技術研究組合 国際廃炉研究開発機構
神徳 徹雄
リスク低減のための東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置においては,人が近づけな い高放射線環境の中で調査し,作業することが求められており,ロボット技術を活用した遠 隔作業しか解決手段がないのが現状である。現在,高放射線環境における廃炉作業を実現す るために,ロボット技術を活用した多種多様な遠隔操作機器の研究開発が進められている。
最新の廃炉ロボット技術開発として,作業員の被ばく線量低減を目指した原子炉建屋の屋内 用遠隔除染装置と,アクセスが困難な原子炉格納容器の内部状況把握を目指した遠隔操縦型 調査装置の開発状況を紹介するとともに,廃炉ロボット開発の難しさについて議論する。
I. はじめに
事故発生後の東京電力福島第一原子力発電所(1F)に おける放射性物質によるリスクから人や環境を守るため に,「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等 に向けた中長期ロードマップ」に基づいて,東京電力や 政府を始めとした関係機関が連携して廃炉に向けた取り 組みを続けて来ている。
世界でも経験の無い廃炉作業の実施に当たって,広範 かつ前例の無い技術的課題の解決が中長期的に求めら れ,技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID)は,国 内外の叡智を集めた技術開発の実施機関の役割を担って いる。重要な技術課題のひとつとして,高放射線環境に おける廃炉作業を実現するために,ロボット技術を活用 した多種多様な遠隔操作機器の研究開発が進められてき ている。
本稿では,平成 25 年度,及び,平成 26 年度補正予算
「廃炉・汚染水対策事業補助金」により開発を進めている ロボット技術を紹介するとともに,廃炉ロボット開発の 難しさについて議論する。
Ⅱ.遠隔除染技術の開発
原子炉建屋内部は,放射線量が極めて高く,作業員の 被ばく線量を低減するために,環境の除染,線源からの 遮蔽,線源の撤去を組み合わせた総合的な対策が求めら れる。「原子炉建屋内の遠隔除染技術の開発」プロジェク トでは,環境の除染作業に注目し,原子炉建屋 1 階低所 用除染装置,原子炉建屋 1 階高所用除染装置,2 階以上 の上部階用除染装置の開発を計画している。
すでに,原子炉建屋 1 階低所用除染装置として,免震 重要棟から遠隔操作可能な,高圧水除染装置,ドライア イスブラスト除染装置,吸引・ブラスト除染装置の 3 種 類の除染装置を開発してきた。これらの 3 装置とも東京
電力福島第一原子力発電所での実証試験も完了し,今後 の除染作業に活用されることが期待されている。
現在は,これらの低所用除染技術を活用しつつ,高所 用除染装置の開発を進めている。高所用には,原子炉建 屋内を移動できるように走行時はコンパクトな車体なが ら作業時には 8m 以上の高所まで届く機構等の課題に,
また,上部階用除染装置には,除染装置を上部階に移送 する方法等の課題に対応すべく研究開発を進めている。
Ⅲ.内部調査技術の開発
過酷事故解析コードによる事故解析の研究により,燃 料デブリは,原子炉圧力容器から溶け落ち原子炉格納容 器内に存在すると推定されている。しかし,その具体的 な位置,量,性状については,これらを予測する研究が 活発に行われているが,未だ明らかになっていない。
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」プロジェクトで は,高線量/高湿度環境で,かつ暗闇・蒸気等による視界 不良状態という過酷環境にロボットを投入した調査を目 指している。限られた貫通口(ペネトレーション)からの アクセスが求められるために厳しい形状/寸法制約があ ること,得られている格納容器内部の環境情報が限定的 であることから,段階的に内部環境を把握する調査を計 画している。
Ⅲ.1 福島第一原子力発電所 1 号機の調査 1 号機については,溶融した燃料がペデスタル外部ま で広がっていることが予測されており,燃料デブリの広 がりを確認するためにペデスタル外側調査の優先度が高 い。まず,ペデスタル外側 1 階グレーチング上調査のた めに,狭い貫通口からアクセスして原子炉格納容器内の 1 階グレーチング上の情報を得ることを目的として「形 状変化型ロボット(クローラ)」を開発した。
このロボットは,棒形状で直径 100mm 程度の狭い配
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182 特集Ⅰ 廃炉に向けて
50-51̲vol58̲03-O̲特集̲PK.smd Page 2 16/02/05 14:37 v2.10 管内を走行し,原子炉格納容器の内部に到達した後にコ
の字型に変形する。この安定した形状でグレーチングの 上を遠隔操作で走行して内部調査を行う。平成 27 年 4 月に 2 台の調査装置を投入した調査結果として,地下階 にアクセス可能な開口部の周囲に干渉物が無いこと,設 備に大きな損傷が無いこと,格納容器内部は当初想定し ていた放射線量率よりも低い線量率であることが確認さ れるなど,事故解析や今後の廃炉ロボット開発に資する 重要なデータを得る成果が得られた。
Ⅲ.2 福島第一原子力発電所 2 号機の調査 2 号機については,溶融した燃料の一部がペデスタル 内部に落下していることが予測されており,ペデスタル 内部調査の優先度が高い。ペデスタル内部には,原子炉 圧力容器の直下に,制御棒駆動装置(CRD: Control Rod Drive)交換作業用プラットホームが設置されている。
内部状況調査のために,原子炉格納容器の CRD 搬出入 口からアクセスして,そこに接続されている CRD 交換 レールに沿ってペデスタルの開口部からその内部に入っ て,プラットホーム上の情報を得ることを目的として,
「ペデスタル内遠隔調査ロボット」を開発した。
直径 100mm 程度の狭い配管内を走行可能なロボット の前後に LED ライトとカメラをそれぞれ搭載し,ロ ボットの後方を尾のように振り回す機構を装備すること で,視野範囲を広げるとともに,自力で転倒から復帰可 能な機能を持つ。原子炉格納容器内でプラットホーム上 の落下物や損傷の有無,状態などを確認するとともに,
原子炉格納容器底部付近へのアクセスルートの状態の確 認を遠隔操作で行う調査装置である。
内部調査の前段階の作業として,平成 27 年 6 月から CRD 搬出入口前に設置された遮蔽ブロックの撤去作業 が実施された。作業従事者の被ばく量を削減するため に,新たに開発した遮蔽ブロック撤去装置(TEMBO)を 現場に投入し,遠隔操作によるコンクリートブロックの 撤去作業を実施した。錆の発生により想定以上の固着が あった最後の一列のブロックを除いて,遠隔操作による 遮蔽ブロック撤去を実現した。
今後,CRD 搬出入口前の除染作業を終えた後に,調査 装置を投入して内部調査を実施する予定である。
Ⅳ.システム開発の難しさ
廃炉ロボットの技術開発は,通常のシステム開発と異 なり,3 つの高いハードルとなる課題が存在する。
一般に,ロボット技術を活用したシステム開発は,
ユーザの要求に応えるソリューションビジネスとなって いる。あらかじめ動作環境を規定し,求める機能を実現 するために,信頼性,安全性,経済性の制約の下に技術 を統合したシステムを設計する。機能,信頼性,安全性,
経済性はそれぞれトレードオフの関係があり,ユーザと
開発者との合意のもと,折り合いをつける必要がある。
それに対して,廃炉ロボットの開発においては,人が 容易に近づけない髙放射線環境での作業を求められるた め,現状では,作業環境をあらかじめ正確に把握するこ とが困難である。
第一の課題は,要求仕様として作業環境を正確に設定 することが出来ないことである。そのため,安全率を見 込んだ大雑把な想定環境を前提にシステム設計が求めら れ,過剰な仕様のシステムになる傾向がある。
第二の課題は,要求仕様として産業ロボットのように あらかじめ定まった作業を設定することが出来ないこと である。そのため,あらゆる事態を想定した対応が出来 るような装備を検討し,人間‑機械系となる遠隔操作シ ステムを構成して人間の状況判断力を活用したシステム 設計が必要となる。
第三の課題は,短期間に信頼性の高いシステムの構築 が求められることである。特注システムの開発において は,プロトタイプを実際にユーザに利用してもらった フィードバックによる改善が欠かせない。しかし,廃炉 ロボットでは,実際の作業環境で問題が発生した場合,
回収して改良することが困難であり,模擬環境である モックアップ試験を通してしか改善の機会が無い状況 で,現場投入に耐える高い信頼性が求められる。
Ⅴ . おわりに
合理的な廃炉作業ロボットを開発するためには,作業 環境を正確に調査し,将来開発する廃炉ロボットの要求 仕様設定を正確にすることが肝要である。また,次々と 明らかになる原子炉の内部状況や各作業の進捗状況に応 じて,最適な廃炉措置全体の構想も刻々と変化してい る。つまり,工法等の選択に欠かせない調査すべき情報 や必要とされる作業内容が刻々と変化するため,廃炉ロ ボット技術開発においては,状況に応じた柔軟な開発体 制が本質的なものとなる。
今後も関係機関と密に情報交換を行いつつ,国内外の 叡智を集めた研究開発が期待されている。
− 参 考 文 献 −
1) 研究開発成果概要(平成 26 年度版),国際廃炉研究開発機構,
2015 年 3 月.http://irid.or.jp/̲pdf/oanogketh26.pdf
著 者 紹 介
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神徳徹雄 (こうとく・てつお) 開発計画部 副部長
(専門分野)ロボット工学,ソフトウエアの モジュール化と標準化。
国立研究開発法人産業技術総合研究所知 能システム研究部門総括研究主幹を兼務。