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本章では,第3章で紹介したステッピングディザ法,第4章で紹介したOSD法,RSSD 法では考慮されていなかった,マスクサイズより小さな微細構造の保存について着目し,こ れまでの手法に比較してより良く微細構造を織物上に再現する手法,IFT(Intensity Forced

Thresholding)法[5-01]を新たに提案し,またその優位性を製織試験によって示す.

51 微細な構造の再現

5-1-1 微細構造の保存について

図5-01は,本研究のコンセプトを示すため,図5-01 (a)を入力画像とした複数の手法による 二値化結果を図示したものである.ステッピングディザ法は,前章で述べたように,スロット 内の閾値の偏りを最小化するオーダーユニットを適用することで,緩やかな階調変化の領域 におけるアーティファクト発生を防ぐことが可能となり,連続階調を織物上で表現するうえ でより効果的な手法となった.

では緩やかな階調変化と正反対の,微細な領域での階調変化についてはどうだろうか.図 5-01 (d)が示すように,ステッピングディザ法ではディザマスクサイズ毎に入力画像の輝度を 反映するよう設計されているため,背景を含む全体的な階調は保存され,織物組織に適した 結果が得られている.しかしながら,入力画像内の右斜め上へ向かう何本かの太い枝は確認 できるが,細い枝は埋もれてしまっており,微細構造がよく保存されているとは言い難い.

図5-01 微細構造,階調の再現性と織物組織としての適性の比較

一方,入力画像の微細構造を最もよく再現しているのは図5-01 (b)の,輝度50%を閾値とし て全画素を二値化したものである.図5-01 (c)は誤差拡散法によるもので,微細構造と階調が

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ある程度保存されている.ただし,これらの例では長すぎる糸の浮きがあり(図5-01 (b), (c)),

また不規則でノイズ状の構造が画像の再現を妨げている状況(図 5-02 (c))が見られるなど,

2-1-5節で紹介した織物制約を満たしておらず,ジャカード組織パターンの生成法としては不

適である.輪郭等の情報をよりよく保存するための手法として提案された拡張誤差拡散法に よる結果(図5-01 (e))では,ステッピングディザ法に比較して,水平に近い枝が確認できる など向上が見られるが,その差はわずかである.

図5-01 (f)は本章で提案する手法を用いたもので,織物上には階調とともに細い枝がより多

く再現され,織物制約を満たしながら階調の再現性と微細構造の再現性を両立することが可 能であることを示している.

1-2-2節で述べた本論文の主題から,いかに多くの入力画像の情報を織物上に再現するかが

重要であるため,微細構造の再現性を高めることは避けて通ることのできない課題である.

そこで本章では,階調の再現性と織物制約に従うことを最優先としつつ,微細構造の再現を 実現する手法を見出すことを目的とし,まずステッピングディザ法などの二値化手法で微細 構造が保存されない原因を探り,検討を行った.

5-1-2 ディザ法で微細構造が保存されない原因

まず,ステッピングディザ法で入力画像の微細構造が保存されない原因について考察し,

これを解決するための方向性を提示する.図5-02は,ステッピングディザ法のフローチャー トとともに,ディザ法によって入力画像の輝度の情報が局所的に失われるメカニズムを示し ている.図5-02 (a)-D に示した出力画像は,繻子織の織物組織パターンを保持しつつ,図

5-02(a)-Aの入力画像の輝度をマスクサイズ全体として保存するのに必要な数の黒と白で構成さ

れている.しかし詳細にみると,入力画像における明暗の関係が局所的に反転してしまう結 果が見られる.例えば,図5-02 (a)-DのスロットS1に位置する画素を抜き出した図5-02 (b)-D では,点線で囲まれた領域は周囲より暗いが,入力画像ではその領域は周囲より明るくなっ ている.このような明暗反転が,微細構造の再現を妨げる主たる要因になっていると考えら れる.

ではなぜこのような反転が起こるのだろうか.この問題は,ディザ法そのものに起因して いるといえる.ディザ法とは,ディザマスクサイズ単位で入力画像の輝度を保つよう,値0と 255の画素の望ましい配置パターンによる二値画像を生成するプロセスということができる.

この要請に従うために,局所的に入力画像の明暗を反転することはディザ法そのものに組み 込まれており,またそれが微細構造の再現を妨げる主要因にもなっていると考えられる.

この問題に対処するため,既にいくつかの解決法が提案されている.その一つが誤差拡散

法(図 5-01(c))であるが,すでに述べたように織物組織には不適である.また誤差拡散法を

織物ディザ法に導入した拡張誤差拡散法は,微細構造の再現を向上させてはいるが,図 5-01

(e)に見るように本研究の提案手法(図 5-01 (f))と比較するとその効果は十分とはいえない.

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図5-02 ステッピングディザ法のフローチャートと輝度の反転

5-1-3 提案手法のコンセプト

本章では,微細構造と階調の保存,織物制約を満たす織物組織パターン,それぞれの要請 を満たす結果をもたらす新たな手法について検討した.

基本的なアイデアは,ある限られた領域について入力画像の明暗に従った二値化を行い,

それ以外の領域では階調と織物組織パターンの保存を優先するという選択的な手法を用いる ことにある.画素の明暗に応じた二値化を行う限られた領域は,階調表現と織物組織パター ンの保持に影響を及ぼさないよう注意深く選択する必要がある.本論文ではそのために新し い概念“バウンダリースロット”を導入し,これを用いた二値化のアルゴリズムを提案す る.

5-1-4 バウンダリースロット

本節では,入力画素値の明暗に従った二値化を行うためのターゲットとなる領域として,

バウンダリースロットを定義する.バウンダリースロットは,ステッピングディザマスク内 の閾値レンジ及びその配置と,それに対応するサイズの入力画素値との相互関係をもとに定 義される.図5-03に示すように,織物ディザ法で用いられるステッピングディザマスクの 階段状に配置された閾値は,周期的な白と黒の繰り返しの構造の二値化結果をもたらし,こ のときの白と黒の画素の比率で入力画像の輝度を再現する(図5-03 D).ここでスロットS3 の二値化結果(図5-03 F)を見てみよう.S3以外のスロットの結果(図5-03 D)ではそれぞ れ白か黒の画素のみが含まれていることに対して,スロットS3では白と黒の画素が混在して

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いることがわかる.白と黒が混在する理由は,ほかのスロットではすべての画素が閾値のレ ンジより大きいか小さいかのどちらかのみであるのに対して,スロットS3では閾値のレンジ 内に画素が含まれるため,個々の閾値より大きい画素と小さい画素が混在しているからであ る.

図5-03 ステッピングディザ法による二値化プロセスのモデル

図5-04 A, B, Cはステッピングディザ法のフローチャートを表す.ここでは,図5-04 Aの

入力画素値と図5-04 Bのステッピングディザマスク内の閾値とを比較する組織的ディザ法に より,二値化結果として出力画像(図5-04 C)が得られることを示している.図5-04 Dは ディザマスクサイズの出力画像(図5-04 C)におけるスロットS3の配置を示している.図

5-03 Fで見たのと同様に,図5-04 DでもスロットS3には白と黒の画素が混在している.

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ここで着目したいのは,このときたとえスロットS3に含まれる白と黒の画素を入れ替える 操作を行ったとしても,全体の輝度と周期的な白と黒の繰り返し構造は損なわれず,2-1-5 節で紹介した織物制約を満たすことができる,ということである.つまり,このときのスロ ットS3は,画素値の明暗に従った二値化を行うターゲット領域の有力な候補となりうる条件

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を備えているといえる.このようなスロットを,白と黒の境界に相当する閾値のレンジを担 うスロットという意味から“バウンダリースロット”として,次のように定義する.バウン ダリースロットは,そのスロットに対応する空間的配置にある入力画素の画素値のレンジ が,そのスロットの担う閾値レンジと重なる領域を持つスロットである.図5-05 A, Bはバ ウンダリースロットをより詳細に説明するための一例を示している.ここで示したスロット S3のうち,スロットセルs30,s33,s34では入力画素値が閾値レンジよりも高い値を持つため 出力結果はすべて255,白となる.逆にs32,s37では入力画素値は閾値レンジよりも低い値を 持つため,出力結果はすべて0,黒となる.残るs31,s35,s36では,入力画素値が閾値レン ジに含まれているため,スロットS3の出力結果は個々の閾値との比較により0あるいは255 のどちらかが決定されるため,ここでは出力画像が白,黒どちらかの可能性を持つことをピ ンク色で示している.なお,図5-03では入力画素値と閾値の大小関係が図によって明示さ れているため,出力画像の白と黒は確定されているが,図5-05 Aでは個々の閾値が明らかで ないため,出力画像中の白と黒の比率や位置は特定することができない.

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ここまで見てきたことから,微細構造が保存されない原因である画素値の反転が起こって いるのは,まさにバウンダリースロット内であるということができる.ステッピングディザ 法では,均等に配置された閾値に基づき,個々の閾値と入力画素値の相互関係によって出力 結果が白となるか黒となるかが決定され,入力画像の輝度をディザマスクサイズで確率的に 保存される.このとき,バウンダリースロット内の個々の閾値と入力画素値の大小関係が反 する場合には,画素の反転が起こって入力画像の微細構造が失われ,逆の場合には入力画素 値の情報は保存されて微細構造が再現され得る.

本章で提案する手法の基本的なコンセプトは,微細構造を保存するために,バウンダリー スロット内に限って二値化処理をディザマスクの閾値によってではなく,入力画素値の大小 関係に基づいて行い,結果的に全体として入力画像の輝度を保存するよう,バウンダリース ロット内の白と黒の数を調整するというものである.

5-1-5 提案手法(IFT(Intensity Forced Thresholding)法)の詳細

本章で提案する織物組織生成手法は,閾値が階段状の構造を持つステッピングディザマス クを用いる.そして,微細構造の保存,階調の保存,織物制約の保持という条件を満たすた めに,図5-06に示すフローチャートに示すように,バウンダリースロットの中と外という