善家雄吉,酒井昭典,目貫邦隆,山中芳亮,村井哲平,古川佳世子
【目的】「日本手外科学会(以下日手会)」誌および「日本骨折治療学会(以下骨折)」誌の傾向の違いにつ いて明らかにすること
【対象と方法】2001〜2012年に発刊された日手会誌および骨折誌の中から,橈骨遠位端骨折に関連した論 文を抽出すると,日手会誌:326論文(348トピックス),骨折誌:254論文(268トピックス)であった.
これらを項目ごとに集計し両群の傾向を推察した.
【結果】最も多かった項目は,両群とも「掌側ロッキングプレート」であり,2004年以降,飛躍的にその 掲載数が増加していた.一方,両群間で有意差を認めた項目は,「保存治療」,「髄内釘」であった.
【結論】論文のタイトルと内容より,これら2つの雑誌に掲載された研究を分類した結果,経年的なトピ ックの変遷や雑誌特性についてある傾向を得ることが出来たのは興味深い.
【緒 言】
橈骨遠位端骨折は,救急外来における全骨折の約 20%を占め1)2),発刊されたreview articleは過去5 年間で1,000編以上1)と,我々整形外科医にとって 遭遇する機会の多い重要な骨折の一つと言える.ま た,解剖学的・実臨床的には,上肢の外科(手外科)
に分類され得る領域2)であるが,日常診療におい ては,手外科専門医のみならず,一般整形外科医も 扱うことが多いごく一般的な外傷である.しかしな がら,同じ治療を行うにあたっても,専門性が異な るということは,言い換えると「治療に対する考え 方」が異なるとも考えられる.
本研究の目的は,手外科を主に専門とする集団で 形成される日本手外科学会(日手会)と,骨折・外 傷を主に扱う集団で形成される日本骨折治療学会
(骨折)の2つの刊行誌において,過去12年間の橈 骨遠位端骨折に関連した論文タイトルからトピック を吟味し,これら論文内容に違いがあるか否かを明 らかにすることである.
【対象と方法】
2001〜2012年に刊行された日手会誌および骨折 誌の論文の中から,橈骨遠位端骨折に関連した論文
を抽出すると,日手会誌326論文,骨折誌254論文 であった.これらを10項目(1.掌側ロッキングプ レート,2.創外固定,3.ピンニング,4.手関節鏡関 連,5.保存治療,6.背側プレート,7.掌側ノンロッ キングプレート,8.骨セメント・人工骨,9.髄内釘,
10.その他)のトピックに分類し検討した.ただし,
群間比較研究におけるトピックは,主たるもの以外 も全て採用した.その結果,日手会誌348トピック ス,骨折誌268トピックスであった.また,統計解 析は,Chi square検定を用いて,P<0.01以下を有 意差ありとした.
背景として,2014年4月7日現在のそれぞれの 学会会員数は,日手会員3,464名(整形外科医2,835 名,形成外科医463名,その他166名),うち専門 医752名,代議員248名,一方,骨折会員4,310名,
うち評議員156名であった.なお,本論文中では日 手会誌,骨折誌論文執筆者の呼称を,便宜的にそれ ぞれ「手外科医」,「骨折・外傷医」とした.個人情 報保護の観点より,正確な人数把握は不可能であっ たものの,骨折治療学会評議員名簿より類推する と,概ね20%程度の医師が両群に重複して所属し ており3),その重複した執筆者が両群の雑誌にそれ ぞれ投稿しているケースもみられる.しかしなが 受理日 2014/11/07
産業医科大学 〒807-8555 福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1
橈骨遠位端骨折関連論文の変遷 826
ら,本研究では重複者については特に除外せず,雑 誌特性の違いを明らかにすることを主眼とし,大ま かな両群間の傾向や内容の違いについて検討するこ ととした.
【結 果】
各刊行誌のこれらトピックの経年的変化を表と図 で 示 す( 表1・2, 図1・2). 全 体 的 に 両 群 と も 2001年から2012年にかけて徐々に論文数が増加し 表1 日手会誌の全結果
表2 骨折誌の全結果
てきていた.その中で最も多かったトピックは,両 群とも「1.掌側ロッキングプレート」であり,2004 年から飛躍的に論文数が増加しており,日手会群:
131/348トピック(37.6%),骨折群:86/268トピ ック(32.1%)であった.一方,両群間で有意差を 認めたトピックは,「5.保存治療」(日手会群:7< 骨折群:19);P=0.002,「9.髄内釘」(日手会群:4 論文<骨折会群:13論文);P=0.005であった.そ の他のトピックに両群間に有意差はなかったが,全 体の傾向としても両群間に有意差を認めた(P= 0.002)(表3).
【考 察】
今回このような研究を始めた動機は,過去10年 間の橈骨遠位端骨折論文のreview作業を行ってい た際に,両雑誌の傾向に違いがあると感じたことよ り,改めて集計作業を行い比較検討することを思い 立った.同じ外傷に対して,治療に対する考え方が 異なることで何らかの差異が生じるのか否かは疑問 であった.
本研究で有意差を認めたトピックは,保存治療,
髄内釘の2つであった.保存治療は,橈骨遠位端骨 折治療の基本原則であるにも関わらず,手外科医集 団の刊行誌である日手会誌で,あまりトピックにな っていなかったということに違和感を覚えた.これ 表3 日手会誌と骨折誌の傾向の違い
図1 日手会誌トピックの経年変化 図2 骨折誌トピックの経年変化
橈骨遠位端骨折関連論文の変遷 828
は日手会誌に投稿する医師の多くが,大学病院など の専門機関に所属している場合が多く,必然的に手 術治療に偏ることが影響している可能性がある.ま た,2004年より飛躍的に掲載論文数が伸びてきた 掌側ロッキングプレートの有用性の影響も無視でき ない.即ち,従来,保存治療でも十分に治療可能で あった症例に対しても,早期社会復帰を目的に手術 治療を選択する機会が増えた点である.一方で,掌 側ロッキングプレート固定の稚拙な手術手技などの ために生じた屈筋腱断裂などの報告も散見4)5)され ているが,これは手術治療偏重の弊害とも言えるだ ろう.この点については,トピックの「10.その他」
に含めたが,日手会群:14,骨折群:4と有意差を 認めた(P=0.02).また髄内釘は,骨折群で有意に 多かったが,これは手外科医には馴染みの薄い髄内 釘治療が,骨折・外傷医にとっては,他部位で使用 する機会も多いため,比較的抵抗なく受け入れられ た結果が反映されたのではないかと推察する.ま た,手関節鏡治療を例にとると,この知識・技術は 手外科医にとっては必ず習得しておかねばならない ものであり,非常に有用なツールであることに異論 はない.しかしながら骨折・外傷医にとっては扱う 機会も少なく,必ずしもこのツールを使わなくても 概ね満足できる結果が得られている6)と感じてい ることや,手術中のセッティングの煩雑さなどより 敬遠されているものと推察される.ここに両立場の 違いがみてとれる.即ち手外科医は,この分野の専 門医であるために,いかに成績不良症例をなくすか ということを主眼におき,これらの解析から,より 解剖学的・理論的背景を踏まえた治療方法を選択す る.このことは,日手会群ではよく見られる機能評 価に関する論文が,骨折群では殆ど見られないこと からも伺える(日手会群:12,骨折群:1).一方,
骨折・外傷医は,骨接合に関する知識・技術を兼ね 備えている場合も多く,骨接合手技には長けている が,付随する軟部組織損傷の取り扱いには不慣れな 点もある.また,強固な内固定による早期運動療法 の開始を目指すあまり,軟部組織への配慮が不足す ることも懸念される.このように,専門性や立場の 違いによって目指す方向性に違いが生じているとい える.実際,本研究結果では,「4.手関節鏡」に関 する話題は,日手会群:29,骨折群:12と日手会 群に多い傾向がみられたが,統計学的な有意差は認 めなかった(P=0.057).さらには,その他のトピッ
クの中にも,合併症関連(日手会:10,骨折:2),
ハンドセラピィ(日手会:5,骨折:0)と偏りがみ てとれることは興味深い.以上より,手外科医とし ては,より専門的に理論的背景に基づいて橈骨遠位 端骨折患者を確実に治療していくことは当然の使命 であり,従来通り,極めの細やかな術後療法,合併 症対策に注意していく一方で,治療の根幹でもある 保存治療についても今一度再考し,治療方法選択に ついて患者の視点より十分に吟味すべきであると思 われる.
【まとめ】
これら2つの雑誌に掲載された論文のタイトルの みで,手外科医と骨折・外傷医の治療の考え方の違 いを論じることは困難であるが,ある一定の傾向を 読み取ることが出来たのは興味深い.両者の治療に 対する考え方をお互いにうまく融合していくことが 更なる治療成績への向上につながる可能性がある.
【文 献】
1) Schmidt ANDREW H, et al. Orthopaedic Knowledge Update Trauma 4: Chapter 20 fracture of the forearm and distal radius. vol4. AAOS. Rosemont. pp245-262, 2010.
2) Wolfe SCOTT W, et al. Green’s OPERATIVE HAND SURGERY: Chapter 17 Distal radius fractures. vol6. El-sevier. Churchill Livingstone. pp561-563, 2011.
3)日 本 骨 折 治 療 学 会 ホ ー ム ペ ー ジ. 役 員・ 評 議 員.
www.jsfr.jp/about/officer.html 1: 0-0, 2014.
4) Kitav A, et al. Volar plate position and flexor tendon rup-ture following distal radius fracrup-ture fixation. J Hand Surg Am 38 (6): 1091-1096, 2013.
5) Soong M, et al. Fracture of the distal radius: risk factors for complications after locked volar plate fixation. J Hand Surg Am 36 (1): 3-9, 2011.
6) Ruch DS, et al. Arthroscopic reduction versus fluoro-scopic reduction in the management of intra-articular distal radius fractures. Arthroscopy 20 (3): 225-230, 2004.