◦電気メス(68%)、レーザー(13%)
◦気道(34%)、顔面・頭部(28%)
◦酸素濃度の高い環境(78%)
http://www.msnbc.msn.com/id/26874567
http://www.ispub.com/journal/the_internet_journal_of_anesthesiology/volume_19_
number_1/article_printable/surgical_fire_during_organ_procurement.html
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Surgical Fire(日本)
日本でも2008年10月に関東の市立病院の救急部門で、高濃度酸素投 与下で電気メスを使用して気管切開を実施している際に、気管チューブに 火がつき気道熱傷で患者さんが死亡したという事故が起こっています。ま た、その 1 年後には関西の大学病院で同様の事故が発生しています。
朝日新聞 2008年10月16日・朝刊
朝日新聞 2009年10月28日・朝刊
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Surgical Fire の予防
このような状況を受け、2008年の事故後には日本救急医学会から、高 濃度酸素投与下で電気メスを使用する際の注意喚起が出され、2009年の 事故後には、発火のメカニズムや予防のための注意点がPMDA(独立行 政法人医薬品医療機器総合機構)等から出されています。
●2008年10月:松戸市立病院での事故報道
●2008年10月:日本救急医学会HP(速報)
●2009年10月:大阪市立大学医学部附属病院での事故報道
●2010年・ 2月:・日本医療機器工業会、医薬品医療機器総合機構・
から注意喚起(発火メカニズム、予防の注意点)
・・電気メスを用いた気管切開について.日本救急医学会.
http://www.jaam.jp/html/info/2008/info-20081024_02.htm
・電気メス取り扱い時の注意について.JAMDI安全情報.No.1001.2010年2月25日.
http://www.jamdi.org/anzen/100225_nensho_sanso.pdf
・・電気メスの取扱い時の注意について(その1).・PMDA医療安全情報.・・No.14.・2010年2月.
予防について
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発火源(i.e. 電気メス、レーザー)
発火のリスク 酸素
支燃物質(i.e. アルコール)
や
可燃物質(i.e. 気管チューブ、覆布)
酸素の流れ
発火のメカニズム
発火のリスクファクター 気管チューブ燃焼のメカニズム
チューブ損傷により酸素が漏れる場合 カフの収縮により酸素が漏れる場合 Surgical・fireに関するテクニカルスキルとして知っておくべき事項には、発火 のメカニズムがあります。「酸素」と「火花」と「燃えるもの(ここでは、気管チュー ブ)」の 3 つが揃った場合に、Surgical・fireが発生します。
電気メス取扱い時の注意について(その1).PMDA医療安全情報.No.14.2012年2月.より一部抜粋 溶けたチューブの穴
に よ っ て酸 素 が 漏 れ、そこに電気メス の火花が近づく。
収縮したカフによっ て酸素が漏れ、そこ に電気メスの火花が 近づく。
酸素により大きな 炎となり、塩化ビ ニ ー ル 製 の 気 管 チューブに引火し、
急速に溶ける。
酸素により大きな 炎となり、塩化ビ ニ ー ル 製 の 気 管 チューブに引火し、
急速に溶ける。
Prevention・and・Management・of・Operating・Room・Fires.
http://www.apsf.org/resources_video_watch.php
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2010年12月には日本外科学会から、「気管切開時の電気メス使用に関 する注意喚起」が出されており、下記のような注意点が示されています。
●・事前打ち合わせと役割分担(ブリーフィング)
●・高濃度酸素投与の必要性を確認する
●・気管チューブのカフを十分に膨らませる
●・発火に備え生理食塩水を準備する
●・気管壁の操作前には酸素濃度を可能な限り下げる
●・気管壁切開時・開窓後は、原則として電気メスを使用しない
日本外科学会ホームページ.・気管切開時の電気メス使用に関する注意喚起のお知らせ.
http://www.jssoc.or.jp/other/info/info20101202.html
発火事故の予防対策
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Surgical Fireへの対処(1)
予防とともに、Surgical・fire・が発生した場合の対処も大切です。海外 では、発火時の対応に関する学術論文や教育用ビデオが作成されていま す。これらは、電気メスを用いた気管切開時の発火事故に限らず、広く外 科的処置や手術室における発火事故を扱ったものです。
●2008年:学術雑誌Anesthesiologyの論文(発火時の対応)
●2009年:・Anesthesia・Patient・Safty・Foundation,・APSFの 教育用ビデオ(発火メカニズムおよび発火時の対応)
・The・ American・ Society・ of・ Anesthesiologists・ Task・ Force・ on・ Operating・ Room・ Fires.・
Practice・ advisory・ for・ the・ prevention・ and・ management・ of・ operating・ room・ fires.・
Anesthesiology・2008;・108:・786-801
・Prevention・and・Management・of・Operating・Room・Fires.・注2)
http://www.apsf.org/resources_video_watch.php
注2)APSF(米国麻酔患者安全財団)の許可を得て日本語字幕を付けたビデオは、中央クオリティマネジメント部のホームペー ジに掲載されています。
・ http://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-cqm/ingai/instructionalprojects/teamperformance.html
対処について
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Surgical Fireへの対処(2)
適切な対処は、ただちに燃えている「気管チューブを抜く」、「酸素を止 める」、「生理食塩水を気管内に注入して火を消す」こととされています。
そして、火が消えたことが確認できたら、再び気道確保を行います。
●気管チューブを抜去
●酸素や空気を停止
●生理食塩水を気管内へ投与
The・ American・ Society・ of・ Anesthesiologists・ Task・ Force・ on・ Operating・ Room・ Fires.・
Practice・ advisory・ for・ the・ prevention・ and・ management・ of・ operating・ room・ fire.・・
Anesthesiology・2008;108:786-801.
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対応が難しい理由
このような突発的な事態にうまく対処できない理由として、「想像すら していない出来事」であることや、「呼吸管理は一刻を争う」ため時間的・
心理的プレッシャーがかかり、また、臨床的直観では呼吸状態の悪い患者 さんの「気管チューブ」や「酸素」は維持したいと思うわけですが、これ は正しい行動と正反対であることが挙げられます。また、気管チューブが 燃えているとわかっていれば直ちにチューブを抜きますが、「気管の中」
が燃えているような気がすると、とっさに気管切開孔をふさいでしまうか もしれません。
1.想像していない 2.呼吸は一刻を争う 3.直感が正しくない
× 気管チューブを抜きたくない × 酸素を止めたくない
4.正しい知識がない × 気管が燃えている
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緊急事態に凍りつかないためのノンテクニカルスキルとして、「ブリーフィング」
があります。
「ブリーフィング」、正確にはpre-task・briefingといいますが、これは何かの処 置をはじめる直前に、その処置にかかわる人たち全員で「短い時間で事前の打ち合 わせ」を行うことです。これによって、頭の中で処置のリハーサルを行い、チーム メンバーで状況の認識(メンタルモデル)を共有することができます。
この中には、処置の目的、一連の手順だけでなく、緊急事態への対処方法を盛り 込むことが大切です。Surgical・fireであれば、処置中に発火事故が起こる可能性 がある、その場合チューブを抜く、酸素を止める、生食をかけて火を消す、火が消 えたら気管切開孔を押さえるからマスク換気を頼む、などです。
なお、JALの元機長である小林宏之さんによると、航空界のブリーフィングで は、役割分担を明確にすることも重要とされており、緊急事態には「誰が何をする」
という「誰が」まで確認しているようです。
また、すべての危機的状況にブリーフィングだけで対処できるわけではないの で、シミュレーションなどの訓練も必要です。
ブリーフィング
(事前打ち合わせ)
1.処置の目的 2.手順の確認
3.想定される緊急事態・対処方法・役割分担
・・●電気メスを使うと処置中に発火することがある
・・●燃えるのはチューブなので、これを抜く(⇒麻酔科医)
・・●酸素を止める(⇒麻酔科医)
・・●生食をかけて火を消す(外回りの看護師)
・・●火が消えたら気管切開孔を押さえるからマスク換気を頼む ・・●落ち着いて仕切り直ししよう
ノンテクニカルスキル
注3)
注3)気管切開中の発火事故を例にブリーフィングとディブリーフィングのイメージを示したビデオは、中央クオリティマネジ メント部のホームページに掲載されています。
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ディブリーフィング
(振り返り)
タスクが終了したら、関係者でディブリーフィング(振り返り)を行う ことも、チームパフォーマンスの向上のために重要です。
通常のカンファレンスでは、診断プロセス、手術手技や術後管理、ケア の方法など、テクニカルスキルを中心とした「振り返り」が行われていま す。ここで言うディブリーフィングとは、診療の結果よりもプロセスに焦 点をあて、ノンテクニカルスキルの観点から、チームのパフォーマンスを 振り返るものです。
ディブリーフィングをうまく行うことは、決して容易ではありません。
個人攻撃の場や単なる反省会にならないようにするためには、ディブリー フィングを行うリーダーにかなりの力量が求められます。文献的には成功 するブリーフィングのコツのようなものもありますが、実際には、日常診 療の中で振り返りを習慣づけ、良いやり方を模索していくのが一番の近道 かもしれません。
●建設的、前向きな目的
「次はどうすれば、もっとうまくいくのだろう」
●気がねなく意見が言える雰囲気
●具体的なパフォーマンスに焦点
●クリティカルなパフォーマンスを対象
●プロセスに焦点
●チームワークに焦点
●うまくいかなかったこと、及びうまくいったこと
●ポイントは記録に残す
Salas・E,et・al.・Debriefing・・medical・teams:・12・evidence-based・best・practices・and・tips.
Jt・Comm・J・Qual・Patient・Saf.・2008;・34(9):・518-527
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医療安全の「車の両輪」
ノンテクニカルスキルとテクニカルスキルは医療安全における「車の両 輪」のようなものです。これまでの我が国の医療安全では、手順書の作成 と遵守など「個人」がエラーを起こさないようにするための対策や、テク ニカルスキルである知識・技術の研鑽に力点が置かれてきました。
これらに加え、多職種の医療従事者から構成される「チームで行う医療」
において安全を確保するためは、「ノンテクニカルスキル」が非常に重要 です。これはこれからチャレンジしていく領域です。
今回ご紹介いたしました内容を、皆様方の施設における臨床現場への導 入、専門医の正式トレーニングの一部として教育・トレーニングシステム の開発、さらには医療系学生の教育カリキュラムへの導入などにおいて、
ご参考にしていただけますと幸甚に存じます。