2.4 可視化されたネットワークの中心部分の特 定
2.4.1 従来研究
(26)中心性概念の特定
ネットワーク分析では、中心性について様々な尺度が用いられている。最も有名な ものとして、次数中心性(Degree)、近接中心性(Closeness)、媒介中心性(Betweenness) によって、中心性の概念を整理した研究がある(26)。
次数中心性(Degree)とは、あるノードがネットワーク内のノードとどの程度つな がっているのかを示す。多くのノードと隣接している程、ノードの中心性が高いとす る。近接中心性(Closeness)とは、各ノードから他のノードへの距離の平均を示す。あ るノードから他のすべてのノードに到達する最短距離の平均が短いほど、中心性が高 いとする。媒介中心性(Betweenness)とは、あるノードがどの程度他のノードと他の ノードとを結ぶ経路になっているかを示す。ノード間の経路を媒介するほど中心性が 高いとする。
なお、ネットワークは、ノードとリンクで構成される。ノードは、個別の要素を意 味する。リンクは、ノードとノードをつなぐ関係性を意味する。これらを踏まえ、引 用ネットワークは、特許出願(ノード)と特許出願(ノード)とを引用関係でつなぐ
(リンク)するネットワークを意味する。
(27)PageRankによる特定
中心部分を特定するのに、PageRankという指標がある(27)。
PageRankは、多くの良質なページからリンクされているページも良質である、と
いう再帰的な関係をもとに、全てのページの重要度を判定したものである。
PageRankにおいて、重要度の高いノードからリンクを張られているノードは重要
である。中心性の高い点とのリンクを重視して中心性を考えるものである。
(28)流通サービスの取引ネットワークの中心性の特定
流通サービスにおける関東甲信越の取引ネットワークを分析して、ネットワーク形 成の対象となる企業について、中心部分を特定する指標を示した研究がある(28)。取 引ネットワークから次数中心性、近接中心性、媒介中心性などを抽出している(表2.2)。
表2.2: 取引ネットワーク分析により抽出された中心部分を特定する指標
なお、特許の中心部分を特定したものではないが、ネットワークの中心部分を特定 する指標を抽出している点で注目される。
(29)専門家推薦等による特定
特許庁では、第3期科学技術基本計画において重点推進4分野及び推進4分野と定 められた8分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、エ ネルギー、ものづくり、社会基盤、フロンティア)を中心に、特許出願技術動向調査 を実施している。特許出願技術動向調査では、基本的に、専門家の推薦(判断)によ って対象テーマの中心部分となる特許が重要特許として特定される(29)。
特許出願技術動向調査では、調査範囲を決定し、母集団を抽出して、母集団の全件 数について、1件ずつ分析軸に沿って抄録または特許明細書を読み込み、ノイズとな る文献を除去しながら解析を行っている。特許出願技術動向調査は、2001 年より特
許庁により行われている。
なお、委員会の委員の推薦のあった特許、および参考文献などにより特許その技術 について最初に出願されたと考えられた特許などを太陽電池分野の中心部分となる 特許として特定している点で注目される(表2.3)(表2.4)。
表2.3:委員推薦による重要特許(太陽電池)
表2.4: 特許その技術について最初に出願されたと考えられた基本特許(太陽電池)
(30)特許の引用関係を利用した重力モデルによる特定
特許出願を構成する特許出願群の関係を特許の引用関係を用いてマップに表現し て、マップの位置により中心的な役割を担う特許出願を特定する研究がある(26)。か かる研究は、重力モデルに基づく。
重力モデルは、引用によって結びつけられている特許出願間にのみ2点の距離rに 比例する引力が働くとし、全ての特許出願について特許出願を中心として半径 rc 内 に存在するすべての特許出願から0.1/r2の斥力が働くとして、セルに分割する。
そして、重力モデルは、セルに含まれる特許出願数密度が 0.1×Pmax 以上のセル が繋がっていてできる領域の中で、領域中に 30 以上の特許出願を含むものを技術群 として定義する。
このモデルでは、多くの特許出願から構成され中心的な役割を担う技術群がマップ の中央に、少数の特許出願から構成される技術群はその周囲に位置する(図2.10)。マッ プの特許出願群の位置(技術群間の知識の流れの分析)により、群間の繋がり(知識 のやり取り)を観測することが可能である。
なお、ナノテクロノロジー関連特許出願を母集団とする調査結果より、ナノテクノ ロジーを構成する技術群間の繋がりは非常に弱く、それぞれの技術群が独立に発展し ていることが確認されている。
図2.10: 重力モデルにより示された特許出願のマップ
(31)学術俯瞰の手法による特定
サイズの大きい研究分野を俯瞰する試みとして、イノベーションに対する学術俯瞰 を行った研究がある 。例えば、学術俯瞰は、以下の分析手順で行われる 2.11。
第一に、論文データベースから書誌事項に「イノベーション」という用語を含むもの
(4万件程度)を抽出し、論文の一つ一つをノードとして引用関係をリンクとするネ ットワークを構築する(ネットワークの作成)。第二に、ネットワークの最大連結成 分を取得し、Newman法を用いてクラスタリングを行う(クラスタリング)。第三に、
ノード数の上位17のクラスターについて特性を判定し、名称をつける(クラスター の特徴分析)。第四に、Large Graph Layoutのアルゴリズムを用いて、可視化を行う
(可視化)。
図2.11: 学術俯瞰の分析手順を示した図
なお、Newman 法は、ある集団と別の集団とを分ける方法として、集団間のリン
クに対して集団内部のリンクの密度の濃さで評価する。このリンクの密度の濃さ(度 合い)をモジュール性 Q という値で定義して、Q が最大になった時点でクラスタリ ングを行う。
また、Large Graph Layoutのアルゴリズムは、リンクを持つノード間に引力を、
そうでなければ斥力を仮定し、各ノードの座標計算を行うものであり、ノードの引用 関係の密な論文群が近くに、引用関係のない論文を遠方に配置させる。
さらに、上位17のクラスターとするのは、17クラスターで9割以上を占め、上 位17個のクラスターを分析すれば、イノベーション研究の領域を俯瞰する上で充分 であると考えたためであるとしている。
学術俯瞰により、イノベーションに関する膨大な学術研究を客観的に俯瞰すること が可能となっている。
マップ上の位置から内容面で関係の深いテーマを扱うクラスターは近傍に存在し て、引用関係も発達する一方で、内容面で関係の余りないテーマを扱うクラスターは 離れており、引用関係も発達する距離の余りないことが分かる(図2.12)。
図2.12: 学術俯瞰の可視化により示された図
(32)学術俯瞰および特許俯瞰による特定
学術論文と特許の対応関係を特定して、学術研究と特許の差分領域を発見すること を試みた研究がある(30)。かかる研究は、第一フェーズと第二フェーズとからなる。
第一フェーズとして、学術論文と特許のそれぞれをクラスターに分類する。具体的 には、上述の(30)学術俯瞰の分析手順に示されるように、学術論文と特許のそれ ぞれについて、①直接引用をリンクとする引用ネットワークを作成し、②密に結合し た部分を抽出してクラスタリングを行い、③クラスターの特徴分析を行い、④可視化 を行う。
第二のフェーズとして、エキスパートは、主要な論文クラスター、特許クラスター 間の対応関係を検討して、主要文書の書誌情報からどの論文クラスターと特許クラス ターの間に意味的な関係があるかを判定する。
二次電池を事例として、上位10の論文クラスターと上位10の特許クラスターの対 応関係を判定した結果、論文クラスターのS1”metal hydride”と、特許クラスターの T3”metal hydride”はともにメタルハイドロイドを扱っており、対応関係があるこが 確認されている(図2.13)。また、論文クラスターのS2”Li(Mn,Co,Ni)O系”、S3”Li-Sn 系”、S5”olivine系”と、特許クラスターのT1”リチウム系電池のセルデザイン”とは、
対応関係があることが特定されている(図2.13)。
なお、かかる研究は、第一に、直接引用をリンクとする引用ネットワークを作成し て、作成した引用ネットワークの中の最大連結成分のみが用いられ、最大連結成分に リンクしていない要素を削除する点、第二に、密に結合した部分をクラスターとして
抽出する点、および第三に、上位10の論文クラスターと上位10の特許クラスターの 対応関係をエキスパートが判断する点で、論文クラスターおよび特許クラスターの中 心部分の特定に関連する。
図2.13: 二次電池関連の論文クラスターと特許クラスターの比較