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年間の進化 : 自 然選択の実証例

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フィンチのくちばしの個体間の違い

 個体の形や生態といった少し複雑な性質は、一つの遺伝子 の違いでどのような影響をうけ、どのように進化するのだろ うか?南アメリカのエクアドル西約 1000 キロメートルの太 平洋上に、十以上の島々からなるガラパゴス諸島には 14 種類 のフィンチが生息している。これらダーウィンフィンチのく ちばしの大きさや形、体の大きさ、さえずりなどの進化に関 して、 1970 年からアメリカのグラント夫妻ら( P. R. Grant

and B.R.Grant )によって詳しい研究が行われてきた。その研

究の成果の一部については、日本でもいくつかの本などで紹 介されているが、 30 年間のデータを使った研究が最近発表 されたので、それを基に、自然選択による進化について紹介 したい。

 同じ種類の同じ集団の中でも、くちばしの高さが個体に よって少しずつ違っている。たとえば、ダーウィンフィンチ の一種ガラパゴスフィンチは、ダフネ島において、くちばし の高さは 7mm から 11mm の範囲で、平均はだいたい 9mm である。この個体の間のくちばしの高さの違いは、環境によ る違いと遺伝による違いに分けることができる。環境による 違いとは、育った環境の違いや食べたえさの量や質の違いな どの違いである。遺伝による違いとは、くちばしの高さや大 きさに影響する遺伝子の違いのことである。

  ここで、くちばしの大きさや形の違いには、 A と a とい う遺伝子(対立遺伝子)をもつ遺伝子座(遺伝子がしめる位 置のことを遺伝子座という)と B と b という遺伝子をもつ遺 伝子座が影響すると仮定してみよう。そのとき、個体は、以 下のいずれかの遺伝子の組み合わせ(遺伝子型)をもつこと になる; AABB, AaBB, aaBB, AABb, AaBb, aaBb, Aabb, Aabb, aabb 。 A あるいは B はその遺伝子を1個もっていると 1mm だけもっていない個体よりもくちばしの高さが高くなるとし よう。環境が同じなら AABB は aabb よりも 4mm 、 AaBb は

aaBB より 2mm 高いくちばしをもつというふうに理解できる

(図 1 )。また、くちばしの高さは、遺伝子だけでなく育っ た環境や食べ物などに影響される。従って、同じ AaBb とい

う遺伝子をもっていても、環境の違いで異なる高さになる場 合もある(図1)。このような仕組みで、くちばしの大きさと 高さといった量的な性質は、環境と遺伝子の両者が影響して いると見なされるのである。

図1.量的形質の違い(変異)が2つの遺伝子座の遺伝子の 違いと環境の違いによっている場合のモデル例 .

A あるいは a という対立遺伝子をもつ遺伝子座と B あるいは b という対立遺伝子をもつ遺伝子座が形質の高さや大きさ

(たとえばくりばしの高さ)に影響していると仮定する。 A あるいは B をもっていると形質は大きくなるため、遺伝子型 の違いで形質の大きさが違ってくる(遺伝的変異)さらに、

同じ遺伝子型でも、育った環境によって高さが個体で違って くる(環境変異)。従って個体間でみられる形質の違いは、

遺伝子型による違いと環境による違いの両者に起因している ことになる。

 遺伝子と環境がどの程度くちばしの高さの個体の差に影響 しているのかを調べるための一つの方法として、親のくちば しの高さとそのこどものくちばしの高さ(成熟した時点で の)を比べる方法がある。もし、個体の違いに遺伝子の違い が大きく影響していると考えると、大きなくちばしを持った 親からは、大きなくちばしをもった子供が生まれるはずであ る。実際に、グラントらがガラパゴスフィンチで調べた、親 のくちばしの高さと子供のくちばしの高さの関係は、図 2 の 黒丸で示したようになる。もし、くちばしの高さの違いに遺 伝子の違いがまったく影響していなければ、関係は白丸のよ うになり、親と子供の関係を示す直線(回帰直線)の傾きは 0 になる。ガラパゴスフィンチでの親とこどもの値から推定 した回帰直線の傾きは 0.74 となる。この傾きは遺伝率の推定 値として用いられる。ガラパゴスフィンチでは、くちばしの 高さの個体間の違いの原因は、半分以上が遺伝子の違いによ

るという結果である。 


図 2. ガラパゴスフィンチでの親と子どものくちばしの高さの関係 . 白 丸は仮想のデータで、もしくちばしの高さの遺伝率が 0 の場合 . 黒丸 は実際に計測された値遺伝率は 0.74.   Grant (1986) より改変

この結果から、くちばしの高さの違いは遺伝子の違いによっ て大部分が説明できることは明らかであるが、実際には、ど んな遺伝子がくちばしの大きさや形の違いに影響しているの だろうか?最近になって骨形成タンパク質をコードしている

遺伝子の一つである BMP4 がくちばしの大きさや形の違いに 関与していることが明らかになった。タビンらは (

Abzhanov et al. 2004 )は、くちばしの長さ、大きさや高さ の異なる6種のガラパゴスフィンチを用いて調べたところ、

卵からフィンチが発生してくる段階で、どの場所で、どのく らい、また、どの段階で骨形成タンパク質が BMP4 によって 作られるか、が種によって異なっていることを見つけた。た とえば、くちばしが高く大きな種は、発生のより早い段階 で、くちばしの先端に多く BMP4 が発現していた。このこと

から、 BMP4 がいつ、どこで、どれだけ発現するかを調節し

ている複数の遺伝子あるいは遺伝領域の違いが、くちばしの 形や大きさの違いを引き起こしていると考えられる。たとえ ば、上の例に当てはめてみると、くちばしの先端にどれだけ 骨形成タンパク質をつくるかという量を調節する遺伝子に A,a があり、いつ(受精してから何日目) BMP4 を発現させ るのかという遺伝子に B,b があるとしてみる。 AA, は Aa よ り多くの量のタンパクをつくり、 BB 、は Bb よりもはやく発 現すると考えると、 AABB という個体のくちばしは、 AaBb という個体よりも高くて大きい。今後、 BMP4 の発現の調節 に関わる遺伝子の個体間の変異があきらかになるだろう。

 他の生物でも、長さや高さといった量的な性質がどのよう な遺伝子によって影響されているかが少しずつ明らかになり つつある。たとえば、トゲウオの腹びれのとげの長さは、捕 食者の多い海では長くなり、捕食者の少ない淡水では、短く なることが知られている。これは、捕食者に対しての防御だ と考えられている。しかし、トゲを長くするにはカルシウム などが必要となるので、捕食者の少ない淡水では、長いトゲ をもつことはコストがかかるといわれている。シャピロらは (ShapiroM. D. ら ) このトゲの長さに影響する遺伝子の研究に より、トゲをなくしてしまうような大きな違いを引き起こす 遺伝子が 1 つと4つの少しづつ長さの違いに影響する遺伝子 があることを解明した。この大きな違いを引き起こす遺伝子 は他の遺伝子を調節する遺伝子であり、その遺伝子の変化に

よって、 Ptx1 という遺伝子を働かせたり、働かせなかったり

して調節する。 Ptx1 という遺伝子は、ネズミの後ろ脚を小さ くさせるという効果が知られており、脊椎動物の鰭や脚の発 生に関する遺伝子であると思われる。

くちばしの違いと生存

 フィンチの個体間のくちばしの違いは、その個体がどんな 餌を食べるのかということと密接に関係している。シュル

ターとグラントらが調べた結果、くちばしの高い個体ほど固 い餌を割るのに適している(図 3 )。しかし、大きくて高い くちばしをもった個体は小さな種子などを食べるのには適し ていないようである。

図 3. ガラパゴスフィンチにおいて、くちばしの高さと割るこ とのできる 種子の最大の堅さとの関係 . Schluter and  Grand (1984) を改変

  1977 年に、ガラパゴス諸島は、干ばつにみまわれる。その

ために、ハマビシやサボテンの大きくて固い実が増え、小さ くて柔らかい種子が減少してしまった。その結果、くちばし

図 4. ダフネ棟において観察されたガラパゴスフィンチのくちばしの 高さの進化的変化 .

a)1976 年の親のくちばしの高さの分布は白抜きのバーでしめしてあ る。 1976 年の親から生れたこどものくちばしの高さは、 b に示して

いる。 1976 年の親のうち 1977 年の干ばつで生き残った個体は、 a

図の黒いバーでしめしている。生き残った親から生まれたこどものく ちばしの高さの分布は図 c にしめしている。 Grant and Grant 2003

の高い個体が低い個体よりも多く生き残った(図 5 )。そし て、生き残ったくちばしの高さの高い個体が繁殖し、その結 果、干ばつの後にうまれた子供のくちばしも高くなった。平

均で約 1mm くちばしが高くなったことになる(図 4 )。く

ちばしの高さの違いが個体の生存率の差を作り出し、その結 果、集団の中でくちばしの高い個体が広がるという自然選択 による適応的な進化が生じたといえる。

さらに数年後 1992 から 1993 年には、ガラパゴス諸島、赤 道付近の海水温度が上昇するというエルニーニョという現象 の影響を受け、大雨、高温という気候の変化を受ける。それ

により、 1993 年から 1994 年には、サボテンやハマビシと

いった植物の種子はへり、小さくて柔らかい種子が多くを占 めるようになった。さらには、体の小さくて、先の尖ったく ちばしをもった個体が、くちばしの大きな個体より高い生存 率と繁殖率を示し、集団中にくちばしの小さい個体が増加 し、進化した。

 図5 は 30 年間にわたる、ガラパゴスフィンチのくちばしの 大きさと形の変化を示したものである。 1972 年の調査開始

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