(図4) 。
萌芽研究の 2 年間の間に,島根県内では隠岐島後の重栖湾において,鳥取県内では 6 箇 所の平野において,津波堆積物検出調査を行った。鳥取県で調査を行った平野は東から,
岩美町大谷地区,鳥取市気高町宝木・富吉地区,日光地区,湯梨浜町光吉・浅津地区,北 栄町由良宿,大谷地区,米子市淀江地区,米子市大篠津町
(米子空港周辺
)である。岩美町 大谷では
2mまでの深度のコアを
19本,
10mのコアを
1本採取した。鳥取市気高町宝木・
富吉地区では
2mまでの深度のコアを
16本,日光地区では
10mの長さのコアを
2本,湯 梨浜町では
2mまでの深度のコアを
4本,北栄町では同様のコアを
3本,
10mの長さのコ アを
1本,米子市淀江においては
2mまでの深度のコアを
7本,米子空港周辺では
2mま での深さのコアを
12本,
4mの深度までのジオスライサー試料を
3本採取,さらに大篠津 町と米子市粟島で
3mまでの深度のコアを採取した。これらのうち,津波由来の疑われる 地層,または津波由来を否定できない地層が見つかったのは,米子空港周辺,北栄町瀬戸 ならびに北栄町大谷であった。重栖湾においては,
64 cm(
OC1)と
95 cm(
OC2)のコア を, 押し込み式コアラーにより採取し, いずれのコアからも津波由来とは言及できないが,
何らかの流れイベントが
19世紀初めに発生したことが明らかになった。
(a)
重栖湾
図1 重栖湾での試料採取位置
図
2重栖湾での試料採取風景
図
3これまでの重栖湾での調査結果の概要
重栖湾は,日本海中部地震の際に津波が襲来したことが知られており,島根県の過去の
津波襲来の検出を行うためには重要な場所である。この湾において,津波堆積物層の有無
を調査するため上記のような
2本の短尺コアをほぼ同一地点から
2012年
10月
16日と
2013年
10月
19日に採取した
(図
1, 2)。いずれのコアも
1 cmにスライスし,粒度分析,貝形虫
化石分析などの各種分析および
210Pb法・
137Cs法,
14C法による年代測定を行った。 その
結果,深度約
50 cm(
19世紀初め頃)に粒度や生物に影響を与えるイベントが起きたこと
が明らかになった
(図
3)。現状ではこのイベントが津波由来かどうかの判断にまでは至って いないため,さらなる調査と分析が必要である。
(c)
米子空港周辺
2012, 13
年度に実施した調査において, 津波堆積物の疑いのある砂層が
1層発見された。
その特徴は次の通りである。試料採取地点を図4に示す。
図
4弓ヶ浜半島
(米子空港周辺
)での試料採取地点。緑のピンは試料を得られなかった地点。
(1)2012
年度の調査においては空港東で採取した多くの試料に津波由来の疑われる層が見
つかった
(図
5)。そのうちの
1地点
(HGS3)で見つかった砂層は,泥質堆積物に挟まれ,
礫を含んでいた。その砂層には海から陸へ向かう流れの痕跡(斜交層理と呼ばれる流 れの方向を示す堆積構造や流れが下位の泥層を陸側へ引きずった痕跡)が見つかった
(図
6)別の地点では
25cmの大きな軽石凝灰岩が,海からの流れで堆積した砂層の中 に見つかった。層に含まれていた炭質物の年代測定の結果は西暦
1809年〜
1898年で あった。
(2) 2013
年度の調査では広域的に試料を採取した。
(1)で述べた泥層が見つかった地点から
50cm
離れた地点で得た試料
(HGS4)では,問題となる砂層の直下の泥層が失われており,
かわりに
5cmほどの泥の塊
(マッドクラストと言う
)が点在する堆積物が得られた。す
なわち,問題の砂層が堆積した時に,下位層を大きく侵食する強い流れが起きていた
ことが示された。
図
5調 査に基づ いて作 成した地 層の断面 図(柱 状断面図) 。棒グ ラフ状の ものはそ れぞれの 地点で の地層の 重なりを 示す柱 状図と呼 ば れ る もので ある 。 年代 値は 炭素
14年 代法 によ るも ので, 暦 年代 で示 して いる 。
(3)
空港周辺の低地にはわずかながら地形の凹凸がある。地形の低い部分では上記の
(1)(2)で述べた砂層の延長と思われる砂層が数地点で見つかった。そのうち,最も内陸側の
もの
(地点
HGS13)は西暦
1800年頃の海岸線(推定)から約
1kmの地点で得られた。こ
の砂層からは上下の層には含まれない海生の珪藻化石が最大で数
%検出された。この 層に含まれていた炭質物の年代測定より, 西暦
1805年〜
1894年という値が得られた。
これらのことを踏まえると,米子空港周辺で見つかった砂層は
1800年代に堆積し,推定 される当時の海岸線から
1kmほど内陸にまで,海からの流れが侵入したと判断される。こ うした広範囲に及ぶ海水の陸への侵入は高潮では説明できない。上記の年代値は,
1833年に襲来したとされる津波の年代と矛盾しない。現状ではこの砂層が津波に由来する可能 性が高い。今回の調査地点は比較的川に近い位置にある。よって,川をさかのぼった津波 に伴いこれらの砂層が堆積した可能性もある。防災のための浸水域想定には,川から離れ た地点での調査が今後,必要となる。
図
6津波由来を否定できない堆積物の引きはがし試料の写真
(左
)とその記載
(右
)。黄色い
図
5調 査に基づ いて作 成した地 層の断面 図(柱 状断面図) 。棒グ ラフ状の ものはそ れぞれの 地点で の地層の 重なりを 示す柱 状図と呼 ば れ る もので ある 。 年代 値は 炭素
14年 代法 によ るも ので, 暦 年代 で示 して いる 。
部分は樹脂である。
(c)
北栄町瀬戸
北栄町瀬戸では
2012年度に行ったボーリング調査において,かつてのラグーン(潟湖)
の堆積物中に,海からの流れ込みを示す堆積物が見つかった(図
7,
8) 。ラグーンの堆積 物は極細粒砂層や泥層からなる。 その中に礫を含む
20cmほどの粗粒砂層が挟まれていた。
その砂層にはボーリング地点の周辺にはない,花崗岩に由来する砂粒子が含まれていた。
その砂の運搬は,海からの流れ以外では説明できない。その堆積年代は約
2000年前であ る(図
7) 。
これまでの結論として,北栄町においては,約
4800年前と約
2000年前に海から陸に堆 積物を運搬するイベントがあったと解釈される。これらが津波由来であるかどうは,もう 少し慎重な検討が必要である。この他の地点については。これまでにはっきりと海から運 ばれた堆積物の痕跡は今の所,見いだせていない。こうした地点においても,今後継続し た調査が必要である。
図
7北栄町瀬戸で採取した試料の柱状図。
図
8津波由来を否定出来ない層の写真。
建設省指定地すべり防止区域
No.
防止区域名 所在地
防止区 域面積
(ha)指定
年月日 地質
1
別所 平田市別所町白滝
33.8 S34.1.29 2道分山 浜田市浅井町
14.0 S35.2.16 3小伊津 平田市小伊津町小伊
津
6.4 S35.2.164
反辺 藪川郡佐田町反辺
9.8 S35.10.15
熊山 松江市東忌部町熊山
12.6 S36.4.8新第三期,中新世,砂岩,泥 岩,安山岩溶岩,火山砕屑岩
6伊志見 八束郡宍道町佐々布
7.0 S36.4.8新第三系中新世川合累層の砂
岩,久利累層の泥岩
7
都万目 隠岐郡西郷町上西
37.0 S36.4.8新第三紀,鮮新世,礫,泥,
含礫及び火山灰
8
多井 平田市十六島町多井
18.5 S38.2.5新第三紀,中期中新世,牛切 層及び大森層の砕屑岩
9犬来 隠岐郡西郷町犬来
28.0 S38.2.5新第三紀,鮮新世,礫,泥,
含礫及び火山灰
10
片江 八束郡美保関町片江
8.6 S39.2.21新第三紀,中新世,成相寺層 の流紋岩火砕岩
11
畑 出雲市見々具町畑
20.5 S29.2.21 12大久 隠岐郡西郷町大久
5.2 S29.2.21 13鵜鷺 藪川郡大社町鷺浦
5.6 S41.7.26 14内馬 八束郡東出雲町内間
8.2 S42.2.24 15一畑 平田市小堺町水ヶ谷
7.3 S42.2.24 16庄部 平田市坂浦町庄部
71.2 S42.2.24 17佐香 平田市小伊津町向山
25.5 S42.2.24 18十六島 平田市十六島町本郷
14.0 S42.2.24 19見田原 出雲市乙立町見田原
7.0 S42.2.24 20管沢 藪川郡多伎町小田
9.6 S42.2.24 21鳥ヶ崎 八束郡玉湯町林村
6.0 S42.3.31 22大芦別所 八束郡島根町大芦
13.2 S42.3.31 23土居 松江市小野町土居
63.4 S42.3.31 24下古和 那賀郡三隅町下古和
30.0 S43.2.5 25小田 藪川郡多伎町小田
24.6 S43.6.4 26唐川 平田市唐川町唐川
49.0 S43.6.4 27上那久 隠岐郡津万村那久
40.0 S44.3.31 28海鳥 八束郡島根町大芦
15.1 S47.2.23 29多古鼻 八束郡島根町多古
25.4 S47.2.23 30赤崎 邇摩郡仁摩町宅野
5.7 S47.2.23 31後野 平田市唐川町後野
24.0 S47.9.25 32菱根 藪川郡大社町菱根
25.1 S47.9.25 33鈴見 大田市久手町波根
5.1 S47.9.25 34南平台 松江市国屋町南平台
6.0 S48.10.27 35根尾 八束郡玉湯町林村
6.2 S48.10.27 36上新官 出雲市古志町上古志
22.0 S48.10.27 37吞水 藪川郡佐田町反辺
8.0 S48.10.27 38佐田別所 藪川郡佐田町反辺
21.5 S48.10.27 39中畑 藪川郡湖陵町畑村
12.7 S48.10.27 40久年 那賀郡三隅町黒沢
24.0 S48.10.27 41旭町 益田市東町
13.9 S48.10.27建設省指定地すべり防止区域
No.
防止区域名 所在地
防止区 域面積
(ha)指定
年月日 地質
42
金谷 美濃郡美都町山本
54.0 S48.10.27 43青原 鹿足郡日原町富田
7.8 S48.10.2744
歌木 隠岐郡津万村歌木
22.5 S48.10.27新第三紀,中期中新世,泥岩 及び凝灰質泥岩
45
仁夫里 隠岐郡知夫村仁夫里
49.6 S48.10.27 46津戸 大田市朝山町仙山
14.6 S48.10.27 47伊野浦 平田市地合町伊野浦
23.6 S48.10.2748
六坊 松江市秋鹿町六坊
25.0 S50.5.29新第三紀,中新世,堆積岩
49城蓮 大田市朝山町城蓮
12.5 S50.5.2950
淀西 藪川郡佐田町反辺
15.2 S50.5.29 51飼領 藪川郡佐田町宮内
5.7 S51.4.13 52滝原 邑智郡邑智町滝原
20.5 S51.10.14 53美保 平田市美保関町唯浦
13.0 S52.7.5 54久村 藪川郡田伎町久村
38.9 S52.7.5 55東本郷 藪川郡田伎町東村
20.2 S52.7.5 56草木谷 藪川郡田伎町東村
50.3 S52.7.5 57吉田町 飯石郡吉田村吉田
36.7 S52.7.5 58中垣内 益田市中垣内町
29.8 S52.7.5 59遠田 益田市遠野町
13.9 S52.7.5 60崎 隠岐郡海士町崎
42.0 S53.8.24 61室谷 那賀郡三隅町室谷
56.0 S53.8.24 62東山 邇摩郡仁摩町東山
25.8 S54.3.1763
大谷 松江市東忌部町大谷
34.4 S54.6.14中新世,川合層,細粒砂岩
64高津屋 藪川郡佐田町高津屋
26.2 S54.6.1465
布奈保 松江市浜佐田町
4.5 S55.4.4 66東福 平田市東福町山根
15.3 S56.3.17 67金地 益田市虫追町金地
12.8 S56.3.17 68榎尻 松江市西川津町
3.9 S57.3.27 69三田地 邑智郡桜江町川戸
12.3 S59.3.31 70中場 浜田市穂出町
32.3 S59.3.31 71中組 那賀郡三隅町古市場
14.2 S59.3.31 72桑原 那賀郡三隅町下古
7.8 S59.3.31 73桜ヶ丘 益田市元町
7.0 S59.3.31 74金丸 大原郡加茂町加茂中
29.1 S59.3.31 75大暮 大田市朝山町朝倉
10.5 S59.3.31 76下本郷 益田市下本郷町
10.7 S61.3.25 77菱浦 隠岐郡海士町
6.8 S61.3.25 78島津屋 大田市朝山町仙山
7.5 S62.3.16 79高野 浜田市長浜町
8.1 S62.3.16 80木部 益田市木部町大浜
7.2 S62.3.16 81三谷 松江市秋鹿町
56.1 S63.3.18 82多田 益田市多田町
6.7 S63.3.18 83美田尻 隠岐郡西ノ島町
6.0 S63.3.1884
岩倉畑 大原郡加茂町岩倉
23.7 H1.3.31川合累層の安山岩,久利累層 の凝灰岩,泥岩
85