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幼児をもつ母親の育児感情が親役割に及ぼす影響

第1節 親役割の状態の差及び子どもへの認識の差についての検討(研究5)

1. 目的

第 3 章における検討において、育児への肯定的感情は、「育児肯定感」と「自己肯定 感」との 2 因子で構成され、「子育ての期待と現実の差」は年齢高群で負の有意傾向が 見られ、職業無群では有意な負の影響を及ぼしていた。また、「子育ての期待と現実の差」

が高い群の母親は、日常生活での子どもとの関わりの中で、「育児負担感」や「時間の制 約」及び「子どものしつけや対処法」などの困難感を認識していること、低い群の母親 においては「育児肯定感」や「育児支援感」など、概ね肯定的に受け止めていることが 示唆された。

近年、女性の社会進出が進み男女共同参画社会の実現が望まれている。先行研究から 母親の育児不安や育児負担感が、父親からの育児サポートで緩和される(岡本・中村・

山口・奥山・標、2002)ことが明らかになっている。しかし、男性の仕事と育児を両立 できる職場環境の整備については進捗が遅く、家事や育児での量的行動について期待さ れている役割を果たすことは難しい状況が予想される。また、母親が孤立した状況で子 育てをすることにより、「イライラすることが多くなった」、「子どもの振るまいで怒って しまう」など、子育てへの否定的感情を抱きやすくなることが推察され、母親による不 適切な養育態度や虐待の相談件数の急増からは、「育児不安など孤立した状況での子育て の困難さ」(庄司、2001)が深刻化していることが分かる。

また、大橋・浅野(2010)は、「育児期とは、親役割を獲得する期間であり、家族機 能においても家事や育児と仕事と家族員の役割の再調整の時期」でもあり、多様化する 家族形態の中で、性別役割分業にとらわれない親の特性に着目する必要性があると述べ ている。その上で、母親と父親に共通する親の特性を示す「親性」について、「親性とは、

すべての人がもっているものであり、女性と男性に共通する、自己を愛し、尊重しなが ら、他者(子ども)に対しても慈しみやいたわりをもつという性格のものである。ライ フステージとともに発達していくものであり、妊娠・出産・育児期では、子どもに対し て保護や育成という能力で発揮される」(大橋・浅野、2009)と定義している。その上 で、「育児期の親性尺度」開発において、その構成概念を自己への認識と子どもへの認識

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の二側面で捉え、その調和と葛藤を捉えることが親理解の重要ポイントであると述べて いる。そして、自己への認識を「親役割の状態」と「親役割以外の状態」と分け、「子ど もへの認識」を合わせた三つを下位領域としている。「親役割の状態」は、子どもに接し ながら、授乳や排泄の世話といった育児能力を身につけ、育児に関心を持ち親としての 役割に満足感を抱いている状態である、「親役割以外の状態」は、夫や妻といった役割を もち、社会で働く存在を示している、「子どもへの認識」は、子どもとの関係を育みなが ら、子どもの現在と今後の成長・発達の様子の理解を深め、愛情を抱きながら接してい る様子であると定義している。親役割や親性に関する先行研究としては、母親自身がも つ三側面(家庭人としての自分、社会人及び職業人としての自分、個人としての自分)

の理想と現実の構成割合に生じたギャップと育児不安の関連(原口・松浦・矢倉・佐々 木・笠置、2005)、母親の精神状態と家事及び育児役割に対する理想と母親から見た父 親の認識の差(山口・堀田・下方、2007)、子育てをしながらも個人としても生きたい と志向する「個人としての自分」と育児ストレスとの関連(小野田、2013)などの研究 が見られる。これらの研究においては各親役割の比率に関する期待と現実の差や、母親 が「親役割以外の状態」に関する期待と現実の差について検討されているが、「親役割の 状態」や「子どもへの認識」に対する期待と現実の差ついては検討されていない。

そこで第 4 章では、「子育ての期待と現実の差」について、子どもとの関わりの中で の現在の母親の「親役割の状態」から、自身が期待していた「親役割の状態」を減じた ものを「親役割の状態の差」と仮定する。「親役割の状態の差」が正(プラス)であると 認識している場合には、育児への肯定的感情や幸福感が得られると考えられる。一方で、

「親役割の状態の差」が負(マイナス)であると認識している場合においては、親とし ての役割や育児への否定的感情を抱いていると推測される。つまり、「母親になった時の 自分の感情や、実際の子育ての営みの中で経験する負担感とそれに伴う感情」(高田・巽、

2008)が、期待していたものとかけ離れていた場合には、子育てに対して心配や不安を 強くすると推察される。

さらに、現在の「日常生活の中で頻繁に経験する出来事に対する感じ方・家事や子ど もとのかかわりの中」(金田ら、2015)で子どもから必要とされる経験や、対処の中で

「うまくいった」、「これでよい」という確信を得る経験の積み重ねは、子どもとの絆を 形成し、子育てへの肯定的感情や幸福感を育んでいると考えられる。このような母親の 現在の「子どもへの認識」は高いものと推定され、期待していた「子どもへの認識」を

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減じた「子どもへの認識の差」はプラスであろうと推測される。

そこで本研究においては、母親が子どもや子育てに対して親になる前に抱いていた「期 待と現実の差」を、「親役割の状態の差」や「子どもへの認識の差」から捉え、それらが

「父親からのサポート」、「育児感情」、「日常生活での育児幸福感」に影響されていると いう仮説について検討する。「親役割の状態の差」や「子どもへの認識の差」からそれぞ れの群の母親の特徴を考察し、支援の方法を検討することは、子育てを支えるための支 援につながると考える。

なお、本研究では、保護者の子どもや子育てに関連する要因について検討を行ってい る。したがって、大橋・浅野(2010)における「親役割以外の状態」の差については検 討しないこととする。

2.方法

(a)手続き

近畿圏内の二か所の認定こども園、一か所の私立保育園に3・4・5歳児を在籍させて いる保護者 735 名に、無記名式自記式質問紙を配布した。有効回答は 377(回収率は

51.3%)であり、そのうち白紙回答及び欠損値のあるもの23を除いた 354名を本研究

の分析対象とした。

(b)調査対象者

前述したように「育てている子どもの月齢や年齢によって母親の育児不安の質」(吉田、

2013)も異なり、子どもとの関わりやしつけの場面において生じる葛藤や困難感が同様 な状態であろうと考えられることから、研究2と同じ年齢(3・4・5歳児)をもつ保護者 354名を調査対象とした。調査対象者の基本属性をTable4-1に示す。

(c)調査期間

2016年7月7日から11日、2016年9月9日から14日にかけて行った。

(d)質問紙の構成

①調査対象者の属性

まず、母親の属性として、年齢、職業形態、子どもの人数、家族形態、子どもの教育 や子育ての分担の項目を設けた。次に、下記に示す五つの尺度の回答を求めた。

②母親になる前の期待する子育て

「母親になる前の期待する子育て」項目については、「育児期の親性尺度」(大橋ら、

70 属性

  Table4-1

子どもの教育や 子育ての分担

もっぱら自分 ふたりで同じくらい

もっぱら配偶者

242(68.4)

110(31.1)

2 (0.6)

その他 4 (1.1)

家族形態

夫婦と子どものみ 313 (88.4)

夫方親族と同居 27 (7.6)

妻方親族と同居 10 (2.8)

3人 78 (22.0)

4人以上 14 (4.0)

子どもの  人数

1人 63 (17.8)

2人 199 (56.2)

自営業 20 (5.6)

その他  38 (10.7)

職業形態

職業に就いていない  163 (46.0)

常勤勤務  79 (22.3)

非常勤勤務  54 (15.3)

   研究5における調者対象者の基本属性

項目 人数(%)

年齢

20~24歳 1  (0.3)

25~29歳 27 (7.6)

40~44歳  75 (21.1)

45歳~ 14 (4.0)

30~34歳  88 (24.9)

35~39歳 149 (42.1)

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2010)を参考に作成した。この尺度は「親役割の状態」・「親役割以外の状態」・「子ども

への認識」という三つの下位尺度によって構成され、既にその信頼性・妥当性が確認さ れている。そのうち「親役割の状態」13項目、「子どもへの認識」11項目において、母 親になる前に子どもや子育てに対して自ら期待していた関わり方や態度について、推量 の意味を表す“~できるだろう”、“~がわかるだろう”を使用した項目を提示した。回 答方法としては、“そう思う” を 4、“どちらかといえばそう思う”を 3、“どちらかと いえばそう思わない”を2、“そう思わない”を1とする4件法とし、評定値をそのまま 得点として用いた。なお、逆転項目(項目5・9・13・14・16・18・19・21・23)につ いては、1を4点、2を3点、3を2点、4を1点として計算した。

③母親になった後の現実の子育て

「母親になった後の現実の子育て」項目については、「育児期の親性尺度」より「親役 割の状態」13 項目、「子どもへの認識」11 項目を用いた。回答方法としては、“そう思 う” を4、“どちらかといえばそう思う”を3、“どちらかといえばそう思わない”を2、

“そう思わない”を1 とする4 件法とし、評定値をそのまま得点として用いた。なお、

逆転項目(項目5・9・13・14・16・18・19・21・23)については、1を4点、2を3 点、3を2点、4を1点として計算した。

④父親からのサポート

父親からのサポートを測定するために、「ソーシャルサポート」(武田・宮地・山口・

野崎、1998)の情緒的サポート3項目と手段的サポート4項目を用いた。情緒的サポー

トは夫婦間のコミュニケーションなどを主体とする内容、手段的サポートは家事と育児 の援助などを主体とする内容である。回答方法としては、“よくあてはまる” を4、“少 しあてはまる”を 3、“あまりあてはまらない”を 2、“まったくあてはまらない”を 1 とする4件法とし、評定値をそのまま得点として用いた。

⑤育児感情

育児を担う母親の育児への否定的な感情を測定するために、「育児感情尺度」(荒牧、

2011)の「育児への不安感」尺度を用いた。本研究においては、「育児への不安感」尺 度の親側の要因に起因する不安感である「育て方への不安感」4 項目と、子ども側の要 因に起因する不安感である「育ちへの不安感」4 項目の二つの下位尺度を用いた。回答 方法としては、“よくそう思う”を4、“ときどきそう思う”を3、“いくらかそう思う”

を2、“全くそう思わない”を1とする4件法とし、評定値をそのまま得点として用いた。