第6章 ヒューマンエラーの防止策
3 情報漏洩事故に最適なヒューマンエラー分析手法の選択 ・・・85
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「VTA(Variation Tree Analysis)バリエーションツリー分析」はFTA(Fault Tree
Analysis)の欠点を修正し作成された。フロー チャート式に追っていき事故要因を洗い 出す手法が特徴的であり、人や物、組織などの主体ごとに時系列に沿って、事故につなが る通常から逸脱した行為や操作、判断を探り、最終的に事故要因を洗い出す手法である。
多くの事故に見られるエラーの連鎖をこの要因ごとに対策を講じることで断ち切るもので
ある。
ヒューマンエラー分析手法で代表的な「4M-5E」、「Medical SAFER」、「VTA」の3種
類を実際に発生した情報漏洩事故へ適用し、その効果を比較することで、どの手法がサイ バーセキュリティに適しているか判断することとした。86
− またITの利用頻度、利用容易性、持ち運びが簡単である点、大量のデータをやり取 りが可能であり大規模な情報漏洩事故となる可能性が高いなどの理由からもUSB、PC 等の紛失を分析・対策立案の対象とすることが最適であると考えた。
3.2
適用実験選択した「4M-5E」、「Medical SAFER」、「VTA」について分析するために必要となる 基礎情報として事故報告書を作成した。作成した事故報告書の情報に基づき「4M-5E」、
「Medical SAFER」、「VTA」、それぞれの手順に従って適用実験を行った。
対象事故として表5−2「日本国内大学における情報漏洩事故分析」の1番の事例として 紹介した2015年1月に発生した大阪市立大学教員の USBメモリ紛失による個人情報の漏洩 事故を取り扱うこととした。理由として大阪市立大学の公式HP23上に事故の状況が細かく 報告されており、分析に必要な情報が得られると考えたからである。
【事故報告書】
(以下)
タイトル:大阪市立大学教員のUSBメモリ紛失による個人情報の漏洩事故 施設名:大阪市立大学
発生日時:2015年1月
発生状況:教員の海外出張時 発生場所:クチン市(マレーシア)
発生設備及び機器:USBメモリ
事故の原因:布製ポーチの紛失。布製ポーチには、USBメモリ1 個、パスポート、航空 機の搭乗券3枚が入っていた。
事故の種類:紛失
結果/影響:当該教員が2009年に担当した2つの授業を受講した39名分の学生の学籍番号、
氏名、 成績データ(のべ62 件)の情報漏洩の可能性 法律区分:個人情報、プライバシー
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[状況]平成 27 年 1 月 27 日(火)、大阪市立大学教員が海外出張中、滞在先のマレーシアに おいて布製ポーチを紛失した。
布製ポーチには、USBメモリ1個、パスポート、航空機の搭乗券3枚が入っており、その うちUSBメモリには本学学生及び卒業生の個人情報を含むデータファイルが保存されてい た。当該教員は直ちに現地警察に遺失届を提出したが、 現時点ではまだ見つかっておら ず、捜索を続けている。
今後の対応
・ データ紛失対象者のうち、本学に在籍する学生に対し、2014年2月5日(木)より口頭 及び文書にて、説明及びお詫びを実施。
・ 卒業生に対しては、説明及びお詫びを文書にて送付。
・ 本学ホームページにて2014年2月6日(金)より、学長名で本件の説明とお詫びを掲載。
事実経過
(1) 平成27年1月27日(火)午後9時30分ごろ [現地時間] 理学研究科准教授(男性45歳) がクチン市(マレーシア)にて、公園内を通行中に、ズボンのポケットに布製ポーチを
入れていた。
(2) 同日午後9時45分ごろ ズボンのポケットに入れていたはずのポーチが無くなって いることに気付く。付近を 捜すとともに、地元警察に遺失届を提出。
(3) 平成27年1月29日(木)日本領事事務所で帰国のための渡航書を受理。
(4) 平成27年2月4日(水)午前8時30分 帰国。
[紛失した個人情報] エクセルファイル(2個) ※パスワード保護有りに記載された 当該教員が2009年に担当した2つの授業を受講した39名分の学生の学籍番号、氏名、成績 データ(のべ62件)
[原因] USBメモリ紛失。所持品管理不徹底によるヒューマンエラー [対策]
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・クチン市(マレーシア) の地元警察に遺失届を提出。
・2月9日(月)の部局長等連絡会において、理事長より全学部・研究科長に対して、注 意喚起を行い、個人情報の適正管理及び記憶媒体の持ち出しの際に内容確認を厳重に行う ことを強く命じた。
[影響/被害]
本件に関し、情報流失等の被害報告は無し
(以上)
(1)「4M-5E」の適用について
事故報告書に基づき「4M-4E」の手順に添ってヒューマンエラー分析を実施する。今回 は、Environment(作業環境)を加えて5E とする。原子力安全技術センター(公団)(2015)
が使用している分析手法マニュアルを参照し分析を行った。
[Man:作業者の心身的な要因、作業能力的な要因]
1.身体的要因
大学教員の身体的な要因、体格、作業姿勢等の要因について調査を行う項目である。
海外出張中の大学教員の身体的な要因は、大学からの報道発表には一切記載が無いこと から要因分析が不可能である。また体格や作業姿勢等は今回の事故における身体的な要因 とは関連性が低い。
2.心理生理的要因
大学教員の心理的、生理的な要因について調査を行う項目である。
大学教員の思い込み、推測などの主観的な要因と過度の緊張、焦り等の心理的なストレ スの他、病気、睡眠不足等の生理的なストレスなどが含まれる。海外出張中の大学教員の 心理生理的な要因は大学からの報道発表には一切記載が無いことから要因分析が不可能で
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あるが、海外出張中ということでその前の準備で疲労が蓄積していた可能性や、その作業 や時差の影響による睡眠不足の可能性は考えられる。
3.技量
大学教員の技量の不足について調査を行う項目である。
作業を行う上で十分な技能が無かったり、作業に不慣れであったりする場合が該当する。
今回の情報漏洩事故が発生した原因は布製ポーチの紛失であり、個人情報が含まれていた USBメモリの操作に関する技量については事故原因との直接的に関連している可能性は低 い。
4.知識
大学教員の知識の不足、誤った理解等の要因について調査する項目である。
公園内で布製ポートを紛失し、現在も発見されていないことから盗難の可能性もある。
海外での安全管理や持ち出し可能な電子媒体であるUSBメモリの安全な保管に対して知識 が不足していた可能性がある。
5.不正
大学教員自らの意図又は指示を受け不正を認識したうえ行う行為等の要因について調査 する項目である。
今回の事故については布製ポーチをクチン市(マレーシア)内の公園で紛失した事が大学 教員自ら分かった時点でクチン市(マレーシア)内の地元警察に遺失届を提出していること や、紛失により大学教員に金銭面等、何らメリットが無いことを考えた場合にこの項目は 情報漏洩事故の要因として関連性は無い。
6.作業実施
大学教員の作業実施のタイミング、作業対象、作業順序、整理整頓の実施などが事故の 要因になっていないか調査を行う項目である。
今回の情報漏洩事故の要因とは関連性が無いと判断した。
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[Machine:設備・機器・器具固有の要因]1.機器
機器の故障や動作不良など、機器固有の問題が情報漏洩事故の要因となっていないか調 査する項目である。
今回の情報漏洩事故発生時にUSBメモリの故障と布製ポーチの紛失に関連は無い。
2.設計・機能
設計、インターフェースに関する要因、設計ミス、人間工学上の配慮の欠如などトラブ ルに関与した機器及び他の同機種にも共通し得る要因について調査する項目である。
今回の情報漏洩事故について、大学からの報道発表にはUSBメモリの詳細な一切記載が 無いことから推測すると、大学教員は一般的なUSBメモリを使用していたと推測される。
一般的なUSBメモリの場合はどのPCでも利用できるため個人情報が搾取される可能性が高 くなる。
3.品質
機器の品質や管理状態に関する要因について調査する項目である。設備や機器が老朽化 しているなどの機器の固有の問題に関するものである。
今回の情報漏洩事故については事故とUSBメモリの品質に関連性は無い。
4.物理的・化学的挙動
設備や機器の作業の結果生じた現象により事故に影響を与えた要因について調査する項 目である。
今回の情報漏洩事故については事故とUSBメモリの使用やそれを利用した作業とは特に 関連が無い。
[Media:作業者(今回は大学教員)に影響を与えた物理的、人的な環境の要因]
1.作業環境
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大学教員に影響を与えた環境に関する要因について調査する項目である。照明や空調な どの人工的な環境と雷、風雨などの自然環境が含まれる。
今回の情報漏洩事故について、大学からの報道発表には大学教員に影響を与えた人工的 な環境と自然環境についての記述が一切無かったことから、特殊な環境下に大学教員が置 かれていた可能性は極めて低い。
2.コミュニケーション
大学教員への情報伝達の不足に起因する要因や、必要な情報伝達方法がありながらも十 分に機能していないなどの要因について調査する項目である。
大学教員は情報漏洩事故発生当時に他の人間とコミュニケーションを取りながら実施す る作業を行ってはいなかったため事故との関連性は無い。
3.作業条件
作業の特性や役割分担、作業時間など労働条件に関する要因について調査する項目であ る。
大学教員は情報漏洩事故発生当時に業務に関する作業を行っていなかった。クチン市 (マレーシア)にて、公園内を通行していたに過ぎない。従って事故との関連性は無い。
4.職場状況
人間関係や職場の慣習、組織風土などに関する要因について調査する項目である。
大学教員は情報漏洩事故発生当時に業務に関する作業を行っていなかったためことから 人間関係や職場の慣習、組織風土などは事故とは何ら関連が無い。
[Management:組織における管理状態に起因する要因]
1.組織
組織の管理、運営に関する要因について調査する項目である。予算や経営方針、責任体 制の要因を含むとされている。