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我が国の安全保障へ及ぼす影響

ドキュメント内 補助 (ページ 45-57)

(1) 対テロ戦争の行方による影響

ブッシュ大統領が行った「一般教書」演説は、「対テロ戦争」の第二段階として、

大量破壊兵器の脅威排除を目標とすることを明示しており、第一段階の9.11テ ロに関連する「テロ・ネットワーク」の壊滅という目標と直接的な結びつきはない。

まず、この点を理解せずに、米国の対イラク攻撃方針に対し、9.11テロとの直 接的な因果関係を証明する証拠を求め、それが得られなければ、賛同できないとい うような短絡的な思考に陥ってはならない。次に、米国が期待する「バンドワゴン」

効果が作用し、諸外国が支持に転じるのを見極めながら、支持表明するといった無 節操な追随外交は、厳に戒めるべきである。

我が国としては、米国の大量破壊兵器の脅威排除という方針に対して、国益上の 観点からどのように判断するのかを早期に決心し、主体的な意思表示を行うことが 肝要である。すなわち、我が国に直接脅威を及ぼす弾道ミサイルを保持している北 朝鮮のミサイルを無力化することは、安全保障上の最大の課題である。また、北朝 鮮のミサイル開発の資金源となっている、イラクやイラン等との連鎖を断ち切るこ とは、間接的ながら北朝鮮のミサイル開発を抑制することにも繋がるという視点を 持つことも重要であろう。

また、我が国は、中東諸国へ石油輸入の90%を依存しており、中東地域からの 石油の安定供給は、我が国の生存基盤にとって死活的に重要である。したがって、

紛争が生じないことを第一義的に望む立場にあるが、近視眼的に長期的な脅威(よ り大きな危険性)に目を瞑ってはならない。長期的な視点に立って、中東からの石 油の安定供給を望むならば、イラクやイランが大量破壊兵器を保有し、それを行使 するような紛争が生じる前の段階で、その脅威の芽を摘むことは、我が国の国益に 適うことである。

仮に、米国がイラク攻撃を実施した場合は、サッチャー元英首相がアフガンのケ ースで指摘したように、同盟諸国は、ポスト・サダム体制の安定化についてより大き な役割を担うことが期待される。米国の世論動向を見る限り、イラク攻撃を思い止 まらせる決定的要因は今のところない。だとするならば、我が国としては、我が国 の国益からより早い段階で「大量破壊兵器の脅威排除」への支持を表明すると共に、

我が国の担うべき役割を見定め、我が国独自の外交チャンネルを通じて、中東諸国 の説得や戦後秩序構築に寄与する外交努力を行っていくべきであろう。

軍事作戦については、米国は、もはや多国籍軍の形成を求めないかもしれない。

ラムズフェルド国防長官がアフガンの教訓として述べているとおり、同盟・協力国 の支援に関しては、自主裁量に任せる方針である。我が国としては、国益上の必要 性(要請)と能力上の取り得る手段を勘案しつつ、同盟パートナーとして果たすべ き役割を担えるような法整備と準備が必要である。その際、国内の制約要因ばかり に目を向けるのではなく、日米安保条約の双務性という問題に立ち返り、冷戦構造 と我が国の戦後復興という過程の中で規定された「人と物との双務性」を、同盟の

あるべき双務性の関係に改定するという努力も併行して考えていくべきであろう。

いずれにせよ、対テロ戦争の今後の行方として、米国のイラクに対する軍事行動 の可能性や朝鮮半島情勢が急速に流動化する可能性があることも見据えて、米国と の戦略対話を進めるとともに、我が国としての対応方針を早期に定め、あらゆる事 態への対応を準備しておく必要がある。

(2) 米国の新国防戦略のインプリケーション

これまで見てきた通りブッシュ政権の新国防戦略は、米国優位の新世界秩序構築 を目指すための軍事戦略と見て良いだろう。昨年9月30日に議会提出された「Q DR2001」は、本来、戦略・戦力構成と資源との調和を図るためのものである が、9.11テロによって資源(国防費)の大幅増が認められたことにより、問題 は先送りされたとも言える。ロナルド・モンテペルトは、「資源と戦略の調和を図る ことは不可能である」との見解を示す102。同様の見解を持つやラルフ・コッサは、

その理由を、次のように述べている103

「米国は、「将来の挑戦(脅威)」に備えなければならない。ソ連は崩壊し、大規 模な陸軍も解体縮小された。しかし、潜在的な脅威となる中国は大規模な陸軍を保 有している。将来、仮に中国と対峙することになった場合、相応の陸軍を必要とす る。また、第2の「砂漠の嵐」作戦や第2のアフガン作戦が必要ないとは言えない。

その一方で、より機動力のある部隊が必要であるのも事実である。」

確かに、想定し得る潜在敵の作戦行動を抑止・打倒するのに、「どのくらいの能力 が必要か」は、まだ決定されていない。

当面、2MTW対処規模の戦力は維持されるが、今後、トランスフォーメーショ ンを進めていくためには、チャールズ・ペリーが指摘するように「各軍はいくつか の主要なプログラムを諦める必要がある」104。ペリーは、この点に関して、「現在 の軍から如何に変革された軍へ転換するかは大きな問題である。予算のレベルは恐 らく横ばいであろう。統合の訓練や作戦実施はまだ改善の余地があり、これによる変 革も期待できる。しかしながら、各軍はそれぞれに長期的な計画(特に調達)を保持 していることから、困難性も予想される。より良い防衛能力の追求は、米国国内での 政治的問題に帰することも多い」と指摘する。

実際、QDRでは、各軍の主要プログラムの削減については一切触れられなかっ たが、昨年12月には、海軍地域ミサイル防衛(NAD)の開発中止が決定され、

2月に議会提出された「2003年度予算教書」では、海軍のF−14戦闘機の退 役、DD21駆逐艦のプログラムを断念することが提案されている。

その一方で、アフガンの作戦で有効性が立証された老朽化兵器の活用という点も

102 2002118日に筆者がAPCSS(Asia-Pacific Center for Security Studies)で実施したイ ンタビューでの発言。

103 2002118日に筆者がPacific Forum CSIS で実施したインタビューでの発言。

104 2002115日に筆者がIFPAで実施したインタビューでの発言。

軍のトランスフォーメーションの過程では、重要視されるであろう。ラムズフェル ド国防長官は、「軍隊をトランスフォームさせるのは、常に変化する現在進行形のプ ロセスである」と述べており105、今後は、急激な変革ではなく、既存の戦力維持と のバランスを図りつつ、徐々に変革を進めていくことになると思われる。こうした 点は、我が国の防衛力整備においても、参考とすべきであろう。

しかしながら、現時点においても、圧倒的な軍事的優位を見せつけた米軍が更に トランスフォーメーションを企図することに対しては、軍事技術格差の拡大等、同 盟諸国との関係に否定的な影響を与えるという見方もある。モンテペルトは、「日米 関係にとっても米軍のトランスフォーメーションは、好ましくない」と指摘し、そ の理由を次のように述べている106

「なぜなら、日本がより普通の国に向かわなければならず、もっと独立的な能力 を必要とするようになるからである。日本の防衛能力は、米軍の能力を補完するも のである。米軍のトランスフォーメーションとは、米国がよりユニラテラルになる ことを意味するため、もし、米国がそうした選択をするならば、日本は新しい能力 を保有しなければならなくなる。日本の戦略的位置づけは弱まり、独立した力を強 化すれば、中国や韓国を刺激することにもなる。」

この問題は、日本の防衛に対する主体性と日米安保関係のあり方そのものを問う ものである。日本は、今後、日米同盟をどのように位置づけ、同盟国としてどのよ うな役割を担っていくのか、また、トランスフォーメーションを進める米軍との共 同作戦に関わるインターオペラビリティーの問題をどう処理していくのか、非常に 重大な問題が突きつけられている。同盟の原点に立ち返り、双務的な関係構築を図 った上で、日本が防衛に対するより主体的な役割を担う方針が確立されなければ、

日本の安全保障面における自立の動きは、日米間の軋轢を生むことにもなる。また、

同盟の双務性が確立されないまま、いたずらに役割の増大とインターオペラビリテ ィーの向上を図ることは、日本を米国に従属化させ、防衛の主体性を喪失させるこ ととなる。

冷戦後、軍隊の存在意義・役割は、正規軍相互の戦争遂行能力よりも、平和維持 活動や「戦争以外の軍事作戦」(MOOTW)、さらには低列度非対称戦へと重心を 移しつつあった。しかし、米国は、9.11テロによって、非対称な脅威を抑止す るためにも、それを封殺する適切な手段を含む圧倒的な軍事力とそれを行使する意 思が必要なことを再認識させられた。そして、米国は、アフガン・対テロ戦争を通 じて、米軍の使命は「国家の戦争を戦い、勝利すること」であるという軍事の基本 原則を再確認したのである。その一方で、米国は、アフガン・モデルに見られるよ うに、戦争以外の役割については、その地域に利害のある国々や国際機関に委ねる 傾向にある。米軍のトランスフォーメーションが進み、アフガン・モデルの役割分

105 Rumsfeld, op.cit,p.27

106 2002118日に筆者がAPCSS(Asia-Pacific Center for Security Studies)で実施したイ ンタビューでの発言。

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