労働力率が低いのか、この点について就労支援 センターにヒアリングしたところ、親の介護をしなければならず働けない人が多いのも理 由の1つではないかということであった。

25 長崎労働局「職業別ミスマッチの状況 平成29年度」によると、介護サービスの職業については、新 規求人数が7,415に対し、新規求職は2,659であり、求人倍率は2.79となっている。

26 平成27年国勢調査によると長崎県の45歳~59歳男性の労働力率は93.8%(全国95.4%)で下から4 番目、60歳以上の男性労働力率については42.1%(全国44.2%)で下から10番目となっている。

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また、これに関連して、中高年の就労を難しくている理由の1つとして、「親の介護をす る必要性があり、十分な社会経験が積めないまま中高年になってしまった」ということが挙 げられている。

このことは、長崎県において介護サービスを充実させる必要性が高いこと、少なくとも

「介護サービスを受けたいのに、施設に空きが無い等で受けることができない」といったこ とを防ぐためにも、介護業界における人手不足を解消する必要性があることを示唆してい る。また、この状況をプラスに捉えるとするならば、長崎県には介護経験がある中高年が多 数いることを意味しており、介護業界からすれば人材の宝庫であるともいえる。

介護の世界は肉体的にも賃金的にも楽な仕事ではなく、世代を問わず成り手が少ないの は十分に理解ができる。しかし、長崎県は要介護認定率(要支援)が全国水準よりも高く、

なっており27、この問題から逃れることはできないと思われる。

そうであるからこそ、競合性の問題を考える上でも、そして、介護業界の人手不足を解消 するためにも、行政は、介護業界の処遇改善や雇用マッチングの強化、介護関係の職業訓練 等に力を入れて取り組むとともに、中高年や高年齢層でも今よりも容易に介護の仕事をで きるように、リフトなど機械設備の導入等の環境整備を促進し、中高年や高年齢者層の雇用 の受け皿として福祉産業を優先的に考えるべきだと思われる。

第6章 おわりに

以上、法改正に伴う高年齢者雇用の促進と若年層及び他世代との競合性について検討し てきたが、少なくとも今時点において、両者の競合性はあると考えるべきであり、長崎県の 様な人口減少地域においても「若者が少なく人手不足だから問題ない」と決めつけるのでは なく、この競合性の問題を注視していく必要性があるといえるだろう。

しかし、その一方で、冒頭で述べたとおり、日本の少子高齢化は急速なスピードで進行し ている。現時点で高年齢者と若者の雇用に競合性があったとしても、若者が少なくなるにつ れ、その競合性は薄れていき、高年齢者の労働力が必要になる時代が来るのではないかと思 われる。

その様なことを考えたときに、高年齢者が働きやすい環境を整えることが今後はより重 要になってくると思われるが、機械による効率化、人事管理の見直し等、高年齢者が働きや すい環境づくりには時間がかかると言われている。つまり、若者が少なくなってから取り掛 かるのでは遅く、今のうちから動き始める必要があるのである。

そうであるならば、行政が積極的に介入し、高年齢者雇用の必要性を訴え、雇用や環境づ くりを促進すべきなのだろうか。この点については、慎重に考える必要があると思われる。

まず、大切なのはやみくもに行政が介入することではなく、県内の企業の現状を適切に把握 することではないだろうか。

27 厚生労働省「都道府県ごとに見た介護の地域差」によると平成24年における要介護認定率(要支援)

が長崎県は全国で最も高くなっている。

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