図41:最新技術の研究・開発から市場投入までのプロセス
概要 中
国、ドイツ、日本、米国、シンガポールをはじ めとする世界各地で、既存の建物を改修し、CO2を“まったく”あるいは“ほとんど”排出しな い最先端の建物やパッシブ建築物が建てられている。
設計者、建設業者、消費者はこれらの建物をモデルと し、それぞれの地理的条件や建築要件に応じて必要な 技術を取り入れることができる。モデルとなるこれら の建物では、当レポートのフェーズIで取り上げた、
既に効果が実証されている化学製品技術を利用してい る。中には、最新技術を取り入れている建物もある。
このセクションでは、既存の技術をさらに向上し、
第6章で明らかにした問題を克服するための研究・開 発・実証(RD&D)に焦点をあて、その必要性と機会 について検証する。研究・開発・実証によって化学製 品の可能性を最大限に高め、建物のエネルギー消費と GHG排出をさらに抑制することができる。
最先端技術は市場で成功するのが難しい。そこには 次のような問題点がある。
● 新しい技術は市場投入までに長期間かかる。新しい 技術を開発・テストしている間に、消費者のニーズ が変化してしまう。つまり、最新技術を市場に投入 したときには、その技術の必要性が低下している。
あるいは、顧客のニーズに応えられなくなっている。
● RD&D活動の資金不足により、最新技術の市場投入 までに時間がかかる。または、最大限の効果を提供 する製品を開発できない。
● 最新技術はアピール方法が限られるので、資金提供 者や顧客に技術内容を十分に伝えられない。
● 最新技術が受け入れられるまでには多くの時間と労 力が必要。そのため、開発者や資金提供者は投資に 消極的になる。
図41は、試験段階から開発、市場投入まで、最新技 術がたどる一般的なプロセスを表している。ネガティ ブキャッシュフローの段階で十分な支援を得られない 場合、その最新技術は失敗となる。最新技術が市場に 受け入れられ、最終的に利益が出るようになるまでの つなぎとして、公共部門から支援を受け、製品へ直接 投資する必要がある。
出典:米国エネルギー省(2008年)「Carbon Lock-In: Barriers to Deploying Climate Change Mitigation Technologies
(二酸化炭素の抑制-気候変動緩和技術の普及に伴う障壁)」
省エネ住宅・建物の技術ロードマップ Chapter 7
第7章 技術開発
初期調査で新技術が有望であると分かった場合は、
さらに投資をして、商品化の可能性をテストする。こ の段階ではまだ、商業生産コストや長期的な性能など 多くの不確定要素があるため、技術開発者は投資収益 を予想できない。ここでは最新技術の研究施設が重要 な役割を担うが、実際には資金や人材に限りがあるの で、多くの場合、研究段階で発見したすべての技術を 開発することはできない。代わりに、組織の専門分野 内で最も有望な技術に特化してRD&Dを実施する。
製品グループごとに以下の観点から技術を評価し、
RD&Dの優先度(財政支援の優先度)を決定する。
● 技術および知識における現在の“最高水準”
● RD&Dの必要性
● 必要な知識と技術進歩
● 社会に対する影響
最新技術の商機を含め、すべての商機はタイミング が重要となる。したがって、RD&Dニーズに適したタ イミングを考慮しなければならない。最新技術を成功 させるには、市場のニーズが高まっている間に「コン セプト」から「製造」までを達成する必要がある。
製品グループ別のRD&D要件
このレポートの前半で紹介した消費エネルギー・
GHG排出削減予測は、世間で既に利用されている市 販の製品に基づいている。これらの既存の技術に加 え、RD&Dが進む将来は、さらに大幅な向上を期待 できる。とくに、幅広い用途に合わせて製品を最適 化できるようになるだろう。IEAが目指す消費エネル ギー・CO2排出量削減を達成するには、こうした技術 向上が不可欠である。
エネルギー消費量とGHG排出量の削減に加え、
RD&Dはコスト削減にもつながる。たとえば、製造工 程や設置工程を効率化すれば、そのぶんコストを削減 できる。ただし、これらの製品の取り付けには多大な 費用がかかるので、削減幅が少なくなってしまう。製 品の取り付けを効率化できれば、特に、多くの労働力 を必要とする改修時の取り付け効率を向上できれば、
プロジェクトの遂行に必要な労力を軽減できる。この 後のセクションでは、今回の分析対象である5つの技 術グループについて製品開発動向を検証する。
● 断熱材
● 配管および配管用断熱材
● 屋根用反射塗装材と顔料
● 気密材
● 窓
これらの各製品カテゴリーについて、最新技術の RD&D状況をまとめた表を付録IIIで紹介する。
断熱材
ほとんどの建物では、エネルギー消費量のおよそ 60%を冷暖房が占める14。熱損失を防ぐことで、建物 内の冷暖房で使用するエネルギー量を減らすことが できる。生活に必要な燃料が不足している家庭(つま り、他の出費を切り詰めない限り、快適な生活温度を 維持できない家庭)は、高性能な断熱材から直接恩恵 を受ける。さらに、住宅の断熱が向上すれば居住者の 健康状態が良くなり、社会の医療費負担も軽減される だろう。ただし、こうしたメリットは定量化が難しい。
新しい断熱製品の市況は、対象となる断熱材の種類 によって大きく異なる。発泡プラスチック系断熱材
(EPS、XPS、ポリイソシアヌレート、ポリウレタン スプレー)は既に広く利用されているが、エアロジェ ル、真空断熱パネル(VIP)など、他の種類の化学断熱 材はまだ十分に開発されていない。
どのような技術であっても、長期にわたって現場で 実際に利用し、時間とともに性能が低下しないことを 確認する必要がある。幸い、初期のライトハウスプロ ジェクトの多くの経験を生かすことができ、これらの 技術を最初に取り入れた地域の調査データも存在す る。EPSフォームは1970年代から利用されているの で、既に長期の利用実績がある。
断熱材と被覆材は適切に取り付けることが非常に重 要だ。断熱材の取り付けが不適切だと、建物を損傷す る危険性がある。また、断熱材によっては特別な取り 扱いが必要となる。これについては、新しい断熱材と 被覆材のRD&Dで検討する。最新製品の取り付けに 関する留意事項は、施工業者が取り付け慣れている従 来の製品と異なる可能性がある。したがって、実証 フェーズには、施工業者、現場監督、さらには居住者 に対して、最新製品の正しい使用法を教える作業も含
14 IEA(IEC 2012年7月)は、家庭用の給湯も含めて75%と発表
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省エネ住宅・建物の技術ロードマップ Chapter 7
第7章 技術開発
まれる。設置工程では、取り付け状態をチェックして 品質管理を徹底する必要がある。
気候変動により、湿度が高くなったり、豪雨が長期 間続く地域もある。また最近では、一部の国で洪水の 発生率が高くなっている。氾濫原の開発が進むにつ れ、気候変動に耐えられる洪水対応型建築の使用が増 加するだろう。これは、硬質フォームなど、水の作用 に耐性がある化学製品の商機となる。RD&Dを実施し て、これらの製品の省エネルギー効果を実証する必要 がある。さらに、洪水が発生した後でも、非化学系断 熱材(ミネラルウールなど)を交換する必要がなく、そ のぶんコストがかからないことも実証しなければなら ない。
配管および配管用断熱材
配管の熱損失を抑えられれば、居住用建物において も、非居住用建物においても、給湯システムのエネル ギー消費量が減少する。熱伝導率の小さい配管を使用 するか、あるいは配管用断熱材を巻き付ければ、配管 を流れる温水の熱損失が減少し、次の温水を使用する とき短時間で設定温度に達する。これは、給湯のエネ ルギー消費を抑制するだけでなく、冷えた水を流す量 が少なくなるので、水の消費量も減少する。
管壁からの熱伝導を減らすことに省エネルギー効果 があるのは明らかだが、現在のところ、各種レイアウ トの建物で高性能な配管用断熱材を使用した場合、エ ネルギー消費がどの程度抑えられるかは詳細に調査さ れていない。そのため、通常は経験によって削減量が 見積もられている。さらに詳しく調査し、建物の場所 や利用条件に応じた削減量を明らかにする必要があ る。給湯システムの構成もエネルギー消費量に大きな 影響を与える。これらの重要な可変要素を考慮して幅 広く調査し、統計的に信頼できる結果を入手する必要 がある。さまざまな建物での消費エネルギー削減量が 明らかになれば、プラスチック配管と配管用断熱材の 使用が促進されるだろう。
配管用断熱材は、建物の耐用期間の最後まで同じ断 熱効果を提供する。フェーズIで実証したように、配 管用断熱材には省エネルギー効果がある。一方、ほと んどの給湯用配管は壁の内側などに設置されており、
途中での交換は難しい。したがって、配管用断熱材の 効果が配管システムの寿命と同じだけ続くことが重要 だ。管壁からの熱損失を減らすことでエネルギー消費
量が抑制される事実をデータとして明確に示せば、寿 命の長い断熱材を開発するためのRD&D資金を募りや すくなる。
屋根用反射塗装材と顔料
スペースに制約があったり、レイアウトや予想耐用 年数などの理由で従来の断熱材を設置できない建物で も、屋根用太陽光反射製品を使用すれば冷房需要を抑 制できる。この種の製品は、大規模な商業ビルで使用 した場合に大きな省エネ効果を期待できる。この技術 はヒートアイランド現象を緩和する手段として有望視 されており、この分野の詳細な調査が待たれる(フェー ズIのエネルギー量は個々の建物レベルで算出されてお り、ヒートアイランド現象は考慮されていない)。
疎水性材料やサーモクロミック材料を用いた屋根技 術を開発するには、さらなるRD&Dが必要。抗吸塵性 を長期間維持する技術や、微生物の増殖を抑える白エ ラストマー屋根コーティングを研究している会社もあ る。ブラジルでは、セメントやセラミックに代わる屋 根素材として、PVC屋根用タイルの市場開発プロジェ クトが進められている。PVCタイルは熱伝導率が小さ く、熱光線を反射する明るい色を使用できるので、空 調を作動しなくても建物内が快適な環境に維持される。
米国のDOEは、従来の屋根素材を高反射エラスト マー屋根コーティングに変えることで、商業ビルの年 間空調エネルギー消費量が最大25%減少すると予測 している。一方、都市部のヒートアイランド現象に対 する太陽光反射コーティングの影響は、どの気候にお いてもまだ明らかになっていない。この分野のRD&D が進めば、太陽光反射コーティングにヒートアイラン ド現象を緩和する効果があることが明らかになるだろ う。その結果として、利用が広まるに違いない。
相変化材料
さまざまなRD&Dが実施されている中、とりわけ 注目されているのが相変化材料の分野だ。相変化材料 は、固体から液体、液体から固体に相が変化する材料 であり、比較的一定の温度で大量の潜熱を吸収または 放出する。
気密材
建物の気密は、主に2種類の製品(ハウスラップと シーリング材)によって実現される。ハウスラップ