社会・経済が変化し,取引が複雑化・多様化する中で,現在の民法上の意思 表示に関する規定のみでは取引の実情に十分に対処できない場合があるという 指摘がされており,具体的には,消費者契約法における不実告知や不利益事実 の不告知の規定を参照しつつ,同趣旨の規定を,消費者契約に対象を限定しな い一般ルールとして民法に設けるべきであるという考え方が提示されている。
そこで,後記(1)及び(2)でこのような考え方を取り上げることとするが,こ
のほか,意思表示に関する民法上の一般ルールについて,現代的な取引の実情 等を踏まえた新しい類型の規定の要否を検討するに当たり,どのような点に留 意すべきか。
(注) ここでは,上記のとおり,意思表示に関する民法上の一般ルールについて,
現代的な取引の実情等を踏まえた新しい類型の規定の要否を検討するものであ り,消費者契約に対象を限定した特別なルール(例えば,消費者契約法第4条 第1項第2号と全く同一のルール)を民法に設けることについての意見を取り 上げるものではない。
また,消費者契約法中の規定の趣旨内容を包含するような一般ルールが民法 に設けられるとした場合に,これに伴って問題となり得る消費者契約法の規定 の在り方についても,ここで取り上げるものではない。
(参照・現行条文)
○ (心裡留保)
民法第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであ っても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を 知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
○ (虚偽表示)
民法第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
○ (錯誤)
民法第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張す ることができない。
○ (詐欺又は強迫)
民法第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手 方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗する ことができない。
(1) 不実告知
現行法の下でも消費者契約においては,事業者が勧誘の際に重要事項につ いて事実と異なることを告げたこと(不実告知)により,消費者がその事実 を誤認して意思表示をしたという場合には,その誤認が民法上の詐欺や錯誤 に該当しなくても,表意者(消費者)に取消権が与えられている(消費者契 約法第4条第 1 項第 1 号) 。
ところで,契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼすべき事項に関して
誤った事実を告げられた場合には,特に情報量の格差を指摘される消費者で
なくとも,事実を誤認し,その結果として意思決定が不適当なものとならざ るを得ないため,消費者に限らず一般に表意者保護の必要性があるという指 摘がされている。
そこで,消費者契約法の上記規定を参照しつつ,消費者契約に対象を限定 しない一般ルールとして,不実告知がされた場合の表意者を保護する規定を 民法に設けるべきであるという考え方が提示されているが,どのように考え るか。
(参照・現行条文)
○ (錯誤)
民法第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張す ることができない。
○ (詐欺又は強迫)
民法第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手 方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗する ことができない。
○ (目的)
消費者契約法第1条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに 交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑 した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる こととするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の 利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の 被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求を することができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国 民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
○ (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
消費者契約法第4条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに 際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定 める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を したときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が 事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来に おけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来に おける変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供され た断定的判断の内容が確実であるとの誤認
2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者 に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利 益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実
(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。) を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それに よって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取 り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げよ うとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者 に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約 の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所 から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しな いこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消 費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を 退去させないこと。
4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事 項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響 を及ぼすべきものをいう。
一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その 他の内容
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の 取引条件
5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表 示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
○ (媒介の委託を受けた第三者及び代理人)
消費者契約法第5条 前条の規定は、事業者が第三者に対し、当該事業者と消費者 との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項に おいて単に「委託」という。)をし、当該委託を受けた第三者(その第三者から委 託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下「受託者等」と いう。)が消費者に対して同条第一項から第三項までに規定する行為をした場合に ついて準用する。この場合において、同条第二項ただし書中「当該事業者」とあ るのは、「当該事業者又は次条第一項に規定する受託者等」と読み替えるものとす る。
2 消費者契約の締結に係る消費者の代理人(復代理人(二以上の段階にわたり復 代理人として選任された者を含む。)を含む。以下同じ。)、事業者の代理人及び受 託者等の代理人は、前条第一項から第三項まで(前項において準用する場合を含 む。次条及び第七条において同じ。)の規定の適用については、それぞれ消費者、