グループ討議「顔の見える薬剤師」
・かかりつけ薬剤師
・薬学教育6年生の施行とそれに対応する薬剤師像
・薬剤師の専門家の必要性
・薬剤師の社会貢献とは
・指導者育成
福山大学薬学部機能分子化学教室 助教授 大橋 一慶
はじめに
自然界における生命活動は、複雑なメカニズム に基づいて種々の機能分子を効率的に活用するこ とにより維持されています。その為、その精巧な メカニズムが狂わされた時、人間は病気になると 考えることができます。これまで人類は、身の回 りに生息・生育する動植物を用いた種々の疾病の 予防や治療を経験的に行い、効果が認められたも のを代々継承して疾病と戦ってきたという長い歴 史を持っています。一方、現代科学の発展により、
多くの機能分子の存在とその役割が明らかにな り、新しい医薬品や機能性食品の開発が行われて きていますが、まだまだ未知の機能分子は数多く 存在するものと考えられます。
そのような背景のもと、機能分子化学研究室は、
平成15年度に天然物化学研究室(澁谷博孝教授)
から分離し、新たに開設された研究室です。本年 度の研究室の構成員は、助教授:大橋一慶、助 手:前原昭次の教員2名に、4年生8名を加えた 計10名からなります。
教育について
当研究室は、学部学生の有機立体化学、天然物 化学、及び来年度から生物有機化学の講義と、基 礎科学実習、創薬基礎実習を受け持ち、大学院・
医療薬学専攻博士前期課程(修士課程)において は天然物化学特論を担当しています。また、4年 生の卒業研究では、ただ単に結果を出すことを目 的とするのではなく、職員とともに行う研究を通 して、できる限りではありますが、社会人として 必要とされる常識を伝えることを念頭に指導を行 っています。
研究活動について
私達の研究室では、「アジア各地の有用天然資
源からの機能分子探索研究」、「寄生・宿主植物に 関わる機能分子解析」、「機能分子の高付加価値物 質への生化学的変換反応」の機能分子をキーワー ドにした三つのテーマのもと研究を進めています。
これらの研究テーマは、「インドネシアの天然 薬物調査」(研究代表者:澁谷博孝教授)に、約 20年間に亘り参加してきたことに端を発します。
インドネシアは世界有数の天然薬物資源国である ことから、これまでに、数多くの薬用植物に関す る情報収集とその情報に基づいた薬用植物の採集 を行ってきました。
その中の一種、インドネシアで民間的に癌の治 療に用いられている、茶の木に寄生するヤドリギ 科(Loranthaceae)植物Scurrula atropurpureaの含 有成分に関して、最近、新たな知見を得ることが できたので以下に示します。
ヤドリギ科植物は、それぞれ独自の宿主植物
(host plant)に寄生する植物(parasitic plant)で、
世界各地で広く薬用植物として用いられ、本邦に おいても、ヤドリギ(Viscum album L. var. lutescens MAKINO)が民間薬として腰痛や産後に用いら れています。また、ヨーロッパにおいても、古く からセイヨウヤドリギ(Viscum album L.)が種々 の疾病の治療に用いられ、最近のその抗癌作用に 注目が集まっています。しかしながら、実験的調 査研究や臨床所見から癌に対する治癒効果が認め られているにも拘らず、その作用機序については 未だ不明な点が多いため、その効果が完全に信じ られるには至っていません。
このような背景から、モノレイヤー浸潤モデル 系による癌細胞浸潤阻害活性を指標にしたヤドリ ギ科植物Scurrula atropurpureaの化学的研究を進 めました。本試験法は、ラット腸間膜中皮細胞の 集密化したモノレイヤー上に、ラット腹水肝癌細 胞(AH細胞)を重層培養し、一定時間後に宿主
細胞間隙を通って中皮下に潜り込んだ癌細胞数を 位相差顕微鏡下に測定するもので、癌細胞が有す る厄介な特徴である浸潤・転位に注目した活性試 験法です。
まず、ジャワ島、西ジャワ州・プンチャック峠 で採集した、茶の木(Thea sinensis L.)に寄生す るヤドリギ科植物Scurrula atropurpurea全草の 70%アセトン抽出液を調製後、酢酸エチルと水を 用いた分配操作により分離したところ、酢酸エチ ル移行部に癌細胞浸潤阻害作用が認められまし た。そこで、同移行部を、各種クロマトグラフィー を用いて分離精製し、6種の脂肪酸、2種のキサ ンチン、2種のフラボノール配糖体、1種のモノ テルペン配糖体、1種のリグナン配糖体、及び4 種のカテキン類の計16種の含有成分を単離しまし た。全単離成分について癌細胞浸潤阻害作用を調 べたところ、カテキン類と三重結合を有する脂肪 酸類に癌細胞浸潤阻害活性が観られました。とく に、3個の三重結合を有するC18 脂肪酸octadeca-8, 10, 12-triynoic acid(酢酸エチル移行部における 主成分)に最も強い癌細胞浸潤阻害作用(10μg/
mL:99.4%阻害、2.5μg/mL:45.6%阻害)が認 められました。
一方、本植物の微量成分として単離したカテキ ン類の中で(-)-epigallocatechin-3-O-gallateは、
octadeca-8, 10, 12-triynoic acidに匹敵する程の癌細 胞浸潤阻害活性を示しました。ところが、(-) -epigallocatechin-3-O-gallateは、本植物の宿主植物 である茶の木(thea sinensis)の主成分であるこ とが知られていることから、「インドネシアでは 茶の木ではなく、何故そこに寄生するヤドリギを 民間的に癌の治療にいているのか?」ということ が疑問になりました。そこで、茶の木含有成分と の比較を行ったところ、3個の三重結合を有する C18脂肪酸octadeca-8, 10, 12-triynoic acidは、茶の 木には含有されていないことが判明しました。
以上の事実から、インドネシアで民間的に癌治 療 に 用 い ら れ て い る ヤ ド リ ギ 科 植 物S c u r r u l a atropurpureaの活性本体物質は、三重結合を有す るC18脂肪酸類であることを強く示唆することが 出来ました。
次に、octadeca-8, 10, 12-triynoic acidの化学構造 を基に、三重結合を有する5種のC16脂肪酸誘導 体を合成し、それらの癌細胞浸潤阻害活性を調べ ました。その結果、予想通り3個の三重結合を有 するhexadeca-6, 8, 10-triynoic acid及びhexadeca-8, 10, 12-triynoic acidに強い癌細胞浸潤阻害活性が認 められました。
本研究で明らかにした三重結合を有する脂肪酸 類は、それらの化学構造が極めてシンプルである にも拘らず、強力な癌細胞浸潤阻害活性を示し、
今後の新規抗癌剤のシーズとして期待が持たれ ます。
おわりに
私たちの研究室はまだ新しい研究室ですが、薬 学部学生・院生に対する教育とともに、医薬品や 機能性食品の開発を志向した研究分野に、少しで も貢献していきたいと考えています。今後とも各 方面からのご助言を賜りたく、宜しくお願い申し 上げます。