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応用地質

ドキュメント内 地域地質研究報告 (ページ 81-97)

        (村岡洋文・宝田晋治)

7. 1 鉱 床

 南部・谷田(1961)が,八甲田山周辺の鉱床を詳しく まとめている.彼らによれば,八甲田山周辺では,第四 紀火山の火山活動により,硫黄・褐鉄鉱の鉱床が形成さ れている.硫黄鉱床は,赤倉岳の東麓,大岳の南西斜面 及び酸湯東方に存在する.褐鉄鉱鉱床は,青森鉱山,

十和田鉱山,地獄沼東方,駒ヶ峯北斜面及び櫛ヶ峯東麓 に存在する.いずれも交代性鉱床である.このほかに,

荒川沿いにドロマイト鉱床が存在する.

 地質図上には,褐鉄鉱鉱床として青森鉱山,十和田鉱 山(南部ほか,1960)及び荒川沿いのドロマイト鉱床(南 部ほか,1963)の位置を示した.南部ほか(1960)によ れば,青森鉱山は昭和 32 年に 4,087 トンが採鉱された が,低品位のため,中止された.しかし,昭和 32 年及 び 34 年にボーリング探鉱が実施され,昭和 35 年から採 鉱が再開された.この文献が記述された頃までは採鉱さ れていた模様であるが,その後,採鉱が中止された経緯 については,不明である.青森鉱山について,南部ほか

(1960)は,埋蔵粗鉱量を約 42,971 トン,可採精鉱量 としては,約 23,000 トンを見積もっている.

 南部ほか(1960)によれば,十和田鉱山は昭和 19 年 に約 3,000 トンが採鉱されたが,同 20 年には輸送用油 の不足により,中止された.昭和 28 年に採鉱が再開さ れたが,同 31 年に,鉱石が枯渇して,閉山された.昭 和 31 年までの総採鉱量は 45,000 トンである.

 南部ほか(1963)によれば,荒川沿いの 3 箇所のドロ マイト鉱床については,いずれも中期中新世の硬質泥岩 に伴う,厚さ 50 cm 程度の薄層またはレンズ状の未開 発の鉱体である.ドロマイト鉱石は MgO を 16 ~ 17 wt

%を含むが,SiO2を 8 ~ 13 wt%,Al2O3を 2.5 ~ 3.3wt% 含む低品位のものであり,鉱量の面でも,品位の面で も,今後ともに開発は困難と思われる.

7. 2 自 然 災 害

 1997 年 7 月 12 日 19 時すぎに,「青森東部」図幅内の 八甲田山麓の田代平の窪地で,訓練中の自衛隊員 3 名が 死亡するガス事故が発生した(平林ほか,1997).窪地 は,田代平を北西‒南東方向に走る県道の田代牧場との 分岐点から西方に約 100 m 離れた林の中にある(N40°

40′58.6″,E140°55′39.5″).窪地の大きさは,南北約 18 m,東西約 12 m で,最深部は地表から約 8 m の深さ

である.事故の翌日 7 月 13 日に 15 ~ 20 %の高い二酸 化炭素濃度が計測された.二酸化炭素の安定同位体は,

窪地内部の空気の値が 5.7 ‰であった.これは,二酸 化炭素の起源が火山性であったことを示す(平林ほか,

1997).

 1999 年 3 月 9 日の夜,奥入瀬渓谷馬門岩西 400 m 地 点(N40°31′33″,E140°58′37″)にて八甲田第 1 期火 砕流堆積物及びその下位層の地すべりが発生した.幅 130 m,高さ 80 m の地すべり堆積物により,奥入瀬渓 谷沿いの国道 102 号線が 1 週間以上閉鎖された.

7. 3 地熱及び温泉

 本図幅地域は八甲田周辺の地熱地域における最も高温 の地域にあたっており,酸ヶ湯,新湯,猿倉,谷内,蔦 など,元来自然湧出泉で,比較的高温の温泉がいくつも 分布している.それ自体がこの地域における主要な地下 資源・観光資源となっている.これら高温の温泉を始め とする優勢な地表地熱徴候のため,本地域では,これま でに掘削を含むいくつかの本格的な地熱調査が試みられ た.残念ながら,本地域にはまだ,地熱発電所が建設さ れるには至っていないが,中規模であれば,その開発の 可能性は十分にあると思われる.ここでは,いくつかの 項目について,本図幅地域の地熱及び温泉についてまと める.

 7. 3. 1 主要な温泉・地熱徴候

 第 7. 1 表に本地域の主要な温泉についてまとめる.ま た,その分布を第 7. 1 図に示す.第 7. 1 表には,焼山付 近にある十和田湖温泉郷のデータを含めていない.十和 田湖温泉郷は,近年,温泉ホテルや温泉旅館が増えてき ており,その数では本地域最大となっている.しかし,

十和田湖温泉郷については,従来は少なくとも猿倉温泉 からお湯を輸送していた.現在では,独自に掘削してい る可能性もあるが,その詳細は不明のため,第 7. 1 表か ら省略した.

 第 7. 1 表に示した本地域の温泉は,大きく 2 群に分け られる.一つは八甲田カルデラに伴う温泉群であり,い ま一つは沖浦カルデラに伴う温泉群である.簡単のた め,前者を八甲田熱水系,後者を沖浦熱水系と呼ぶこと にする.本地域の温泉の大部分は前者であり,温川温泉 と平へいろく六温泉のみが後者に属する.八甲田熱水系は,大部 分が硫酸・酸性‒弱酸性型で特徴づけられる.沖浦熱水

1)新エネルギー総合開発機構(1986b),2)比留川(1979)

第 7. 1 表 八甲田山地域の主要な温泉の諸元

第 7. 1 図 八甲田山図幅全域における温泉と地熱調査井の分布

     背景図は国土地理院の数値地図 50 m メッシュより作成した地形陰影図.

系は黒石図幅地域のものも含めて,大部分が食塩・中性 型で特徴づけられる.これについては村岡・上田(1991)

が論じているように,八甲田広域地熱地域においては,

沢,碇ヶ関,沖浦及び八甲田といった 4 つのカルデ ラの熱水系の化学組成が,各カルデラ独自の地球化学的 な 進 化 史 を 反 映 し て,Cl イ オ ン と SO4イ オ ン の 濃 度 図 上でほぼユニークな範囲に区分される(第 7. 2 図).

 通常,陥没カルデラはそのタイプに関わらず,一つの 排水系を持つ.これは最初に溢水した最も低いカルデラ 縁が,以後も選択的に下刻されて行くためである.とこ ろが八甲田カルデラではカルデラ縁から溢れ出るほど大 型の後カルデラ丘が生じたため,通常は一つであるはず の水系涵養域が 4 つに分断されている.すなわち,第 7. 1 図に示す田代平,酸ヶ湯,猿倉,谷地の 4 つの水系 涵養域である.その結果,そのそれぞれに対応する駒込 川,荒川,蔦川,湯尻沢(下流で中里川)という排水系 が生じた.ただし,本報告の八甲田カルデラのカルデラ

縁は,村岡ほか(1983)や村岡・高倉(1988)より,若 干内側に想定しているため,田代平以外の 3 つの水系涵 養域については盆状であるとは限らない.しかし,それ らが分水嶺によって画された独立の水系涵養域であるこ とには変わりない.この中で,最も大きく,盆状の水系 涵養域である田代平が最も優勢な温泉湧出域になるかと いうと,経験的に見てそうではないらしい.大きく,盆 状の水系涵養域は多量の天水の涵養域となり,この冷た い地下水が温泉の湧出をマスクするからである(村岡・

上田,1991).酸ヶ湯,猿倉,谷地といった小さな 3 つ の水系涵養域が,八甲田熱水系において最も優勢な温泉 湧出域に当たっているのは,そのように温泉湧出を妨げ る要因がないためと思われる.

 なお,第 7. 1 図には,断層も記載した.新湯の 3 つの 泉源,温泉のほかに 97℃の噴気帯を持つふかし湯及び 水蒸気爆発による火口の地獄沼は,北傾斜の新湯断層の 上盤側に,ほぼこの断層と平行して配列している.した 第 7. 2 図 八甲田広域地熱地域における熱水系の Cl‒SO4濃度関係図(村岡・長谷,1990)

熱水系は 4 つのカルデラごとに区分している.

がって,新湯断層が直接これらの地熱流体湧出を規制し ている可能性や,同系統の断層がこれらの地熱流体湧出 を規制している可能性など,少なからず成因的な関係が あるように見える.

 沖浦カルデラの内縁には,沖浦環状正断層系に規制さ れて多数の温泉が分布している.したがって,平六や温 川といった沖浦熱水系についても,大きく見れば,沖浦 環状正断層系に規制されているものと考えられる.

 7. 3. 2 主要な地熱調査井

 第 7. 2 表に本地域における主要な地熱調査井をまとめ る. そ の 位 置 は 第 7. 1 図 に 示 す. 石 油 資 源 開 発 ㈱ が 1982 年に掘削した 5 坑の 200 m 級地熱調査井のうち,

1 坑が本地域に掘削されている.新エネルギー総合開発 機構(1983)が地熱開発促進調査「沖浦地域」において 掘削した 9 坑の地熱調査井のうち,2 坑は本図幅地域内 に掘削されている.新エネルギー総合開発機構(1987)

が全国地熱資源総合調査(第 2 次)「八甲田地域」にお いて掘削した深度 1,000 m の地熱調査井が城ヶ倉温泉 の西に掘削されている.続いて,新エネルギー・産業技 術総合開発機構(1993)が地熱開発促進調査「八甲田西 部地域」を実施し,8 坑の地熱調査井のうち,5 坑は本 図幅地域内に掘削されている.この 5 坑のうちの 1 坑は 本図幅地域と青森東部図幅地域との境界付近か,やや北 であるが,一応,その位置を境界付近に記載した.

 第 7. 2 表のように,本地域で最も高い温度を記録した 地 熱 調 査 井 は,219.5 ℃ の N3‒HD‒8 井 で あ る. こ れ は 現在のところ,周辺地域を含む八甲田広域地熱地域で も,最高の温度である.しかし,この坑井は,優勢な逸 泥 帯 に 当 た っ て い な い た め, 噴 気 誘 導(swabbing) し たものの,自噴には至らなかった.なお,本図幅地域に は含まれないが,N3‒HD‒7 という坑井は HK‒61‒1 井の ほぼ真北に位置し,本図幅地域と青森東部図幅地域との 境界からわずか 100 m 程度北に掘削された.この坑井 の最高温度は 192.4℃であるが,より優勢な逸泥帯に当 たっているため,噴気誘導(swabbing)の結果,蒸気 1.5 t/h,熱水 12.0t/h の噴出に成功している.この噴出は,

周辺地域を含む八甲田広域地熱地域の地熱調査井におい て, 黒 石 図 幅 地 域 東 部 の N56‒OU‒4 井 に 続 く,2 番 目 の成功例である.

 7. 3. 3 地熱構造と地熱資源量

 第 7. 3 図は,本地域の周辺地域を含む八甲田広域地熱 地域から,収集した地熱調査井や温泉井の温度データか ら作成した温度勾配図である(村岡・長谷,1990;村 岡・上田,1991).この図は新エネルギー・産業技術総 合開発機構(1993)の地熱開発促進調査「八甲田西部地 域」より前に作成されたため,荒川付近については,そ の結果を入れて修正する必要がある.しかし,大局的な 温度構造から見れば,微修正に過ぎないので,ここでは そのまま使用する.この図に示すように,大局的な温度 構造から見れば,八甲田広域地熱地域では,八甲田カル デラと沖浦カルデラとが最も有望な熱水対流系をなして いる.

 この温度構造を用い,貯留層の基底深度を仮定すれ ば,米国地質調査所の容積法(Brook et al.,1979)によっ て, 地 熱 資 源 量 を 推 定 で き る. そ の 計 算 過 程 は, 村 岡 (1991b)に詳細を記述したので,ここでは結果のみを 述べる.村岡(1991b)は米国地質調査所の容積法によっ て,八甲田カルデラにおいては 35.3 万 kW・30 年,沖 浦カルデラにおいては 26.7 万 kW・30 年の地熱資源量 を見積もった.ただし,その後,地熱関係者の間では,

容積法が,過大な資源量の見積りを与えるということが 暗黙の定説になっている.最近,その原因の一つが判明 した.米国地質調査所の容積法では,熱エネルギーから 電気的エネルギーに変換する際の発電効率に,0.4 を仮 定している.これは発電の現場から見ると,相当に過大 な値であるらしい.現実的な変換効率は 0.15 といわれ て い る. こ の 点 を 考 慮 す れ ば, 上 述 の 地 熱 資 源 量 は 37.5%に 減 ず る 必 要 が あ る. そ こ で, こ れ ら の 見 積 り を 37.5%に下方修正すると,八甲田カルデラにおいて は 13.2 万 kW・30 年, 沖 浦 カ ル デ ラ に お い て は 10.0 万 kW・30 年 の 地 熱 資 源 量 が 見 積 も ら れ る. こ れ ら は 両熱水系を全て開発した場合の見積りであり,普通は立

第 7. 2 表 八甲田山地域の主要な地熱調査井の諸元

ドキュメント内 地域地質研究報告 (ページ 81-97)

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