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年ぶりに生息を確認したヒメヒミズの報告

ドキュメント内 神奈川自然誌資料 第32号 (閲覧用) (ページ 145-151)

2008–2010 年

西丹沢で約 40 年ぶりに生息を確認したヒメヒミズの報告

中西 のりこ・細山田 忠浩

Noriko Nakanishi and Tadahiro Hosoyamada: A Record of the Lesser Japanese Shrew-Mole Dymecodon pilirostris True, 1886 Captured in Western Part of Tanzawa Mountains for the First Time in Nearly 40 Years.

はじめに

 神奈川県では,丹沢大山自然再生計画(神奈川県, 2007)に基づき,平成19年より5ヶ年計画で様々な 自然再生事業を展開している。その中で,平成21年度 に実施した事業において,丹沢大山では1971年の報告

(小林・山口, 1971)以来,約40年ぶりとなるヒメヒ ミズ Dymecodon pilirostris True, 1886 の生息を確 認したので報告する。

 なお,当該事業は希少種にかかる事業であり,現在も 継続中の事業であるため,以下の本文中においては,場 所が特定可能な情報は伏せさせて頂いた。ご理解とご了 承を願いたい。

神奈川県におけるヒメヒミズ採集事例等  ヒメヒミズは,本州,四国,九州の山岳地に分布する 日本固有種であり,比較的高標高域に生息しているが,

下北など本州北部では低標高域の森林にも生息するとさ れる(阿部, 2000)。

 ヒメヒミズのタイプロカリティは「相模江の島」となっ ているが,分布状況を考慮すると誤りであると考えられ ている(今泉, 1960)。神奈川県におけるヒメヒミズの 正確な記録は1965年の丹沢山地の蛭ヶ岳山頂付近およ び犬越路からの報告のみである(小林・北原, 1968)。

その後,1968年から1970年の3年間にわたり,ヒメ ヒミズの県下における分布状況を明らかにするため,丹 沢山地に加え箱根火山の湯河原および仙石原において調 査が実施され,新たに西丹沢の檜洞丸において生息が確 認された(小林・山口, 1971)。

 しかし,これ以降1973年から1974年に実施した神奈 川県内の広範囲(国立公園・国定公園及び県立自然公園地 域を除く)における調査(今泉ほか, 1980),1997年から 2002年に実施した丹沢地域での集中調査(山口, 2003),

第7回自然環境保全基礎調査として2005年に丹沢地域で 実施した生物多様性調査(環境省, 2006),丹沢大山総合 調査の一環として2005年に実施した檜洞丸から犬越路に

かけてのヒメヒミズ生息確認調査(中山・若代, 2007)の いずれにおいてもヒメヒミズの生息は確認されなかった。

 神奈川県レッドデータにおいては1995年には健在 種カテゴリーの希少種ランクに位置付けられた(中村, 1995)が,その後10年以上にわたって生息の報告がな いことから,2006年に絶滅危惧I類にランクを変更さ れた(広谷,2006)。

2009年の確認状況

 今回ヒメヒミズを確認した場所は,足柄上郡山北町中 川地内の沢上流域に設置された治山えん堤周辺である

(図1)。当該箇所には,神奈川県が取り組む自然再生事 業の一環として,平成19年に両生類の移動経路創出を目 的とした「じゃかご」を実験的に設置している。現在は,

効果検証のためのモニタリング事業を継続実施中である。

 その中で,平成21年12月16日に「じゃかご」周 辺に設置したピットフォールのひとつに落下しているヒ ミズ類を確認した。今回の事業では,9月に別のピット フォールでヒミズを確認している。しかし12月の個体 は,ヒミズ類として尾が長いことから(図2a, b),ヒメ ヒミズである可能性が考えられたため,個体を持ち帰り,

外部計測(表1)および上顎の第1切歯の形態を確認した。

図1.位置図.

表1.ヒメヒミズ Dymecodon pilirostris True, 1886 の計測データ

図2.ヒメヒミズDymecodon pilirostris True, 1886 の写真.a:背面;b:腹面;c:顎・歯部.

図3.ヒメヒミズ Dymecodon pilirostris True, 1886 確認地域周辺の環境.a:両生類の移動経路創出のため実験的に設置した「じゃ かご」の設置状況;b:「じゃかご」周辺に設置したピットフォールの設置状況;c:ヒメヒミズを確認した周辺の状況;d:治 山えん堤より上流は樹冠が形成されている;e:沢岸から尾根付近までれき岩が連続する斜面;f:林床にスズタケが優占する斜面.

その結果,尾率は46.8%,上顎第1切歯の先端が平ら でへら状であること(阿部, 2000),第1切歯が大きく 第2切歯の1.5倍であること,犬歯と第1小臼歯がほ ぼ同大であること,第2・第3小臼歯がほぼ同じ大きさ であることから(図2c)ヒメヒミズと同定した。この 個体は液浸標本とし,神奈川県立生命の星・地球博物館 へ収蔵した(標本番号:KPM-NF1004413)。

確認地域周辺の環境

 今回ヒメヒミズを確認した場所は,両岸が急峻な沢上流 域の治山えん堤周辺である。ヒメヒミズは,両生類の移 動経路創出を目的に,河床から側壁を越えて山地斜面に つながるよう連続設置された「じゃかご」(図3a)の,最 上端際に設置したピットフォールで発見された(図3b)。

「じゃかご」には現地採石による 30 cm 内外の石が中詰め されている(図3c)。

 一方ヒミズは,ヒメヒミズを確認したピットフォール から直線距離にして約7m上流側の側壁上段部で,山地 斜面に直接連続する土壌上に設置したピットフォールで 発見された。

 当該治山えん堤より上流域は,フサザクラ,カエデ類,

ブナ,ウラジロモミ等により樹冠が形成されている。林 床は全体的に土壌が薄く,尾根付近から沢岸までれき岩 が連続している。一方で林床にスズタケが優占し,土壌 が堆積して渓畔林を形成している所もある(図3d, e, f)。

全体としては,狭い流域に多様な環境がパッチ状に分布 している。

 当該治山えん堤より下流域は,大規模な治山えん堤が 連続している。河道は急に広くなり,岩塊・れき質土に より形成され,流れは通常伏流している。斜面にはウツ ギ等のかん木類が単木でみられるのみであり,樹冠は形 成されていない。

おわりに

 この度の報告が今後のヒメヒミズ生息地確認調査の一 助となり,丹沢大山における生息地域の把握,地域個体群 の生態解明,生息地域の保護・保全に繋がれば幸いである。

謝 辞

 神奈川県立生命の星・地球博物館の広谷浩子氏には同 定についてご協力ただいた。同じく山口佳秀氏には1967

年当時のお話を聞かせていただいた。また,永野 治氏 には現地調査,標本作製などについてご協力いただいた。

この場を借りて御礼申し上げる。

引用文献

阿部 永, 2000. 日本産哺乳類頭骨図説. 279pp. 北 海道大学図書刊行会, 札幌.

広谷浩子, 2006. 哺乳類. 高桑正敏・勝山輝男・木場英久編, 神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006, pp.225-232. 神奈川県立生命の星・地球博物館, 小田原. 今泉吉典, 1960. 原色日本産哺乳類図鑑. 196pp. 保

育社, 大阪.

今泉吉典・小林峯生・吉行瑞子・山口佳秀, 1980. 神奈 川県の小哺乳類相について. 神奈川県立博物館研究 報告, (12): 53-68

神奈川県, 2007. 丹沢大山自然再生計画〜人も自然もい きいきとした丹沢大山をめざして〜. 81pp. 神奈川 県環境農政部緑生課, 横浜.

環境省, 2006. 第7回自然環境保全基礎調査生物多様性 調査種の多様性調査(神奈川県)報告書+資料編. 109pp+38pp. 環境省自然環境局生物多様性センター, 富士吉田(山梨).

小林峯生・北原正宜, 1968. ヒメヒミズの新産地. 哺 乳動物学雑誌, 4 (2): 60-61.

小林峯生・山口佳秀, 1971. 丹沢山塊におけるヒメヒミ ズDymecodon pirilostris TRUE の分布と小哺乳 類相について. 神奈川県立博物館調査研究報告書自 然科学, (4): 1-23.

中村一恵, 1995. 哺乳類. 神奈川県レッドデータ生物 調査団編, 神奈川県立博物館研究報告自然科学第7 号神奈川県レッドデータ生物調査報告書, pp.157-170. 神奈川県立生命の星・地球博物館, 小田原. 中山 文・若代彰路, 2007. 檜洞丸付近におけるヒメヒ

ミズについて. 丹沢大山総合調査団編, 丹沢大山総 合調査学術報告書, pp.177-179. 財団法人平岡環境 科学研究所, 相模原.

山口喜盛, 2003. 丹沢山地における小哺乳類の生息状

況. 神奈川自然誌資料, (24): 77-84.

中西のりこ:

神奈川県自然環境保全センター自然保護公園部自然公園課 細山田忠浩:株式会社豊産業

神奈川自然誌資料 (32): 147-148, Mar. 2011

神奈川県におけるウサギコウモリの記録

山口 喜盛・山口 尚子

Yoshimori Yamaguchi and Naoko Yamaguchi: Record of a Long-Eared Bat Plecotus auritus from Kanagawa Prefecture, Japan

はじめに

 ウサギコウモリ Plecotus auritus は,非常に長い耳 介に特徴があり,昼間の休息場や冬眠場に大木の樹洞や 洞穴,家屋などを利用するコウモリ類である(阿部ほか, 2005)。イギリス,フランスから中国東北部,日本など に広く分布し,日本では,北海道,中国地方を除く本州,

四国から知られているが,本州中部以南の確認例は少な い(阿部ほか, 2005)。神奈川県においては,小林(1978) に箱根地域で採集されていると記載されているが,石原

(1991)は同地域から生息を確認していない。また,前 田(1984)と Yoshiyuki (1989) においても,神奈川 県からの採集記録は記載がなく,神奈川県立生命の星地 球博物館編(2003)の神奈川県産哺乳類目録にも記載 されていない。

 今回,筆者らは神奈川県の丹沢山地においてウサギコ ウモリを確認した。神奈川県におけるウサギコウモリの 確実な記録は初めてとなるため,ここに報告する。

確認状況

 筆者らは201018日の1340分に,丹沢山 地北部の神の川林道にある,孫右衛門トンネルにおいて,

ウサギコウモリ1頭を確認した(図1)。ウサギコウモ リは,長い耳を折りたたんで,コンクリート製の天井 部分にある直径約 5 cmの円筒状の穴の中に入っていた

(図2)。しかし,翌日の昼間にはいなくなっており,近 くにある小瀬戸トンネル,大瀬戸トンネル,小洞トンネ ルでも確認されなかった。

 この4つのトンネルにおいて,2009年10月10日 と11月5日(山口・山口, 2010),及び確認した後の 2010年1月9日,1月11日,2月22日,3月22日,

5月22日,9月2日,10月22日に調査を行ったが,

ウサギコウモリは観察されなかった。

 周辺は,神の川流域の急峻な土地で,シデ類やミズナ ラなどの落葉広葉林とスギやヒノキの人工林などがあっ た(図3)。孫右衛門トンネルの構造は幅 5 m,高さ 4.5 m,

長さ 105 mで,標高は約 560 mであった。内部はコン

図1.ウサギコウモリが確認された場所.

図2.穴の中のウサギコウモリ.左右の長い耳(矢印)

を折りたたんでいる.

ドキュメント内 神奈川自然誌資料 第32号 (閲覧用) (ページ 145-151)

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