5. おわりに 60
5.2 広義の移動体への応用
ここでは,本論文で取り上げた対象以外への提案手法の応用について述べる. 一 人で二本のオールを使う(スカル型)ローボート(手漕ぎボート)は,前進するた めに左右対称にローイングする必要がある. この条件からローイングは, オール 先端を進行方向に向けるフォワード, オール先端のブレードを水中に沈めるキャッ チ,ブレードによって水を押し出すドライブ, ブレードを水面から浮上させるフィ ニッシュを繰返す周期運動である[57]. 紙面上を左から右に移動するボートのロー イング模式図を図43に示す.
(a) フォワード
(b) キャッチ
(c) ドライブ
(d) フィニッシュ
図 43 ローイングの模式図
文献[58]の計測では,速度vで航行するボートのエネルギー損失はDsvαs(Ds= 4.7±1.0,αs= 2.95±0.49)になる. スポーツ科学分野では,艇速の変動を抑制す ることがローイングのエネルギー効率改善に有効であることが知られており, 通 常はローイング周期を短くすることで艇速変動を抑制している. これは, 3.5節で 述べたエネルギー効率最適化の見解と一致している. 一方で,自転車のエネルギー 損失が速度の2乗に比例しているのに対して, ボートのエネルギー損失は艇速の 約3乗に比例しているという点に違いがある. 以下では,エネルギー損失が3乗に 比例する場合にも脈動抑制がエネルギー効率の面で有利であることを示す. ここ では,艇速はv =v0+vasinωtとする. このとき,ある時間T の間の損失仕事率は 以下のように計算される.
1 T
3 T 0
Dsv3dt
= Ds
T 3 T
0
(v0+vasinωt)3dt
= Ds
T 3 T
0
(v30+ 3v02vasinωt+ 3v0v2asin2ωt+va3sin3ωt)dt
= Ds
T 3 T
0
)
v03+ 3v20vasinωt+ 3v20va
C1 2− 1
2cos 2ωt D
+v30 C3
4sinωt− 1
4sin 3ωt D4
dt
= Ds
T )
v03T −3v02vacosωT + 3v02va
C1 2T − 1
4sin 2ωT D
+v30 C
−3
4cosωT + 1
12cos 3ωT +3 4 − 1
12 D4
いま, T を加減速の一周期(T = 2π/ω)とする. この間の損失仕事率は以下のと おりである.
Ds
C v03+ 3
2v0va2 D
この結果から, 艇速の脈動抑制により損失仕事率が減少することが確認できる.
よって, エネルギー損失が速度の3乗に比例する場合でも,エネルギー効率最適化 条件は有効である.
次に, 複数名でローイングするボートについて考えよう. 例えば一人が一本の オールを使うエイト(8人乗りのボート)やガレー船は左右対称に漕手全員が同じ 動作を繰返している. これは,限られたスペースに多数の漕手を配置しつつ, オー ルが干渉しないようにローイングする方法であるといえる. 一方で, ボートに十 分なスペースがあると仮定するとエネルギー効率最適化の観点からは, 漕手を二 つのグループに分けて互いのローイングの位相を半周期分ずらし, 艇速を平準化 させることが有効であると考えられる. また, 冒頭で述べたスカル型の場合には
(補助推力発生デバイスを船体に追加したと仮定して),提案手法を適用してロー イング中のフィニッシュ-フォワード間にパワーアシストすることによってエネル ギー効率の改善が期待できる.