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所有者不明土地を活用する新制度の創設

所有者不明土地であることが確定した土地について、有効活用を可能とするための新制 度について検討する。所在不明株主の株式売却制度および休眠預金活用法の休眠預金の公 益事業活用制度を参考に、所有者不明土地活用制度を創設する。

6.3.1 所在不明株主の株式売却制度の概要

所在不明株主の株式売却制度とは、所在不明株主の意思にかかわらず、当該株式を市場で の売却等により、株主としての地位を剥奪することができる制度である。株主に対する通知 や催告は、株主名簿に記載あるいは記録されている住所もしくは株主が会社に通知した宛 先等に対し郵送等でされ、このような通知や催告が 5 年間継続して届かなかった場合、そ れ以降、会社はその株主に通知や催告をする必要はないと規定している(会社法 196 条)。

24 田處博之(2013)「土地所有権の放棄は許されるか」に同旨

このような株主を「所在不明株主」という。通知や催告は不要としているが、株主名簿から 抹消することは認めていない。所在不明株主が増加すると、株主総会の定足数確保に影響が 出るなど、株主の管理上の問題が発生する。2002年の商法改正により所在不明株主の株式 売制度が設けられ、①通知不要制度の対象となる株主または登録質権者で、②5年間継続し て配当金を受け取らないといった要件を満たせば、取締役会の決議により、会社は、所在不 明株主の意思にかかわらず、当該株式を競売、市場売却、または会社の買受け等により、金 銭に換えて、株主に支払い、株主名簿から抹消するというものである。なお、あらかじめ公 告をするとともに、株主名簿に記載された住所に通知する必要がある。売却代金は、従前の 株主に対して支払う必要があるため 10 年間管理しておく必要がある。10 年間請求がなけ れば時効により既存株主の権利は消滅し、当該未払代金は会社に帰属する。また、会社は債 権者不確知を理由として売却代金を供託して債務を免れることもできる。

6.3.2 休眠預金活用法の休眠預金の公益事業活用制度の概要

休眠預金活用法の休眠預金の公益事業活用制度とは、10年以上資金移動のない預金であ り、これまで金融機関で長期停滞していた巨額の資金である休眠預金25を、社会的事業の財 源として供給することにより、地域の経済および産業の発展に寄与する制度である。休眠預 金については、国家予算に合算しない形で、預金保険機構にプールする方法が選択された。

本法律により、各金融機関の休眠預金は、休眠預金を国が管理する預金保険機構に移管され、

指定活用団体による資金分配団体の選定、助成および貸付を通じて、NPO法人や自治会等 の活動の財源として活用される。

25 金融庁が2008~2013年度に行った「休眠預金の発生・払戻状況」の調査によると、日本の休眠預金は、

金融機関合計で、2008~2010年度は、平均約874億円発生し、2010~2013年度には、平均約1,050億円 発生したという。預金者の請求による払戻し対応後でも約620億円と推計されている。

図 12 休眠預金の管理・活用のイメージ

(休眠預金活用推進議員連盟 法律案説明資料より引用)

6.3.3 所有者不明土地活用制度の創設について

所有者不明土地の活用に資する新制度として、所有者不明土地活用制度について検討す る。大まかではあるが、所在不明株主の株式および休眠預金を「所有者不明土地」、所在不 明株主および休眠預金の預金者を「所有者不明土地の真の所有者」、会社および預金保険機 構を「国または地方公共団体」と読み替えることで、大枠をつかむことができる。

所有者不明土地活用制度については、一定の手続きを経た後、所有者不明土地の真の所有 者の意思に関わらず、当該土地を国または地方公共団体が管理し、活用できるものとする。

想定している制度の流れは以下の通りである。

①一定期間の調査により、所有者不明土地台帳を作成し、真の所有者またはその相続人等 を探索する。②真の所有者またはその相続人等が判明した場合は、土地の所有の意思を確認 する。また、所有者不明土地であることが確定した場合は、5年間、公示送達の方法に則り、

所有者を探索している旨を広く公示する。③真の所有者が寄付の意思を示す、または土地の 所有権を放棄する場合は、国または地方公共団体が所有権を取得する。また、真の所有者か らの申し出がなく、公示から 5 年間が経過した場合は、国または地方公共団体に管理権が 移る。ただしその場合、所有権は真の所有者にある。④国または地方公共団体は、この方法 により管理権を取得した土地を、換価し、または現物のまま、公共のために活用することが できる。具体的には、換価した場合は、休眠預金の公益事業への活用の例に則り、NPO法 人等への助成または貸付を行う。また、現物のまま、当該土地を活用しようとする者に使用 権を付与することも可能とする。その際、補償金は供託することが考えられる。供託期間は 債権の消滅時効期間に準じ、10 年間とし、期間内に真の所有者またはその相続人等が現れ た場合は、補償金を支払う。

なお、所有者不明土地を国または地方公共団体が直接に管理または使用権設定等を行わ ず、基金の設立等により実施することも考えられる。

7 おわりに

国土のグローバル化や所有者不明化は、統計データが存在しないため、実証分析の材料が 揃っておらず、学術的なテーマとしてあまり取り上げられていない状況であった。所有者不 明土地について、全国的な調査が必要であると考える。

所有者不明土地は、行政の政策課題として、2011年3月に発生した東日本大震災を契機 としてようやく取り上げられたように思う。しかし、2016年7月にNHKが「いったい誰 の土地?深刻な実態」と題する特集として取り上げ、また、同年11月に日本不動産学会主 催の所有者不明土地に関するワークショップが開催されるなど、注目を集める社会問題と なりつつある。

社会問題の萌芽を未然に防ぐ本稿関連の議論の深化は見られないが、そこに学術的な意 味を見出す一般論もある。『「持たざる国」の資源論』の著者である佐藤仁氏は言う。「有限 で不可逆的な性質を持つ資源環境問題を扱う場合、十分な数の事例が揃うころにはもはや 取り返しがつかなくなっている可能性もある。そうした場面で必要になるのは、量的な厚み で何かを証明しようとするものではなく、小さな部分のつらなりから大きな変化の兆候を つかめるような一般化の方法であり、そこで得られた知見を裾野の広い公共行動に結びつ ける道筋を立てる知の枠組みである。」26

本稿の考察が、所有者不明土地の解決の道筋の一つになれば、これ以上に意義深いことは ない。

謝辞

本稿の執筆にあたり、まちづくりプログラムディレクターの福井秀夫教授、主査を担当し てくださった沓澤隆司教授、副査を担当してくださった下村郁夫教授、細江宣裕准教授、小 川博雅助教授には、長時間にわたり丁寧かつ熱心なご指導をいただきました。また、中川雅 之客員教授、塩澤一洋客員教授、鶴田大輔客員教授にも、ご多忙の中有意義なご指導をいた だきました。この場をお借りしまして御礼申し上げます。加えて、まちづくりプログラムの 学生の皆さまからも日々激励とご意見をいただきましたことに御礼申し上げます。

なお、本稿における見解および内容に関する誤りは全て筆者に帰します。また、本稿は筆 者の個人的な見解を示したものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことを 申し添えます。

26 公益財団法人東京財団(2013)「空洞化・不明化が進む国土にふさわしい強靱化対策を〜失われる国土

Ⅱ〜」参照

参考文献

・寳金敏明(2014)『境界の理論と実務(初版4刷)』日本加除出版

・金子宏(2005)『租税法第十版』弘文堂

・八田達夫(2008)『ミクロ経済学I−市場の失敗と政府の失敗への対策』東洋経済新報社

・八田達夫(2009)『ミクロ経済学Ⅱ−効率化と格差是正』東洋経済新報社

・八田達夫・髙田眞(2012)『日本の農林水産業(4刷)』日本経済新聞出版社

・西田寛・河原光男・西尾光人著、寳金敏明・右近一男編著(2016)『山林の境界と所有−資料の 読み方から境界判定の手法まで』日本加除出版

・川井健(2016)『民法入門(第7版第4刷)』有斐閣

・所有者の所在の把握が難しい土地への対応方針に関する検討会(2016)『所有者の所在の把握 が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第2刷)』日本加除出版

・山野目章夫(2014)『不動産登記法概論−登記先例のプロムナード(初版第2刷)』有斐閣

・松本英昭(2015)『要説地方自治法(第9次改訂版)』ぎょうせい

参考資料

・梅村美穂(2010)「土地の境界を明確にするための制度に関する研究」政策研究大学院大学ま ちづくりプログラム修士論文

・野田巌(2004)「林地における地籍調査前後での面積の変動と調査の進捗状況」、『九州森林研 究』No.57、p.67〜p.72、九州森林学会

・国土交通省(2016)「土地白書(平成 28 年版)」

・林野庁(2016)「森林・林業白書(平成 28 年版)」

・国土交通省土地・建設産業局地籍整備課(2012)「ご存じですか?地籍のこと−地籍調査はなぜ 必要か(平成 24 年度版)」

・国土交通省総合政策局総務課(2014)「不明裁決申請に係る権利者調査のガイドライン」

・国土交通省土地・建設産業局企画課(2007〜2016)「土地所有・利用概況調査報告書(平成 18 年度版〜平成 27 年度版)」

・一般財団法人土地総合研究所(2015〜2016)「地籍図(土地の境界図)の整備について(1)〜(5)」

リサーチ・メモ

・一般財団法人土地総合研究所(2016)「所有者不明等の不動産等について講じられている現行 法制度上の措置について」リサーチ・メモ

・一般財団法人土地総合研究所(2017)「相続未登記と固定資産税実務について」

・参議院事務局企画調整室編(2015)「進捗が遅れている地籍調査の現状と今後の課題」、『立法 と調査』No.369

・幾度明(2014)「所有者不明土地問題の実態と対応の方向性について〜人口減少社会における 望ましい国土管理の実現に向けて〜」みずほ総合研究所 Working Papers

・公益財団法人東京財団(2012)「失われる国土〜グローバル時代にふさわしい『土地・水・森』

の制度改革を〜」

・公益財団法人東京財団(2013)「空洞化・不明化が進む国土にふさわしい強靱化対策を〜失わ れる国土Ⅱ〜」

・公益財団法人東京財団(2014)「国土の不明化・死蔵化の危機〜失われる国土Ⅲ〜」

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