• 検索結果がありません。

松島はリスクの高い炭砿事業にも数多く関与したが、自らー獲千金を夢見た というより、あくまで鉱山事業のハイリターンに魅惑きれがちな地方投資家を 効果的に吸引する手段としての起業であった。とりわけ彼の名を高めた「幽霊 炭坑」事件の三池炭砿会社(三井とは無関係)の創意に満ちた巧妙な仕掛けは 彼の「虚業家j的革新性を顕著に示すものと考えられる。また松島は炭砿事業 でのパートナーである鉱山ブローカーなど「山師」として畏怖されたプロの鉱 山専門家等をも心服きせて自家薬龍中の物とするなど、人心龍絡能力にも卓抜 していたことをうかがわせる。この章は三池炭砿をはじめ九州炭砿、唐津炭砿 など、著名産炭地の近傍で疑わしい鉱山事業多数に深〈関わるなど、松島の資 本家としての特異性の抽出が主題となる。

三 池 炭 砿 会 社

明治44年神戸正雄は「付近ニ有力ナル類似ノ鉱山アル新鉱山ノ株モ往々ニシ テ危険ナリ j とする。池島民理も炭田権利者の「農民等に交渉して安〈買取る 予約を為し…関係の深い銀行等と協議をして、会社創立に取掛り、効能を吹き 立てて株式募集のをやる。愈々会社が成立すると…炭聞を高〈売付け、其聞に 大利益を食る

J I

発起屋

J

を紹介するが、以下にみるように著名な三池炭坑の名 を踊る新鉱山の三池炭砿鮒はこうした「発起屋」による危険な「山会社」の典 型であろう。

三池炭砿株式会社の当初の企画は地元八女郡の椿原乙蔵が「福岡県三池郡銀 水村所在ノ石炭鉱業ニ関スル原因伊兵衛名義ノ二鉱区及坪内秀吉名義ノ一鉱区 ヲ以テ採炭事業ヲ経営センj としたことに起因する。三池郡の鉱業権者である 原因伊兵衛(福岡県粕谷郡須恵村新原)は大正8年 8月28日自己の福岡県下の 鉱区87.4万坪を「十八万三千三百六十円で松島及び梅原両名に譲り渡すことに 話纏り、松島は七万六千六百八十円を大正九年一月三十日までに支払ふ

J

(T13. 

12.21徳毎)旨の契約を締結した。しかし松島は期限までに支払わず、原因伊兵 衛は大正13年12月違約金5万円のうち 1万円の請求訴訟を福岡地裁に提起し

た。 (T13.12.21徳毎)

椿原乙蔵は「骨董商小松登ナルモノノ紹介ニ依リ被告人〈梅原〉文次郎ニ対 シ、其ノ出資ニ付尽力方ヲ依頼シ…之ニ基キ予テ知合ノ西条教部ニ諮リ、同人 ト共ニ其ノ実兄ナル被告人〈松島〉肇ニ対シ右出資方ヲ勧誘シタルニ付、同被 告人ニ於テ之ヲ承諾シ、進ンテ福岡県三池地方ニ散在セル石炭ノ諸鉱区ヲ買収 シ之ヲ以テ石炭ノ鉱業経営ヲ目的トスル大規模ノ株式会社ヲ設立センコトヲ発 意スルニ至リ j というのが設立までの発端であった。大正8年8月福岡市で松 島、*梅原文次郎、*椿原乙蔵が会合し、「其ノ設立ヲ共同発起シ…文次郎及乙 蔵ハ之ニ要スル右石炭鉱区ノ買収ヲ為ス旨ノ約定ヲ為シ…肇ハ右教部…〈中村〉

定ヲシテ自己ニ代リテ其ノ設立計画実行ノ局ニ当ラ

J

せた。

松島の会談相手の梅原文次郎(西区江戸堀北通)は*糸崎船渠、*九州炭砿 各取締役(要録T10役中、 P186)、*三池炭砿株式会社取締役(要録、 Tll中 P 145)など松島系企業の役員を兼ねる「松島肇氏の乾分

J

(T14.2 .19徳毎)、

「松島肇氏の相棒として知られ

J

(T14.2. 7徳毎)た「鉱山ブローカー

J

(T  14.2.10徳毎)を営む「梅原鉱業部大阪支庖主人

J

(T9.3.11時事)で「九州 其他に於て多数の炭坑を有せるもの

J

(T9.3.11時事)であった。また*中村 定は「松島氏の親族

J

(T14. 2 . 8徳毎)で、松島系企業10余社に幅広く役員と なって、「同人の参謀として活躍した人物

J

(T14. 2 . 9徳毎)で、「自己ニ代リ テ其ノ設立計画実行ノ局ニ当ラシムル」松島の腹心中の腹心と考えられる。

松島、梅原、椿原、西条の4名は会合を重ね、三池炭砿「会社設立ヲ熱望ス ルノ余リ単ニ其ノ設立ヲ容易ナラシメンカ為、其ノ株主募集ヲ為スニ方リテハ 同会社ノ目的トスル石炭鉱業ニ付何等調査ノ結果ニ基クコトナク、之カ莫大ノ 利益ヲ挙ケ得ル見込アルモノノ如ク虚構シテ吹聴シ、以テ株主申込人ヲシテ其 ノ鉱業カ相当ナル調査ノ結果ニ基キ、真実右ノ如キ見込アルモノナルカ如ク誤 信シメ

J

ょうと共謀したとされた。具体的手法としては「事業地は三井の三池 炭砿を境界とし、其北部及東部に速なる

J

(T 9 . 3 . 6内報①)

r

三井家所有の

炭砿付近の山を買収

J

(T14. 3 . 9徳毎)した「三井万回の坑区に取り閉まれた 三池郡玉川村に唯申訳的の坑口を聞き

J

(T14. 2 . 8徳毎)、「一個の横坑を穿ち、

坑口に良質の石炭を詰め、一見坑内より掘出したるかの如く極めて巧妙に粧ひ」

(T14.3.9徳毎)たとされた。徳毎紙が報じた「鉱床の処々に富鉱を欺装す ること…鉱物堆積の上部に富鉱を履ふ

J1

鉱産の偽諦装飾

J

手法は鉱業界では従 前からありがちな好策であった。こうした手の込んだ虚飾策は同社株式募集の 勧誘に応じて「大株を所有せんとの希望にて実地検踏し、又は炭質の良否を調 査する為、三池に出張する

J

(T14. 3 . 9徳毎)大口見込客の龍絡手段として講 じられた。さらにわざわざ三池炭砿鞠の「営業報告の如き、三井炭砿とそっく りのものを作製

J

(T14. 2 . 8徳毎)した上、その中で技師長神沢勝也が三池「炭 砿会社よりの依頼を受け坑区の設計を為したものを…炭量五億噸あるものの如 く設計書を変造

J

(T14. 2 .26徳毎)して、「同炭砿の炭層は極めて豊富で、炭 丈七米余(二十四尺)に達し、貯炭量五億噸

J

(T14. 2 . 9徳毎)と吹聴したと される。こうした誤信を誘発する手段を種々講じた上で、「三池炭坑と云へば三 井炭坑を想像するもの多きを奇貨として、全国に亘り大募集を為し

J

(T14. 2 .  10徳毎)、「全国各府県は勿論、朝鮮、台湾等

J

(T14. 2 . 8徳毎)の投資家にも 幅広く送付された。

その際に、地方の資産家が信用度の目安として重視する発起人には「松島氏 が常に看板に使へる

J

(T14. 2 .10徳毎)

1

戸水寛人博士、前代議士鈴木錠蔵氏」

(T14. 2 .10徳毎)、元司法次官の「故小山温、帝国通信社長頼母木桂吉氏

J

(T  14.2.14徳毎)、村井吉兵衛、今西林三郎、橋本喜造等 (T9.3.6内報①)、

賛成人としては「侯爵花山院親家、侯爵大隈常信、子爵五辻治仲、工学博士国 沢正兵衛、 ドクトル羽太鋭治氏、及び、シーメンス事件で有名な海軍少将藤井光 五郎氏等

J

(T14. 2 .14徳毎)の一見もっともらしい「知名の士の名を列記

J

(T  14.2.10徳毎)して、信用きせた。

その後の大正9年 3月 9日糸崎船渠事件で松島が身柄を拘束されたため、

1 <

松島〉肇及右〈西条〉教部ノ意ヲ受ケ」た中村は大正9年 5月23日久留米で、

梅原、椿原とともに「商号ヲ三池炭砿株式会社、資本ノ総額ヲ七百五十万円、

一株金額ヲ一時ニ全額払込トシテ金二十五円金銭出資ヲ三百万円、金銭以外ノ 財産タル石炭鉱区ヲ以テ出資ノ目的ト為シ、其ノ価格ヲ四百五十万円卜見積リ、

之ニ対スル株式数十八万株トシ、尚株式募集ニ関シ各自ノ分担ヲ定メ」るなど、

同社設立の基礎的事項を定めた。

現地での株式募集を分担した椿原は、かねての手筈通り、大正9年2月上旬 までの聞に「福岡、佐賀、熊本各県下ニ亙リ福岡県吉井町居住ノ鳥越貞敏外三 十五名ニ対シ株式ノ申込引受ノ勧誘」を行った結果、「株式ノ申込並其引受ヲ為 サシメ、其ノ証拠金並株金払込名義ノ下ニ…合計五万七千十五円ヲ交付セシメ」

た。

35名の株主の筆頭に挙げられた鳥越貞敏は福岡県浮羽郡吉井町の吉井銀行頭 取(要録

T11

、役上p

1 1 0 )

で、三池炭砿側の取締役にも加わり、判決でも当該

「鉱業カ莫大ナル利益ヲ挙ゲ得ル見込アルモノノ如ク…相当ナル調査ノ結果ニ 基キ真実右ノ知キ見込アルモノノ如ク誤信j したと認定きれた。三池から遠く 離れた遠隔地の農民ならともかく、産炭地の本場の銀行家が軽率にも三井の三 池炭坑と混同したとも思われず、不可解さは残る。ただし松島側の上告趣意書 では中村定が「実地を踏査したる大塚工学博士の説明

J

として「極テ有望ニシ テ莫大ナル利益ヲ挙ゲ得ルモノナル事明ナルノミナラス、炭量何程炭質ノ如何 等ハ之レカ採掘ヲ為シ終リタル後ニアラサレハ確的ニ之ヲ知ル事能ハザルモ

ノ)」故に、高名な鉱山技師の調査に基礎を置いた「五億噸ノ炭量ヲ有シ、百億 ノ富ヲ蔵スル」との「設立趣意書

J

記載の文言を「必スシモ誇大ニ吹聴シタル モノナリト言フヲ得ス

J r

原判決ハ事実誤認」と主張した。

201 

こうして三池炭砿鮒は大正

1 0

2

1 1

日創立総会を聞き、本庖を京橋区南横 町

1

に置き、資本金

7 5 0

万円(払込済)で設立された。

( T 1 0 .

. 1 0

鉱業)三池 炭砿鮒は「創立総会…等に対しては開会前日位に通知を発して、株主を参加せ しめず、発起人のみで、全く虚偽の報告を提造

J ( T 1 4 .  2  .  8

徳毎)したとされ る。

三池炭砿鮒の取締役は戸水寛人、*鳥越貞敏、*鈴木錠蔵、*西条教部、*

梅原文次郎、*中村定、*宇野政次郎、*椿原乙歳、監査役*宮本厳、中津親

議であった。

( T 1 0 .4  . 1 0

鉱業)浮羽郡の鳥越貞敏、敦賀の宇野政次郎、熊本の 中津親義の3名を除き、松島のダミーで占められた。後に中津親義に代り監査 役に*堀内目宇治郎が加わった。(要録、

T11

、東京

P2 2 8 )  

しかし実際には三池炭砿の募集株式「残額は財界不況のため応募者なした めに姉妹会社*日洋土地興業株式会社においてこれを引受け、払込みを了した るが如〈仮装し、創立総会を終へ、爾来何等事業経営をなきず

J ( T 1 4 . 1 0 .  2

徳 毎)とされた。大正

1 0

1 2

5

日の広島地裁での訊問で松島は糸崎船渠の「定 款を変更し、鉱業権を事業の中に入れ、自分と梅原が共同経営してゐる福岡県 三池炭砿を買収…其金で空株を補填した」と述べ、坂井造酒松糸崎船渠元専務 も「梅原氏がく三池炭砿〉鉱区を売払った金で、糸崎船渠の七万五千株を持って 入社した

J ( T 1 0 . 1 2 . 1 3

法律)と答えた。こうして三池炭砿側所有の鉱区は*糸 崎船渠に売却され、糸崎船渠は「昌栄貯金銀行大阪総支庖から前記く旧三池炭 砿所属の〉炭坑を買収した財産を担保として小口当座預金通帳の交付を受け」

たとされ、結局三池炭砿の売却代金は糸崎船渠七万五千株に充当されたことが 判明する。

大正

1 1

年2月

1 7

日主唱者であった椿原乙蔵は*日洋土地輿業、三池炭砿各取

251 

締役を辞任した。三池炭砿株式会社は日洋土地興業に合併のため

(T14.2.14

徳毎)、大正

1 2

8

1 5

日「株主総会ノ決議ニヨリ解散

J

した。清算人には戸水 寛人、鈴木錠蔵、*中村定が選任された。

281 

この「幽霊炭坑事件」の発端は松島肇が大正

1 3

3

2 6

日大正殖産銀行取締 役伊藤養太(浮羽郡大石村)を相手取って、預金1万円の請求訴訟を、鈴木弁 護士を代理人として東京地裁に起したことに始まる。

( T 1 3 .3  . 2 7

読売)訴状に よれば松島は「訴外*椿原乙蔵の預金四万九千円の定期預金の保管と利子取立 の委任を受けてゐたので、〈乙蔵の〉代理人としてく大正殖産銀行に〉支払ひを 迫ったが、応じない

J ( T 1 3 .  3  . 2 7

読売)とされた。椿原名義の定期預金

4 . 9

万 円は募集総額

5 . 7

万円

(S6.7.7

東朝)の

86%

に相当すると考えられる。松島 が大口預金を武器に鳥越頭取の吉井銀行や大正殖産銀行など浮羽郡の小銀行に

「幽霊炭坑事件

J

への何らかの加担を勧誘した可能性もあろう。この頃浮羽郡

周辺の小銀行の多くは多額の固定貸に苦しんでいた時期と見られ、概して大口 預金話に乗せられやすい環境にあったと考えられる。

なお「蔵内治郎作氏モ亦内地ノ某炭坑事件ニ連座シテ取調べヲ受クル等幹部 ニ不祥事続出j とされた某炭坑事件は「福岡県三池郡三池炭坑株式会社なるも のを組織し、国宝的大炭坑だと詐欺の広告をなし、株金を募集し数万円の詐欺 をやった

J

(S3.5.1東日)との嫌疑で関係箇所が捜索を受けた当該「幽霊炭 坑事件

J

(T14. 4 . 6徳毎)と考えられる。

2

九 州 炭 砿

松島自身が「大正八年五月主唱者となって資本金五百万円の南九州採炭株式 会社を創設する際、表面発起人とならず内部で実権を握り」と供述したように、

南九州採炭は「資本金五百万円の南九州採炭株式会社設立の計画にて、大部分 は発起人賛成人にて引受け、一部を公募に付すべ〈、営業目的は石炭の採掘売 買鉱業権の取得売買にあり、鉱区は熊本県下天草郡志岐村内 石炭鉱区五万四 千六十三坪と、長崎県南高来郡加津佐村内の鉱区八十六万四千五百坪を買収し、

尚ほ吉田三喜氏の所有に係る前記加津佐村内の二鉱区百九十一万八千七百坪を 現物出資として、其価格四十万円に見積り、四分のー払込にて営業開始する計 画なり

J

(T 8 . 6増田 4‑18)と報じられた。収支予算は第1期の採掘量1日平 均210トンで純益20.6万円、配当率年20%、第2期の採掘量280トンで純益30.4 万円、配当率年30%を見込んで、いた。 (T8 .6.15内報)

南九州採炭の発起人は今西林三郎、河崎助太郎、久保田権四郎、*尾崎敬義、

下郷伝平、飯田新七、坂田実、渡辺修、肥田景之、*横山一平、*原真一、*

山口文右衛門、中井三之助、初回伴作、賛成人は栗原勇之助、鈴木寅彦、阿部 克太郎、石井竹三郎、林安繁、矢野慶太郎、千頭茂寿、長尾薫であった。 (T8. 

6.15内報)

南九州採炭は糸崎船渠と同じく大阪市南区鰻谷西之町12番地の藤本系四ッ橋 建物内に創立事務所を置き、大正8年9月30日大阪市中央電気倶楽部で「創立 総会を聞き…九州炭砿会社と変更するの件を可決

J

(T8.10増田4‑29)、資本

関連したドキュメント